第179話 絶対助ける
「雄輝さん、カッコいいっす!弁護士みたいっすね!」
「一応本物の弁護士だ」
「日本でも資格持ってたんすよね?弁護士やってたんすか?」
「ないよ。試験受かっただけで司法修習も受けてない。だからこれが初仕事だな」
「大丈夫なんすか?」
「大丈夫だろう。駄目だったらランカスター家の顧問弁護士もいるしな」
「なんか適当っすね」
「真剣だ!」
失礼なヤツだね。保釈くらいちゃんと勝ち取ってやるよ。
俺たちは衛兵本部に向かって歩きながら会話を続けた。
「それで雄輝さん、レーナちゃんを階段から落とした犯人なんすけど」
「そうだ、それ!お前見たのか?」
「はい、学生なんすけど、アレ多分本当の学生じゃないっすね」
「プロか?」
「多分。あの動きの速さは」
「そうか、そうなると学院内では犯人は探せないのか」
「まず見つからないっす。スマホの録画はあるんすけど」
「えっ?」
「録画っす」
「お前録画してたの?」
「はい。急にレーナちゃんがシルビアちゃんのところに来たんで、念のため録画しといたっす」
「馬鹿お前、早く言えよ!」
「いつ言うんすか!ずっと他に人いたじゃないすか!」
それもそうだ。ゆっくり真司から話しを聞く暇はなかったな。
「ちょっと見せてくれて」
「いいっすよ。ちゃんと映ってるかな・・・」
俺たちは真司のスマホの録画を再生してみた。
そこには階段付近でシルビアちゃんに何かを渡すレーナちゃん、それを受け取って手を振って背を向けて歩き出すシルビアちゃん、そして階段を降りようとしたレーナちゃんに背後から素早く近寄り突き飛ばした瞬間立ち去る男子学生の姿がはっきりと映っていた!
周りの雑音が多くて、シルビアちゃんとレーナちゃんの会話は遠くて聞き取れないが、シルビアちゃんのキャーという悲鳴ははっきりと聞き取れる。
その後は真司も慌てたのかスマホの画像がぼやけて終わっていた。
「よくやった真司!」
「結構はっきり映ってたっすね。男の顔は見えないっすけど」
「とりあえずレーナちゃんの無罪が証明できれば十分だ」
「でもコレ証拠に使えるんすか?」
それが問題だ。これを出せばおそらくは裁判に出席するであろうレーナちゃんが見て、スマホであることはすぐにわかる。そうなると俺や真司が転移者であることも明かす必要があるな。
これまで隠し続けてきたが、いつかはバレることだ。それに俺の立場もかなりしっかり固まってきた。そろそろ年貢の納めどきかな。
「一応正攻法で裁判に臨むことになると思うけど、どうしようもなくなったら使わせてもらうよ」
「またダンジョンのアーティファクトとか言うんすか?」
「いや、もう転移のことをバラそうと思う。お前が嫌なら俺だけでも」
「俺は大丈夫っす。一人なら隠し通すつもりだったっすけど、今は雄輝さんもいるし」
「悪いな」
「その代わり見捨てないで欲しいっす」
「見捨てるわけないだろう!」
最後の切り札が手に入った俺は、気分が楽になり衛兵本部に急いだ。
衛兵本部には法務院の出張所があり、そこに勾留や保釈を専門に扱う裁判官が終日常駐している。
俺は弁護士の身分証を提示して出張所に入り、保釈担当の裁判官と面談した。
裁判官は俺の提出した保釈申請書の用紙が王室のものであることに気付いてギョッとしていた。この裁判官は至極真っ当な人物で、端から衛兵の逮捕手段に疑問を持ち、かつ勾留と間を置かずして弁護士起訴がなされたことに策謀の匂いを感じ取ってくれた。
その結果、保釈金は殺人未遂では異例の金貨100枚。侯爵家にとってははした金の金額で保釈決定を出してくれた。
俺は受け取った保釈決定書を手に、今度は衛兵本部の勾留施設に急ぎ、シルビアちゃんの釈放手続きを行った。その際、ちょうど衛兵本部長もシルビアちゃんの様子を見にきており、俺が既に保釈決定をとっていることを知ると、感心しながら同時に感謝していた。衛兵本部長も背後にきな臭いものを感じ、せめてシルビアちゃんの待遇を改善しようと思ってここに来たらしい。
シルビアちゃんの逮捕に関わった衛兵二人には見張りをつけたそうだ。この本部長もなかなかの人物のようだ。
保釈手続きはスムーズに行われ、俺たちがロビーで待っていると、衛兵に付き添われたシルビアちゃんが不安げな面持ちで歩いてきた。
そして俺の顔を見つけると一気に顔が歪み、こちらに向かって走り出した。
「ユーキお兄様!」
俺にしがみついたシルビアちゃんは号泣した。
「大丈夫だよ。怖かったね」
俺はしばらく泣きじゃくるシルビアちゃんの背中を撫で続けた。
「さあ、ジェームス様も心配してる。早く顔を見せに戻ろうか」
俺は衛兵本部長に礼を言って、レーナちゃんを連れて王城に戻った。レーナちゃんはその間俺の腕をしっかり握ったままだった。随分不安だったんだろうな。エミーちゃんといい、シルビアちゃんといい、スタンリーに対しては絶対に許さないという怒りが心底湧いてくる。
以前陛下から渡された王城の通行許可証を使って王城に入る。まさかこの許可証を使うことになるとは思わなかったな。これ、どうやら最高レベルの許可証らしく、昇降機でも王家の執務フロアまで行けるヤツだった。俺が敵になったらどうするんだよ、まったく。
エミーちゃんには陛下の執務室でジェームス様や皆んなが待ってると説明したら、さすがにビビっていた。陛下には、子供のころにジェームス様たちに連れられて挨拶したことがあるだけだそうだ。
陛下の執務室に着くと、扉の前に立つ警護の近衛兵がすぐに確認をとって部屋に入れてくれた。
「ただいま戻りました」
俺の声に部屋の全員が一斉に振り向いた。
あ、エリカお姉様も来てるな。シルビアちゃんの侍女もいる。
俺の背中に隠れるようにして入ってきたシルビアちゃんを見つけたジェームス様がガバッと立ち上がり、こちらに走ってきた。
「シルビア!」
「お父様!」
ジェームス様に抱きしめられて、シルビアちゃんがまた泣き出した。
エリカお姉様が微笑みながらゆっくりこちらに近づいてくる。
超絶美人だけど、なんか迫力あるよな。どこかの女帝みたいだ。
「あなた何か変なこと考えてない?」
「いえ!まったく、一切、カケラも、女神様に誓って!」
「ふーん、まあいいわ。シルビアを助けてくれてありがとう」
「いえ、ただの保釈ですから。それに本番はこれからです」
「そうね・・・。エミーに続けてシルビアまで。絶対に許さないわ」
同感だ。でもエリカお姉様、怖いです・・・。
泣き止んだシルビアちゃんが陛下に挨拶をして、今後の対策を含めた打ち合わせに入った。
シルビアちゃんの侍女は、ランカスター家に報告に戻った後、シルビアちゃんを護れなかったと言って自害しようとしたところを、エリカお姉様が止めてここに連れて来たようだ。




