第176話 不穏な計画
「雄輝さん、ちょっとおかしな動きがあるっす」
寮の部屋に戻ったところで、真司が切り出してきた。
「馬鹿王子か?」
「いや、その取り巻きっす」
「取り巻き?」
「はい。あの馬鹿王子抜きで、五人でコソコソしてるんで、ちょっと探ってみたんすよ」
「それで?」
「途中からだったんでよくわからないんすけど、どうも王子様に隠れて何か企んでいるんじゃないかって感じなんす」
「どういうことだ?」
「アイツらの会話だと、殿下に知られたらヤバいとか、バレたらどうすんだよ、とか言ってたんすよね」
「何をやろうとしてるかは?」
「いや、それはわかんないす。ただ、証人は目処がついたとか、誰かから早くやれって言われてるような雰囲気はあったっす」
「録音は?」
「ヒソヒソ声だったんで録れなかったっす」
どういうことだろう?
馬鹿王子とは関係なく、何か企みが進行している。背後にいるのは誰だ?
計画内容は馬鹿王子に知られたくないことか。
最近馬鹿王子がレーナちゃんと少し距離を置いていることとの関係は?レーナちゃんへの関心が薄れたとは思えない。レーナちゃんを見る視線はもっと側にいたいといった類のものだ。
誰かの指示でレーナちゃんと距離を取らされている?誰かと考えれば、スタンリー公爵か母親だろうか?
一方で取り巻きたちの計画は何だ?
レーナちゃんがシルビアちゃんと仲良くなれば何ができる?
既に馬鹿王子の婚約者候補から外れたシルビアちゃんを害する目的は?
エミーちゃん誘拐と同じく、ランカスター家への牽制、警告か?
ダメだ、情報が少なすぎて想定ができない。
毒物については毒消しのタリスマンを渡した。一人で行動しないよう、諜報系の侍女がいつも一緒に行動している。シルビアちゃんに物理的な暴力を振るわせる方法もわからない。遠距離攻撃はあり得るだろうか?
それに証人とは何のための証人なんだ?シルビアちゃんを害した際に無罪を主張するため・・・。事故に見せかけるということかな?
「すいません。中途半端な情報で」
俺が考え込んでしまったため、真司が申し訳なさそうに謝ってきた。
「いや、よく取ってきてくれた。連中が何か企んでいることがわかっただけでも収穫だ。ありがとう」
「これからもう少し取り巻きの方についてみようと思ってるっす」
「そこは任せる。俺よりお前の方が専門だしな」
「雄輝さんだって専門じゃないっすか」
「俺は姿は消せないよ」
ともかく真司がより具体的な情報を得てくれることに期待しよう。
それに、誰かが何かを企んでいることだけは確かだ。シルビアちゃんの周辺にはより一層注意を払う、それが今できる唯一のことだ。俺は改めて気を引き締めた。
馬鹿王子というよりも、むしろ取り巻き連中の動きが怪しいとわかったものの、その後新たな情報は得られないまま、木々の緑はその色を深めていった。
特に事件も起こらないまま、演武会も無事に開催された。
昨年二十五名の死者を出すという大事件が発生したが、警備の強化や闘技場、舞台設備などの入念なチェックなどを経て、今年の演武会も大盛況であった。
開催の可否など検討されることはない。開催が当たり前なのだ。国家はテロに屈しない。
当然のように批判もないし、学生も当然のことと捉えている。
むしろ、昨年の事件を契機に、2年生、3年生たちは武術や魔術の鍛錬に一層力を入れたし、1年生は野外実習での帝国襲撃事件によって、貴族としての役割に自覚を持つことができた。
このため、演武会は例年以上の熱演、熱闘が繰り広げられた。
今年の注目は錬金術クラブが魔導銃とも言うべき武器を発表したことだった。
これは、使用者に属性がなくとも、魔力を込めることによってファイヤボールのような魔術攻撃ができる筒のようなもので、まだ威力自体は大きくないが、画期的な発明だった。今後威力の増大や魔術の種類、属性なども増やす研究が、ルーカス兄上の研究所と連携して行われることになった。
学生会は、昨年披露して評判の良かった『天駆』の実演を今年も行った。特に俺とケビンの二人は、高速戦闘の模範演技を行い、大喝采をもらった。
そういえば、デネブ王国からの留学生のマリウス殿下も、自身の暗殺未遂や、帝国がデネブ王国を狙っているという現実に直面したことから、武術や魔術の必死で取り組むようになり、演武会でも闘技会の方に参加していた。1回戦で2年生と当たって敗退したが、きっとこれから強くなるだろう。
そして、俺たちにとっては緊張をはらみながらも、表面的には平和な日々が続いた。学院ではセントラル広場のプールが話題となり、自分の屋敷にプール建設ができる予定の貴族にとってはちょっとした自慢の種にもなっていた。
学期末試験の成績発表も終わり、いつものような悲喜交々の風景が繰り返され、今日で前期が終わる。どうやら、前期中にはシルビアちゃんへの攻撃は行われなかったようだ。
俺は、担任のカール先生に呼ばれて、後期の法律科目でも助手を依頼され、後期の授業で行う討論用の事件資料を受け取って、教員棟から寮に戻ろうとしていた。
そのとき、校舎の方から真司が血相を変えて走ってきた。
「真司!どうした!」
「すいません!やられたっす!」
その言葉血の気が引く。
「何があった!?」
「レーナちゃんが階段から突き落とされたっす!」
「レーナちゃん?」
どういうことだ?シルビアちゃんじゃないのか?
「それで、その犯人としてシルビアちゃんが捕まったっす!」
「!」
しまった!そういうことか!やられた!
「場所は!?」
「校舎の南階段っす!」
「レーナちゃんは無事か!?」
「わかんないっす!」
くそっ!あの連中!なんてことしやがる!怒りで身体が震える。
俺と真司は必死で校舎に向かって走った。
急げ!




