第174話 幸せの黄色い…
カステラが食べたい・・・。
屋敷に戻った休日に、なぜか突然そう思ってしまった。なぜかと問われてもわからない。
そもそも俺が子供時代を過ごした九州では、製菓メーカーの流行りのお菓子の他に、普通に地元の和菓子を食べていた。そして隣県の銘菓であるカステラは、ちょっとしたお土産に最適なのだ。俺がいた児童養護施設に来客があった際、お土産にいただくお菓子は羊羹とカステラが最も多かった。お土産のお菓子は、当然施設の子供たちで分け合う。なのでカステラは俺のソウルフードの一つなのだ。ハルも大好きだったな。
なぜ急にカステラが頭に浮かんだのかはわからないが、一旦食べたいと思ってしまったらもうその気持ちは止まらなくなった。よって、結論は一つ。作ろう!
俺はシャトルと一緒に厨房に行くと、タブレットの実用百科で調べたレシピに従って材料を揃える。あ、ライムはシャトルの頭の上で跳ねてるよ。
強力粉、卵、砂糖、みりん、ハチミツ、サラダ油、ザラメ。
みりんなんてないぞ・・・。まあいいや。なしでやろう。
強力粉・・・、薄力粉との区別がつかない・・・。
どうしよう。お菓子だし、ケーキ用の小麦粉をもらってこよう!
サラダ油は植物油でいいよね。
屋敷の料理人から材料を分けてもらい、俺はウキウキで厨房に立つ。
小麦粉をよく振るって、卵を投入!湯煎してかき混ぜよう。
ここで新兵器!去年の学院祭で錬金術クラブから教えてもらったモーターを利用して作った泡立て器!魔力の操作でスピード調整もできる優れ物なのだ!
マゼマゼ、マゼマゼ。
(ユーキ、ユーキ、何作ってるの?ねえ、何作ってるの?)
「カステラだよ。シャトルも食べたことあるだろう?」
(カステラ!ハルからもらった!食べる!カステラ食べる!)
シャトルが足元にじゃれついてくる。
シャトルが興奮するとライムのジャンプも激しくなるね。
鼻歌を歌いながらマゼマゼを続ける。魔術でやってもいいけど、なんか味気ないしね。
それにこの泡立て器は、料理人にも大変喜ばれたのだ。
よし!いい感じで混ざったぞ。
ここに砂糖と油とハチミツを投入して。
「あれ?雄輝さん、なに作ってるんすか?」
野生の真司が現れた!
「聞いて驚け!なんとカステラを作っているのだ!」
「カステラっすか!俺大好きっす!俺も食べるっす!」
「わかってるよ。ちょっと待て」
そこから真司と二人でワイワイ言いながらカステラ作りを続ける。
魔術で作った型に布巾を敷いて、ザラメをばら撒く。
「ザラメ大事っす!カステラの命っす!」
わかってるよ。こちとら地元だぞ!隣だけど。
いよいよ温めておいたオーブンに投入。途中で少し温度を下げて待つこと30分。
さあできたかな?
オーブンから取り出すと、焼きたての甘い匂いが拡がった。
シャトルがもう待てないとばかりに飛びついてくる。
「わあ、いい匂い!ユーキ様、何作ったんですか?」
野生のケイトさんとアニカさんが現れた!
「カステラっていうお菓子だよ。一緒に食べる?」
「食べます!私コーヒー淹れてきます」
「あるから大丈夫だよ」
型から取り出して大皿に乗せる。
おお、上は茶色く焼けて、側面はきめ細かくもっちりと・・・、あれ?
カステラってこんなんだっけ?
「美味しそう!早く食べさせて下さい!」
ケイトさんに促されて、首を傾げながら切り分ける。
でも、真司もハテナという顔をしている。
ふんわりとはしてるよね。香りもいいよ。でも・・・?
「わあ、素朴な味で美味しい!シンプルなケーキですね!」
「下のザラメはわざとなんですか?シャリシャリしてて面白いです!」
ケイトさんとアニカさんは喜んで食べている。
俺と真司は、一口食べて微妙な表情になる。
(ユーキ、ユーキ。美味しい!でもなんか違う!)
シャトルも同じ感想だ。やっぱり違うよね。
「お二人ともどうしたんですか?美味しくないんですか?」
アニカさんが不思議そうに聞いてくる。
「いや、美味しくないわけじゃないんだけど・・・」
「そうっすね、なんか求めていた物とは違うというか」
「なんだろう、こう、きめ細かい食感じゃなくて、もっとスカスカというか目が粗いというか」
「ワン!」
ケイトさんが何かに気がついた。
「それって小麦粉が違うんじゃないですか?」
「違うの?」
「これってお菓子用の小麦粉ですか?だったらこんな感じになります。パン用の小麦粉だったら。もう少し目が粗くなると思いますよ」
え?
俺と真司は顔を見合わせる。
「雄輝さん、間違えたんすか?」
「知るかよ!お前知ってるの?」
「知ってるわけないっしょ!」
「だったら間違えたとか言うなよ!」
「ワン!」
ケイトさんが間に入って、とりあえず小麦粉を変えて作り直してみることになった。
今度はパン用の小麦粉で。
皆んなでああだこうだと言いながら作って、なんとか完成。
おお、見た目は合ってる!
こんな感じ、こんな感じ!
いざ実食!
美味い、けど今度は少し・・・。
「だいぶカステラっぽくなってきたっす。でも今度は少し粗すぎ?パサつきすぎ?」
真司のくせに、と腹が立つが、その通りなんだよな。
「じゃあ、パン用とお菓子用の小麦粉を混ぜてみたらいかがですか?」
アニカさんの提案で、今度はミックスパターンでやってみる。
それから数時間、俺たちは試行錯誤を繰り返した。昼食も食べずに。
小麦粉配合を変え、砂糖や油の量を変え、牛乳を混ぜたり、創意工夫の限りを尽くした。
そして、午後3時前、ついに究極の一品が完成した!
「これだ!」
「コレっす!でも腹一杯っす!」
「美味しいです!」
「ホント、絶妙な美味しさです!」
(ユーキ、ユーキ!カステラ美味しい!)
やった!俺と真司の目に涙が滲む。
しかし、試作品の処理をさせられた俺と真司のお腹はすでにパンパンだった。
喜んで食べているケイトさんとアニカさんの横で、俺と真司はチョボチョボとカステラを口に運び、その味を噛み締めていた。
「皆んなで何を食べているのかしら?」
野生のラスボスが現れた!
「ちょっといただくわね。・・・あら、シンプルだけど美味しいわね!」
エリカお姉様が合格よ、といった感じで頷いた。
「ちょうどお茶の時間ね。これいただいて行くわよ」
エリカお姉様は、連れてきたメイドさんに残りのカステラを持たせる。
「ユーキ、レシピは料理人に渡しておいてね」
そう言うとエリカお姉様は去って行った。
野生のラスボス相手に俺たちはなす術なく敗れ去ったのだった。
屋敷の塀を復活しようかな・・・。




