第172話 本命はこっち
「早かったな。グラスボアは獲れた?」
「もちろん。馬預かってくれてありがとう。リッキー会長は今どこかわかる?」
「さあ?どこか巡回中だと思うけど。何かあったのか?」
「ああ、ここからだいぶ離れてるけど、五十人くらいの集団が森の中にいるんだ」
「五十人?騎士団かな?」
「わからない。とりあえず注意だけはしておこうと思って」
「そうだね。俺も気にしておくよ」
俺は馬に跨ると、リッキー殿下を探しに走った。
リッキー殿下は、森の周辺部を巡回中だった。
俺はリッキー殿下の下に駆け寄り、五十人の集団のことを報告した。
「なるほど、穏やかじゃないね。わかった。とりあえず、コーザたちとマリウス殿下の護衛たちには僕から知らせておこう。もしその連中が森の中を移動してくるとすると西からか。ユーキは、そっちを重点的に監視してくれるか?」
リッキー殿下はそう言って、マリウス殿下たちを探して走り去った。
杞憂であれば良いが。
仮にあの連中がこちらを狙っているとするなら、ターゲットは誰だろう?
ここには王族だけで三人いる。他にも高位貴族の子弟だらけだ。その内の誰かが狙われても不思議ではない。シルビアちゃんやレーナちゃんがターゲットということも考えられる。
ならばいつ襲う?
拠点に集合しているときに、特定の誰かを襲うのは難しい。
では草原にバラけている今か?
それもすぐに発見されてしまい、多数に囲まれてしまうだろう。
こちら全体を襲撃するとすれば、五十人は陣容として少なすぎる。
密かに襲うには多すぎて目立ってしまう。
いかにも中途半端な人数だ。
どうにもしっくり来ないな。
俺はそんなことを考えながら、サーチを全開にして巡回を続けた。
討伐実習終了の信号弾が上がった。
ここまで動きなしか・・・。
俺は全方位にサーチを展開して、学生たちが順調に帰還できているかを確認する。
大丈夫だ。
更に森の西方に絞ってサーチ延ばしてみる。
・・・例の集団が移動を始めた。こちらに向かってゆっくりと。
来るのか?
こちらが集合しているところに攻撃するとなれば、範囲魔術による攻撃か?
敵と決まったわけでもないので、こちらから攻撃するわけにもいかない。
とりあえず俺も戻ろう。
拠点に入ってから、俺は獲ってきたグラスボア三頭と、去年作った焼肉用の鉄板を出して、調理担当の学生たちに焼肉の用意を頼んだ。グラスボアを見て歓声が上がる。
学生たちは、自分たちが仕留めた獲物や学院から運んできた食材も含めて、冒険者に指導されながらワイワイと解体や調理を行っている。実に楽しそうだ。自分で解体や調理をするなんて今日が初めての者がほとんどだろうからね。
俺はコーザさんたちを探して、警戒レベルを上げて欲しいと頼んだ。リッキー殿下から話しを聞いていたコーザさんは、既に心得ているといった感じだった。ここは安心かな。
続けて、妖精の棲家のメンバーを探して同様のお願いをする。彼女たちは、シルビアちゃんとマグノリア様の警護をしている。不思議そうな顔をしていたが、外に不審な集団がいることを伝えると、すぐに真剣な表情に変わった。彼女たちも一応冒険者としては高ランクに入るから、さすがというべきか。ついでに、食事場所をマリウス殿下たちの近くにさりげなく移動してもらうよう頼んでおいた。
同伴の先生たちにはリッキー殿下から伝達されている。
あとは相手の出方を待つだけだ。
俺がサーチで集団の動きを観察していると、ガーナさんがやって来た。
「よう、ユーキ。お前、またあの店行ったらしいな」
「なんで知ってんだよ」
「店の子が言ってたぞ。若いのに好きなんだねって」
「おしゃべりめ!」
「で、アイツら何者よ」
こっちが本命か。しかしさすがだな。まだかなり遠いぞ。
「わからない。固まって森の中にいたんだけど、しばらく前から移動し始めた」
「9割以上の確率で攻撃されると思っとけ。連中動きに迷いがねえ。森を探索してる動きじゃねえぞ。こっちに向かって一直線だな」
「了解。ガーナさんとエンシスさんは動ける?」
「お前のパーティがいるだろう」
「お偉いさんの警護」
「そういうことか。他に戦力は?」
「学生会。ケビンは使える」
「エンシスを入れて4人か。まあなんとかなるだろう」
「じゃあ頼んだね」
「任せろ」
頼もしいね。
ガーナさんはエンシスさんの方に歩いて行った。
学生たちは何も知らず、楽しそうに夕食作りを続けている。
俺の作った石の柵は高さが2メートル。つまり外が見えないのだ。
チッ、とうとう森から出てこちらに向かって来たよ。隠れる気なしか。
向こうがその気なら、こちらも堂々といくか。
俺は柵の上に飛び乗り相手を監視することにした。
まだ1キロくらい先にいる50人ほどの集団。迷いなくこちらに向かって歩いている。
俺の立つ隣に、リッキー殿下、ケビン、エンシスさん、ガーナさんと、次々に飛び乗ってきた。
リッキー殿下が後ろを向いて拡声魔術を使って指示を出す。
「全員警戒体制!」
騎士たちと冒険者たちは、その一言でサッと警戒体制に入った。
学生たちはキョトンとし、それからザワザワと騒ぎ始めた。
冒険者たちがしっかりしているので大丈夫だ。
集団がどんどん近づいてくる。
「そこで止まれ!」
100メートルまで接近したところで、リッキー殿下が声を上げた。
しかし集団はその声を無視して近づいて来る。
「ユーキ」
「了解」
俺は集団の足元に大きめの魔弾を撃ち込んだ。
ドン!という音がして砂埃が舞う。
集団の足が止まった。
「オイオイ、いきなり攻撃たぁヒデェじゃねぇか!」
集団の先頭にいた大柄の髭面が大仰に文句を言う。
冒険者のような格好の集団。しかし動きに統制がとれている。兵士だな。
ほとんどの者が弓を持っている。
「何者だ!」
「冒険者のパーティだよ!」
「ここに何か用か?」
「飯食わせてくんねぇか。腹減ってよう。生憎食糧が尽きちまった!」
「その辺で獲物でも狩って食え!」
「随分冷てぇじゃねぇか!助け合いって言葉知らねぇのか!?」
「相手によるな!」
「そうかよ、じゃあ無理矢理いただくしかねぇな。大丈夫かぁ?そっちは子供の集まりだろう!」
「心配するな。やってみればわかる!」
「泣いて命乞いしても遅ぇぞ!」
リーダー格の男が右手を挙げると、集団は一斉に弓を構えた。
ただの強盗やゴロツキでないのは間違いない。
今の弓の弾き方も一糸乱れぬ動きだ。
狙いは何だ?
まあいい、とりあえず新しい防御の威力を試させてもらおう。
「会長、まずは弓を撃たせます」
「任せるよ」
ビュンと音がして約50本の矢が拠点に降り注ごうとする!
上空にその矢の雨を見た学生たちから悲鳴が上がる!
俺は軽く左手を上げてつぶやいた。
「プラズマシールド」
降り注ぐ矢の前に薄い光の幕が展開された!
そして、シールドに接触した矢が一瞬で消滅する!
推定6000度の超高温に触れたものは、秒の存在も許されない。
うん、そこそこ上手くいったぞ。
火山地帯の溶岩はせいぜい1200から1300度。このプラズマシールドが完成すればダンジョンの37階も踏破できるだろう。
「何しやがった!構わねぇ!撃ち続けろ!」
狂ったように降ってくる矢の嵐。
しかし、その嵐は静かな光の幕の前にまったくの無力だった!
そのとき背後で殺気が膨らんだ!
拙い!
「エド!」
俺が後ろを振り向くと、エドが片手を斬り落とされた騎士の首に剣を当てている姿が目に入った!さすがエド。心配なかったか!
あの騎士はデネブ王国から連れてきたマリウス殿下の護衛騎士。
なるほど、タネがわかった。
目の前の集団が陽動というわけか!
「会長、連中の企みがわかりました」
「そのようだね」
「じゃあ片付けちゃっていいですか?」
「そうだね、もういいかな」
その言葉を聞き、俺は右手を一振りする!
竜巻が起こり、五十人の集団が一瞬で上空に巻き上げられた!
チッ、森の中に一人隠れていやがった!全速力で逃げている!
「任せろ!」
そう声がして、ガーナさんが柵の上から突風のように飛び出した!
速い!本気のガーナさんはこんなに速いのか!俺、負けてる?
俺が竜巻を止めると、上空からドサドサと男たちが落下してきた。
こりゃぁ全員死んだかな?
エドの方を見ると、斬り落とした腕を治癒魔術で止血して、周囲に気づかれないように学生会のテントの方に連行している。やっぱりわかってるね。エドの治癒魔術もかなり上達している。
ああ、マリウス殿下は真っ青な顔になってるな。
俺はリッキー殿下たちと共に柵から飛び降り、敵の生死確認に向かった。
運のいい一人を除き、全員が絶命していた。
情報は一人いれば取れる。エドが確保した騎士と、ガーナさんが追った男もいる。十分だろう。命があった男には急いで治癒魔術をかけて、ロープで拘束する。
死んだ者たちから身元確認のため片っ端から所持品を剥ぎ取っているところに、ガーナさんが男を担いで戻ってきた。
「生きてるの?」
「ああ、失神させただけだ」
「さすが!」
「お前みたいな死神じゃねえよ」
「ひどい!」
所持品の剥ぎ取りが終わったところで、死体の処置をどうするかリッキー殿下に尋ねたところ、焼却しろということだったので、試しにプラズマシールドを当ててみたら、一瞬で消し炭になった。これなら煙も匂いも出ないので、柵の中にいる1年生にとっては、嫌なものを見ずに済んで良かったかな。




