第171話 2回目の野外実習
野外実習の当日。場所は昨年と同じ平和な森近くの草原だ。
実習場所の状況はあらかじめ冒険者ギルドに依頼して調査してある。今年も特に問題なしとの報告だった。グラスボア程度は去年も出たけどね。
冒険者との集合場所まで、箱馬車23台の大移動。これも王都の春の風物詩の一つだ。
学生会は馬で行く。女子メンバーはどうするのかと思ったら、全員が馬で来た。貴族は女性も乗馬が上手いね。
乗馬服もちゃんとキュロットタイプの物があり、いわゆる貴婦人乗りの横乗りをする場合と、通常の乗り方をする場合のどちらもマナーとして認められている。
そういえばマグノリア様は馬で来ようとして、本気でリッキー殿下に叱られたらしく、膨れっ面で自分の班のメンバーと一緒に馬車に乗っていた。
コーザさん、エド、真司の三人はマリウス殿下の馬車の護衛についている。
王都南門で例年どおりに冒険者と落ち合い、そこで学生たちと顔合わせをする。
あれ?ギルマスのエンシスさんと、オッパイ好きのガーナさんもいる。
「おーい、二人ともどうしたの?」
「あ、ユーキ君。いやね、今年は王族が三人もいるから一応ギルドとしても気を遣ってるわけだよ」
「俺はユーキがいるから要らないだろうって言ったんだけどよ」
「ははは、リッキー殿下も王族に数えてるんだ」
「お前よくそんな怖いこと言えるな」
「だってあの人、Bの上位くらいはいけてるよ」
「そんな問題じゃないだろう!」
ともかく二人が来てくれるのは心強い。特にガーナさんの探知能力はすごいからね。
他にも王都ギルドでの顔見知りがあちこちにいるので、挨拶して回る。
お、今年もいるな。
「久しぶり!妖精の墓場!」
「アンタわざと言ってるでしょう!」
ランカスターの妖精の棲家のメンバーたちだ。
今年はシルビアちゃんと共に、マグノリア様の指導係をやるそうだ。
王族担当なんて出世したね。
双翼の人たちが、俺が中々ランカスターに来ないので寂しがってると言うので、夏休みには帰ると伝言を頼んだ。今年は37階の先に進むぞ。あと温泉もね。
一通りの顔合わせが終わると、実習場所に向けて出発だ。
俺たち学生会が先導する。ちなみに今日の俺の馬はルクスではない。ランカスター家から借りてきた馬だ。2泊3日になるので、ルクスにはエミーちゃんの対応を頼んできた。
誘拐事件以降、エミーちゃんに目立った変化はないが、PTSDなんとこともありうる。ルクスのセラピーは重要だと思う。
今年の実習もいい天気だ。初夏の風が気持ちいい。
サーチは展開しているが、のんびりとしたものだ。慣れてきたとはいえ、やはりこの世界の空気は美味しい。公害や温室効果ガスなんて問題もないので、空が真っ青だ。
今緊張してるのは、新しい学生会メンバーと、初めて野外に出る温室育ちの1年生くらいだな。新しい学生会メンバーは、今日が実質的な初仕事という緊張だ。アリシアさんなんて、綺麗な顔が引き攣ってるぞ。ジムさんはさすがに演武会上位の腕前だ。魔獣討伐経験も領で十分にあるそうなので大丈夫だろう。あれ?やっぱり緊張してる?表情が硬いね。
2時間ほどかかって、何の問題もなく実習場所の草原に到着した。
これからテント設営を行い、昼食の準備だ。
俺は昨年と同じように、一人で土魔術の防護柵を作っていく。以前よりも腕は上がっているので、大抵の魔獣では破壊できない強度だ。なんたって、ダンジョンで一晩過ごせる強度だからね。
皆んなの様子を見ると、ゲル型テントの設営に苦戦している班が多いな。2年生が上手く指導できないのも昨年と同じ。まあ、年中やってないと無理だよな。結局冒険者の手を借りてなんとか設営しているようだ。
テントの設営が終わると、土魔術の使える者は竈作り。それ以外の者は森に焚き木拾いに向かう。サーチで森の方を確認するが、特に問題はない。相変わらず、まったく魔獣のいない森だ。
おう、マリウス殿下は竈作りか。
ああ、それじゃあただの四角い台だよ。エドが指導して作り直しだ。
側で従者や警護の騎士がハラハラしているが、甘やかすなよ。それに騎士は周辺を警戒しろよ。なんか、アルタイル王国の騎士と違って、少し頼りない気がする。でも、マリウス殿下はとても楽しそうだ。
どの班も悪戦苦闘しながらもなんとか準備が整って、ようやく昼食を作り始めた。
それを確認してから、俺も学生会のテントに戻る。
テントの横では、リッキー殿下がせっせとスープを作っていた。
「リッキー会長、今年も食事係ですか?」
「ああ、ユーキ。うん、来年はもうできないからね」
「そうですね。来年はもういらっしゃらないんですね」
「君とはどうせ卒業後も年中会うことになりそうだけどね」
「え?王城は行きませんよ」
「それはどうかな?父上が、君と君のチームは手放さないと思うよ」
「はあ、仕事をするのは構わないんですが、王城の雰囲気が馴染めなくて」
「そのうち慣れるさ」
そんな会話をしながらスープが出来上がる。
リッキー殿下のスープは相変わらず美味しかった。
昼食が終わると、柵の外に出て討伐実習だ。開始前にリッキー殿下の指示がなされる。
「全員注目!これから午後3時半まで、討伐実習を行う!この草原には基本的に普通の小動物か、弱い魔獣しか生息していない。それでも油断せずに、指導の冒険者の指示に従って実習に励んでくれ!なお昨年はグラスボア8頭が出現するということがあった。今年も突発的なことが起きるかもしれない。その場合は慌てずに信号弾を撃て!近くにいる学生会メンバーがすぐに援助に向かう!実習終了の信号弾が上がったら、速やかに拠点に戻ること!それではこれより討伐実習を開始する!」
さすがリッキー殿下。昨年のブライソン会長のようなドスの効いた声ではないが、声に威厳がある。この人も生まれながらの指導者なのだ。
学生たちが冒険者に伴われて思い思いの方向に散っていく。俺たちも騎乗して巡回の開始だ。今年もニ、三人フルプレートの鎧を着たヤツがいるな。ほら転んだ。いきなりフルプレートで動けるわけないのにね。親が心配なんだろうな。
巡回は男子メンバーで行う。今年は女子が入って、男子が六人しかいないので、それぞれ単独で巡回することにした。
討伐実習で獲れた獲物は夕食の食材の足しにする。ほとんど大した物は獲れないけどね。去年はグラスボアが獲れたので夕食は豪華だったけど、今年は期待できないかな?リッキー殿下にも、何か大物がいたら獲ってきてくれと頼まれたけど。
実習の様子を観察しながら、大きく周るように馬を歩かせる。
このような経験がない学生は苦戦中だ。ウサギに転ばされて、蛇を見て飛び上がっている。
自領で討伐経験のある学生は余裕だな。
男子は女子にいいとこ見せるチャンスだぞ。
サーチを周辺に拡げるが、危険な魔獣は皆無だ。
俺はサーチを伸ばして色々な方向を探る。
あ、いた!グラスボア三頭だ。5キロ以上離れている。どうしよう。
「ようユーキ、何かあったか?」
ちょうどケビンとすれ違った。
「ちょうど良かった。ちょっと馬を預かってくれるか?」
「いいけど、どうしたんだ?」
「あっちのだいぶ先にグラスボアが三頭いるんだよ。ちょっと走って行って狩ってこようかと思って。夕食用にね」
「そういうことか。わかった、この辺は危険もないみたいだから、少し抜けても大丈夫だろう」
ケビンの気配察知能力も、ダンジョンのおかげで相当上がっている。
それに、ここにはコーザさんもエドも真司もいるしね。
俺はケビンに馬を預けて全速力で走り出した。馬よりも速い。
ほんの数分でグラスボアのところに着くと、さっさと始末してバンパイヤナイフで血抜きをする。獲物をストレージに仕舞い、帰ろうとしたところでふと妙な気配を感じた。
どこだ?
俺はサーチを全開で探る。
いた!ここか!2キロほど離れた森の中。五十人くらいの人間の集団だ。
動かずにじっとしている。
何者だ、コイツら?
冒険者のパーティにしては数が多い。どこかの騎士団の訓練か?
今のところ殺気のようなものは感じられない。
まあいいか。とりあえず注意だけはしておこう。
少し気にしながらも、俺は走って実習地に戻った。




