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第17話 聖女夜想曲

 侯爵家との話しが終わり、エドと部屋に戻る。

 俺がため息をつくと、エドは「そんなに大変なことか?普通だろう」などと言う。

 そうか、こいつも貴族のご子息様だった。


 エドは、王都のときと同様に、当面俺に付き合ってくれるらしい。

 しかし、家庭教師など、エドに関係ない時間もあるので、適当に本来の仕事とバランスをとってくれたまえ。

 食事は、侯爵家は揃ってダイニングでとるが、エドたち上級使用人や、高位の文官、武官はそれぞれ自室でとるとのこと。俺も自室で食べることにする。使用人の食堂などに顔を出すと却って迷惑らしい。

 そっちで良いのに。


 また、自分の予定はきちんとケイトさんに伝えるようにとエドに言われた。

 これはケイトさんを秘書だと考えれば問題ない。メイド服なんて着てるから、変に意識してしまうのだ。いっそのこと、タイトスカートのスーツでも着てもらおうか。


 ケイトさんには、早速、明日ドレスメーカーが来て服を作ることと、シルビアちゃんの家庭教師の勉強に参加することを伝えて、スケジュールを確認しておくよう頼んだ。

 ケイトさんは、嬉しそうだった。やっぱり、貴族のメイドらしい仕事の方が嬉しいよね。

 トイレの水瓶の手配と、お風呂のお湯出しでは申し訳ない。スンマセン・・・


 騎士団の訓練や冒険者ギルドなどは、少し落ち着いてからだな。それまでは自主トレだ。

 今日は帰ってきたばかりだからゆっくり休もうと言って、エドは帰っていった。


 ああ、貴族服は窮屈だ。現代のスーツの方がまだましだ。日本はビジネスシーンでも、ドレスコードがだいぶゆるくなってきていたしな。

 しかし、食事と風呂が終わるまでは着替えられない。

 この世界で、一日に何度も着替えるような慣習がなくてまだ良かったよ。


 ぼんやり考えていたところで食事の時間になる。

 夕食はハンバーグだった。

 やっぱり、こういうメニューも聖女様が持ち込んだのかな。聖女様に感謝しておこう。


 恒例のお手伝い付きお風呂を終えたら、ケイトさんに、疲れただろうから、今日はもういいよ、と言って下がってもらう。


 速攻でジャージに着替えて自主トレだ。

 ストレージからの武器の装備、かなりスムーズになった。

 筋トレと柔軟もやる。筋トレは、道具がないので自重を使ったものになる。この辺もぼちぼち考えよう。


 さあ、侯爵領での生活だ。偶然とは言えせっかく手に入れた自由。自らの選択で生きられる世界だ。かつての仲間たちには申し訳ないが、楽しんでもいいよな。


 侯爵領での希望に満ちた始まりの一週間は、ひたすら疲弊した一週間だった。


 最初は、服の製作だった。

 侯爵家御用達のドレスメーカーだ。感じの良い人たちではあった。

 しかし、「まあ、聖女様と同じ黒髪に黒目ですわね!」とテンション爆上がりになったオバ様に率いられたデザイナーさんやお針子さんたちに、寄ってたかって採寸をされ、晩餐用だの夜会用だの、なんとか用だの、デザイン決めに大騒ぎになった。

 どうせ体格は良くなるから数はいらないと主張しても軽く否定される。

 途中でエリカ様が来られてからはケイトさんまで参加してますますヒートアップし、俺はサンプル生地をあてられて立ち尽くすマネキンと化した。

 何着作るのか知らない。

 いつ着るんだよ・・・


 翌日からは、ケイトさんに調整してもらって、シルビアちゃんの家庭教師さんたちと、面談兼俺の実力診断が続いた。

 まず、学習面では王立学院入学レベルでは問題なし。ついでに行った王立学院の教育課程の診断でも、数学、国語、物理、地理、歴史などの必須科目は上位卒業レベルだった。法律、行政、領地経営、錬金、天文など、選択科目が多数あるそうだが、これらについては、今回の診断の対象ではない。

 この結果、シルビアちゃんと一緒に机を並べて勉強するという罰ゲームは回避された。

 28歳が女子中学生と一緒にお勉強は、事案である。

 ただし、この世界の知識はまだ足りないことだらけだ。書庫は利用させてもらう。


 マナーは、所作は美しいと褒められたが、この国や外国のマナー知識に欠けることが多かった。そのため、シルビアちゃんのマナー教育の際は、できるだけ参加するようにと言われてしまった。なぜかシルビアちゃんが嬉しそうだった。

 まあ、元の世界でもそうだったが、学んでおいて損はないだろう。


 ダンスは、優雅な誘い方から終わり方、未成年女性の後見人への対応の仕方など、夜会での振る舞いを一通り教わった。

 その後、この国の基本および応用のステップを何通りか教わり、その日のうちにマスターした。元々踊れるからね。ダンスの先生は、素晴らしいと感激し、ダンスの競技会にでないかと誘われたが、優雅にお断りしておいた。

 ダンスは卒業である。

 シルビアちゃんが寂しそうだった。

 ん?一人で勉強するのはつまらないのかな?


 音楽は、この世界にも地球と同じような楽器がある。

 俺はピアノでショパンとモーツァルトを弾いたところ、音楽教師は「まあ、聖女様の曲ですね!」と喜んでいた。何やってんだ、聖女様!

 ピアノは一通り弾けるようなので、この世界の知らない曲を練習して、たまに見てもらうということで、レッスンの参加は回避した。

 シルビアちゃんが、他の楽器や歌も練習したらどうかと提案してきたが、遠慮しておいた。

 そんなにガッカリしないでよ。


 絵は、石膏デッサンをさせられ、十分上手いと褒められた。

 この世界の絵の具は初めて見たが、上級者は絵の具の調合からやるらしい。その際、魔力を使うとのこと。おもしろそうなことには魔力問題がハザードとなる。なんで?

 結局、絵の道具一式を調達してもらい、調合済みの絵の具でときどき作品を描いて見せにきなさい、ということで終わった。


 あと、貴族男性には武術が必須らしいが、これは問題ない。

 それと、魔術実技。これは問題しかない・・・。


 結局、マナーの勉強で週に1回程度時間をとられるだけだ。

 助かった。

 しかし、この世界の貴族たちは、本当にこんなこと全部できるの?

 今度エドに聞いてみるか。いや、エドはできそうだな。

 騎士団長のフレッド様はどうだ?以外と如才なくこなしそうだ。


 こうして一週間の努力の結果、俺は多くの自由時間を勝ち取った。

 疲れた・・・

 一週間の苦行を経て、やっと街に出る日がやってきた。




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