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第16話 ランカスター城

 1時間余りのパレードを経て、城門に到着した。

 多くの兵士に迎えられ城門を潜ると、ここもまた領民で溢れ返っていた。

 彼らは、城内生活者のための農業、畜産、鍛冶、紡績、裁縫、その他城内の需要を満たすために城壁内で暮らす人たちだという。

 このエリアを過ぎると、第二の城壁があり、この内側が侯爵家の居城になる。


 ここの城門をくぐると、多くの文官、女官、メイドなどが整列して出迎えた。

 俺たちも下馬して整列する。

 馬車を降りた侯爵の元に、一人の青年が歩み寄ってきた。

 この人がランカスター家の長男か。


「父上、無事のご帰還お喜び申し上げます」

「留守中ご苦労だった。今回の王都はいささか疲れた。堅苦しい挨拶は抜きにして部屋へ行こう。まずは一休みさせてくれ」


 よし、俺はこのまま兵舎にでも部屋を借りよう。

 そう思っていたらジェームス様から声がかかった。


「ユーキ君はこっちだ。一緒に来なさい」

「いや、私はこのまま兵舎の方に・・・」

「だめだ。城に入るぞ。エド、ユーキ君の部屋は用意されているはずだから、メイドに聞いて案内してくれ」


 エドとケイトさんに両脇をかためられた。

 裏切者がいた。


 逃げ出さないようエドに腕を取られ、馬鹿でかい城に入る。

 ケイトさんが、俺に用意された部屋を聞いてくれて、2階の客室に案内された。

 ここも広くて豪華だ。落ち着かん。

 ケイトさんは、ここでも俺付きのメイドをしてくれるとのこと。

 不遇職でごめんね。


「ユーキ様。ストレージから荷物を出して下さい。整理いたします」

「いや、全部ストレージに入れておくので大丈夫です」

「だめです。お洋服とか書籍とか色々ありますよね。全部出していただきます」


 はあ、ケイトさんと仲良くなってきたのはいいが、段々厳しくなってきた。


「それからいつまでも私に敬語はやめて下さい。他の使用人もいますので」

「はい・・・」


 ケイトさんはコーヒーを淹れて、俺が出した荷物の整理を始めた。

 エドと二人でソファにぐったりともたれてコーヒーを飲む。


「エドの部屋はどこなの?また別館?」

「いや、こっちだと一階の上級使用人部屋」

「そうか、あとで教えてくれ」

「いいけど、もう少ししたらお呼びがかかると思うよ。着替えといた方がいいぞ。多分俺も一緒だと思うから、部屋に戻るよ。俺の部屋もおそらく荷物の整理中だ」

 そう言うと、エドはそそくさと部屋を出て行った。


 少ない荷物の整理を早々に終えたケイトさんが、部屋の案内をしてくれる。

 このリビングの奥に小振りの書斎があり、その奥に寝室がある。

 そして、寝室の隣りにトイレ、洗面所、お風呂がある。

 お風呂は部屋についているんだね。

 あ、トイレに水瓶を置いてもらわなきゃ。

 リビングの反対の奥には簡易キッチンがあり、お茶などはここで入れてくれる。

 ケイトさんの部屋は、この隣にメイド部屋があって、そこに入るそうだ。

 メイド部屋とリビングはドアで繋がっているコネクトタイプだが、普段は鍵がかかっている。

 いかがしましょうか、と聞かれたので、鍵はかけたままにしておくようお願いした。

 どうすんだよ、俺が変な気起こしたら!


 ケイトさんがこの部屋で待機しているとき用に、椅子とテーブルを持ってきてもらうことにした。不要です、と言われたが、俺が気になるからと言って強行した。


 そう言えばシェーバーの充電が切れた。

 髭剃り用のナイフで剃れないこともないが、どうしよう。ケイトさんに剃ってもらうのも申し訳なくなる。15歳の身体は色々厄介なのだ。その内安全カミソリでも作ろう。


 ジャージに着替えたいと言ってケイトさんに怒られた俺は、いやいや貴族服を着せられて、コーヒーを飲んでいた。

 そこにエドがお呼びだよ、と言って迎えに来た。

 エドと連れ立って、三階のジェームス様の私室に向かう。

 侯爵としての執務室は、利便性のために一階にあり、配下の貴族や外国の来客との謁見の間は四階にあるそうだ。


 ジェームス様の部屋に入ると、ジェームス様の他にエリカ様、シルビアちゃん、出迎えのときにいた青年、それに10歳くらいの可愛い少年と少女が座っていた。


「やあユーキ君。長旅ご苦労だった。挨拶はいい。二人共座ってくれ」

 と、言われ、エドと二人、ソファに座った。すかさず二人分の紅茶がサーブされる。


「まずは紹介しておこう。座ったままでいいよ。彼が長男のチャールズだ。私が王都にいる間、領主の代理をしている」

「チャールズ・ランカスターだ。僕もユーキ君と呼んでいいかな?シルビアのせいで大変な目にあったと聞いた。可愛い妹なんだ。許してくれると嬉しい」


 チャールズ様はにっこり笑ってウィンクをした。

 侯爵家の跡取りで、気さくなイケメンかよ。モテそうだね。


「ユーキ・カムラです。お目にかかれて光栄です、チャールズ卿。私はシルビア嬢のせいとはまったく思っておりませんのでお気になさらないで下さい。それでなくても過分なお世話になっております。それと、ジェームス様も皆様も、私のことはユーキと呼び捨てにして下さい」

「そうか、そう言ってもらえると嬉しいよ、ユーキ。僕にも卿付けはやめてくれ」

「ありがとうございます、チャールズ様」


 ジェームス様もエリカ様も穏やかな表情で俺たちのやりとりを見ている。いい家族だね。


「では私もユーキと呼ばせてもらうよ。ユーキ、こちらの二人は、次男と次女の双子で、トーマスとエミリアだ。ユーキにご挨拶を」とジェームス様が少年、少女に促す。


 双子は揃って立ち上がり俺に向かって挨拶をした。


「トーマス・ランカスターです。ユーキ様、よろしくお願いします」

「エミリア・ランカスターです。お目にかかれて光栄です。ユーキ様」


 俺も立ち上がり二人に微笑みかける。


「これはご丁寧な挨拶をありがとうございます。私もお二人にお目にかかれて大変光栄に思います、トーマス様、エミリア嬢。それと、私は平民ですので、私のことはどうかユーキとお呼び下さい」

「え、でも、ユーキ様は勇者様かもしれないと」


 もう、面倒くさいことを!


「いえ、私は勇者ではありません。勇者様は、多分もっと強そうでかっこいい人ですよ。ほら、私は弱そうでしょ?」


 ジェームス様が笑いながらこの話しを引き取った。


「皆んな座りなさい。トム、エミー、よく挨拶ができた。ユーキが勇者様かどうかはまだわからないね。しかし、ユーキは当家の客人だ。今は君たちはユーキ様と呼ぶように」


 わかりましたお父様、と二人が返事をする。良い子たちだ。

 しかし勇者疑惑はやめてほしい。


「ところでユーキ、狩りでは大活躍だったそうだね」

「いえ、まだ騎士団の皆様の足元にもおよびません」

「随分謙虚なんだな。まあいい。それで、これからどうするか、何か考えたかい」

「はい。騎士団の皆様と比べると、まだ実力不足を痛感します。また、この世界のことも知識不足です。なので、大変心苦しいのですが、今しばらくはこちらでお世話になりながら、騎士団の訓練に参加させていただいたり、書物を読ませていただきながら、街に出てこの世界の実際を見させていただければと思っております」


 ジェームス様は苦笑しながら聞いてきた。


「やはり、冒険者ギルドに登録を?」

「はい、依頼を受けながら動き回れば、色々な現実も見れると思いますので」

「まあ、市井の様子を見るのも悪くはないか・・・。わかった、君を縛り付けるつもりもないから、そのあたりは自由に行動してくれ。ここは王都ではないから大丈夫だろう」

「ありがとうございます」

「こちらからも少し希望を言っていいかい?」

「私にできることでしたら何なりと」

「ありがとう。私たちの希望なんだが、君に少し貴族教育を受けてほしい。君はこれからどういう立場になるかわからない。そこで、君には幅広く学んでおいてもらった方が良いと思っている。ちょうどシルビアの王立学院の入学に備えて、家庭教師を呼んでいる。この国の一般的な貴族がどのような教育を受けているのか知っておくのも悪くない。王立学院の教科書をあっという間に終わらせたようだから、学問の面では物足りないかな。まあ、一度家庭教師に見てもらえばいい。それと、マナーや芸術、ダンスなどは、君の世界とは違うだろうから、習っておいて損はないよ。そもそも君は、元の世界でも相当上級の教育を受けているよね」


 そうきたか。まあ、やって損はないとは思うが。俺のためを思ってだろうが伏線めいてるよね、と思ったところで、エリカ様から一言。


「ユーキさん、やっておきなさい」

「はい、ありがたく」


 逆らってはダメなやつだ。

 エリカ様は満足そうに頷いている。

 まあ、やるからにはちゃんとやって、速攻で終わらせよう。


「ああ、そうそう。ユーキさん、明日、ドレスメーカーを呼びますから予定を開けておいてね」

「え?なぜドレスメーカーを?」

「あなたの服を作るのよ。あなた、チャーリーのお古しか着てないでしょ」


 チャールズ様が面白そうに笑う。


「どこかで見たことあると思ったら、僕のお古か。それは悪いことをしたね」

「いえ、とても高級な服ばかりで私にはもったいないくらいです。ですので、もうこれ以上は不要かと」

「だめよ。ちゃんと作りなさい」

「はい」


 そうですか・・・。ダメ元で聞いてみるか。


「あの、私の部屋を兵舎か使用人部屋に替えていただくことは・・・」

「ダメよ!」


 被せ気味に否定された。

 もう覚悟を決めよう。


「重ね重ね私へのご配慮ありがとうございます。今のところ何ができるかもわからない身ですが、お言葉に甘えさせていただきます。いつかこのご恩に報えるよう努力いたします」


 エリカ様は満足そうに、「それでいいのよ」と頷かれた。




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