第15話 王の帰還
「ユーキ、どうだった、初めて見た狩は?」
カーク隊長が笑顔で聞いてくる。
「素晴らしいですね。特に実戦での魔装はすごいです」
「そうか。次はユーキがやってみるか?」
「あそこまで鮮やかには無理だと思いますが、やらせていただけるのであれば」
「よし、危なかったら助けるからやってみろ」
「はい!」
危なかったら助けてくれるのか。優しいな。
元の世界の俺たちは、訓練でさえ、いつも死と隣り合わせだった。
全員で慎重にフォレストボアを囲み、死亡を確認する。
「ユーキ、ストレージに入るか?」
カーク隊長に言われ、試してみるとすんなり収納できた。
「よし、いつもなら解体だが、今日はユーキのストレージを使おう」
そう言うと、急いで場所を移動する。
次の獲物を探して森を進む。
俺の感知能力が高そうだということで、また俺が斥候だ。
小鳥や小動物は沢山いるが、魔力が薄いのか、気配はややぼんやりしている。
30分くらい経ったところで、前方に魔獣らしき気配を察知した。移動している。
やはり100メートルほどの距離だ。
後方に合図を送る。
「ボアか?」
「いえ、ボアとは感じが違います。ただ気配の強さというんでしょうか、それはボアと大差ないかと思います」
「なら行ってみよう」
カーク隊長の決定で、再び気配を追う。
すると、少し進んだところで別の隊員が、
「ディアのようですね」
と言った。
いいな、俺も早く気配で種類がわかるようになりたい。
「ユーキどうする?ボアはパワーはあるが動きが直線的で狩りやすい。ディアは、パワーは少し落ちるが、動きが速くて複雑だ。かなりの高さジャンプする」
と、カーク隊長が聞いてきた。
「とりあえず、何が出ても初体験です。やらせてください」
ここでお預けは勘弁だ。
今はこの世界で生きて行くしかない。ならば、経験は早く積みたい。
ゆっくりと歩いていると思われるディアを追いかける。
すると、あと30メートルくらいのところでディアと思われる気配が止まった。そしてこちらを伺っている様子だ。
気配察知に優れた隊員が、
「気づかれた。来るぞ!」と言った。
おお、シカ君は逃げずに向かってくるのね。
俺は、「一人でやります!離れてください!」
と皆んなに声をかける。
確かにシカ君がこちらに向かってくる。俺は隠していた気配をひとまず全開にする。
そして、木立ちの間隔が狭めのエリアを選び、大きめの木の陰に隠れて再度気配を断つ。
おっ、シカ君がキョロキョロしている。
シカもでかいな。それに目が可愛くないぞ。シカのくせに凶暴そうな表情だ。
シカ君が近づいたところで、俺は縮地でシカ君の首元に潜り込み、その首にククリ刀を叩きつけながら、そのまま駆け抜ける!そして、駆け抜けた先にあった木を蹴ると、反転してシカ君の元に飛び、再度ククリ刀をその首に叩きつけ、駆け抜けた!
ドサっという音を立てシカ君が倒れた。
反撃の余裕なんて与えないよ。
マンガじゃないんだから激闘なんていらん。無傷で圧勝が正義だ!
隊員たちが戻ってくる。
「見事だな、ユーキ。瞬殺じゃないか」
「まあ、場所が良かったですから」
「有利な場所に誘導してからの嵌め殺しだ。それも含めて見事だった」
「ありがとうございます」
他の隊員たちも口々に賞賛してくれた。
やはり、スペースのある場所でディアに暴れられたら、仕留めるのは厄介らしい。
エドも俺が実戦に慣れていることに感心していた。
ディアをストレージに収納すると、素早く移動し、少し開けた場所を見つけたので、一旦休憩することになった。
俺はストレージから、飲み物と屋台の串肉を皆に振る舞い喜ばれた。
「ところでユーキ、その武器はなんだ?変わった形をしているが」
と、カーク隊長が聞いてくる。
隊員たちも興味があったようだ。
「これはククリ刀と言って、私が元いた世界の武器です。振ってみますか?」
と言って、カーク隊長にククリ刀を差し出す。
カーク隊長は、興味深そうにククリ刀を何度か振っている。
「なるほど。先端が太くなって、重心が前にあるが、これを振り下ろすと遠心力で攻撃力が増すのか」
「はい。逆手に持って振り上げるときも同じです。ちょっといいですか」
俺は、ククリ刀を受け取り、いくつかの攻撃パターンを見せる。
「横振りでも遠心力が働きます。また正面への突きは、手の角度を無理に正面に向けなくても、ガードポジションからまっすぐに突きやすくなりますし、逆手に持って横の相手に攻撃するのもやり易くできています。もちろん、慣れが必要ですが」
「面白いな、俺も一本欲しくなった。領都に戻ったら鍛冶屋に言って作ってみるか。これはユーキの世界では主流の武器なのか?」
「いえ、珍しいと思います。元々は、少数部族の戦闘部隊が使っている武器で、通常はもう少し短い大型ナイフなんです。俺は、それをマチェットという、山の中でブッシュを伐採したり、戦闘にも使えるという武器と同じくらいの長さで作ってもらいました。ククリマチェットと呼んでます」
「へえ、そういう場面が多かったのか?」
「まあ、色々やらされましたので」
俺は苦笑いをする。
南米のジャングルに放り込まれたからな。
「今回でユーキが即戦力だとわかったのは収穫だな」
皆が大笑いする。
おい、俺は騎士にも兵士にもならんからな!
結局、このあと俺たちは、フォレストボアをもう一頭仕留め、襲ってきた狼か山犬の魔獣5匹を蹴散らして狩を終えた。
エドも戦闘に参加したが、自信なさそうにしている割に十分強い。自信のなさは周りの魔装が強すぎるせいだ。本人もわかっており、王立学院では、これでもトップクラスの実力だったんだと言っていた。
翌日、予定通り侯爵領に向けて出発した。
旅は事件も起こらず順調に進んだ。
途中からはるか彼方に見え出した山脈は、アルプス山脈にも似ている。
舗装された高速道路や、現代建築が何もない広大な大地の先に見える山脈の光景は、感動を覚えるほど美しかった。
休憩中の草原で迷い込んできた兎を狩った。攻撃してくるからね。しかも、中型犬くらいの大きさで、角生えてるし・・・ホーンラビットと言うらしい。
この世界の魔獣とそうでない動物の区別は、厳密ではないが、概ね体内に魔石があるかどうかということらしい。それに、動物は人を見ると逃げることが多いが、魔獣は手負にならない限り襲ってくることが多いとのこと。もちろん、魔獣よりも強い動物もいるし、人を襲う動物もいる。なので、大雑把な見分け方だ。
侯爵領に入ってからの街や村での歓迎ぶりは大変なものだった。
シルビアちゃんも、馬車の中から手を振って、「姫さまー」なんて声援を受けていた。アイドルみたいな人気だね。
ランカスター家は代々善政を敷いており、また魔獣被害にも迅速に対応し、その強さは折り紙つきだそうだ。改めて、良い家に迷い込んだものだと、幸運に感謝した。
領都まであと数キロという辺りで最後の休憩に入る。ここは領都から出発するときは、最初の休憩地になるらしい。
ここで騎士団、兵士は全員正規装備に換装する。俺はなぜか騎士の装備に着替えさせられた。
騎士にはならんからな!
馬も化粧装備を施される。
エドは本来の馬車に戻された。
侯爵旗と騎士団旗が、先頭と最後尾に掲げられる。
隊列は威風堂々と進んで行く。
街道を行く人々は皆立ち止まり歓声を上げたり、礼をしている。
領の外壁が見えてきた。
王都に負けない10メートル規模の外壁だ。
しかも随所にバリスタが設置されている。
さすが国境防衛を担う貴族だ。
門が大きく開かれ、その前には数百人規模の騎士団が、侯爵旗、騎士団旗だけでなく、様々な旗を掲げて整列していた。配下の貴族家の旗かな?
侯爵の隊列が門をくぐると、大歓声が巻き起こる。
侯爵の馬車の屋根が開放され、侯爵が立ち上がり剣を持った右手を突き上げると歓声はひときわ大きくなった!
おお、あの馬車オープンタイプになるんだ!
門前に待機していた騎士団は、我々の隊列の前後に分かれて行進を始める。
群衆が続く大通りの真ん中を、我々はゆっくりと進んだ。
はるか先には小高い丘の上に巨大な城が見える。
王都で見た瀟酒な城ではない。要塞だ。
改めて街の群衆の熱狂に目を向ける。
元の世界でも国王などのパレードは何度か見たし、警護もやった。
しかし、これは違う、と感じた。
有名人見たさではない。敬愛の対象ではない。
侯爵は、正しくこの地を治める王なのだ。
辺境で、敵国からこの地を護り、魔獣から民を護る。
ジェームス様の二つ名は『ロード・プロテクター』と聞いた。
『護国卿』
今俺は王の帰還の中にいるのだと理解した。




