第169話 日本のJKを護ろう
4月も中旬を過ぎて、外はすっかり春の陽気になってきた。
今日の料理実習は、屋外用携帯料理、つまりピクニック用のお弁当だね。
各自でサンドイッチなどの軽食を作り、昼休みに実際に校庭に出てお花見がてらの実食だ。桜はないけどね。
俺とエドとイアンの男組も、ピクニックシートを敷いて、作った軽食を食べていたが、そういえばアレがあったな、と思い出した。
「おーい、レーナちゃん!」
「なに?なんかくれるの?」
「あげるからちょっとこっちにきてくれる?」
「ホーイ!」
淑女とは程遠い返事をしながら、レーナちゃんが俺たちの方にやって来る。
「レーナちゃん、コレ知ってる?」
「なになに?ギャー!オニギリ!」
レーナちゃんが目を剥いて驚いている。うん、やはり淑女とは程遠い。
「なんでなんで!?なんでこんなもん持ってんのよ!食べていいの?いいよね!食べるよ!」
レーナちゃんは俺の返事も聞かずにオニギリにかぶりついた。
あっという間に1個を平らげ、すかさず2個目を手にする。
その様子にエドとイアンがドン引きしている。
「そんなに慌てなくても、沢山あるから大丈夫だよ。それに、こんなのもあるよ」
俺はストレージから出したポットから、カップに味噌汁を注ぐ。
「ヒエー!お味噌汁!」
レーナちゃんはカップを俺から奪い取ると、味噌汁の匂いを嗅いで口にした。
「・・・美味しい・・・」
レーナちゃんの瞳からツーと涙が頬に伝った。
うん、その気持ちわかるよ。
俺は、レーナちゃんがオニギリと味噌汁を食べ終わるのをじっと見守った。
「やっぱりこの食べ物知ってるんだね」
「うん、私の国の食べ物。ユーちん、コレどうしたの?」
「去年の感謝祭で大陸を移動しながら商売をしている大きな商隊の人と知り合ってさ。その人が、東の果ての島国で、ヤマトっていう国から仕入れてきたものなんだ」
「ヤマト!」
「知ってるの?」
「知らない!でもきっとそこ日本だよ!絶対日本だよ!」
レーナちゃんが興奮して語る。
「ヤマトって日本の古い呼び方だよ、多分。そっかー、この世界にも日本があるんだぁ」
「日本じゃないけど、もしかしたら似たような国かもね」
「そうだね。行ってみたいなぁ。近いのかな?」
「わからないけど、行くのに1年くらいかかるんじゃないかな?」
「1年かぁ。でも行ってみたいなぁ」
「途中危険も多いしね」
「そっかぁ」
レーナちゃんが遠い目をして空を見上げた。
「俺、お米結構買ったんだけど、レーナちゃん、お米の料理知ってる?」
「チャーハン!オムライス!親子丼!カツ丼!天丼!鰻丼!お寿司!」
そうか、チャーハンとかもできるか。お寿司も食べたいな。
「レーナちゃん、作れるの?」
「私に聞くな!食べ専だよー」
「タベセン?」
「食べるの専門」
やっぱりこの子には期待できない。
とりあえず、レーナちゃんには大量のオニギリと味噌汁を分けてあげた。レーナちゃんもストレージ持ちだから保管は大丈夫だ。レーナちゃんはホクホク顔で喜んでいた。オッニギリー、とか歌いながら。
「そう言えば、最近アルフレッド殿下とあまり一緒にいないね?」
「うん、なんか急にさぁ、学院では自由にしていいとか言い出してさ」
「自由に?」
「それでビアちゃんとかと仲良くしろとか言うんだよ」
ビアちゃん!シルビアちゃんのことだ。
「そろそろ見限られたかな?その方が気が楽なんだけどね。でも、殿下ってばさ、陰からジーッと見てたりするから怖いんだよね。ストーカーかな?」
「そんなことはないだろうけどね。でも自由にできるんだったら良かったね。学院生活楽しめばいいよ」
「うんそのつもり!年末のダンパも出られなかったんだよ。楽しかったんでしょ?」
ダンパじゃなくて舞踏会だけどね。
そこで昼休み終了の鐘が鳴った。
レーナちゃんは「ありがとね」と言って去って行った。
馬鹿王子がレーナちゃんにシルビアちゃんと仲良くしろと指示した。
何を企んでいる?これは早急にジェームス様と相談しておいた方がいいな。
エミーちゃんに続いて今度はシルビアちゃんか・・・。
俺も警戒レベルを上げておこう。
レーナちゃんに、シルビアちゃんと仲良くしろと馬鹿王子が言ったという話しは、すぐにジェームス様に伝えた。ジェームス様もかなり不審に感じたようだ。
ジェームス様とも相談の結果、シルビアちゃんが学院に連れて行っている侍女、この人ランカスターの諜報の人らしいけど、その人にも一層警戒するよう念を入れるとともに、俺の従者枠を利用して真司にも学院に来てもらうこととした。
幸い俺の部屋は上級貴族用なので、真司も一緒に住めるスペースはある。それに、真司なら姿を消せるし、諜報のプロだ。しかもスマホを持っているから、万が一の場合には証拠の撮影もできる。
というわけで、学院に真司の従者登録をして、今は寮で真司と二人暮らしだ。
「雄輝さん、レーナって子、完全に普通のJKっすね。あんな子が無理矢理この世界に連れてこられたなんてひどい話しっすね」
「ホントそうだよな。アニメとかで異世界転移とかあるけど、完全に誘拐だよ。しかも絶対帰れないんだから」
俺と真司は寮の部屋で日本茶を啜りながら駄弁っている。
シャトルはスライムのライムをつついて遊んでいる。
「俺たちも巻き込まれ組っすけど、やっぱ、JKは可哀想っす」
「そうだな。だから、今回の任務はシルビアちゃんを護ると同時にレーナちゃんも護ってやりたいんだよ」
「了解っす。出来るだけ情報集めるっす」
「あちらさん、レーナちゃんに何やらせるつもりなんすかね?」
「わからん。シンプルに考えると、毒物の入った食べ物を、それとは知らずに食べさせるとかかな」
「一番ありそうっすね」
「一応、毒消しのタペストリーは渡してるけど。レーナちゃんに直接的攻撃をさせるのは、レーナちゃんが拒否するから難しい。あるとするなら闇魔術で精神コントロールだね」
「それって外から見てわかるんすか?」
「どうだろう?俺の下手な闇魔術だと、明らかに様子がおかしくなった。ボーッとした感じになるんだ。上手いヤツだとどうかな?」
「変化なかったらヤバいっすね」
「そうだな。何か『キーワード』とか一定の行動で発動するような仕掛けだと厄介だ」
「そんなことできるんすか?」
「催眠術でそんなのなかったっけ?俺には無理だけど。闇魔術ならお前の方が上手いんじゃない?」
「俺も無理っす」
その後も俺たちは、どんな攻撃が予想されるかあれこれ話し合った。
レーナちゃんからの悪意のない攻撃、想定するのが中々難しい。




