第167話 学院1年目の終わり
3月に入り、春の気配が漂い始めた。
年明けから学年末試験に向けて勉強一色だった学院も、今日で一段落だ。
ロビーには、学年末試験の結果と次のクラス編成が貼り出された。
皆んなの受講科目が異なるので、先生たちの総合判定会議を経ての評価だ。
結果は、俺が1位、ケビンが2位、3位にはシルビアちゃんが浮上し、4位にイアン、5位はシルビアちゃんの友達で、金袖の一人だったルックちゃん。金袖に変化はなかったが、イアンは順位が下がって父上に怒られると言って、青い顔をしていた。
Aクラスのメンバーは、全員が残留を果たし大喜びしている。貴族にとっては学院の成績は一大事らしい。
俺は、座学は全部1位を維持し、実技科目のうちダンスがなんと2位に上がっていた。これ、舞踏会の件で絶対下駄履かせたな。ダンス自体の実力なら、絶対他の人の方が上手い。
そして、なんとレーナちゃんがC組にジャンプアップしていた!
ここまでのクラスアップは滅多にないよね。
レーナちゃんに会ったので「すごいじゃん!」と言ったら、「レーナやれば出来る子!」と言って、ハイタッチをしてスキップして去って行った。おお、嬉しそうだね。レーナちゃんも頑張ってるんだな。
それから俺とケビンは、落ち込んで俯いたままのイアンと、ニコニコのシルビアちゃん、ルックちゃんを連れて学生会室に行った。
学生会室にはリッキー殿下と側近のベンさんがすでに来ていた。
「あれ?イアン、どうしたの?まさか金袖落ち?」
リッキー殿下が落ち込んでいるイアンを見て驚いている。
「大丈夫です。イアンのヤツ、4位に落ちたんで、父上から怒られるってことで、さっきからあの調子なんです」
ケビンの説明に、ああ、そういうことねとリッキー殿下が苦笑した。
「イアン、少し遊びを減らせば大丈夫だよ」
「殿下、俺はこれから勉強の鬼になります!」
「ああ、頑張れ。3日経てば忘れてると思うけど」
リッキー殿下の言葉に皆んな大笑いだ。
そこにブライソン会長たち五人の3年生が入ってきた。
「皆んな残ったな。ん?まさかイアンは金袖落ちか?」
再びイアンのことが説明されて笑いが起こる。
「さて、本日をもってロマリア学院学生会会長の地位をスティング・ファウラー改め、リッキー・アルタイルに移譲する!」
ブライソン会長が立ち上がり、そう宣言した。俺たちも全員立ち上がる。
「はい。リッキー・アルタイル、第328代学生会会長の任、承りました。今後学院の更なる発展のために努めることを誓います!」
リッキー殿下も直立して応答した。
へえ、こんな風に引き継ぎをやるのか。なんか面白いね。
全員が着席して今後の話しに移る。ここからはリッキー殿下の仕切りだ。
「で、そちらの二人の令嬢が金袖だね。二人とも学生会に入ることで問題ないかな?」
シルビアちゃんとルックちゃんがそれぞれ自己紹介をして、学生会に入ることを承諾した。
二人とも音楽クラブだったが、学生会に入ることで自動的に退部となる。それでも学生会に入る名誉を選ぶ。貴族なら当然だそうだ。俺にはない感覚だね。
「リッキー殿下、新3年生の補充はなしですか?」
「ユーキ、学院で殿下は不要だ。それで、補充の件だけど、まず無理だね。声だけはかけてみるけど」
ベンさんも苦い顔をして説明してくれる。
「今年より状況が悪い。アルフレッド殿下が金袖落ちしてね。今、教員棟に怒鳴り込んでいる」
「まさか!何位だったんですか?」
「9位だ。王族の金袖落ちは前代未聞だね」
リッキー殿下が両手を広げて、あきれたように言った。
「だから、他の金袖が学生会に入ったら、兄上に何をされるかわからない」
あらら。まああれだけ好き勝手に行動してたら勉強にも身が入らないよね。
イアンが馬鹿王子の金袖落ちを聞いて、元気を取り戻してきた。人のことより自分のことだぞ!
「じゃあ次どうします?また1年生から補充しますか?」
「実際に見てからだね。君たちみたいに王族も上級生も関係ないみたいなヤツがいれば入れてもいいんだけど」
「ひでぇ!」
「ははは。まあ、いなければこの7人でやって行くよ」
皆んな大笑いするけど、俺たち、そんな風に見られてるの?
俺たちは顔を見合わせてため息をついた。
そのとき学生会室のドアがノックされた。
「どうぞ」
リッキー殿下が答えると、ドアが開き一人の男子学生が入って来て気をつけの姿勢で威儀を正した。誰?どこかで見たことあるような気もするけど。
「2年Aクラス、スチュワート伯爵家次男、ジム・スチュワートであります!自分は昨年の演武会にて命を拾い、その後の学生会の方々の奮闘に感銘を受け、武術、勉学共に必死の努力の末、この度学年4位の成績を得ることができました!つきましては、自分も学生会に参加させていただきたくお願いにあがりました!何卒よろしくお願い申し上げます!」
あまりの勢いに全員唖然としてしまった。
そうか、この人演武会のとき、あの仮面野郎のラクリマに準決勝で負けた人だ!
1試合ずれてたら命を落としていたかもしれない。
スチュワート家というと、ブライソン会長のマクニーリー派閥じゃなかったっけ?
「ブライソン会長!お願いいたします!」
「俺はもう会長じゃない。リッキー会長に頼め」
「はい!リッキー会長、お願いいたします!」
なんか気合いが入った人が現れたな。
「ジム、気持ちはありがたいが大丈夫か?その・・・兄上のこととか」
「大丈夫です!多少の嫌がらせなど覚悟の上です!古代獣と戦うことに比べればなんてことありません!」
「比較の対象が間違っているような気もするが。わかったよ。君が入ってくれるなら有難い。歓迎するよ、ジム」
「ありがとうございます!」
「おい、いい加減いつもの話し方に戻せよ」
「よろしいのでありましょうか?」
「お前、学生会を何だと思ってるんだ?ここは騎士団じゃないぞ」
大きな笑い声が起こる。ジムさんが頭を掻いている。
何だか実直そうな人だ。いい人がメンバーに増えてくれたな。
「待ちなさいよ!」
うわっ、また乱入者だ!なんかゴージャスな美人さんが入って来た。
「殿下!なぜ私を学生会に勧誘なさらないの!?」
「アリシア・・・。だって君は兄上の婚約者候補だろう?」
「婚約者候補なら、筆頭候補がそちらにいらっしゃるわ。お久しぶりね、シルビア様」
おお、シルビアちゃんも知り合いか。
「ご無沙汰しております、アリシア様。あの、私は婚約者候補から外れました」
「何ですって!大変!私も父上に申し上げて、候補から外していただかなければ!こうしてはいられないわ、皆様ご機嫌よう。あ、学生会には入りますからね!」
そう言うと、アリシアさんは嵐のように去って行った。
リッキー殿下が頭を抱えている。
「ははは、リッキー、苦労しそうだな」
ブライソン元会長が愉快そうに笑う。
「リッキー会長、今の方は?」
「アリシア・タウンゼント。タウンゼント侯爵家の長女だよ」
タウンゼント侯爵家。西の名家か。
「今年の金袖の連中に、兄上に忖度して成績を落としたヤツがいたんだ。それで浮上して来たのが彼女だね。今年の5位」
「なるほど。シルビアちゃんも知り合いなの?」
「ええ。侯爵家のお付き合いで子供の頃から何度かお会いしてます。とても良い方なんですが、いつもお元気で」
昔からあの調子なのか。まあ面白いからいいか。
でもこれで学生会も9名。1年生からの補充は無しでも良さそうだね。
こうして学生会の新メンバーも決まり、無事卒業式も終了して、俺の学院での1年が終わった。
何だかんだで楽しかったな。
なお、卒業式の日、学生会男子メンバーで打ち上げを行い、酔った勢いで例の『いい店』に行ってしまい、またキスマークと香水まみれで帰宅して、ケイトさんとアニカさんにしこたま怒られた。
こうして俺の学院1年目は終了した。
第二部は完結となります。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
まだまだ物語は続きますが、引き続き楽しんでいただけると嬉しいです。




