第164話 世紀の大発明
学院舞踏会の終了をもって、学院は10日間の休みに入る。
この休みは勉強に集中しようかと思っていたら、シェフィールドから父上とお母様、それに驚くことにルーカス兄上が王都に来られたという連絡が入った。
それならこの休みはシェフィールド家で過ごそうと、ケイトさんとアニカさんを連れて、シェフィールド家に向かった。と言っても、すぐ近所なんだけどね。
屋敷に着くと、父上とお母様は先ぶれを受けて、すでにリビングで待っていた。
「父上、お母様お久しぶりです。夏休み以来ですね。お変わりありませんか?」
「ああ、すこぶる健康だ。お前に治してもらった足も、もう完全に馴染んですっかり元通りだ」
「それは良かったです」
「元気すぎて困るくらいよ。今年は魔獣討伐にも行ってしまって。もう歳なんだから少しは控えて欲しいわ」
「何を言うか!ウチの騎士団はランカスターに比べて弛んでおる。今俺が鍛え直しとるところだ!」
「もう、足が治ったらずっとこの調子なのよ。それよりユーキちゃん、あなたも色々やってるみたいだけど、危ないことはダメよ」
「ご心配かけて申し訳ありません。でも、特に危険なことはやっておりませんので」
「本当かしら?嘘はいけませんよ」
「シェフィールド家の男たるもの多少の危険に立ち向かわんでどうする。ユーキは陛下の覚えもめでたいと聞く。構わん。好きに暴れなさい」
それから、夏休み以降、どんなことがあったかなど、面白おかしく話して聞かせた。
父上は満足そうに頷き楽しそうに聞いていた。ただし瘴気の話しには眉を顰めていた。
お母様は、あらあら、まあまあと感情豊かに反応してくれる。でも上品な人だ。
そうだ、あの話しをしておかなければ。
「父上、お母様、夏休みに話し忘れていたことがあるのですが・・・」
そう言って、俺は夏休みのダンジョンでエルフの王に会い、この世界の浄化を担っていたユグドラシルの種を託されたことを話した。
二人とも目を丸くして信じられないという感じだ。
「それで、そのユグドラシルの種をシェフィールドの精霊の森に植えさせてもらいました」
「精霊の森に・・・」
「まずかったでしょうか?」
「いや、何もまずいことはない。だが・・・そうか」
「何かあるんですか?」
「ああ、いや、実は精霊の森なんだが、どうやら森が大きくなっておってな。それで調べようと思って中に入っても、いつの間にか外に出てしまうという不思議な報告が上がっておったのだ」
あちゃー、そんなことになってたのか。
「そうか、だとするとそのユグドラシルという樹のせいなのかな?」
「そうだと思います。申し訳ありません」
「いや、構わん。そんな大事な樹をウチで預かるなどむしろ名誉なことだ」
「そう言っていただけると助かります」
「それに、今年は例年以上に豊作で、しかもどの作物も品質が良いのだ」
「ああ、多分ユグドラシルのせいで精霊が集まって来ているんだと思います」
「そうか、そうだったのか。これは、戻ったら精霊の森をちゃんと護る体制を作らなければならんな」
そこに、ドアがいきなり開いて、ルーカス兄上が入って来た。
「ホントにユーキがいた」
どういう挨拶だよ。
「ルーカス兄上、お久しぶりです」
「こっち来て」
ルーカス兄上が俺の腕を引っ張る。
「ダメよ、ルーカス、無理に連れていかないの。それに部屋に入るときはノックしなさい」
「忙しい。ユーキ早く来る」
こうなったルーカス兄上は何を言っても無駄だ。
俺は苦笑いをしながら席を立った。
「電話できた」
「なんだって!すぐ行きましょう!」
今度は俺が大慌てでルーカス兄上の腕を引っ張って部屋を出る。
後ろでお母様の、あらあら、という声が聞こえた。
ルーカス兄上の部屋に入り、早速電話を見せてもらう。
相変わらず雑然とした部屋の机の上に、電話らしき物が2台置いてある。
「どう?」
いや、見ただけじゃわからんって。
俺が見せたスマホを参考にしているので、スマホよりもやや大きく厚みのある作りだ。
「触っていいですか?」
「いいよ」
手に取ってみると、耳に当てる部分と話す部分には昔の電話のように小さな穴が規則的に開けられている。筐体はアルミか?軽い金属だ。
サイドにはボタンがついており、耳を当てる部分の裏にはお猪口のような物もついている。
「横のボタンを押して話す」
俺がボタンを押すと、もう1台の電話のお猪口が光った。
おお、受信している!
ルーカス兄上がその電話を手に取って耳に当てた。
ドキドキする。通じるのか?
「もしもし、ルーカス兄上。聞こえますか?」
「聞こえる」
ウワッ!通じたよ!すごい!すごい!すごい!
この世界で電話ができた!
「兄上!すごいです!大発明です!世界が変わります!」
「エヘン!」
「これどのくらいの距離まで通じるんですか!?」
「・・・」
「え?あの、どのくらい・・・」
「知らない」
「試してないんですか?」
「僕には友達がいない」
ルーカス兄上、胸を張るところじゃないです・・・。
「とりあえず試してみましょう!」
それから俺たちは色々と実験してみた。
結果、通信距離は約10メートル。途中に壁があっても通話可能ということだった。
俺が部屋に戻るとルーカス兄上が項垂れていた。
「兄上、どうしたんですか?」
「失敗。使えない」
ああ、それで落ち込んでいるのか。
「何言ってるんですか、兄上!画期的な発明ですよ!まだ通話距離は短いけど、そもそも離れているところで会話ができる仕組みを作っただけでも天才です!」
「お世辞?」
「違います!本気です!どんな物でも最初の仕組みを発明するのが大変なんです。最初ができれば、それを改良して性能を上げていくだけです。最初が一番難しいんです!」
「ホント?」
「本当です!兄上はやっぱり天才です!」
「ボク天才・・・」
いや、本当にこの人天才だろう。スマホ見せて、使い方言っただけで、一人でここまで作ったんだから。
この日から、俺たちは休みの間中、ひっきりなしに議論と実験を繰り返した。
1日に1回は屋敷に帰ってルクスとシャトルとエミーちゃんと遊んだけど。
あとはずっと電話開発だ。
ルーカス兄上の作った電話は、音声を魔素に変換して、その魔素を特定の相手に送信する。受信した側はその魔素を音声に復元して聞く。
そこで、電話に魔力を加えると、通話距離が伸びた。なので、魔素の増幅の仕組みを作れば、通話距離が延ばせるかもしれない。
また、魔導線というケーブルを使えば、どこまでも通話距離が延ばせそうだった。
となると、初期は有線の固定電話という方法も考えられる。元の世界でも携帯ができるまでは、ずっと固定電話だったんだから。これでも飛躍的な通信革命だ。
あるいは基地局を作って、無線と有線のハイブリッドも考えられる。
いやぁ、夢があるね。いずれにしても、これから数年かけて実用化していく技術だ。
俺、お金あるからいくらでも資金提供するよ。
父上とお母様に電話を見せて説明したら驚いていた。
そうなのだ。ルーカス兄上は天才なんだよ。
短い休みが終わり、このまま電話のことを眠らせてはおけないのと、権利登録のこともあるので、渋るルーカス兄上を無理矢理学院に連れて行き、錬金術の先生に相談した。先生は、当然のようにルーカス兄上のことを覚えていただけでなく、飛び抜けて優秀な学生だったと懐かしんでいた。学院に残って研究するように勧めていたらしい。
そして電話を見せて、実験と説明をすると、飛び上がって驚き絶賛した。
権利登録はすぐやってくれると言う。そして、公開時期を2年ずらすことを勧められた。そんなことできるんだ。聞くところによると、初期技術についてはそういう方法が認められるらしい。
問題は今後の研究体制だが、ジェームス様に相談したらすぐに陛下に奏上され、ルーカス兄上と俺は陛下の元に連れて行かれた。陛下の前でもルーカス兄上の態度はカケラも変わらなかった。大物だ。
電話の有用性にすぐに気づいた陛下は、ただちに王立の研究所を設置することとし、ルーカス兄上が研究所長になってしまった。学院の先生も研究員になるほか、資金も研究者も国で用意してくれることになった。ルーカス兄上の俸給も破格で、男爵位も叙爵された。もっとも本人はそのことに何の関心もなかった。彼は錬金術さえできればいいのだ。
研究所名は『王立先端技術研究所』。当面は電話に注力するが、ルーカス兄上は気が向いた研究を自由にやって良いという特別待遇だった。陛下も兄上の天才性に気づいたようだ。
父上とお母様は、ニートのお荷物だと思っていた次男が、陛下に謁見したかと思ったら、爵位をもらって王立の研究所のトップになって帰って来たので、ひっくり返るほど驚いていた。
何度も言おう。ルーカス兄上は天才なのだ!
こうしてルーカス兄上は、なぜか王都住まいとなり、お迎えの馬車で王宮に勤務する立派な法衣貴族となったのだ。マジかよ・・・。
ちなみに俺も特別研究員の肩書をもらった。王城の通行証付きで。




