第163話 宴も酣
30分ほど休憩を取ったところで、俺とイアンで楽団の横の演台に上がり、魔導マイクの前に立つ。
「はーい皆さん!休憩はとれましたか?学生会1年のユーキでーす!」
「同じく学生会1年のイアンでーす!」
皆んな何事だ?と注目している。
「皆さん、優雅な時間を過ごされたと思いますが、ここからはちょっと趣向を変えたいと思います!」
「なになに?何やるんだよ?」
イアンとの掛け合いで進行していく。
「まあ、慌てるな。せっかちな男はモテないぞ」
「多分お前よりはモテると思うよ」
軽く笑いが起きる。よし、この調子。
「イアン、お前ダンスの起源って知ってるか?」
「そんなこと知るわけないだろう。お前知ってるのか?」
「俺に聞くな!カトリーヌ先生!ダンスってどうやって始まったんですか?」
ダンスの先生にも協力してもらう。
「正確なところはわからないけど、学説では神に祈りを捧げるための舞を捧げたのが踊りの始まりではないかと言われているわね。古代遺跡の壁画にも残っているわ。でも、それから、神に感謝を捧げたり、収穫を感謝したり、雨乞いをしたりする中で、人々は歌を歌い、楽器を作り、音楽と共に踊り始めた。そして、そこに楽しさを見出した。この楽しさこそがダンスが広がった理由ね」
「おお、詳しいですね!まるで先生みたいだ!」
「あなたダンスの単位いらないのね?」
ドッと笑いが起きる。
「じゃあ、舞踏会の難しいステップのダンスも楽しむんですか?」
「そうね。舞踏会のダンスは社交のため、優雅に美しくを追及して、どんどん難しくはなっ
たけど、その本質は同じよ。下手でもいい。ぎこちなくてもいい。練習を重ねて踊る自分を、心から楽しんで欲しいわ」
「なるほど!ダンスの本質は楽しむってことなんですね。だってよ、イアン。女の子口説くためじゃないらしいぞ!」
「うるせぇ!お前一言多いぞ!」
会場が大笑いとなった。
「ということで、ここからはダンスの原点に立ち返って、思い切りダンスを楽しみましょう!」
俺が合図をすると、楽団が演奏を始める。
皆んなが知っている感謝祭の踊りの曲だ。
「さあ皆んな、ホールに出て思い切り踊りますよ!」
多くの学生が戸惑う中、学生会のメンバーと、Aクラスの学生が中央に出て踊り出す。
「先生たちも遠慮しないで参加して下さーい!」
キョロキョロしながら先生たちもホールに出てきた。
「歌える人は歌っちゃおう!ほら行くぞ!」
俺とイアンが大声で歌い出すと、つられて歌い出す者が現れる。
やがて、全員がホールで踊り出した。
「さあ、形なんか気にしない!歌って踊って笑っちゃおう!」
いつの間にか自然に円ができて、グルグル周りながら踊っている。大きな声で笑いながら歌っている。
同じ曲を何回か繰り返すと、次の曲に移る。
ここから3曲、全部収穫祭の踊りだ。皆んなが子供の頃から知っている曲。貴族の学生も平民の学生もずっと親しんできた曲だ。
娯楽が多いとは言い難いこの世界で、収穫祭は大人も子供も、貴族も平民も楽しむ年に一度の娯楽なので、皆んなが踊って歌えるんだ。
ひとしきり歌って踊ったところで、演奏を一旦停止する。
「はーい、皆さん!お疲れ様でしたー!」
「皆さん、楽しめましたかー!?楽しかった人は拍手!」
ワーッと歓声が上がり、大きな拍手が湧く。
「じゃあ今度は皆んなで一つ勉強しましょう!」
「勉強?ユーキ、なんだか急にお前の首を締めたくなったぞ!」
俺もー!とか、締めろー!とヤジが飛ぶ。
「慌てるな!勉強と言ってもダンスだよ」
「先に言えよ」
「さて、我らが誇る学生会の会長は!?」
「ブライソン会長!」
「ブライソン会長の出身は?」
「マクニーリー領!」
「ということで、本日はマクニーリー領の伝統的なお祭りのダンスをやってみよう!拍手!」
うおー!と歓声が上がる。もはやただのノリだ。
俺はホールの中央に高さ1メートルくらいの円形の演台をストレージから取り出し、設置する。
「では、マクニーリー領関係の方はこちらにお願いしまーす!会長もですよー!」
三十人ほどの学生がゾロゾロと演台に上がる。一応、会長経由でお願いしておいた人たちだ。
「皆さん、簡単ですからこれからやってもらうのを見て覚えて下さい!解説は、王国すべての領の踊りを研究しているカトリーヌ先生にお願いしまーす!」
「任せなさい!」
演台で皆んなが手を繋いで円を作る。
演奏が始まると、その円が回り出す。
マイムマイムに似た踊りだ。
それを見ながら、カトリーヌ先生が、ここでジャンプ、ここでステップ、2回手拍子、などの解説を加えてくれる。
周りの学生も小さく身体を動かしながらこれを見ている。
「はい、終了!皆さん覚えましたかー!?」
覚えたぞー!わかったー!わからんぞー!などと声がかかる。
「先生!会長の動き、なんか変じゃないですか?」
「そうね、動きは合ってるんだけど・・・」
「レッドベアが踊ってるみたいでした」
「ユーキ!お前一週間トイレ掃除だ!」
会長が怒った!爆笑も湧く。
「ブライソン君の単位考え直そうかしら?」
「先生!」
大爆笑だ!いいぞー!落第しろー!とヤジが来る。
「でも、この踊りは下手でも間違ってても楽しく踊ることが肝心よ。さあ、始めましょう!」
カトリーヌ先生って、意外とノリがいいんだな。好きになったよ!
音楽が始まり、演台を中心に大きな輪が二重に作られ、皆んなが笑顔で踊る。
間違ってても関係ない。楽しければいいんだ。
先生たちも参加して、皆んなで踊る。
皆んなが要領を掴んで何周かしたあたりで、演奏が徐々に速くなる。
キャー、速すぎるー、追いつかねぇー、という叫びと笑いで、踊りの輪がぐしゃぐしゃになったところで演奏が終了した。
「ありがとうございましたー!」
ワーッと大きな拍手が会場を埋める。
「皆さん、激しく踊ったので、ここで一旦休憩にしまーす!」
皆んなわいわい言いながら、飲み物や軽食のテーブルに向かって行く。
俺も喉が渇いたよ。
カトリーヌ先生がいるので、そのテーブルに行こう。
「先生、今日はありがとうございます」
「どういたしまして。私も久しぶりにはしゃいだわ。たまにはこういうのも良いわね」
「これなら平民の学生やダンスが苦手な学生も楽しめます」
「こればかりじゃ困るのよ。学院はダンスも一人前にして送り出す必要がありますからね」
「はい」
「でも、苦手意識を取り払うにはまず楽しいと思わせなきゃいけないわ。私の授業でも少し取り入れてみましょう」
柔軟な思考の先生だね。
さあ、喉も潤した。最後のパート行こうか。
「皆さーん!いよいよ最後のパートになります!ここからは5曲、最近の演劇や歌劇で流行の曲が演奏されます!これは決まったステップがありませんので、皆さんがアドリブで、自分のセンスを活かして踊って下さい!男性陣、しっかりリードして下さいね!」
ウオーッ!と野太い声が上がる。すっかり舞踏会の雰囲気を壊してしまった。
「ところでイアン、ここで女子を口説くコツは?」
「そうだな、手や腰は決して強く握っちゃダメだ。あくまで優しく。そして軽く微笑んで、って、何言わせるんだよ!」
「はい、女子の皆さーん!イアン君が微笑んでたら気をつけて下さいねー!」
キャー、という黄色い声と大爆笑。
「はい、そして最後は定番の曲に移ります!学院生らしく、優雅に美しく踊って今年の舞踏会を締めましょう!」
大きな拍手が起こり、曲が始まった。
あ、この曲大好き!などという声が聞こえる。
男子が女子を誘い、どんどんホールが埋まっていく。
俺も最後の演出をしよう。
俺は照明を暗くしてもらい、大小様々な光の球を、色々な色で宙に浮かせていった。
わー、きれい!という呟きがあちこちから聞こえた。
うん、中々いい雰囲気だ。
「素敵な演出ね」
「あ、先生!」
「これは社交界でも流行るかもしれないわね」
「そうですかね?社交界に出たことがないもので」
「それで、これあなたが卒業した後はどうするの?」
「え?」
「下の学年から不満が出るわよ」
「あの、光魔術が使えればこのくらいは」
「どうかしらね」
「・・・卒業までに魔道具作ります」
「そうしてちょうだい」
そう言い残して、カトリーヌ先生は微笑みながら去って行った。あくまで優雅に。
本当の舞踏会は徹夜で朝まで行われるものもあるという。
しかしここは学院だ。舞踏会も成人前の練習に過ぎない。なので、夕食前には終了となる。
今年の舞踏会も午後6時に、大きな拍手をもって終了した。
楽しかった、面白かった、と多くの声をかけてもらえた。
イアンだけが、「俺の好感度が下がった」と嘆いていたが。
そして、馬鹿王子とその取り巻きたちはやはり欠席だった。レーナちゃんも巻き添えだ。
このところ暗い顔をしてますます孤立気味だけど、レーナちゃんまで巻き込まないで欲しい。
変な行動に出ないか心配だけど、中々レーナちゃんに近づけないのがもどかしいところだ。
お前の自爆は関係ないけど、レーナちゃんを巻き込んだら許さんぞ。




