第160話 カノッサファミリー
ジェームス様のところに戻り俺から報告するが、話すことが大してない。場所も空を飛んだので、大体のところしかわからない。
逆に事件の様子は、ランカスターの馬車が襲われている連絡を受けて急いで現場に行ったら、三人が殺されていて、メイドさんだけが虫の息だったということだ。
現場は貴族街で人通りが少ない通り。
エミーちゃんが、お友達のお茶会に招かれた帰りのことだ。
エリカお姉様は別のお茶会に出席だったので、エミーちゃんは一人だった。
これまで何度も遊びに行ったことのある家で、場所も貴族街。そういう油断があった。
逆に犯人は貴族の手引きがなければ、貴族街に入ることすらできない。
しまったな。あの馬車持ってくれば良かった。
しかし、馬車から足のつくようなことはしていないだろう。
貴族街に不審な出入りがなかったかは、明日以降ジェームス様の方で調べることになった。
しかし、敵も見境なく攻撃し始めたな。マックス殿下の瘴気の件もあったし。
ずっと強張った顔で話しを聞いていたシルビアちゃんが口を開いた。
「ユーキお兄様、エミーのことありがとうございました」
「ああ、今日のことはルクスのおかげだよ」
「ルクスはなぜエミーのことがわかったんでしょうか」
「わからないけど、多分テイムとか召喚獣に似たような絆ができてるんだと思うよ。攫われたエミーちゃんが、ルクスに助けに来てって心で思ったんじゃないかな」
「私はまだパールのことがそこまでわかりません」
パールはシルビアちゃんの召喚獣の鳥だ。
「まだこれからだよ。エミーちゃんとルクスは年中べったりだからね」
シルビアちゃんがクスリと笑う。
「エミーはルクスが大好きですものね」
「ルクスもだよ。おかげで翼まで生えちゃった」
「そう、それ!ルクスはペガサスだったんですか?」
「そうだよ。でも翼がなかったから親から追い出されたんだ」
俺はシルビアちゃんにルクスとの出会いを話して聞かせた。
「かわいそう・・・」
「おかげで俺はルクスと出会えたんだけど」
そのときノックの音がして、フレッドさんが戻って来た。
手に地図を持っている。
「聞き出しました」
フレッド団長が地図を広げて説明する。
王都内に10カ所か。随分とアジトを分散させているな。
ガサが入ればどこにでも逃げられるってことか。
ボスや幹部の名前も聞き出している。さすがだ。
よし、行くか!
「待て、俺も行く!」
俺が立ち上がると、フレッド団長も立ち上がった。
「団長が行くと、衛兵本部とかの領域を犯したとか言って問題になりませんか?」
「大丈夫だ。これをつける」
取り出したのは、庶民に人気の演劇で主役になっているサルのお面だった。
「大切なお嬢様に危害を加えられた。黙っちゃおれん。しかも部下を二人やられている」
「わかりました」
そう言われると断れないよな。
「今夜中に片付けます!」
俺たち五人は目立たないように黒い服に着替え、黒いマントを羽織って馬車に乗り込み、貴族街の外まで送ってもらう。
「帰りはセントラル広場の北門で待て」
「はっ」
フレッド団長の指示で、馬車は俺たちを残して去って行った。
「アジトに誰もいないなんてことはあるかな?」
「いや、連中の活動は夜だ。むしろ今の方がいるはずだ」
コーザさん、一時スラムにいたからか、結構詳しいな。
「本部はスラムの近くか。そこを最後にして周りから潰そう」
「全員始末するんだな?」
「当然!今日で王都から消えてもらう」
俺たちはダッシュで最初の目標に向かう。
一軒目は飲み屋が集まったエリアの裏手にある石造りの二階建ての建物だった。
「ここだな」
「中に十二人いるね」
「よし、踏み込もう!」
俺はドアを蹴破った。
「何だテメェらは!」
おうおう、ガラの悪いのが揃ってやがる。
「お前たち、カノッサファミリーか?」
「それがわかっててカチコミに来たのか?生きて帰れると思うなよ!」
黙れ!
俺は目の前の七人に向かって魔弾機関銃を発射した。
一瞬で、七人が蜂の巣になって絶命した。
「おい、俺たちの出番がないぞ」
サルのお面をつけたフレッド団長が文句を言う。
「2階に五人いますよ」
「よし!」
フレッド団長は一気に階段を登って行った。
俺は部屋の中の物を片っ端からストレージに入れて、部屋をスッカラカンにする。
2階に上がると五人の死体が転がり、フレッド団長がソファに座っていた。
俺は2階の部屋も空っぽにする。金庫もあるね。中は後で確認だ。
死体はそのまま放置する。
「次行こうか」
この調子で俺たちは王都中を駆け回り、数時間で9カ所の拠点を潰した。
ほとんどが各地区の飲屋街に近いところに位置していた。日本のヤクザ事務所と一緒だね。
少ない拠点で十人、多い拠点で五十人ほどのメンバーがいた。
2カ所だけ、住宅街の中に拠点があった。これは普通の民家と変わらない。さすがに裏組織のアジトには見えなかったが、踏み込むとちゃんとガラの悪い方たちがいて安心した。
殲滅自体はすぐに終わる。
ろくに訓練も実戦もしていない連中だ。ゴブリンと変わらない。
かかった時間はもっぱら移動と部屋の家財の回収だ。金庫の鍵などもあるので、所持品検査までするため時間がかかる。
「さて、あとは本部だけか」
「本部には何人くらいいるって言ってました?」
「大体二百人はいるそうだ」
「へえ、結構いますね。幹部連中は本部に集まっているのかな?」
「どうだろうな。これまでも確認もせずに始末したから、幹部がいたのかどうかわからん」
「ま、いいんじゃないかな。全滅させれば一緒だよ」
俺たちはそんなことを話しながら最後の拠点、カノッサファミリーの本部に向かった。
「へえ、結構な屋敷だね」
「ああ、男爵くらいの規模はあるな」
カノッサファミリーの本部は、スラムからも冒険者街からも2、30分くらいで、いわゆる風俗街の外れにある3階建の屋敷だった。高い塀に囲まれており、ガラの悪い男が二人門番として立っている。
サーチで中を確認すると、確かに二百人以上はいそうだ。
「それじゃあ行こうか」
俺はそう言って門に向かって歩き出す。
「おい、止まれ!」
門番が声を上げる。
俺たちは構わず進む。
二人の門番が剣を抜いた。
「聞こえねえのか!止まれ!」
俺は黙って二人の眉間を魔弾で撃ち抜いた。
倒れた二人を蹴り飛ばして塀の内側に転がす。
全員が入ったところで門を閉め、土魔術で壁を作る。一人も逃す気はない。
門を入るとすぐに玄関だ。庭のあるような屋敷ではない。
玄関の扉を開けて中に入る。
中はホールになっていて、いくつものテーブルで派手な女を抱えた男たちが、下卑た笑いをあげながら酒を飲んでいた。
誰も俺たちに気づかない。
「女はどうする?」
「関係ない連中なら殺すわけにはいくまい」
俺の問いにコーザさんが答える。
そうだよなぁ。さて、どうしよう。
面倒くさいな。よし、正面から行こう。
俺は頭上で照明弾を破裂させる。
パーン!という音と共に光が弾けた。
静まり返る室内。
全員が俺たちに注目している。
「この中にカノッサファミリーと関係ない女はいるか!?関係ないヤツは逃してやる!」
一瞬の静寂。
そしてギャハハハという爆笑が起こった。女まで馬鹿にしたような目で笑っている。
「おいガキ!寝ぼけて迷子にでもなったか!」
「ガキは帰って母ちゃんのオッパイでも吸ってろ!」
「帰さねえけどな!ギャハハ!」
「そっちのデケェの二人は鉱山にでも売り飛ばすか!」
「おい、サルがいるぞ!サル!ギャハハ!」
口々にヤジと下品な笑いが飛んでくる。
「雄輝さん、どこの世界も一緒っすね」
「まったくだ。とりあえず女はできるだけ生かして、後で考えよう」
そう言って俺は刀を抜いた。
笑い声が止む。
「何だガキィ、どういうつもりだ」
俺は黙って刀を横一閃する。
その瞬間、手前にいた数人の男の頭が宙を舞った。
キャー!と女の悲鳴が上がる。
その悲鳴を合図にしたように、俺たちは散会して男どもに襲いかかった!
剣を抜く間もなく次々と斬られて倒れていく男たち。
「うわー!何だコイツら!」
「助けてくれー!」
女は逃げ惑い、しゃがみ込む者もいる。
男まで逃げ出してやがる。根性見せろ!
次々と打ち倒されていく男たち。泣き叫ぶ女たち。
自分でやってるんだけど、地獄絵図だね。
この騒ぎを聞きつけて、2階から続々と新手が現れた。
パンツ1枚のヤツもいるな。最中だったか?
「何やってんだ!」
「何もんだ、テメェら!」
2階から降りかけの階段で、何人かの男が叫ぶ。
そのときには、1階にいた男たち百人ほどは全員が絶命していた。
「ふざけやがって!誰だ!テメェらは!」
「通りすがりの一般人だ」
そう言って、俺はその男の顔面に大きめの魔弾をぶち込んだ。
男の頭が弾け飛ぶ!
「ヒーッ!」
側にいた男が悲鳴をあげて尻餅をついた。
「全員武器持って集まれ!!!」
慌てて2階に戻り応援を呼びに行く。
「襲撃だーっ!」
襲撃じゃないよ。殲滅だ。
俺たちはゆっくり2階に上がって行くと、降りてきていたヤツらが全員逃げて行く。
2階は階段を挟んで左右に分かれて部屋が並んでいる。フレッド団長とエド、コーザさんと真司に分かれて殲滅を頼む。俺はここで3階から降りてくるヤツらを待つ。
サーチで見ると、1階の奥にも五十人くらいがかたまっている。動きがない。隠れているつもりかな?地下にもいるな。これは子供か?
全部後で確認しよう。1階にいた女たちはすでに逃げ出しているが、塀の外に出られないんだよね。可哀想に。
2階の騒ぎが静まった。終わったらしい。
この階には七十人くらいがいたが、全員絶命していた。
「こっち終わったぞ」
「こっちも終わったっす」
全員が疲れもなく戻って来た。




