第159話 ルクス覚醒
俺は必死で滾る怒りを押さえ込む。
そして、くるりと背を向け、歩き出す。
「ユーキ!どこに?」
「エミーちゃんを助けて来ます」
俺が絞り出した声が威圧を放ちガタガタと家具を揺らした。
「しかしエミーの居場所が・・・」
「多分ルクスがわかります」
「ルクスが?」
「エミーちゃんとルクスには絆があります。ルクスは今もエミーちゃんが危険なことを察して暴れています。多分居場所もわかるはずです」
そう言って、俺は振り向きもせずにルクスの元に向かう。
後からジェームス様たちが慌ててついて来る。
トーダが押さえ込んでいるルクスは、身体をブルブル震わせて、目に一杯の涙を溜めている。
俺はルクスの顔を撫でながら声をかける。
「ルクス。エミーちゃんを助けに行こうな。トーダ、もういいよ」
トーダがルクスの抑えを解いた途端、ルクスの感情が爆発した。
そして、ルクスの背中がバキバキ音を立てて盛り上がる!
どうした!?
「ルクス!」
俺の叫びと同時にバサッと大きな音がして、ルクスが眩い光に包まれた!
すぐに光が治ると、そこには翼を拡げた雄々しい白馬が立っていた!
「ペガサス・・・」
誰かが呟くが今はどうでもいい。
俺はすぐにルクスに飛び乗った!
「行くぞ、ルクス!」
ルクスは大きく翼を拡げ、夜の王都の空に飛び立った!
ルクスは猛烈なスピードで北西に向かって飛び続ける。
ルクスの焦りが伝わってくる。
許さん!絶対に許さん!
眼下に黒々とした森が広がる、その森の中に、ポツンと一軒の建物が小さく見えた。
あれか!
サーチを全開にして遠くの建物を探る。
中に人が十一人。いた、建物の奥の部屋に、確かにエミーちゃんの気配がある。エミーちゃんと一緒にいるのは五人。良かった、生きている。そのことに一先ず安堵した。
建物が近づいてくる。
古びた石造りの家屋。なぜこんなところに?まあ、どうでもいい。
「ルクス!エミーちゃんは奥の部屋だ。構わないからあの建物の正面をぶち壊せ!」
「ブルル!」
ルクスの激しい怒りが伝わってくる。
上空から急降下するルクス。俺は鬣をしっかりと掴む!
ルクスの前脚が建物に叩きつけられる!
ドガガガーン!!!
崩れ落ちる瓦礫と舞い上がる埃が魔導灯に照らされる。
中には突然の事態に頭を抱えて蹲る男が五人。
いらない連中だ。
俺は無言で五人の頭に魔弾を撃ち込み命を奪う。悲鳴を上げる暇も与えない。
「行くぞ、ルクス」
俺はルクスを連れて、奥の部屋に向かう。
サーチ!
中に五人。一人がエミーちゃんを後ろから抱えて、剣を当てている。
舐めるな!
ドガーン!
俺はドアを蹴破り、中に入る。
「誰だ!」
うるさい!
俺は一言も言葉を発さず、エミーちゃんに剣を当てている男の眉間に魔弾をお見舞いする。
バタンと後ろに倒れる男。
エミーちゃんは、猿ぐつわを噛まされ、ロープで縛られていた。しかし、その瞳にはしっかりと俺とルクスが映っている。エミーちゃん、ちょっと待っててね。すぐ終わるから。
俺は残りの四人の男の方にゆっくりと振り向く。情報を持っているのはどいつだ?
「だ、誰だ、テメェ!」
お前か!
俺はその男の両肩と両足を黙って魔弾で撃ち抜いた。
「ギャー!」
後方に吹き飛ばされる男。
「う、うわー!」
恐怖で逃げ出そうとした三人の頭に魔弾をお見舞いする。声もなくバタバタと三人が倒れ伏した。エミーちゃんの前だから、頭を飛ばすとか、あまりグロいシーンは見せたくないからね。
俺は痛みでもがいている男の側に行き、エミーちゃんから背中で隠れるように位置して、素早く両手両足を斬り落とし、血止めをする。そして、猿ぐつわを噛ませて、ストレージから出した麻袋に男を放り込んだ。
エミーちゃんの方を振り返ると、ルクスが一生懸命にエミーちゃんの顔を舐めていた。
俺は急いでエミーちゃんの元に行き、猿ぐつわとロープを解いた。
「ウワーン!!ルクスー!ユーキお兄様ー!」
おっと、やっぱりルクスが先だね。
ルクスの低く下げた頭にしがみついて、エミーちゃんは大泣きした。
「エミーちゃん、右手出して」
エミーちゃんは泣きながらそっと右手を俺に向かって差し出す。
「ユーキお兄様、ヒクッ、エミーの手、ヒクッ、斬られちゃった、ウワーン!」
「大丈夫。任せて」
俺は優しくエミーちゃんの右手を取る。
こんなに小さな華奢な女の子の手を・・・。改めて怒りが湧いてくる。
俺は両手でエミーちゃんの手首をそっと包み込み、治癒魔術をかける。
光が俺とエミーちゃんの手を覆う。そして光が治った。
「さあ、どうなってるかな?」
俺はニッコリ笑って両手を開いた。
「・・・ウソ!エミーの手が・・・」
「良かったね。エミーちゃんが頑張ったから、女神様がエミーちゃんの手を元に戻してくれたんだね」
ワーン、と泣いてエミーちゃんは俺にしがみついてきた。
顔や腕にもアザがあるな。俺はエミーちゃんの背中を撫でながら、全身に治癒魔術をかけた。
泣き続けるエミーちゃんの背中を撫で続ける。
ルクスは横からエミーちゃんの顔をずっと舐めている。
シャトルも飛び出してきて、エミーちゃんの手を舐め続けていた。
しばらくしてやっとエミーちゃんが落ち着いた。
ああ、エミーちゃん、随分汚れちゃったな。浄化で綺麗にしておこう。
「エミーちゃん、ちょっとだけ待っててね。すぐ帰るから」
俺はそう言うと、何か手掛かりになるものがないか、所持品や荷物を探して回った。外に停めてあった馬車の中も探す。残念ながら資料のような物は何もなかった。
ただ全員が持っていたメダルのような物、これは何だ?とりあえず回収しておく。
さて、帰るか。皆んな心配しているだろう。
おっ、エミーちゃん元気になったね。ルクスとシャトルと楽しそうに遊んでいる。
「エミーちゃん、そろそろ帰ろうか。お父様もお母様も心配してるからね」
「うん!」
男を入れた麻袋を背に抱え、エミーちゃんの手を引いて建物の外に出る。
さあ、エミーちゃん驚くぞ。
あ、鞍着けられるかな?エミーちゃんのなら大丈夫かな。でも、今持ってないわ。
「ルクス!」
俺が声をかけるとルクスが大きな翼をバサッと拡げた。
エミーちゃんの目がまん丸だ。
「うわー!ルクス!すごい!すごい!」
エミーちゃんがピョンピョン飛び跳ねる。その横でシャトルも飛び跳ねている。
「お空飛べるの?ねえ、ルクス飛べるの?」
「飛べるよ。エミーちゃんのこと助けに来るために、今日初めて飛んだんだ」
「すごい!ルクス、すごい!」
本当に美しい姿だ。やっぱりペガサスとしての力があったんだね。最初からこの姿なら親に追い出されなかったのに。でもそうすると俺はルクスと出会えなかった。うーん、複雑な気持ちだ。過ぎたことだし、良しとしよう。
エミーちゃんを乗せてルクスが飛び立つ。
冬の空はかなり寒い。
毛布を出してかけてあげるが、エミーちゃんはそんなんことよりルクスに乗って飛んでいることに大興奮だった。これで怖かった体験が少しでも上書きされるといいな。
シャトルはエミーちゃんに抱かれて、ずっとエミーちゃんの手を舐めていた。シャトルなりに、手を斬られたことを忘れさせようとしているのかもしれない。
ルクスはエミーちゃんを気遣って、ゆっくり飛んでくれたようだが、それでも大して時間をかけずにランカスターの屋敷に着いた。
庭で見ていた使用人が知らせたのか、俺たちが庭に舞い降りると、屋敷からすぐにジェームス様やエリカお姉様が現れた。
それを見つけたエミーちゃんは、エリカお姉様に向かって走り出した。
「お母様ー!」
エリカお姉様に抱きついたエミーちゃんは、また大泣きし始めた。怖かったよね。よく頑張りました。
エドや真司にコーザさんもいる。あ、シルビアちゃんも学院から戻って来たんだ。エリカお姉様にしがみつくエミーちゃんの背中を優しく撫でている。
「ユーキ、また君に助けられたね。本当にありがとう」
「いえ、エミーちゃんは僕にとっても妹みたいなもんですから。それよりも、お土産です」
俺は背に背負っていた麻袋をドサリと投げ出す。
「一人連れて来ました。吐かせて下さい」
「何人だった?」
「十人です。九人は始末してきました」
「・・・そうか。すまない」
俺が人を殺したことを気に病んでるのかな?それは大丈夫だ。過去に乗り越えている。
「これが何かわかりますか?全員が持ってたんですけど」
俺は回収してきたメダルをジェームス様に見せた。
すると横で聞いていたコーザさんがそのメダルに反応した。
「カノッサファミリーか・・・」
「カノッサファミリー?」
初めて聞く名だ。
「王都に蔓延る裏組織だ。貴族との繋がりも噂されている。殺人、誘拐、脅迫、地上げ。金さえ払えば何でもやる」
「なぜ潰さないの?」
「衛兵がアジトに踏み込むと、必ず逃げられる。内通者がいるんだろう」
「そう・・・。じゃあ、さっさとアジトを吐かせよう」
「どうするんだ?」
「今夜中に全部潰す」
「なるほど。面白そうだ。俺も乗ろう」
すると真司も参加してきた。
「なんか懐かしいっすね。俺も当然行くっす」
そう言えば真司とは、敵のアジトを潰しに行ったんだったな。
「俺も当然行くぞ」と、エドも言う。
「君たち、本気か?」
「ああ、これは僕たちが勝手にやることです。ランカスター家は出ない方がいいでしょう」
「そんなことは構わない。今回の件では私も腹に据えかねている」
「カノッサファミリーとやらに依頼したのは?」
「おそらくスタンリーだろう。ウチもかなり深く入り込んだ。それに対する警告だね」
「証拠が出るかわかりませんが、今夜はとりあえず任せて下さい。逃げる時間を与えず全滅させます」
「わかった。フレッド!アジトを吐かせてくれ!」
ハッ!と答えてフレッドさんが麻袋を抱えてどこかに去って行った。拷問タイムの始まりだ。
俺たちはルクスを厩舎に戻して、一旦屋敷に戻った。ルクス、ありがとうね。
エミーちゃんは、今日のところはお風呂に入れて寝かすことにした。
報告の前にまず重傷を負ったメイドさんの治療だ。
メイドさんが寝かされている部屋に行く。
ああ、やっぱりこの人か。
いつもエミーちゃんの側で、優しく見守っている人。まだ10代かな。
一応の治癒魔術は施しているようだが、血を失い過ぎたのか顔色が真っ白だ。
俺はまず造血魔術をかける。
よし、顔色が戻ってきた。
魔力視で身体の内部を慎重に診る。ああ、肺まで斬られたのか。
申し訳ないけど服を脱がせてもらい、内臓から外傷まで綺麗に治癒魔術をかける。
完了!もう大丈夫だ。
するとメイドさんが目を開けた。
「あ、気がついた?もう大丈夫だよ」
メイドさんはガバッと上半身を起こして俺につかみかかってきた。
「エミリア様!エミリア様が!」
「大丈夫。エミーちゃんなら今お風呂に入っているから」
「え?」
「さっき助けて来たから心配しないで」
「・・・良かった」
メイドさんの目にみるみる涙が浮かんで溢れ出す。
「私・・・」
「君のせいじゃないから。それにもう無事に助け出したから」
「ありがとうございます」
ボロボロと涙を溢しながら頭を下げる。
「さあ、今日のところは休んで明日エミーちゃんに元気な姿で会おうよ」
「はい」
「じゃあ早く服を着て」
「え?キャア!」
ようやく自分が上半身裸なのに気がついてくれた。
真っ赤になって胸を隠している。
大丈夫、今の俺は医者だ。自称だけど。
立派なモノを見ても心は揺れない・・・かな?
さて、ジェームス様のところに戻ろう。
「ユーキ様、ああいう大きい胸がお好きですか?」
同行してくれたケイトさんがとんでもないことを聞いてきた。
「な、なに言ってるの!今は治療しただけだよ!」
「この前もそういうお店に行かれてましたよね」
ケイトさんが怖い。
「あれは冒険者のガーナさんに無理矢理連れて行かれただけだから!」
「私の胸ではご不満ですか?」
「変なこと言わないでよ!」
「ご不満ですか?」
「・・・満足です」
早くあの件忘れてくれないかな・・・。




