第155話 米と醤油とスライムすくい
おろ?こっちは怪しいフリマだね。
古ぼけた剣やナイフ、杖、指輪、ペンダントなどが並んでいる。
「ここはなんの店なの?」
「よくぞ聞いてくれた!ここにあるのは全部ダンジョン産の魔道具だ!」
ダンジョン産か。なんか効果があるのかな?
「この剣は?」
「おう、コレは一度攻撃を始めたら、相手か自分が死ぬまで攻撃を続ける必殺の剣だ」
「攻撃力がアップするのか?」
「攻撃力は変わらんらしい」
ダメじゃん。
「こっちの杖は?」
「コレは使用者の全魔力を一撃に込める杖だ」
「使ったあとは?」
「魔力切れで倒れる」
大丈夫か、この店?面白グッズ屋さんか?
「コレは?」
俺は、ダンジョンで手に入れた物に似たタリスマンと思しき首飾りを指差して聞いた。
「コレは毒消しのタリスマンだ」
「毒消し!」
「ああ、ある程度の毒は身体に入った途端消してくれるらしい」
治癒魔術の効果があるのか!ならば俺が手に入れたヤツも。しかし本当か?
「本当なの?」
「使ったことはないけど、ちゃんと鑑定書付きだぞ」
そう言って鑑定書を見せてくれた。なるほど、鑑定士ギルドというのがあるのか。
なんだか変な効果のものばかりだが、結構いい値段で売れるらしい。ダンジョン産の魔道具というだけで希少だからだそうだ。すごい魔道具は大体貴族が独占してしまうので、妙な効果のものでも平民には貴重品らしい。
俺は礼を言って立ち上がった。
「なあユーキ。さっきのタリスマン」
「うん、似ているね。もし俺たちが手に入れた物が毒消しの効果があったら王家とかジェームス様たちにはかなり役に立つね」
「そうだね。もう持ってるかもしれないけど、一応調べてみよう」
これまで適当に扱ってたけど、ダンジョン産の品はよく調べた方がよさそうだな。
そう考えていたとき、真司が血相を変えて走って来た。
「雄輝さん!大変っす!すぐ来て下さい!」
「何だよそんなに慌てて」
「いいから来て下さい!見たらビックリするっす!」
俺は真司に強く腕を引っ張られてついて行く。
連れて行かれたのはかなり広いスペースを持ったバザーだった。
マルコ商会という立て看板が立てられている。
「こっちっす!」
真司に連れて行かれたところにあったのは・・・米俵?
「おい、これってまさか・・・」
真司が指差す先には、サンプルで置いてある懐かしきお米が!
「でかした!真司!」
「それだけじゃないっす!これ見て下さい!」
そこにあったのは、樽に入った醤油ではないか!
すぐに店の人を呼んでもらう。
絶対全部買い占める!
「お呼びでしょうか。この商隊の責任者のマルコと申します」
真司のヤツ、いきなりトップを連れてきやがった。
腰は低いが、体格はがっしりして、日に焼けた浅黒い肌、黒い髪に青い目の40歳くらいの、かなり強そうな男だ。
「わざわざ申し訳ありません。少し伺いたかったものですから。これはお米と醤油ですよね」
「よくご存知で。はい、米と醤油でございます」
「これはどちらで入手されたのでしょうか?」
「これはヤマトのものになります」
話しを聞くと、マルコ商会はその規模300人の大商隊で、大陸を大移動しながら各地の品を大陸中で売り捌いているという。すごい!シルクロードか!
「これ全部いただくことはできますでしょうか?」
「・・・全部ですか?かなり値が張りますが」
「言い値で構いません」
「失礼ですが、お名前を伺っても?」
「こちらこそ失礼しました。ユーキ・シェフィールドと申します」
「ああ、あなたが!」
「私のことをご存知なのですか?」
「もちろん。我々は情報が命です。スタンピードの英雄。古代獣を倒した王都の救世主。レクシャールダンジョン最高階到達者。そして欠損さえ治す聖人様」
「少々過大評価かと思いますが」
「いえ、実際にお目にかかって得心がいきました。これは良い人と知己を得た。よろしい、お近づきの印に全部献上させていただきます」
「それはダメです。正当な値段でお願いします。そうでなければ私は米を食べられなくなる」
「商人が貴族様に献上するのは普通では?」
「いえ、これは皆様が命がけでここまで運ばれた物です。この魔獣の跋扈する世界で、気温も環境も異なる中を。例えば嵐の中を、例えば灼熱の砂漠を、また極寒の吹雪の中を。そのような努力の結晶を無償でいただく神経は持ち合わせておりません。なので、対価を示していただけないと、私はこの米を食べることができなくなります」
マルコさんはしばし沈黙し、そして深く頷いた。
「承知いたしました。我々の仕事をそこまでご理解いただけて商人冥利に尽きます。では、金貨10枚でいかがでしょう」
「安すぎますね。ヤマトまでの距離、輸送の困難さ、一方で需要の状況などを考えると・・・そうですね、金貨200枚でいかがでしょうか?」
「感服いたしました。我々の値付けとほぼ同額です」
マルコさんが深く頭を下げる。
「マルコさん、他にもヤマトの国のものはありませんか?」
「ございます。ただし買い手が決まっている物もございますので、そこはご容赦下さい」
俺たちは、奥の臨時倉庫に案内された。
そこにあったのは、着物、簪などの装飾品、刀、扇子、味噌、海苔、鰹節、乾物、小豆、そして少量の餅米であった。
着物などの衣類や装飾品あるいは刀剣類には、すでに貴族の買い手がついているとのこと。食品は、アルタイル王国では売れないと思って表に出していなかったらしい。
俺は金貨100枚を追加して、すべての食品を買い取った。
マルコさんたちの行商は数年単位の大移動だ。王都に商会のオフィスはあるが今度王国に来るのがいつになるかはわからないということだった。それでも今度来るときはぜひ種籾をお願いしたいと言ったら、なんとマルコさんが持っていた!何かの参考にと思ってもらっていたそうだ。これを一袋おまけにつけてくれた。よし!ダンジョンで栽培してみよう!
俺はストレージに米俵20俵と、諸々の和食の食材を入れて、マルコさんと再会を約して上機嫌で店を出た。真司もこれで米が食えるとご機嫌だ。なお、シャトルはいつもご機嫌だ。
店の外でエドとケビンをサーチで探す。広場の方か。
芝生の広場にも色々な出店が並んでいた。
エドとケビンは弓の的当てをやっていた。的の真ん中に当てると賞品がもらえるヤツだ。
しかし見ていると全然当たらない。
「エド、全然ダメじゃないか」
「あ、ユーキか。どこ行ってたんだ?」
「ちょっと食材を仕入れてきた」
「そうか、探してたんだぞ。ああ、もう!この矢が歪んでてまっすぐ飛ばないんだよ!もうやめやめ!ケビン、おしまいにしようぜ」
「あ、はい。もう一本。あ、外れた!」
結局二人とも一本も当たらなかったらしい。
ケビンはインチキだと怒っていたが、祭りのゲームなんてそんなものだよ。
それからまた四人で買い食いをしながらのんびり歩く。
あれは何だ?スマートボールのような水色の丸いモノを、子供たちがポイのような物ですくっている。
「ねえエド。アレは何だ?」
「ああ、懐かしいな。スライムすくいだよ」
「スライム!」
この世界ではスライムは魔獣ではない。魔石も持っておらず、人も襲わない。ただの生物だ。
湿地帯に生息して、何でも食べるので、庭に放っておくと枯葉の処理などもしてくれるらしい。
もっぱら養殖されているらしい。
「アレがスライムか。初めて見たよ。随分小さいんだね」
「まだ子供だからね。育つとこれくらいになるぞ。いつの間にか消えてしまうけど」
そう言ってエドが示したサイズは肉マンくらいの大きさだった。
「ちょっとやってみようかな」
「え?子供の遊びだぞ」
「まあ、やったことないから」
だって異世界に来てスライムだぜ。興味あるよね。
「オッチャン!俺も1回やらせてくれ」
「おうよ!」
お金を払ってポイをもらう。
しばらく動きを観察する。モゾモゾ動いて、ときどき小さくピョンと跳ねる。中々可愛い。
子供たちはすくったと思うとポイの上で跳ねられて紙が破れたりしている。
さて、どれにしようかな?うじゃうじゃいるスライムを観察する。
あれ。何か視線を感じるな。スライムって目はないよね。
視線を感じる方を見ると、1匹だけ色が薄いスライムがいた。
お前か?
すると、そのスライムがピョンと跳ねて、俺のポイに飛び乗った!
あっ!と思ったが、なぜかポイは破れなかった。
ポイの上のスライムと見つめ合う。目があればだけど。すると、スライムがうっすらと光った。
あれ?まさかね。
「オッチャン、獲れたぞ!」
「おお、にいちゃん上手いな」
そう言ってオッチャンは小さな紙コップにスライムを入れてくれた。
俺は紙コップを持って皆んなの元に戻る。
「なんか獲れちゃった」
「ははは、それどうするんだよ」
「まあ、屋敷の庭にでも放しておくよ」
シャトルが足元でピョンピョンじゃれついてくる。
(ユーキ、ユーキ!見せて!)
「なんだシャトルもスライム見たいのか」
俺はしゃがんで紙コップをシャトルに見せた。
紙コップを覗き込むシャトル。するとスライムがピョンと跳ねて、シャトルの頭の上に飛び乗った。シャトルがびっくりして頭を振っているが、スライムは落ちない。
皆んな大笑いだ。
(おいユーキ、そのスライムただのスライムちゃうで)
(え?)
(多分精霊や)
(マジか!)
(多分やけど、精霊が実体持ったヤツや)
(どうしよう?)
(連れて帰ったらええやん。そのうち成長するやろう)
(いいのか?)
(向こうから来たんやからええんちゃうか?)
そうだね。まあいいか!
しばらく格闘していたシャトルは諦めてショボンとしている。
(ユーキ、ユーキ、スライムとれない・・・)
(なんか、そのスライム、トーダが言うには精霊らしいよ。シャトルの弟になるかもね)
(弟!だったらいい!)
シャトルが途端にご機嫌になった。
俺の頭にはトカゲ、シャトルの頭にはスライム。妙なことになったな。
ブラブラしていると、大きな池に着いた。ちょうどセントラル広場の中央辺りだ。
「ねえエド。この池って・・・」
「多分そうだな」
「ユグドラシル」
おそらくここにかつては巨大で美しいユグドラシルがあったはずだ。
ダンジョンで見た過去の記憶。あの天を突くような巨木。そしておそらくは精霊たちの棲家。
「ユグドラシルって何すか?」
俺は真司とケビンにダンジョンで見た光景を説明する。そしてユグドラシルの役割も。
二人は言葉を失くして池を見つめていた。
辺りが暗くなり始めたころ、あちらこちらで魔導灯が灯る。
そんな中で、篝火が炊かれるエリアがあった。
中央にステージがあり、その周りを大勢の人が取り囲んでいる。
ステージの上で明るい音楽が演奏され始めると、周りの人々が踊り出す。
あちらこちらから人が集まって来て、踊りの輪がどんどん大きくなる。
「俺たちも参加しようか」
珍しくエドが言い出した。
「これって、伝統的な踊りなの?」
「そうだね。王国では大体の人が知ってるんじゃないかな」
そうか。じゃあやっておくか。
見ていると簡単な踊りだ。
「よし、行こう!」
俺はさっさと踊りの輪に飛び込む。シャトルが頭にスライムを乗せたまま尻尾を振ってついて来る。エドもケビンも真司もやって来た。
そうだ。今日は感謝祭だ。今年の収穫を祝い、平和な暮らしに感謝して、今は踊ろう!歌おう!
見知らぬ人と手を合わせ、笑い合って、大人も子供も、男も女も、皆んなで思い切り楽しもう!
来年も、再来年も、この先ずっとこの光景が続けばいいな。
皆んなの笑顔がいつまでも失われないように。
そんなことを願いながら、俺は思い切り踊り続けた。
ここで帰れば良かった・・・
踊りが終わった後、散々色んな物を食べたはずなのに、若い俺たちはお腹が空いたのだ。
そして、よせばいいのに、誰かがギルドの方で何か食おうぜと言った。
その言葉で、俺たちは、冒険者が騒いでるだろうという軽い気持ちで、ギルド街の方に足を運んでしまった。
魔が刺したのだ。
案の定大騒ぎが続いているギルド街で、俺たちは偶然酔っ払ったガーナさんと、その仲間に出会ってしまった。オッパイ派のガーナさんだ。
かねてからの約束どおり、ガーナさんが行きつけの『いい店』とやらに繰り出してしまった。
そこで羽目を外した俺たちは、とことん飲んで騒いでご機嫌で屋敷に帰った。
たっぷりの香水の匂いと、顔中に口紅の痕をつけて。
そして待ち構えていたエリカお姉様、シルビアちゃん、ケイトさん、アニカさんにしこたま怒られた。
寮に帰ったケビンを除く男3人と1匹で。
シャトルも体中にキスマークをつけていたのだ。
正座させられた俺たちは、1時間ほど説教された後、すぐに風呂に入れと厳命され、しっかりと香水の匂いと口紅が取れるまで全身を洗わされた。
楽しかった1日は、深い反省で終わってしまった。




