第154話 聖女様から受け継がれしもの ベビカスとヤキソバ
翌日、王都の感謝祭の最終日。
俺は朝から屋敷に戻り、エドと真司と連れ立って王都の街へと繰り出した。ケビンとは街で合流する。
コーザさんはとうとう王宮から呼び出しがかかってしまい、登城している。おそらくは近衛騎士復帰の要請だろう。俺もできればコーザさんには近衛騎士に復帰して欲しいと思っている。あれだけの実力の人が埋もれてしまうのは勿体無いからね。パーティとしては盾役がいなくなるのは痛いが、コーザさんにとってベストの選択をして欲しい。
馬車でショッピング街まで送ってもらい、そこからはどこにでも移動しやすいように歩きだ。
街の中は、区画単位でお祭り広場のようなものが作られており、屋台が所狭しと並んでいる。
ショッピング街も、飾り付けを工夫して、大安売りを謳っている。この辺りは元の世界と変わらないね。どこもウキウキした様子の人たちで賑わっている。
家族連れ、恋人同士、友達同士。笑顔が溢れる美しい街。
俺はダンジョンで見せられたエルフの王国の幸せな光景を思い出してしまった。
あの笑顔に溢れた王国が、帝国の侵略により1日にして地獄に変わってしまった・・・。
あんな悲劇は繰り返してはならない。
この平和を、人々の笑顔を護らなければならない。
それが俺の役割なのかどうかはわからない。それでも、あの悲惨な光景を見た者として、そして偶然とは言え、過分な力を与えられた者として、有事の際に立ち上がるという選択に躊躇う理由はない。
「どうしたんすか、二人とも。顔が恐いっすよ」
真司が不思議そうにこちらを見ている。
「ああ、ごめん。ちょっとダンジョンで見たエルフの王国を思い出してた」
「ユーキもか。俺もそうだ。何だか目の前の光景があれにそっくりに見えてね」
「帝国に侵略されたっていうヤツっすか?」
「ああ、ちょっと似てたからね。今の平和を護らなきゃって、柄にもなく思ってしまった」
「雄輝さん、元の世界でも戦地行ってたんすよね」
「行ってたよ。でもそのときは戦争当事者じゃなくて、別の作戦遂行だからね。戦地の人を見捨てることも多かった。今はもし戦争になったら、モロ当事者だろう?スタンピードのときも思ったけど、できる人間、力のある人間は、やらなきゃいけないんだって」
「俺ってどっち側っすか?」
「力のある方!当たり前だろう」
「そうなんすかね?雄輝さんたち見てると、護られる方かって勘違いしてしまうっす」
「俺のわがままに付き合わせる気はないから、嫌なときは抜けていいよ」
「大丈夫っす。俺、元々正義の味方になりたくて警察官になったんっす。なんならこっちの世界の方がわかりやすいくらいっす。日本だと、複雑すぎて何が正義かわからなくなったくらいっすから」
「確かに。俺も自分がやってることにいつも疑問があって、思考放棄してたからね」
そんな話しをしながらケビンとの待ち合わせのカフェに行くと、ケビンはすでに来ており、一人でコーヒーを飲んでいた。
「ケビン、悪い。待たせたか?」
「大丈夫。さっき来たとこ」
俺たちも座ってコーヒーを注文する。
「さて、どこに行こうか?誰か詳しい人いる?」
俺の問いに誰も答えない。
「俺、無理っす。ずっとスタンリーにいたんで、王都は初めてっす」
「俺もずっとスタンリーに閉じ込められてたから、王都は初めてだ」
皆んながエドの顔を見る。
「え?俺?俺も王都の感謝祭は学院時代にちょこっと見ただけで、あとはランカスターだぞ」
「マジか・・・。結局誰も知らないのか。田舎者の集まりというわけだ」
「適当に歩こうか。どこでも何かやってるだろう」
そんな情けない俺たちを見かねたのか、ウエイトレスの女の子が声をかけてくれた。
「セントラル広場に行ってみてはどうですか?あそこが一番色んなものが集まってますよ。あと、神殿ではミサをやってます」
おお、ありがとう。天の助けだ。
ミサには誰も興味ないということだったので、俺たちはセントラル広場に行くことにした。
途中の道にもあちらこちらに出店が出たり、ちょっとした広場で音楽が奏でられ、踊りを踊ってたり、シェフィールドにあったのと同じようなステージがあって、酔っ払いがウケない芸をやってヤジられたりしていた。どこも楽しそうだね。
セントラル広場はすごい人だかりだった。あちこちで楽器が演奏されている。
「すごい人だね」
「いやホント。出店の数もすごいな」
「とりあえず見て回ろうぜ」
ここに集まって来るのはほとんどが平民だ。なので出店も平民向けの食べ物ばかりだ。
普段からよく見かける串肉やスープもあるが、日頃学院や貴族街で過ごしているため、いつもは目にしない物も沢山ある。
ペットの犬を連れている人も多いので、俺もシャトルを出していたら、シャトルがパッと走って行った。
「おいシャトル!待って!」
俺が慌てて追いかけると、シャトルは一軒の出店の前で尻尾を振っていた。
甘い匂いが漂ってくる。
(ユーキ、ユーキ!あれ食べたい!)
「おっ、ベビーカステラじゃん!」
日本でシャトルが好きだったオヤツだ。ただし糖分が多いので1個限定。
「おじさん、コレなんていうヤツ?」
「コレか?コレはミニカラステだ。初めてか?美味いぞ!」
間違って伝わったのか?まあいいや。
「一袋ちょうだい」
「あいよ!」
紙袋でもらったベビーカステラ、一つ食べてみると素朴で美味い!
(ユーキ、ユーキ!ボクも!)
シャトルにも一つ食べさせる。
(美味しい!美味しい!)
コレ、ストックしておこう。
「おじさん、これ美味いからあと20袋ちょうだい!」
「そんなに買って持てるのか?」
「ストレージあるから大丈夫」
「おお、羨ましいな。だったらいいいぞ」
俺がせっせとストレージに入れていると、三人がゆっくり串肉を齧りながら追いついて来た。
「雄輝さん、どうしたんすか?あっ、ベビーカステラじゃないっすか!懐かしい!俺も買おう」
真司がいそいそと買うのを見て、エドとケビンも買っていた。
コレも聖女様が伝えたのかな?
シャトルにベビーカステラをあげながらブラブラと歩く。今のシャトルは糖分過多とか心配いらないけど、甘やかしすぎてもダメだよね。
今度は香ばしい匂いが漂ってきた。
なんと!祭りの定番、焼きそばじゃないか!
「おっちゃん!コレ何?」
「おう、にいちゃん!聞いて驚け!コレは聖女様伝来のヤキソバだ!」
すると隣の串肉屋のオヤジが茶々を入れる。
「ウソつくな!聖女様がそんな食い物伝えるかよ!」
「嘘じゃねえ!俺の先祖が聖女様に宿を貸したときに教わったヤツだ!」
「何が先祖だよ!適当なこと言うんじゃねえよ!」
「本当だ!俺のばあちゃんが言ってた!」
いや、ヤキソバって名前なんだから本当だろう。
なんで今まで流行ってないんだ?その方が不思議だ。
「おっちゃん!何でもいいから一つくれ!」
「おう、食って腰抜かすんじゃねえぞ」
紙皿にヤキソバを盛ってもらい、一口食べる。
「美味い!」
久しぶりのソースヤキソバ!コレは美味いぞ!
俺は立て続けにフォークでヤキソバを口に運ぶ。
真司も大急ぎでヤキソバをもらって、一口食べるや「うめー!」と叫ぶ。
俺たちの騒ぎに、エドやケビンだけでなく、周りの人たちもヤキソバを注文してちょっとした騒動になった。
「おっちゃん、コレなんで今まで売ってないんだ?」
「それがよう、聞いてくれよ。ウチのじいちゃんやばあちゃんが、コレは聖女様からウチだけに授けられた秘伝だから、よそに漏らしちゃいけねえって頑固でよ。でもじいちゃんもばあちゃんも死んじまったから、もういいかと思ってよ」
「何馬鹿なこと言ってんだ!聖女様がそんな心が狭いわけないだろう!コレを広めれば聖女様も絶対喜んでくれるって!」
「そ、そうか!?そうだよな!」
「コレは絶対流行る!早くレシピ登録して流行させるべきだ!おっちゃん、大金持ちになるぞ」
「レシピ登録ってどうやるんだ?」
「商業ギルドに行って教わってこい」
「おう!にいちゃん、ありがとな!」
気づけばヤキソバ屋の前には長蛇の列ができ、隣の串肉屋のオヤジが呆然としていた。
いやあ、たまにはこっちのエリアに来るべきだな。なんか、貴族街にない物が色々あるよ。
ヤキソバで満足した俺たちはまたブラブラ歩きだ。
芝生の広場では、大道芸人が芸を見せたり、アームレスリング大会とか、丸太を使ったウエイトリフティング大会とかやっている。
お、あっちはテイマーが魔獣や動物の芸を見せてるぞ。サーカスみたいだな。
あれ?アレはなんだ?
半月状の大きな塊を火で炙って、ナイフで削ってお皿に乗せている。
もしかしてラクレットチーズ?
でも客がいないな。
「ねえおっちゃん。コレってチーズ?」
「ああ、柔らかくて火で炙ると溶けるチーズなんだよ。新しく作ったんだけど、全然売れなくてね。失敗だったかなあ」
「ちょっと味見していい?」
「ああ、いいよ。ほれ。美味しかったら少しでも買ってくれ」
美味い!やはりラクレットチーズだ!コレならチーズフォンデュもできるぞ。
エドたちも興味津々で味見をする。
「ん?味は美味いけど、なんかドロドロだな」
「まあ待て。コレは食べ方が違う。おっちゃん、コレ一つ売ってくれ」
そう言って、俺は半月の塊を受け取ると、皿にフライドポテトを出して、そこに溶かしたラクレットチーズをたっぷりとかける。
「さあ、食ってみろ」
エドとケビンが首を傾げながらフォークを伸ばす。
真司はニヤニヤしているから知ってるな。
一口食べたエドとケビンが思わず声を上げる。
「美味い!!」
「な!」
エドとケビンは夢中で食べている。
「おっちゃん!あるだけ全部買うよ。どうせ売れてないんだろう?」
「あ、いや、それは助かるけど・・・。いいのかい?」
「もちろん!それにこれからも買いたいんだけど、どこで買える?」
「作ってんのは王都から西に3つ目の村だ。村中で作っちまったから、売れなかったら大変だったんだよ」
「大丈夫。絶対売れるからどんどん作って!もし売れなかったら俺が全部買うから」
「坊ちゃん貴族様かい?」
「ああ、シェフィールド伯爵家だよ。多分ランカスター家でも買ってくれると思うよ」
「本当かい!助かるよ!」
それから、俺はおっちゃんにフライドポテトのラクレットチーズがけを食べさせた。こうやって食べればいいのか、と感心していた。
ラクレットチーズ大量ゲットだぜ!
なんか色々新しい食材が見つかるな。感謝祭最高!
少し間が空いてしまいましたが、更新再開いたします。またお付き合いいただけたら嬉しいです。




