第153話 学院祭の終わり
学院祭2日目は、昨日にも増して子供公園の来場者が多かった。
王都民の間で噂になり、バザー目当てではなく、子供公園目当てのお客さんが押し寄せたのだ。大変だけど嬉しいことだよね。
そのせいもあって、バザーは午前中のうちに完売してしまった。
バザーの売り上げは、7割を学院に寄付し、3割を学生会の活動費とする。
俺は午前中はバザーと子供公園を担当し、午後からは自由時間で、学院祭を見て回ることができる。学院祭の他の出し物、全然見てないもんね。
今日は、午前中のうちにエドがエミーちゃんを連れて来た。ケイトさんとアニカさん、それにミロ君とメグちゃんの獣人兄妹も一緒だった。
ケイトさんとアニカさんには、バザーで好きな物買っていいよと言って、金貨を渡す。アクセサリーやドレスとかも安く売ってるんだよ。
エミーちゃんとミロ君、メグちゃんは子供公園に連れて行って遊んでもらった。
皆んな初めて見る遊具に目を輝かせて遊び回っていた。
エミーちゃんがいるので、シャトルも飛び出してきて、一緒に走り回っていた。エミーちゃんとシャトルもすっかり仲良しだ。
「これ全部ユーキが作ったのか?」
エドが感心して聞いてくる。
「色つけは頼んだけどね」
「ランカスターのフィールドアスレチックの子供版みたいな感じだな」
「なるほど。言われてみればそうだね」
「ここに子供を集めてるんだね。いいアイデアだ。俺のときは迷子の対応で大変だったよ」
「そうらしいね。迷子が多いって聞いて、これ作ったんだよ。そう言えば、フィールドアスレチックもあるよ。総合武術クラブが別の場所でやってる」
「ユーキがいると便利だな」
「こっちに来て最初の二つ名が、街の便利屋さんだからね」
二人で声を出して笑う。
なんだかランカスターのギルドで冒険者を始めたのが随分昔のことに思える。
あの頃はこの世界のことがまるでわからなかった。今では俺もすっかりこの世界の住人だ。しかも、元の世界にいたときよりも楽しんでいる。
思い返せば、最初は自分が生き残ることばかりを考えていた。今はちゃんとこの世界の一員として、周りと関係を築けている。シャトルともまた出会えた。
ここにハルがいたらもっと楽しかっただろうな。子供たちが元気に遊び回る姿を見て、ついそんなことを考えてしまった。
昼食はせっかくだから皆んなを連れてハンバーガーを食べに行く。
エミーちゃんも、皆んなも一緒に開発したからね。
「わあ、可愛いお店!」
エミーちゃんがハンバーガーショップを見て喜んでいる。
「メグちゃん、ここのハンバーガーは、エミーお姉ちゃんも一緒に作ったヤツを売ってるんだよ」
「エミーお姉ちゃんが?」
「そうだよ。すごいでしょう?」
「エミーお姉ちゃんすごーい!」
エミーちゃんが嬉しそうだ。
あ、今隠れたヤツ、イアンだな。今日はイアンが女装担当だ。
イアンは料理の授業を選択していないにもかかわらず、なぜか俺とケビンの仲間ということで、レーナちゃんたち女子の圧力に屈して手伝いに駆り出されたのだ。本人は力仕事の手伝いのつもりだったのが、哀れ、女装ウエイトレスをやらされる羽目になった。
武士の情けだ。見ないでおいてやる。
テーブルが満席だったので、テイクアウトでお願いして、グラウンド中央の空いてるテーブルで食べることにした。
レーナちゃんに交代で学院祭見ておいでよと言ったら、ちゃんと見てると言われた。そうなんだ。知らんかった。
ハンバーガーを初めて食べるミロ君とメグちゃんは、美味しいを連発して食べていた。
二人ともすっかり元気になったし、栄養状態も良くなった。最初はガリガリだったもんね。
ホント、獣人の子は可愛いな。
エミーちゃんはすっかりお姉さんで、メグちゃんの口元を拭いてやったりして、ケイトさんたちを慌てさせていた。
こっそりついて来ていたエミーちゃんの影護衛の二人にもハンバーガーを差し入れておいた。
俺が気づいていたことにびっくりしていたけど。
昼食の後は、Aクラスのゾンビ迷路に行った。
ここも人気アトラクションになっていた。俺は迷路を作ったので免除されたけど、イアンは昨日、ゾンビ役をやらされたらしい。昨日はゾンビで今日はメイド、不憫なヤツ。
ここからはシルビアちゃんも合流だ。
八人と一匹の団体で迷路に入る。
俺は迷路の地図が頭に入っているし、エドはサーチで出口がわかるから、エミーちゃんがリーダーの子供組に先頭をやらせる。
慎重に進むエミーちゃん。しばらく進むと前方の角からフラリとゾンビが現れた!
「キャー!」
大慌てで逃げ戻ってくる子供組。おお、ゾンビ良くできてるね。
メグちゃんなんて涙ぐんでいる。
俺はメグちゃんを肩車してやる。
「大丈夫だよ。本物のゾンビじゃないから」
「ホント?」
「ホントだよ。もし襲って来たら俺がやっつけてやるから」
「ユーキちゃま強い?」
「強いよ。任せて」
ようやく安心したメグちゃんだが、必死で俺にしがみついている。
(ユーキ、ユーキ。やっつけなくていいの?)
(アレは俺の友達が化けてるだけだから、やっつけなくていいよ)
(そうか!うん、ボクやっつけない!)
そう言って尻尾をブンブン振る。よし、今日も可愛いぞ!
迷路のあちこちで悲鳴が上がっている。この企画結構面白いね。
さりげなくエミーちゃんを誘導しながら迷路を進んで行く。
ゾンビが出るとシルビアちゃんまで悲鳴をあげている。君、ここの責任者でしょ?
ゾンビの横を通るときは、エミーちゃんとミロ君の顔が引き攣っている。
30分ほどかかって、ようやく出口にたどり着いた。
「楽しかったー!」
エミーちゃんとミロ君がハイタッチをしている。
「メグちゃんは楽しかった?」
「メグ、怖かった・・・」
そうだよね。ケイトさんとアニカさんは平気そうだね。
それから皆んなで色々なところを見て回った。
剣術クラブの部員との模擬戦に参加しようとしたら断られた。
ミロ君が挑戦して、ご褒美にクッキーをもらっていた。
演劇クラブで劇を見て、音楽クラブで演奏や歌を聞いた。
シルビアちゃんも音楽クラブだったよね。演奏しないの?と聞いたら、昨日が出番で、俺が来なかったと怒られた。ゴメンナサイ。
馬術クラブでは、ミロ君とメグちゃんが馬に乗せてもらって、馬場を一周して大喜びだった。屋敷では使用人だから、中々乗馬はできないもんね。
魔術クラブの的当ては、また俺は参加拒否された。
なんとエミーちゃんが、火魔術で見事に的当てを成功させ、ご褒美にリボンをもらった。エミーちゃん、もう攻撃魔術が使えるんだ。治癒魔術も才能あるし、天才かもしれない。メグちゃんが尊敬の眼差しでエミーちゃんを見ていた。
ミロ君とメグちゃんはどうだろう。獣人は傾向として身体能力が高く、魔術が苦手なタイプが多いが、絶対ではない。そのうち使えるようになるといいね。
ちなみに、ケイトさんとアニカさんも参加して、的をぶち壊した。この二人、結構強いのかもしれない。
総合武術クラブでは、俺とエドがフィールドアスレチックで競争して、ものすごいスピードで同着して周囲をドン引きさせた。クソッ、最近エドとトレーニング量の差が出て、スピードでも追いつかれてしまった。毎日のトレーニングを増やそう。
美術クラブでは、エミーちゃん、ミロ君、メグちゃんが似顔絵を描いてもらい大喜びだった。
錬金術クラブでは、なんとモーターを発見した!後日クラブを訪ねて、色々教えてもらう約束をした。
途中の屋台で買い食いをしたり、裁縫クラブでミロ君とメグちゃんの服とリボンを買ったりしながら、閉門時間までたっぷりと遊んだ。
「皆んな楽しかった?」
「楽しかった!!!」
エミーちゃんたち子供組は大興奮だった。
俺も楽しかったな。元の世界で経験できなかったこと。
同級生や先輩たちと協力して企画に全力を尽くし、全力で楽しむ。出来栄えが完全でなくとも、皆んなでやることの楽しさを初めて味わった。うん、本当に楽しかった。
エミーちゃんたちを馬車に乗せて、後はエドに頼んでから、俺たちは学院に戻る。
これから簡単に片付けをしたら、寮に戻って打ち上げだ。
例年、学生たちは複数の出し物に参加している。クラスとクラブとかね。このため、出し物単位で打ち上げをやっていると、スケジュール調整や、どっちに参加するかのトラブルなどが絶えないため、いつからか学院祭の打ち上げは寮の行事となってしまったらしい。
打ち上げは単に食って飲んで騒ぐだけ。
俺は、この日のためにランペイジブルの肉を1頭分丸々寄贈した。
寮のホールに続々と学生たちが集まって来る。
テーブルには山のように料理や酒が用意されている。貴族がほとんどの学院と言っても若者ばかりだ。上品なパーティなんてクソ喰らえ。騒ぐときは騒ごうぜ、というコンセプトだ。
「皆んな集まったか!それじゃあこれから学院祭打ち上げパーティを始める!」
3年生の寮長の声にウオーと歓声が上がる。
「今年の学院祭も大いに盛り上がって無事終了した!学生会の皆んな、ブライソン会長、ありがとう!」
アリガトー!ブライソーン!オッサーン!などの声が飛び交う。
「こら!オッサンと言ったのは誰だ!ブライソンはオッサンじゃない!老けてるだけだ!」
ドッと笑いが湧く。一緒じゃねーか!というヤジにまた笑いが起きる。
結構会長もいじられるんだね。
「さあ、長い挨拶も嫌われる。そろそろ始めるが、一つだけ言っておく!今日の料理のために、心ある有志が、ランペイジブルを提供してくれた!しかも丸々1頭!」
ウオー!!!
大歓声だ。皆んな大好きランペイジブルだね。
「その有志は、1年のユーキ・シェフィールドだぁ!」
ウオー!!!
いいぞメイドちゃーん!
ユーキちゃーん!
オカマちゃーん!
可愛かったぞー!
俺は不気味だったぞー!
来年はすね毛剃れよー!
にゃろう!酷いヤジが飛んできやがる!
「今言ったヤツ誰だ!肉食わさんぞ!」
俺が怒鳴ると爆笑となる。ホントに食わさんぞ!
「さあ、それじゃあ打ち上げを始めるぞ!皆んなグラスを手に取れ!」
皆んなが手近なテーブルから好きな飲み物のグラスを手に取った。
「アルタイル王国に栄光を!ロマリア学院に祝福を!我らが未来に希望を!乾杯!!」
乾杯!!!
そこからは学年も、貴族、平民の区別もなく、皆んなが入り乱れて大騒ぎだった。
ランペイジブルの肉はあっという間になくなってしまい、俺にもっと出せ!という理不尽なクレームが入った。
シャトルが賑やかな雰囲気に我慢できずに飛び出して来たら、ケビンの召喚獣、ケットシーのミューまで飛び出して来て、皆んなに可愛がられていた。トーダはもちろん俺の頭の上で、せっせと料理を食べていた。
こっちの世界に来てから、命の危険も多いが、楽しいことも一杯だ。自分の本来の性格が、こんなに皆んなに溶け込めるものだったことにも驚いている。変わったのかな?
そう言えばあの馬鹿王子を見かけないな。後期に入ってからなぜか目立たない。今日も取り巻きと共に欠席か。これで将来国を率いていけるのか?それとも何か企んでいるのか?
スタンリーの動きがきな臭い以上、十分注意を払っておく必要がある。シルビアちゃんやレーナちゃんの安全のためにも。




