第152話 学院祭はメイド服だ!
そろそろケビンと交代の時間だ。
俺は会長に断って、Aクラスのハンバーガーショップに向かった。
さて、せっせとハンバーガーを作りますか!
おお、賑わってるな。目新しい食べ物だからどうかと思ったけど、テーブルは満席で、長蛇の列が見える。
あれ?メイド服の女の子が俺をチラッと見て慌てて走っていった。
あんな子いたっけ?見たことはあるような気がするけど・・・。メイド服だから印象が違うのかな?
ハンバーガーショップに行くと、俺を見つけた聖女様のレーナちゃんが手を振る。
「ユーちん!待ってたよ!早く着替えて!」
着替える?俺、調理だから着替えいらないでしょう。
「ほら、早く!ビンちゃんはもう着替えに入ってるよ!」
「???」
俺はレーナちゃんに手を引かれて更衣室に連れて行かれた。
「ビンちゃん入るよ!」
「あ、待って!」
バンとドアが開けられる。
そこにいたのは、さっき俺を見て走って行った女の子・・・ケビン?
「ケビンか?」
「・・・」
「お前、何やってんの?」
「うるさい!そいつに無理矢理着せられたんだ!」
俺はレーナちゃんの方をそっと見る。
そこには悪魔の笑いを浮かべた女がいた。
「まさか俺もこれ着るの?」
「当たり前じゃん。うちの制服なんだから!」
「いや、俺は調理を・・・」
「調理は足りてるからいいの!早くしてよね、化粧をしなきゃいけないし、忙しいんだから!」
「化粧・・・」
「ほら、さっさと着替えろよ!俺もやったんだからな!」
ケビンまで乗っかってきやがった。気持ちはわかるけど。
そこに他の女子まで現れて無理矢理更衣室に押し込まれた。
「なあケビン。これで人前に出たのか?」
「出たよ。無理矢理だけど」
おお、ケビン、不機嫌だな。
しかし、大丈夫かな?知り合いに見られたらイヤだぞ。
「知り合いに見られた?」
「いや、幸い知り合いは来なかった」
そうか、まあお客さんは大体平民だよな。知り合いに会う確率は低いか。
よし、覚悟を決めよう。
俺は制服を脱いで、渡されたメイド服に着替える。
うわー、下がスースーする。思わず内股になってしまう。
「おい、ケビン。この後どうするんだ?」
「あとは女子がやってくれるよ。じゃあな。俺は行くから頑張れよ!」
「あ、子供公園大変だからよろしくね」
「了解。知り合いに会わなきゃいいな!」
ケビンがニヤリと笑って更衣室から出て行った。ん?どういう意味だ?
「ユーちん、終わった?」
「ああ、あとどうするんだ?」
ドアが開き、レーナちゃんともう一人女子が入ってきて、手早くエプロンや、頭にレースの、なんて言うんだ?これ、まあ何かを被せられる。
そして椅子に座らされて、せっせと化粧を施された。
大丈夫だろうか・・・。
「はい完成!うん、中々いいよ!」
二人の女子の満足そうな笑顔を見ると不安しかない。
はあ、気が重いがやるしかないのか。どうか知り合いに会いませんように。女神様にお願いすればいいのかな?
二人に無理矢理手を引かれて、表に出ると、「キャー、可愛い!」と女子たちの声が上がる。
いや、その可愛いって、パンダとか珍獣見たときのヤツだろう!
「じゃあユーちんはテーブルの接客お願いね!」
マジか・・・。まあ、ここに来るお客さんに貴族はほとんどいないだろう。知り合いもいないし、大丈夫かな。
「はい、これ。3番テーブルにお願い!」
俺は厨房からハンバーガーとポテトと飲み物のセットを3つ渡され、嫌々テーブルへと運ぶ。
全員が俺を見ているような気がするが、これは自意識過剰だろう。できるだけお客さんと目を合わせないように俯き加減で、品物をテーブルに運ぶ。
やっぱり下がスースーする。なぜか無意識に内股になってしまう。
えーい!心頭滅却!
こうしてウエイトレスを続けていると、いきなり声をかけられた。
「あれ?ユーキ君?」
ギクッ!誰だ?聞き覚えのある声。恐る恐る声の方に目を向ける。
「やっぱりユーキ君だ!え?君何やってるの?」
冒険者ギルドのギルマス、エンシスさんだった。一緒にいるのは瘴気事件のときに一緒だったガーナさんと、ギルド職員の人だった。
「おいおい、本当にユーキかよ!ギャハハ!お前そっちの趣味だったんかよ!」
ガーナさんが腹を抱えて爆笑する。
「うるせえ!そんなわけないだろう!無理矢理やらされてんだよ!」
「いやいや、お前よく似合ってんぞ!今度それでギルドに来いや!ギャハハ!」
「行くか!」
ヤバイ・・・。冒険者の知り合いが結構来る可能性を忘れてた!
「ま、まあユーキの趣味は置いといて」
「だから違いますって!」
「うんわかってるから。それで、このハンバーガーなんだけどね。ギルドでも売れないかな?」
「ギルドで?」
「うん。これ冒険者にピッタリだよね。簡単に食べられるし、肉もパンも一緒だし、手掴みでも食べられるしさ」
「なるほど。いいですよ。レシピは僕の名義なんで。ただマヨネーズってソースだけはランカスターから仕入れて下さい」
「マヨネーズ?」
「中のレタスにつけてるヤツです」
「ああ、これ絶妙に美味いね」
「はい。それはエリカ様が興味お持ちなんで」
「了解。ランカスターと相談するよ」
「ついでにお前もその格好でギルドでウエイトレスやれよ!ギャハハ!」
うるさいからガーナさんの頭を一発殴っておいた。
「何しやがんだ!」と怒鳴っているが、アンタが悪い!
俺は知らん顔して席を離れた。
はあ、冒険者かぁ。盲点だった。そう考えると、またあちこちから見られているような気がしてくる。聞こえる笑い声が、全部俺に向けられているような気にすらなってきた。
そっと笑い声の方を見る。
アッ!クラスの連中じゃないか!やっぱり俺を見て笑っていた!
そうか、ケビンのヤツ、やりやがったな!
ちょうど昼食の時間くらいだ。くそぉ、俺の女装見に来たな!
「おーい、ユーキ!中々似合ってるぞ!」
シカトだシカト!シ・カ・ト!!!
しかし、それからハンバーガーと俺の噂を聞いた学院生が続々と詰めかけて来やがった。
学院の危機を救った英雄が女装してるぞ、という話しが広まったらしい。
結局俺はいつもお笑い枠になってしまうようだ・・・。
学院生だけでなく、冒険者にも随分と見られてしまった。当分ギルドに行きたくない・・・。
それから俺はすべての雑音を遮断して、無我の境地で仕事を続けた。
何も聞こえない。何も見えない。俺は無だ。
あれ?本当に静かだね。さっきまで賑やかだったのに、どうした?
俺はどこかに旅立っていた意識を元に戻して、周囲を見渡した。
皆んなが立ち上がって頭を下げている。
まさかね、こんな場所に・・・。
俺はそっと振り向いた。
「え?陛下・・・」
「む?ユーキなのか?」
「は、はい!お見苦しいところをお目にかけ申し訳ありません」
俺は慌てて片膝をつく。ジェームス様とエリカお姉様もいる。リッキー殿下とブライソン会長が案内役か。
「ああ、よいよい。立ちなさい。ま、まあ、人の趣味嗜好は様々だ。うん、そうだな。それも良かろう。咎めはせん。ただし登城の際はできれば男の格好で来て欲しいものだ」
「いや、誤解です!違いますって!これには事情があって!」
側でブライソン会長とリッキー殿下が必死で笑いを堪えている。助けて!
「ときにユーキよ。あの子供公園なるもの、実に良い。コイツからの進言もあった。あれを王都にいくつか作ろうと思うが構わんか?」
「ありがたき幸せ。ぜひ王都の子供たちの健全な成長につながるようお役立て下さい」
「礼を言う。そうだな、王国の子供らにはぜひ『健全』に育って欲しいものだ」
「いや、だからこの格好は女子に無理矢理やらされているんですってば!」
陛下が思わず吹き出した。
「いやすまんすまん。お前でも慌てることがあるんだな。いや愉快愉快!」
なんだよ、揶揄われてたのか。
「皆の者!今は学院祭だ。私に構わず食するがよい!よし、私もユーキの作ったハンバーガーとやらをもらおうか。コイツらの分も頼む」
マジかよ。王様がハンバーガー食べるの?
厨房の女子たちが大慌てになる。
レーナちゃんが指揮して体制を立て直す。
「ユーキ、あなた意外ととその格好似合ってるわよ。お化粧までしてるのね」
エリカお姉様がクスクス笑いながら言う。ジェームス様は目も合わせてくれない。
「今度ウチでもあなたのメイド服用意しようかしら」
「やめて下さい!」
女子たちがガチガチに緊張して、ハンバーガーセットを運んで来た。
「おや、レーナ嬢であるか?」
「はい陛下。ご無沙汰しております」
レーナちゃんはしっかりとカーテシーをしながら挨拶する。随分と様になっているね。練習させられたんだろうな。
「息災であるか?」
「はい、おかげさまで」
「ユーキとは仲良くやっておるのか?」
「はい、色々と助けていただいております」
「そうか。よいか、もし難儀なことになったらすぐに私でもユーキでも頼るのだ。必ず力になろう。よいな」
レーナちゃんが驚いて思わず顔を上げる。そしてその目にじんわりと涙が浮かんで来る。
「あ、ありがとうございます、陛下」
顔を伏せたレーナちゃんが小さく震える声で答える。地面にポトリと涙が落ちた。
良かったね、レーナちゃん。陛下に直接言ってもらえて。
「さあ皆んな。ユーキが作ったというものを食ってみようか。不味かったら罰を与えねばな!ワハハ!」
そう言って陛下がハンバーガーを食べ始めた。この方は本当に人の心の機微が分かる人なんだな。ジェームス様たちが信頼を置くのがよくわかる。
「おお、中々!」
「うむ、美味い!」
お付きの近衛兵の人たちも陛下に言われて食べ始め、美味いと声を上げていた。
陛下は多分レーナちゃんに声をかけに来てくれたんだろう。
ここなら自然に会話ができるから。
無理矢理召喚されたレーナちゃんにとって、国王がこのような方であったことは、せめてもの救いだ。
ハンバーガーを完食した陛下は、王城の料理人にもレシピを寄越せと言って、ご機嫌で去って行った。
「ユーちん、ありがとう」
「何が?」
「ユーちんが言ってくれたんでしょう?陛下に」
「いや、陛下の元からのお考えだよ」
「優しいオジサンだよね」
「オジサンはやめろ」
「イケオジだし」
「だからやめろって!」
「私、聖女様じゃないかもしれないけど、私がいて良かったって思われるように頑張る!」
そう言って、レーナちゃんは厨房の方に走って行った。
そうか。でも、君はもう十分頑張ってると思うよ。あとは楽しく過ごして欲しいな。
親のような目線でそんなことを思っていた俺の側で声がした。
「君のその姿、スマホとやらで残せないの?」
「勘弁して下さいよ、スティングさん」
いつの間にか戻って来たリッキー殿下は、俺の姿を見てまだ笑いを堪えていた。
俺に惚れるなよ!




