第151話 子供公園
学生会室は、いつものメンバーに加えて、各クラスの実行委員も出入りして大賑わいだ。今年度の学生会は、たまたま男子のみだったので、女子が出入りすると途端に華やかになる。
来年度はシルビアちゃんたちも学生会入りだと思うから、雰囲気は変わるね。
グラウンドや教室の場所割と講堂などの時間割が決定すると、本格的な準備に入っていく。
この点、全寮制なので、放課後がフルに利用できるのは効率が良い。
学生会および実行委員は、それぞれポスターやパンフレット、立看板制作などを分担して行っている。
俺はなぜか公園の遊具を作っている。
学生会のバザーでは、家族連れが殺到するらしいが、小さい子供を連れて回りづらいという不満や、迷子が多発して対応に手が取られるなどの問題が例年発生しているそうだ。だったら、親の買い物の間、子供が遊べる場所を作れば良いのでは、などとアイデアを出してしまった。ショッピングセンターとかによくあるよね。すると、それは良い、任せた!という流れになってしまったわけだ。
俺は、学生会バザー予定地の中に遊具エリアの柵を作り、その中に土魔術、木魔術、金魔術を駆使してせっせと施設を作っていく。シャトルはその周りで駆け回っている。
まず滑り台。高さを3段階にして小さい子供でも滑れるようにする。一番長い滑り台はループ式にしよう。
ブランコ。6個くらいあればいいか。
シーソー、鉄棒、ジャングルジム。
ゴムタイヤがないな。よし、高さに変化をつけた飛び石にしよう。
あ、砂場もあって方がいいか。
段々興が乗ってきた。雲梯も作ろう。
上り棒もあった方がいいかな。
ついでに土俵も作っておこう。男の子同士で相撲させたら面白がるかも。
あとはベンチをいくつか置いて、水飲み場兼手洗い場を作って完了だ!
おお、いっぱしの公園みたいになったぞ!って、この世界であまり見たことないな、こんな公園。まあいいか。
(ユーキ!ユーキ!面白いよ!)
シャトルが滑り台で遊んでいる。
「シャトル!それ走って降りるんじゃなくて滑るんだぞ!」
俺はシャトルを膝の上に乗せて滑ってやる。
(面白い!面白い!ボク、自分で滑る!)
そう言ってシャトルは滑り台を滑ろうとするが、肉球が邪魔になって滑れない。
(ユーキ、ユーキ、滑れない!)
うーん、どうしよう?
そうだ、どうせ敷地は空いてるし、作っちゃえ!
俺は土魔術で高さ10メートルくらいの緩やかな坂を作る。そこにストレージに入れていた芝の種をばら撒き、木魔術で一気に成長させる。おお、緑の坂ができた。登りは階段じゃなくてスロープにしよう。あ、中をくり抜いて、トンネルみたいにして登るのもいいな!
そして、木でソリを作り、シャトルと一緒に坂の上に登る。
(ユーキ、ユーキ、何するの?)
「いいか、シャトル。この板の上に乗ってみな」
(何するの?何するの?)
シャトルがワクワクしながら板に乗る。
「行くぞ!」
俺がポンとソリを押してやると、ソリに乗ったシャトルがシューと滑って行く。草スキーだ。
(ウワー!ウワー!)
下まで滑り降りたシャトルが、ソリを咥えて駆け上がって来る。
(ユーキ!ユーキ!もう一回!)
シャトルが大喜びだ。自分でもっとすごい動きができるのに、楽しいらしい。
俺の分もソリを作って、シャトルと何回も一緒に滑る。なんか楽しい!
夢中で遊んでいたら、学生会のメンバーや、実行委員たちが打ち合わせを終えてやって来た。
皆んな、俺が作った公園を見て唖然としている。
「ユーキ、お前一体何を作ったんだ?」
「子供の遊び場ですけど」
ブライソン会長の問いに当然の回答をする。
なぜかリッキー殿下が大笑いしている。
「そうか・・・。ちなみにどうやって使うのか説明してもらえるか?」
ああ、皆んな初めて見るものばかりだったね。
俺は皆んなを引き連れて、一つ一つ実演しながら使い方を説明する。
そのうち皆んな試し初めて、むしろ楽しみ始めた。
土俵では、男子たちが俺の説明を聞いてトライする。
最後にソリを追加でいくつか作って草スキーをやってみる。
ワーワー、キャーキャー、皆んな子供に戻って喜んでいた。
「これ、みんなニホンにあったの?」
リッキー殿下が小さな声で聞いたきた。
「大体はそうですね。ほとんどの住宅区域にこういう子供が遊べる公園を作ってます」
「そうか。素晴らしい国だね。これさあ、真似してもいいかな?父上に進言して、王都のあちこちに作りたいんだけど」
「ぜひ!子供が楽しく遊べる場所を国が用意するのは大切なことだと思います」
「ありがとう。これ、君じゃなくても作れるよね」
「草スキーはちょっと大変かもしれませんけど、あと大丈夫だと思いますよ」
「わかった。学院祭には父上も視察にこられるから、実際に見てもらおう」
「子供は国の宝です。絶対実現させて下さい!」
「子供は国の宝か。確かに。よし、任せてくれ」
なんか、いい具合に王都に子供の遊び場ができそうになったぞ。
「ユーキお兄様!女の子の遊び場が足りません!」
うわっ、シルビアちゃんが女子を引き連れてクレームを言ってきた!
「え?女の子って何して遊ぶの?」
「おままごとです!」
おままごと?どうすればいいの?
どうやら、おままごとセットは女子たちが子供の頃に使っていた物を持って来るので、その場所を作れということらしい。
俺は、女子に引きずられて、洒落たガゼボのような物を2箇所作らされた。
「これさぁ、全部色んな色塗ったらもっと楽しくならないか?」
「そうだな、子供も喜びそうだ」
誰かがそんなことを言い出した。
俺も賛成だけど、俺の魔術じゃ無理だぞ。
「そうだね、せっかくここまでできてるなら完璧にしたいな。僕の知り合いの業者に頼んでみるよ」
リッキー殿下がそう言い出した。なるほど、王家の施策としてやるなら、その準備にちょうどいい。
「ユーキ、それでいい?」
「はい。お願いします。だったらついでに」
俺はそう言って、子供が乗って遊べるように、小さな馬や豚、鹿、牛などを土魔術であちこちに作っていった。
「わぁ、こんな公園、子供の頃に欲しかった!!」
そんな声が聞こえる。そうだよね。子供は遊びが仕事だ。楽しく遊んで、元気に育って欲しい。この世界、スポーツもないんだよ。貴族は乗馬や狩ならあるけど、スポーツと言えそうなものがない。そのうち何か考えよう。
「まったくお前にはいつも驚かされるな。これだと、今年はバザーより、こっちがメインになりそうだ」
ブライソン会長が子供公園を見ながらしみじみと言う。
いや、大人はやっぱりバザーがメインだと思うよ。
翌日以降、この子供公園は学院中の評判になった。
やらせてくれという要求が沢山出たが、断固拒否だ!本番前に壊されてたまるか!
俺は、『子供公園』と表示した大きなゲートを作り、立入禁止の札を立てた。
文句言うな!もう子供じゃないだろう!
リッキー殿下手配の業者はすぐに来てくれた。というか、この人たち本当に業者さん?王国の施設局の人たちじゃないの?
ともかく、その業者さんと相談しながら、カラフルに彩色していく。
また、各遊具について詳細に説明して、図面に落とし込んでいった。
権利登録はどうするかと問われたので、国にしといてくれと言ったら、えらく感謝された。やっぱり君たち国の役人だろう!
ちなみにこの国の独占権の制度は、特許、実用新案、意匠などの区別はなく、新規のものについては審査を経て、すべからく権利登録という名で10年間の独占権が与えられる。料理や薬のレシピもこれに含まれる。ただし、登録時に設定された対価を払えば誰でも利用できるという、強制許諾制になっている。王国全体の発展のためだ。
製法が解明されない自信があれば、むしろ権利登録をせずに独占利用を選ぶ大手の商家もいる。真似できない以上、いつまでも独占できるからね。
公園が完成すると、今度はAクラスの迷路作りだ。
設計図に従って、土魔術でせっせと作っていく。
壁は二重構造で、中にゾンビが隠れられるようになっている。
壁の上にはスタッフの学生が待機して、ゾンビ役に脅かす指示を出したり、いつまでも出られない客を誘導できるように設計されている。
構造物自体はさほど複雑な作りではないので、打ち合わせをしながら半日で完成した。
あとはクラスの皆んなで、枯木や枯れ草などでデコレーションをして、不気味な雰囲気を出す。
間違って客に攻撃されないように気をつけろよ。
ゾンビの衣装は、誰かの家の使用人が、王都で一番安い古着屋で、捨て値で売られていた物を多数調達してきてくれた。Aクラスの学生は上級貴族ばかりなので、どの家にもボロボロの服がなかったのだ。その服を更に汚したり、血がついたように絵の具で着色して、中々の衣装が出来上がった。上級貴族の子がこれを着るのかと気の毒になったが、ゾンビ役の男子は意外にノリノリで楽しそうだった。ゾンビの化粧は女子が鋭意研究中だ。ゾンビ役は、毎日髪をボサボサにされて、顔に化粧品だけでなく絵の具まで塗られている。
でも皆んな楽しんでやっている。これが文化祭の一体感かな。俺もウキウキしてくるよ。なんならゾンビ役をやりたいくらいだ。
最後は料理実習のクラスの建屋だ。
飲食関係は、グラウンドの中央に飲食や休憩ができるテーブルエリアがあって、他のブースはその周囲に配置されている。ゾンビ迷路も同じだ。
レーナちゃんが中心で書かれた設計図に従って、土魔術で基礎と壁を作り、中に魔道コンロを設置する。それから木魔術で、注文カウンターやテイクアウト窓口、屋根などを作っていく。
そこまでは簡単にできたが、レーナちゃんから色を塗れとのご指示を賜り、二人しかいない男子の俺とケビンで、言われるままにペンキ塗りをやらされた。疲れたが、出来上がった店はとても可愛い色合いで、女子たちが大喜びしてくれたので報われた。俺とケビンの株も一気に上がった、便利屋さんとして。なんか以前もあったような・・・。
やっと終わった、と思ったら、総合武術クラブというところからSOSが入った。
ここは体験型の企画で、フィールドアスレチックを設置する計画だった。
ところが思ったようにできないので、俺に手伝って欲しいと言うのだ。
勘弁して欲しい、俺は土木業者じゃないぞ、と思ったら、企画したのはランカスター騎士団の副団長の息子さんだった。ランカスターで採用したフィールドアスレチックをイメージして企画したらしいのだが、クラブの土魔術を使えるメンバーが、見たこともない物のイメージができず、中々上手くいかないと言うのだ。
そういうことなら仕方ない。以前も作った物だからちゃっちゃと済ませよう。
結局、クラブ員の要望を聞きながら、半日ほどでフィールドアスレチックが完成した。
ここは彩色のリクエストがないので、これでお終いだ。
皆んなから大変感謝され、さっそく全員が楽しんでトライしていた。
魔装なしだと結構きついコースになった。
今度こそ終わった、と思ったら、集まったバザー品の管理台帳作りと値付けが待っていた。
学院祭ってこんなに疲れるのかよ・・・。
そして学院祭、当日。
「ほら、もう行くわよ!」
「やだー!まだ遊ぶ!」
もう何度繰り返された光景だろう。
今、子供公園は元気に遊び回っている子供で溢れている。
学院祭初日の朝一番から、例年通りバザーには客が殺到した。
その際、去年まではなかった子供公園を発見し、親たちは子供を預けて心行くまでバザーで買い物ができることを知り、大変喜ばれた。
子供を預かる際には預かり札を渡している。
最初は予定通り、子供たちが珍しい遊具で大喜びして遊ぶ、ほのぼのとした光景が見られた。
しかし、親の買い物が終わっても、子供が帰りたがらない。
そうやって、公園に留まる子供の数がどんどん増えていく。
更に、どうやら今年は子供が遊べる公園があるらしいという噂が広まり、バザー以外の客も集まってきた。そのせいで、今や子供公園は大量の子供で溢れかえっていた。
「あの、お母さん。お子さんはここで預かりますから、ゆっくり学院祭を見学されても大丈夫ですよ」
「あらそうですか。じゃあお願いしようかしら」
母親は嬉しそうに父親と一緒に去って行く。
子供公園担当のスタッフもすっかり慣れてきた。
実行委員だけでは手が回らず、学生会メンバーのクラスから何人か応援に来てもらって、子供の対応をしてもらっている状態だ。
向こうでは相撲大会が開催中で、滑り台やブランコ、草スキーでは順番整理をしている。
シルビアちゃん提案のガゼボでも、高級おままごとセットで遊びたい女の子たちが群がっている。ここまでくると、子供公園が成功なのか疑わしくなってくるよ。
俺はため息をつきながら、バザーの学生会スペースに戻った。
「どうだユーキ。俺の言ったとおりだろう。これは今回の目玉だ」
ブライソン会長が得意げに言う。
「目玉かどうかはわかりませんが、こんなに子供が来るとは予想以上でした」
「これまで子供に遊び場を提供するという考えがなかった。王国は総じてどの領もそこそこ裕福だ。うちの領もかなり裕福な部類に入る。領民は仕事以外に娯楽を楽しむ余裕がある。買い物、飲食、演劇、音楽、祭りなど、うちでも色々な娯楽を領民に提供してきた。しかし、子供向けという発想はなかった。今度領に帰った際には、父上に進言して、領内に子供向けの公園を作ろうと思う。これを真似させてもらうが構わないか?」
「もちろんです。子供は勉強と遊びをバランスよくやって成長するものです。こういうところで、順番を守る、仲良くする、小さい子供を助ける、そういった道徳を学ぶこともできると思います」
「そうだな。子供の成長が領の支えになるからな」
会長は優しい目で子供公園で元気に遊ぶ子供たちを見遣っていた。




