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ハルノオト〜聖女召喚の欠陥品ー俺は男だ!〜  作者: 島村都心
第二部【王立ロマリア学院1年】
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第149話 レーナちゃんの悩み

「・・・夏休みかぁ」

「どうしたの?何かあったの?」

「うん、まあ・・・」

「何か困ってるんなら相談くらい乗るよ」

「・・・私の問題だからどうにもならないと思うけど・・・」

「そうか。じゃあいいや」

「何でそこで引くのよ!もっと聞きなさいよ!」


 やっぱり話したいんだな。


「わかった。ぜひ聞きたい。聞かせて下さい!」

「そこまで言うんだったら聞かせてあげるよ。と言っても本当に私の問題なんだけどね」


 そう言って話し始めたレーナちゃん。

 夏休みが始まると、レーナちゃんはすぐに馬鹿王子と一緒にスタンリー公爵領に連れて行かれたそうだ。そして馬鹿王子の祖父に当たる公爵様やスタンリーの重鎮たちに引き合わされた。

 そこで聖女様として盛大な歓迎を受けたまでは良かったのだが。


「なんかね、黒い小さな石を浄化しろって言われてさ」


 俺は思わずリッキー殿下と顔を見合わせる。


「黒い石って、2センチくらいのキラキラしたヤツ?」

「そう、よく知ってるね。アレ何なの?神殿の人たちのときもあったけど」


 間違いない。しかし、なぜスタンリー公爵家が瘴気の魔石を持っている?


「その石は1個だけ?」

「なんか鉄の箱に入れて何個も持ってたよ。ねえ、アレって何なの?」

「多分、瘴気の詰まった魔石だと思う」

「あ、それで浄化しろって言ってたのか・・・」


 それで、レーナちゃんが浄化できなかったので、公爵家の魔術師がつきっきりで、何日も浄化を試みた。しかし結果は出ない。そのため、公爵の扱いはどんどん厳しくなっていった。終いには、「この役立たずが!浄化ができないなら、せいぜいできるフリをして聖女らしく振る舞っておけ!決して浄化ができないことを悟られるな!」と怒鳴りつけられたらしい。


「ねえ、ひどくない?勝手に召喚しといてさ。浄化なんて知らないよ!私日本人だよ!できないの私のせいなの!?」

「アルフレッド殿下も同じなの?」

「殿下はまだ庇ってくれた。でも、できないのはまだ練習が足りないからだって。きっとできるようになるって言ってるの。だから、できないってなったらきっと追い出されるよ」


 そう言って俯くレーナちゃん。

 スタンリー公爵、どうしようもない下衆野郎だな!


「悪いのはレーナちゃんじゃない。勝手に召喚なんかしたアイツらの方だ」


 俺は怒気のこもった声で小さく言った。

 レーナちゃんが俯いていた顔を上げる。その目には涙が溜まっている。


「ママに会いたいよ・・・パパに会いたいよ・・・」


 堪えていた涙がポロポロと落ちる。


「日本に帰りたいよー!」


 レーナちゃんは両手で顔を覆って号泣し始めた。

 俺はレーナちゃんの横に移動してそっと背中を撫でる。

 ずっと我慢してたんだろうな。明るく振る舞って、元気なフリをして、泣くのを我慢して・・・。

 高校生になったばかりの女の子を、無理矢理異世界に召喚して家族や友達や故郷から引き離す。立派な誘拐だ。しかも自分勝手な理由で。

 レーナちゃんは俺にしがみついて泣き続ける。

 リッキー殿下も唇を噛み締めて怒りを抑えている。

 はあ、日本に帰してあげたいな。でも、メイデン師匠やトーダでも戻れてないんだよな。


 しばらくして、レーナちゃんがようやく泣き止んだ。


「・・・ごめんね、ユーちん」

「別にいいよ。泣きたいときは泣いた方がいい。我慢しすぎるとかえって良くないよ」

「自分なりに覚悟したつもりだったんだけどね。公爵様に会って不安になっちゃったんだよ。ほら、私って、こっちじゃ家族もいないしさ」

「不安になって当然だよ。いいか、これから言うことをよく聞いて欲しい」

「なに?もしかして私に告るの?」

「馬鹿なこと言うなよ!」

「だって私のファーストキス奪ったし」

「アレは人工呼吸だろうが!」

「そんなに怒んないでよ」

「怒ってない。いいから聞いてくれ。いいか、まず公爵領であったことは誰にも話しちゃいけない」

「話さないわよ」

「そして、これまでどおりに過ごして、もし何か少しでも危険を感じたら、すぐにスティングさんに助けを求めるんだ」

「え?」


 レーナちゃんは、突然出た名前に驚いてリッキー殿下の方を見る。


「ああ、何かあったら僕を頼ってもらっていい」


 リッキー殿下はニッコリと頷く。


「もしかしてモテ期?」

「違うだろう!」

「いいじゃん、妄想くらい!」

「わかった、わかった。それに、君のことはスティングさんのお父上も心配されている」

「スティングさんのパパって、もしかして・・・」

「そう。そのもしかしてだよ。スティングさんのお父上も、必ず君の力になってくれる」

「私、多分聖女様じゃないよ」

「わかってる。そんなのは関係ない。聖女様じゃなくても大丈夫だ」

「ホントに?」

「本当だ。俺もスティングさんもいるところで、その方が力になってくれるって確認してるから。俺だって、できることならいくらでも力になるよ」


 レーナちゃんの目にまた涙が溢れてくる。


「おい、もう泣くなよ」


 慌てて目を擦るレーナちゃん。


「信じていいんだよね、ユーちん」

「ああ、誓って嘘はつかない。今はアルフレッド殿下も公爵家も君を手放さないと思うから、無理に動くとかえって危険になる。だけど、そのうち必ず君を助ける。その前に危険を感じたら、スティングさんを頼るんだ。いいね?」

「わかった。信じる。なんかさあ、私を巡って王子様や貴族が取り合いしてるって感じ?」

「アホか!どんだけお花畑なんだよ」

「冗談だよ。でもお花畑って、こっちでも言うんだ」


 ヤベッ、言わないのかな?


「いいか、君は独りぼっちじゃない。僕たちは君の味方だし、他にも君の味方になってくれる人はきっと沢山いる」

「うん!そう信じて頑張るよ。ユーちんってやっぱ私のこと好きでしょう?」

「・・・はぁ、もう何でもいいよ」

「ははは、よし、元気出た!午後も治療頑張るぞ!」


 レーナちゃんは、そう言うと元気に立ち上がって走って行った。


「ユーキ、あの子のこと好きなの?」

「スティングさんまでなに言ってるんですか!」

「冗談だよ。しかし、兄上は本当に罪なことを仕出かしたもんだな」

「実質誘拐ですからね」

「そうだね。彼女は何としても護ってやらないとね」

「お願いします」

「それに実際会ってみると、個性的だけど良い子だね」

「能力も中々のもんですよ。治癒魔術に関しては、一流になれる素質があります」

「そうか、その辺も父上と兄上には言っておこう」

「それよりもさっきの話し、気になりませんでしたか?」

「ああ、瘴気の石のことだね」

「スタンリーでは穢れの石を何個も持っているようですね」

「マックス兄上の件の石の出所か・・・」

「はい。直接の証拠はありませんが、そもそもどこにでもあるような物ではありません。間接証拠には十分かと」

「父上には報告しておくよ」


 推認するだけの証拠はある。しかし相手は公爵家。決定的な証拠を示せなければこちらが内乱の引き金を引いたとされかねない。じれったいね。


 昼休みが終わり、午後の実習が始まる。これから午後4時まで討伐を行い、王都に帰還する。

 俺たちもまた見回りだが、一つ片付けておかないといけないことがある。

 リッキー殿下に断って、しばらく別行動をさせてもらう。


 さてどこにいる?

 気配探知を全力でかける。おっ、いたいた。こういうときは勝手な行動をしてくれるので助かるね。


 俺はルクスから降りて、コソコソと話している3人に近寄って行く。

 俺に気づいた三人が警戒心をあらわにした。


「よう、討伐もしないで何やってんだ?」

「お前に関係ないだろう!」

「俺の役目は監督だからな。関係あるんだよ」

「うるせぇ!これからやるんだよ!」


 そう言って、三人は俺から離れようとする。


「まあ待てよ。そんなに慌てるな」


 振り向いた三人に威圧をかける。

 一瞬で動けなくなる。

 そして、エルフのリルカ様からもらった魔術書で勉強した闇魔術を三人にかける。

 三人の目から光が失われた。


「お前ら、昼休みに何を見た?」


 そう、この三人は馬鹿王子の取り巻きで、ケビンに絡んでいたヤツらだ。そして、昼休みに俺たちがレーナちゃんといるところを観察していた。

 案の定、俺たちがレーナちゃんといたところを見ていた。その上、俺がレーナちゃんを口説いて抱き締めていたということになっている。どういう観察してんだよ!

 どうやら馬鹿王子の命令でレーナちゃんを監視していたらしい。


「いいか、お前らは昼休みに何も見ていない。レーナちゃんは俺たちと話してもいないし、会ってもいない。彼女はひたすら治療班で働いていた。わかったか?」

「はい・・・」

「お前たちが昼休みに見たことを言ってみろ」

「聖女様は昼休みも治療班で働いていました・・・」

「よし。今言ったことと違うことを言おうとすると、お前たちは一生喋れなくなる!」

「はい・・・」

「この後俺が見えなくなったら、お前たちは普通に戻る。わかったか?」

「はい・・・」


 俺はルクスに飛び乗り、三人を残して走って行く。

 初めての闇魔術だったけど上手くいったかな?催眠術みたいなイメージだから、割と簡単だった。本当は人の記憶に干渉するなんてあまり褒められたものじゃないし、やりたいわけでもない。でも、敵が相手ならやむを得ないかな。


 その後、リッキー殿下と合流して見回りを続けた。

 三人組は普通に実習に参加しており、俺を見ても特に変化はなかった。どうやら俺の闇魔術は成功したようだ。帰って馬鹿王子に何もなかったとしっかり報告するんだよ。


 この日の魔獣討伐実習は、午後も大きな事件も起こらず無事に終了した。

 皆んな、冒険者の力を借りながらも、なんとか魔獣討伐を経験できたみたいで、帰りの馬車からは興奮した声が溢れていた。シルビアちゃんも魔術で角ウサギを倒したみたいで、見回り中に嬉しそうに報告してきた。

 それにしても事件が起こらず俺もホッとしたよ。最近、何かと事件に巻き込まれていたからね。シャトルも今日は俺の中でお休みだった。今度遊びに行こうね。




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