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ハルノオト〜聖女召喚の欠陥品ー俺は男だ!〜  作者: 島村都心
第二部【王立ロマリア学院1年】
148/180

第148話 秋の魔獣討伐実習

 10月に入り、秋の気配が深まってきた。

 瘴気は、あの後、王都周辺では発見されなかった。

 各領にも調査をするよう要請されたが、今のところ瘴気が見つかったとの報告はない。

 瘴気に感染した冒険者は、ゴブリン討伐の際の三人を治療した他、例の森で二名が魔獣に傷をつけられて感染した。この二名も治療済みだ。

 森の閉鎖は現在解かれている。


 王立総合研究所では、小動物や小魔獣を使って研究を急いでいる。

 用語の整理として、水源やその他の場所が瘴気に侵された場合は『汚染』、また人や魔獣を含む動物が瘴気に侵された場合は『感染』と呼ぶことで統一された。

 実験では、動物が感染した場合は、黒い斑点が現れ、瘴気の追加投入がなくともそれが徐々に増加していく。体力は低下し、やがて死に至る。これが魔獣の場合は、より凶暴化し、目の充血や多量の涎を出すなどの特徴が現れ、自然死は見られない。俺たちが見た特徴と一致する。

 現在は、あの池から持って来た穢れの石を水につけ、その汚染水を与えて実験している。

 なので、汚染水接種と、噛みつきなどによる感染は確認できたが、空気感染については未確認だ。

 感染した魔獣の魔石は黒く染まり、時間経過と共により黒さを増す。

 瘴気の治療薬やワクチンの開発はまったく進展がない。


 200年前の記録は、大して役に立たなかったようだ。俺は直接見ていないけど。

 北の国から魔獣の凶暴化や増加、生息域の変化が始まり、それが大陸中に広がったそうだ。

 湖や川、また土壌も汚染され、死亡者も多数出た。アルタイル王国も極めて危険な状態にあったらしい。そこに女神の神託により召喚された聖女様が、大陸中を旅して浄化と魔獣討伐を行った。三人パーティということだけで、名前も残っていない。

 統計も汚染地図も何もなく、感染者の治癒も聖女様が行ったという以外の記録はない。

 もっとちゃんと記録を残しておいて欲しい!

 今回は、陛下に頼んで逐一記録を残すことにした。

 おそらく200年前は、聖女様が召喚されたときは、すでにパニック状態だったのかもしれない。記録が杜撰すぎるもんな。

 推測するに、瘴気を出す境界のヒビは、北の方向にあるのかもしれない。

 そのヒビも、エルフの道具がない状態でどうやって塞いだのだろう。

 記録残せよな!


 それにしても大陸中の瘴気の浄化か・・・。俺にできるのだろうか?

 池一つであのザマだからな。

 できれば本物の聖女様を召喚して欲しい、とも思うが、そうするとまた日本から転移させられる犠牲者が増えるよね。そうさせないためには俺が頑張るしかないのか。

 はぁ、あの吐き気さえなければなあ。


 ちなみに俺の推測では、瘴気が濃くなれば空気感染をするのだろうと思っている。

 そのために、ユグドラシルが大気の浄化の役割を担っていた。

 200年前はユグドラシルもなかった。

 今は俺が植えたユグドラシルが早く育つことを祈ろう。

 そして、発見された瘴気は、小規模のうちにチマチマ浄化する!これが現実的だ。

 早期発見早期治療だ!


 そして・・・、最大の問題は、あの池にあった穢れの石は・・・誰がやったのか?

 自然発生のはずがないよね。

 誰が何の目的で?それにあの大きな穢れの石はどこから持って来たのか?

 あんな大きさの物が他にもあるのか?


 一方、陛下からいただいた俺の屋敷は、すっかりエリカ様を始めとする女性陣のセカンドハウスと化していた。

 家具はセンスの良い女性らしさ溢れる物で揃えられ、俺たちの部屋以外は美に染まっている。

 ランカスター家との境界を仕切っていた塀は取り払われ、広くなった庭をエミーちゃんがルクスに乗って駆け回っている。

 コーザさんと真司も部屋をもらって住んでいる。

 コーザさんは最初拒んでいたが、陛下の意向と言うとしぶしぶ了承した。ただし、もっぱらランカスター騎士団、特にフレッド団長と訓練や行動を共にしている。

 真司は大喜びで入居し、「雄輝さん、天国っす!」と言っていた。なぜか、エミーちゃんとルクスと、よく遊んでいる。子供好きなのかな?ロリコンじゃないよね?ジェームス様に殺されるぞ!


 ギルドランクは無事にSランクに昇進した。エドとコーザさんもね。

 大神殿にはまだ行っていない。散々お招きの手紙が届くが、俺は学業が忙しいのだ。


 ちなみに王国からの報奨金と買取金、象のオークションでの買取金で、俺たちの口座は金貨数万枚増えてしまった。エドも途方に暮れていた。

 ダンジョンで手に入れた財宝は、ランカスターの管財部門に預けて精査してもらっている。担当の人は目を丸くした後、頭を抱えていた。お金はもういらないけど、何か良い魔道具なんかあると嬉しいね。鑑定士とかいるのかな?


 色々目まぐるしい日々だが、来週から魔獣討伐実習だ。

 俺は学生会としての参加だ。今度は何も起こらないでくれよ。





「いたぞ!囲め!」

「俺が抑える!誰か魔術を!」

「ファイヤボール!」

「ギャー!俺に当てるなよ!」


 草原のあちらこちらで大騒ぎだ。

 ここは王都から馬車で2時間ほどの、街道から離れた草原。

 1年生の魔獣討伐実習の真最中だ。

 森からも離れているので、基本的に強い魔獣はいない。冒険者ギルドにも依頼して、1週間前から調査済みだ。しかし、1年ほど前から、全国的に魔獣の数は増加傾向にある。以前は、学生に討伐経験を積ませるため、冒険者が魔獣の追い込み役をやっていたようだが、今はその必要がないくらい魔獣が増加している。これも瘴気の影響なのだろうか?十分な注意は必要だ。


 1年生は5人でパーティを組み、そこに2人の冒険者が護衛兼討伐指導役としてついている。

 AクラスやBクラスの男子学生になれば、自身の領地で魔獣討伐に参加したことがある者も多く、この草原程度の魔獣であれば問題なく対処できている。

 大変なのは下位クラスや平民の学生で、魔獣討伐は初めてという者たちだ。

 ウサギに跳ね飛ばされ、狐に噛みつかれ、バッタに組み伏せられと大混乱だ。まあ、初めて魔獣と対峙すると怖いよね。これでも学院を卒業する頃には、立派に民を護る貴族になるのだから、学院の教育も中々のものだ。


 俺たち学生会のメンバーは、広範囲に拡がった実習現場で、どこにでもすぐに駆けつけられるように、馬に乗って2人組で巡回中だ。俺はリッキー殿下と組んで、ルクスに騎乗している。イアンは学生会メンバーだが、経験不足ということで実習参加だ。


「君の馬は本当に大きくて綺麗だね。王家にも中々いないよ。スレイプニルくらいのサイズだろう」


 リッキー殿下がルクスを見ながらしみじみと言う。

 そうか、リッキー殿下は知らなかったよね。


「ルクスは実はペガサスなんです。内緒ですけど」

「ペガサスだって!王家にもいないよ!あれ、でも翼がないようだが」

「はい。そのせいで子供なのに群れから追い出されたみたいです。それで怪我をして死にかけていたのを僕が偶然助けたんです」

「そうなんだ。どうりで他の馬とは雰囲気が違うわけだ」

「翼はないけどすごい能力ですよ。ジャンプすれば飛んでるみたいですし、天駆もできます。ブレスも相当の威力です」

「ペガサスってブレスできるの!?うわぁ、見てみたいけど、今日は無理そうだね」

「さすがに今日は1年生の実習ですし、ここの魔獣程度にブレスは必要ないですね」

「そうだね。でも父上が聞いたら羨ましがるぞ」

「ルクスは家族ですから。申し訳ありませんが献上はできません」

「そんな我儘はおっしゃらないよ。ただ馬がお好きなんだ。愛馬はスレイプニルだしね」

「そうなんですね。確かにお強そうだし」

「王太子時代もスレイプニルに乗って、先頭に立って魔獣討伐をされてたらしいよ」

「それは周りが大変そうですね」

「二つ名がランペイジプリンスだったからね。ハハハ」


 マジかよ。ランペイジブルは共喰いか?

 こんな会話をしながらのんびり見回る。

 もっとも、多くの学生たちは、顔を引き攣らせて死に物狂いなんだけど。

 初めての実戦で、魔獣にやられた怪我も多いけど、フレンドリーファイヤも結構多く、治療班は大忙しだ。

 後期に入って何となく元気がないように見えた聖女のレーナちゃんも、今日は治療班で大活躍中だ。彼女の治癒魔術は、学生レベルではピカイチだ。なので、周りも何となく聖女様として見ている。それに本人の明るくサッパリした性格もあって、第二王子さえ側にいなければ、皆んなと仲良くやっている。でも、今馬鹿王子の庇護がなくなると、彼女には家族もいないし何の後ろ盾もないんだよな。どうすればいいんだろう。


 ホーンの音が鳴り響く。昼休憩の合図だ。

 草原に散らばっていた学生たちが拠点に戻って来る。

 俺はサーチですべての学生たちの動きを確認する。

 特に危険な状況になっている者はいないようだ。

 リッキー殿下と一緒にルクスで走りながら、すべての学生が拠点に戻ったことを確認してから、俺たちも拠点に入った。


 今日の実習では自炊はない。魔獣との戦闘訓練が目的なので、昼食は学院側が炊き出しのようなものを用意している。スープとパンだ。

 俺とリッキー殿下が食事を受け取りに行ったら、ちょうどレーナちゃんも受け取りに来たところだった。


「あ、ユーちん」

「よう、レーナちゃんも今から?遅いんだね」

「怪我した人が多くって、今やっと終わったところ」

「それはご苦労様。よかったら一緒に食べる?」

「いいの!食べる、食べる!」


 そう言ったところで、俺の近くにいたリッキー殿下を見つけてギョッとした顔になる。

 俺は慌てて口に人差し指を当て、シーッと合図した。

 そうか、レーナちゃんも王宮にいるから、リッキー殿下のこと知ってるんだね。


「こちら学生会の先輩で2年生のスティングさん。スティングさん、彼女も一緒でいいでしょう?」

「もちろん。よろしくね、聖女様」


 そう言ってリッキー殿下はレーナちゃんにウィンクをした。


 俺たちは適当に空いているテーブルを見つけて座る。

 やっぱりレーナちゃん、少し元気がないように見えるな。


「レーナちゃん、夏休みはどうしてたの?」


 俺は、夏休み中に何かあったのかと思い、探りを入れてみた。


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