第146話 穢れの石
俺はガバッと立ち上がり、壊れかけの掘立て小屋の隅にあった水瓶に走った。
倒れて割れた水瓶の中は空っぽだ。
俺は感覚を最大限に研ぎ澄まして、水瓶の中を探知する。
これだ!
わずかに瘴気の嫌な感じが残っている!
他の水瓶を調べると、同様に瘴気の残滓が残ったいた。
「ユーキ!どうした?」
皆んなが俺の方に集まってきた。
「多分水です!この水瓶の中に瘴気が微かに残っています。ゴブリンはどこからか水を汲んできて、その水を飲んで瘴気に侵された。多分近くに瘴気に侵された水源があると思います!」
「なるほど、水か!」
「それなら他の魔獣も!」
「そうかもしれないな」
それなら簡単だ。ゴブリンが運んでこれるくらいの距離だ。
俺がサーチで周囲の様子を調べると、200メートルほどの近くに池があることがわかった。
「あちらの方向に池がありますね」
「よし、行ってみよう!」
俺たちは全員で、その池に向かった。
池にはすぐ着いた。
一周しても2、300メートルくらいの楕円の池。
そして、その池の水は・・・真っ黒だった。
全員が目の前光景に言葉を失くす。
日の光を受けてキラキラ光る真っ黒な水面。美しいよりも不気味な光景だ。
俺は皆んなから少し離れると、ストレージからスマホを取り出し、こっそりこの光景を撮影した。
池の反対側でフォレストウルフの群れが水を飲んでいる。やはりこの池が原因か。
俺は、フォレストウルフの光景も写真に納めた。
(こりゃヒドイなぁ。可哀想に、綺麗な水やったろうになぁ)
(ああ、瘴気まみれだね)
(早う祓わなアカンで)
(祓う?)
(ユーキが浄化言うとるヤツや。ハルも苦労しとったわ)
(えっ?ハルさんもやってたの?)
(やっとったで。鬼どもが都の水に『穢れの石』放り込みよって。そんたび、ハルの出番や)
(『穢れの石』って何?)
(昨日の黒い魔石みたいなもんや。もっとおっきいヤツやけどな)
(そうか。祓いってどうやるの?)
(よう知らん。場所作って、身ぃ浄めて、榊振って神さん降ろす言うてたな。キツそうやったで。やっとることはユーキの浄化と一緒や、知らんけど)
何と、清明さんも浄化をやっていたのか!しかも神の力を降ろして!それなら元々その力を貰った俺の方がずっと楽だよね。これは負けてられないね。
しかも、穢れの石を投げ込むか・・・。
ここも同じかな?
俺はサーチを使って池の中を探ってみた。
なんか石がゴロゴロあるな。これじゃあわからない。
気配探知も乗せてみる。
違う、違う、違う・・・。
あっ、これか?
瘴気独特の嫌な感じを出している石がある。
昨日見た魔石と比べてはるかにデカい!サッカーボールくらいはありそうだ。
それでも良かった!アレが原因なら取り除けばいい。
もしここに境界のヒビとかがあったら、どうしていいかわからなかったところだ。
あれ?フォレストウルフがこちらに気づいて向かってくる。
しかし、俺が出る幕もなく、あっという間に殲滅された。仲間が強いと楽だね。
俺は、ゆっくりと皆んなの元に戻った。
「ああ、ユーキ。何してたんだ?」
リッキー殿下が俺を見つけて聞いたきた。
「池の中を調べていました」
「池の中?」
「はい。池の中に瘴気の原因になっている石があります。多分」
「魔石か?」
「わかりません。かなり大きい石です」
「で、どうする?」
「取り出します」
「潜るのか?」
「まさか!こんな水の中に入りたくありませんよ」
「じゃあどうやるんだ?」
「色々考えられますが、ちょっと試してみます」
皆んなも集まってきた。
どうだろう。できるかな?行けそうな気がするけど。
普段から練習しとけば良かったよ。
俺は池に向かって両手を伸ばす。
こんなとき、つい手を向けちゃうよね。不要なんだろうけど、結局イメージしやすいのかな。側から見ても、なんかやってるように見えるしね。
さあ、ターゲットの石の周囲の魔力に干渉だ!
石を、動かした魔力で包み込む。
包み込んだ魔力をマギシールドのように固める。
よし行ける!この魔力は俺の支配下だ!
動くか?うん動く!
俺は石を包んだ魔力を操作して、石を持ち上げる。
池の深さは4、5メートルくらい。
行ける!
ザバーッ、と水面を破って、真っ黒な石が浮上して来た!
俺は慌てないよう、ゆっくりと石を引き寄せる。
空中を移動してきた石が、ドスンと俺たちの前に落ちた。
「これが原因か!」
やはりサッカーボールくらいの大きさがある。これも魔石なのか?
真っ黒な石は、目の前で不気味な存在感を放っていた。
「これ、近くにいても大丈夫なのか?」
誰かが不安そうに呟いた。
確かに不安になる存在だ。
俺は、リッキー殿下に断って、ストレージにその石を仕舞った。
フー、とため息が漏れる。
「あとはこの池だね」
「そうですね・・・」
「ユーキ、浄化するのかい?」
「まあ、放って置くわけにはいかないですから」
「大丈夫か?」
リッキー殿下の問いに答えられない。
さすがに規模が大きいな。自信が持てない・・・けど、清明さんもやってたんだよな。
今後、もし瘴気の浄化をして回るということになったら、こんな規模では済まないかもしれない。丁度いい練習だと思ってやってみよう!
「とりあえずやってみます。1日で終わらなければ、浄化できるまで続ければいいだけですから」
「無理はしないでくれよ。浄化できるのは君だけなんだ。王国として君を失うわけにはいかないからね」
俺は意を決して池の辺りに立つ。
さて、やるか!両手を池に向ける。
浄化!!
瘴気がドッと身体に吸収される感覚!
オエっ!!!
うわぁ、一気に来やがった!
オエッ!
なんか、やたらスムーズに吸収するな?
オエッ!
人間やルクスの治療したときより簡単に入ってくるぞ!
オエッ!
一旦休憩!
オエッ!
マジ吐きそう・・・。
俺は思わず膝をついてしまった。
「大丈夫か、ユーキ!」
リッキー殿下や皆んなが駆け寄ってくる。
「顔色が悪い!一旦休め!」
リッキー殿下が俺を支えてくれる。あざーす!
いやぁ、一気に吸収できるのはありがたいけど、気持ち悪すぎる。
自分に浄化をかけてみる。あ、少しスッキリした。
誰かがくれた水を飲んで、少し落ち着いた。
よし、やるか!
俺は再度浄化にチャレンジする。
30分ほどでまたダウン。
休憩だ。
このパターンを何度も繰り返す。
途中で魔獣が襲ってきたら、交代で倒していた。
リッキー殿下は俺の側につきっきりだ。心配そうに俺を見つめる王子様。だが残念!俺にはそちらの趣味はカケラもないのだ!
「おい!水が!」
「おお、だいぶ透き通ってきた!」
そうなのだ。何度繰り返したわからない浄化。おかげで池の水は徐々に透明度を増してきた。
よし!もう一踏ん張り!
それから俺は、気持ち悪さで数も数えられない中、何度も浄化を繰り返した。
そして・・・。
浄化!
あれ?気持ち悪くない・・・。
もう一度、浄化!
何も吸収されない。
終わった!!!
俺はバタンと後ろに倒れた。
「ユーキ!!!」
「あ、大丈夫です。やっと終わりました」
俺は、多分爽やかな笑顔でリッキー殿下を見る。
もう一度念を押すが、俺にそっちの趣味はない!
身体を起こして池を見る。
キラキラと輝く水面。底まで見える透明な水。なんて綺麗な水だ。
(トーダ、どう?)
(完璧や。綺麗な水やな。祓うんは、ハルよりユーキの方が上みたいやな)
(そうなの?)
(ああ、ハルはもっと苦労しとった。他は全部ハルの方が上やけどな)
(一つでも上があるだけいいよ)
「ユーキ、よくやった!本当によくやった!」
「すごい!」
「あの真っ黒な水が・・・」
「なんて綺麗な水だ・・・」
皆んなが口々に感想を述べる。
エドが俺の側に来て、肩をポンと叩いた。
「お疲れ!」
「ありがとう」
俺とエドは拳を合わせてグータッチをする。ダンジョン以来の習慣だ。
ああ、達成感!
「よし、少し休んだら戻ろう。誰かユーキを背負って行ってくれるか?」
「あ、大丈夫です。しばらく休めば戻ります」
「ダメだ!ここは僕の指示に従ってもらう」
はあ、仕方ない。お言葉に甘えよう。
俺はまたこっそりスマホを出して、美しく輝く池の写真を撮った。
結局、森の外の拠点に戻ったときは午後4時ころになっていた。
皆んなが腹減ったの大合唱になったので、俺はリッキー殿下との約束どおり、ストレージからランペイジブルの煮込みを出して振る舞った。
ウメー!やっぱりダンさんのランペイジブルの煮込みは最高だ!
全員が大絶賛だ。
リッキー殿下も作り方を教えてくれと言ったが、知らないんだよね。
他の人が作る煮込みとは一味違う。
この作り方を聞くのは野暮だ。これはダンさんに作ってもらうから価値があるんだよね。
腹が満たされたので、王都に帰還することにした。
ルクスは背負われて帰ってきた俺を見て、ひどく心配してくれたが、ダンさんの煮込みで復活だ。ルクスに乗って、日が傾きかけた草原を気持ち良く疾走した。
シャトルは俺の中でオロオロしていたそうだが、トーダが、見守るのも訓練だと言って抑えてくれていたらしい。シャトル、心配かけてごめんね。




