第144話 黒い石 病気の正体
「マックス、入るぞ」
陛下が声をかけて寝室に入る。
何も言われないので俺も後に続く。
薄暗い部屋の豪華なベッドに一人の青年が寝ており、近くには医師や治癒魔術師などが待機している。
「具合はどうだ?」
「父上・・・。申し訳ありません。中々回復しないようです・・・」
苦しそうな声で答え、身体を起こそうとしているのは第一王子のマックス殿下だった。
「よい。無理をするな。今日は一人紹介したい者を連れてきた。ユーキ」
俺はマックス殿下のベッドの側に進む。
「ユーキ・カムラ・シェフィールドと申します。マックス殿下のご尊顔を拝し光栄に存じます」
マックス殿下が苦しそうに俺を見る。
入学式の来賓挨拶で見た爽やかなイケメンが見る影もなかった。
「君がユーキ君か・・・。こんな姿ですまない・・・」
「いえ、どうやら私がお役に立てそうですので」
「?」
俺は陛下の方を見る。
「ユーキ、どうだ?」
「はい。間違いありません」
「やはりそうか。これまで原因もわからなかったが・・・。では頼めるか?」
「承知いたしました」
事情のわからないマックス殿下がキョトンとしている。
「マックス、これよりユーキがお前の治療をする。大丈夫だ。安心せよ」
陛下の言葉に驚く医師たち。
「黒い斑点は全身ですか?」と俺は医師に聞く。
「は、はい」
「では手伝って下さい。上半身からいきます。夜衣を脱いでいただいて下さい」
俺の指示に戸惑う医師たち。面倒くさいね。
「ユーキの指示通りにせよ!」
陛下の一喝で慌てて動き出した。
上半身裸になると、見事に全体に斑点が広がっていた。
でも、師匠ほどじゃないな。これならすぐ終わる。
「では治療を開始します」
そう言って、俺は両手をかざし浄化をかける。
光がマックス殿下の顔から胸部を包む。
オエッ!お約束の吐き気がやってくる。もう、何とかしてくれ!
光が収まると、顔から胸にかけての斑点が綺麗になくなった。
おおー、と声が上がる。
こっちは吐き気との戦いなんだ。さっさと済ませるぞ!
俺は次々に浄化をかけていく。
腹部。オエッ!腕。オエッ!背中。オエッ!
下半身も裸になる。
高貴な方は、裸で世話をされるのに慣れているようで、躊躇いはまったくなかった。
そして、あっという間に浄化が完了した。
夜衣を着てベッドで身体を起こしたマックス殿下は呆然と自分の腕を見ている。
「マックス、どうだ?」
「は、はい、父上。すっかり気分が良くなりました・・・。信じられない、あんなに苦しかったのに・・・」
「そうか、良かった。ユーキ、礼を言う」
陛下が俺に頭を下げる。
ダメですよ、国王が頭を下げちゃ!
「ユーキ君!君が治してくれたのか!ありがとう!本当にありがとう!」
マックス殿下の目から涙がこぼれる。
「いえ、臣下として当然のことであれば、礼など不要です」
「何を言うんだ!本当に感謝する。それで私の病気は一体何なのだ?」
「お答えする前にちょっとお待ち下さい」
俺は室内を念入りにチェックする。
あるな。2箇所。
(トーダ、怪しいやつは?)
(そこのメガネのヤツやな)
医師か。
俺はベッドの側にある薬のビンを手に取り、メガネの医師に問いかける。
「これは何ですか?」
「あ、あの鎮痛剤です」
おお、見事に挙動不審になってきたぞ。
「これはあなたが処方されたんですか?」
「は、はい」
「なぜこんな毒物を?」
「え?いや、そんな、それは鎮痛剤でして・・・」
(ウソ言うとるで)
(了解!)
「陛下、この者を拘束して下さい」
「捕らえよ!」
俺の言葉に一切の説明を求めず、すぐに指示を出す陛下。こういう信頼は好きだね。
近衛騎士がすぐに医師を取り押さえた。
そのとき部屋の入り口の外に待機していたメイドが部屋を離れる気配がした。
逃すかよ!
俺は魔装を纏って部屋を飛び出し、メイドの前に回り込む。
(コイツも怪しいで)
(わかった)
「君、どこに行くのかな?」
「あ、あ、あの、ちょっと仕事が・・・」
「そう、後にしてもらえるかな」
俺はそのメイドの腕を取り、強引に部屋に連れ戻した。
そして、今度は見事な装飾の銀のポットを手に取る。
「この水を用意したのは誰ですか?」
俺がそう言うと、俺が連れ戻したメイドがワッと泣き出してしゃがみ込んだ。
あーあ、可哀想に。どうせ誰かに脅されてやったんだろうけど。
部屋中の者が、何が起こったか理解できずに戸惑っている。
「ユーキ、説明してくれるかな?」
「はい、陛下。この薬とこのポットの水は瘴気で汚染されています」
俺は、桶を持ってきてもらい、ポットの水を全部桶に注いだ。
すると、中から黒い魔石が出てきた。
部屋がくらいな。俺は照明の魔術で部屋を適度に明るくする。
「それは魔石か!?」
「そうですね。どうやら、さっきのヤツと似てますね。神殿から調達したのかな?」
「なんという・・・」
「こっちの薬もこの水を使って調合していたのでは?」
俺が、他の医師を見ると頷いている。
「マックス殿下。このポットは以前からお使いですか?」
「ああ、私専用のもので、もう何年も使っている・・・」
「そうですか。どうやら、このポットに瘴気の魔石を入れて、殿下が飲まれる水を瘴気で汚染していたようですね。それが蓄積されて、今回の症状に至ったというわけです。犯人はその二人。ただし、黒幕は他にいそうですね。その二人は脅されてやったとか、そんなところでしょう。あとは魔石の出所ですが、こんな魔石があちこちに転がっているとも思えないので、神殿の中にも容疑者がいそうですね。まあこんなところでしょうか。あとはお任せします」
これ以上俺が出しゃばる必要はない。陛下の方できちんと対応されるだろう。
それにしても、第一王子の暗殺未遂とは穏やかじゃないね。
これもスタンリー公爵家が仕掛けたものなんだろうか?だとすれば最早内戦状態だな。
ジェームス様も気をつけてもらいたい。
俺はリッキー殿下の案内で、マックス殿下の部屋を後にした。
陛下とマックス殿下には何度も礼を言われ、かえって恐縮してしまった。
ジェームス様にも何度も感謝された。ジェームス様には、犯人が始末されないよう気をつけて下さいと言ったが、当然気がついているようだった。当たり前か。
「ユーキ、今日は本当にありがとう」
リッキー殿下がしみじみとした口調で礼を言ってきた。
「殿下。王族がそう何度も臣下に礼を言うものじゃありませんよ」
「王族と言っても僕は王位を継ぐわけじゃない。将来は君と同格か、もしかしたら君の方が上になってるかもね」
「馬鹿なことをおっしゃらないで下さい」
「ああ、悪い。冗談だ。でも、君とは本当に対等の友人でいたいと思っている。ベンと同じようにね。だから君も僕には遠慮しないで欲しい。王族という壁が、僕に対する発言を歪ませることこそ、僕が恐れることだ」
この方もきっと優れた指導者になるのだろうな。本当にこの世界の10代の若者のレベルはすごいね。ブライソン会長なんて見かけまでオッサンだからな。
リッキー殿下は王城を出るまで付き合ってくれた。途中食物倉庫に寄って、ランペイジブルを置いていくのも忘れなかったよ。リッキー殿下も好物らしく、大いに喜んでいた。
俺は一人になり、ルクスの上で思い切り伸びをする。
ハア、なんか疲れたな。俺って、何か動くたびに事件に遭遇してないか?
これはもしや主人公特性?などと馬鹿なことを考える。
まあいいや。今日はシャトルと遊べなかったから、夜は一緒に寝よう!
そんなことを考えながら、俺はランカスターの屋敷に帰った。王城から近くて便利!




