第143話 陛下の頼み事
大神殿の面々が帰ったことで、こちらも解散となり、エンシスさんとベンさんが帰って行った。俺はなぜか残されたのだが。
改めて、陛下ジェームス様、リッキー殿下と四人でソファに座る。
コーヒーが用意され、メイドさんが出て行ったところで陛下が切り出した。
「さて、これはリッキーにも知っておいてもらおうと思う。やはり聖女様の力はユーキに授けられていたようだな」
「え?どういうことでしょうか?」
リッキー殿下が陛下の発言に不思議そうな顔をする。
「リッキーよ。ユーキは、聖女様の国、ニホンからの召喚者だ」
「え!?やっぱりそうか・・・」
リッキー殿下が納得したような顔で俺の方を見る。
「本当です」
そう言って、俺はこの世界に転移してきた経緯を細かく説明した。
エルフのリルカ王の話しで、俺に女神の力が与えられたということにも得心がいったので、自分の浄化の力についても自信をもって話した。ついでにタブレットやスマホ、ボールペンなど、元の世界のグッズを見せて驚かせた。
「はあ、これで君の規格外の力にも納得がいったよ。しかしそうなると、兄上が抱えている聖女様は偽物ということになってしまうのか」
「そういうことになりますが、それで彼女を責めるのは筋違いです。彼女は15歳で日本にいる家族や友人たちから無理矢理引き離され、たった一人で何もわからないこの世界に放り込まれたんです。それがどれほど悲しく、辛く、不安だったか。そのことは是非ご理解いただき、彼女には絶対に不幸な目には遭わせないようご配慮いただきたいと思います」
「それは約束しよう。彼女には何の罪もない。むしろこちらが罪を負うべきだ」
この国王も立派な人格者のようだ。安心した。
「しかし、それはユーキにも言えることだな」
「いえ、私は元々28歳という大人でしたし、元の世界に家族もおりませんでした。そしてこちらに来てからは、ジェームス様やエリカ様、シェフィールド家から十分以上にお世話いただき、元の世界よりも友人もでき、楽しんでおりますので」
「そうか、そう言ってもらえるとこちらも少しは気が楽になる」
「ちなみに、もう一人日本から転移してきた者がいます」
「何だと!」
「リッキー殿下は会われたことがあります。真司という私のパーティメンバーです」
「彼もそうなのか!」
「はい。私や聖女様と同じ日に同じ場所にいたらしく、召喚に巻き込まれてこちらの世界に飛ばされたようです。ただ、なぜか彼だけは私たちよりも5年前にこちらの世界に来たようで、その辺の仕組みはよくわかりません。彼は、こちらの世界でいう衛兵本部のような組織の武官で、特殊任務を担当しておりました。私とも一度同じ作戦を遂行した仲で、かなりの腕前で信用もできる人間です」
俺の話しに陛下が深いため息をつく。
「アルフレッドの馬鹿な行いのせいで、三人もの人間に影響を与えていたのか・・・」
あらら、陛下が落ち込んじゃったよ。
そうだ、ついでにあの話しを聞いておこう。
「陛下。話しは変わりますが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
「なんだ?言ってみよ」
「アルタイル王国は、以前はエルフの王国だったのでしょうか?」
陛下の目が大きく見開かれた。やはりそうだったのか。
「どこでそれを知った?そのことは代々国王以外には知る者はいないはずだが」
陛下が静かな声で問うてくる。
俺はダンジョンでの出来事を詳細に話した。
俺たちが見せられたエルフの王国、ユグドラシル王国の繁栄。
帝国の侵略による悲惨な滅亡。
エルフと女神ユリスとの関係。
この世界の浄化を担う大樹ユグドラシルのこと。
神界から追放された堕神サマトとその企み。
瘴気の正体。
勇者や聖女が召喚される理由。
浄化の力は女神の力の一部であること。
エルフと女神ユリスとの約束。
エルフの滅亡により、約束が果たせなくなったため、その任務を託す相手を待って、アンデッドとしてダンジョンの中で1000年以上も待ち続けていたこと。
200年前の聖女様はエルフの元に現れなかったこと。
そして、俺が瘴気の漏れる境界修復の道具を預かってきたこと。
話しを聞き終わった皆んなは声を失くしてしまった。
まあ驚愕の話だよね。
しばらくして、陛下がようやく口を開いた。
「まさかエルフにそのような役割があったとは・・・。帝国はなんてことをしたのだ」
誰も何も答えない。いや答えることができない。
「王家に伝わる真実の歴史と言われるものがある・・・」
そう言って陛下が語ったのは、学院の歴史書とは異なる歴史だった。
一般に歴史書では、帝国の圧政に苦しむ領民を解放するために立ち上がった男が、次々に領民の蜂起を促し、仲間を集め、やがて今の王都に攻め込み帝国を撃退して建国したのがアルタイル王国とされている。そのどこにもエルフの姿はない。
しかし、真実は、アルタイル王国はエルフの国ユグドラシル王国の庇護を受ける西の小国だった。帝国の侵略の際、ユグドラシル王国から共に戦うよう要請されたが、アルタイル王国は帝国を恐れて戦いに参加せず、国に引きこもってしまった。
そして、戦いが終わった後に見たものは、エルフの滅亡と帝国軍の壊滅。そして荒廃したユグドラシル王国。
そのときのアルタイル国王は、これをチャンスと捉えた。
ユグドラシル王国は肥沃な土地。これを欲しいと思ったのだ。
アルタイル王国はボロボロになったわずかな帝国の敗残兵を掃討して周り、旧ユグドラシル王国の領土のほとんどを手に入れることに成功した。まるで火事場泥棒のように。
そして歴史も書き替えられた。
それでも、初代国王は自らの行いに深い後悔と恥を感じた。
そのため、王国の貴族には必要以上に高貴な振る舞いと、民を重んじる姿勢を要求し、せめて現世の治世において後ろ指をさされぬよう努めた。
そして真実の歴史書を一冊だけ作成し、国王にのみ引き継がせて、統治の反省にする資料とした。
そんな話だった。
これもまた重い話だな。
小国の生存戦略として間違いと断ずることはできない。
しかし王族としての恥の意識が強かったのだろう。
この事実をあえて自戒のために残すなど、ある意味高潔とも言える。
結果として、自国民は護ったのだから、統治者としては正解なのだろう。
国家の最大の目的は、国土と国民を護ることなのだから。
「よろしかったのでしょうか、私どもが聞いて」
「構わん。ここにいる者は信用している」
ジェームス様の問いに陛下が無造作に答える。
「それにしてもエルフの王が今もダンジョンにおられるのか」
「はい。まあ、アンデッドとしてですが、魂はしっかりと」
「お会いすることはできるのか?」
「ダンジョンに行けば可能です。ダンジョンの護られた場所を離れると、自我を喪失して本当のアンデッドになってしまうので、その場所を離れられないそうです」
「そうか・・・。いつかお目にかかり、先祖の不義理をお詫びしたいものだ。そのときは頼めるか?」
「もちろんです。大変美しく、気さくな方たちです」
「そうか・・・そうか、美しく気さくな方たちか・・・」
陛下は微笑みながら目を細めた。
「む?いかん、だいぶ遅くなったな。すぐ食事を用意させよう」
「いえ、私はすぐに下がらせていただきますので」
「いや、この後もう一つ頼みがあるのだ」
ジェームス様の方を見ると小さく頷いた。
ならばやむを得ない。俺は上げかけた腰を再度下ろした。
夕食はすぐに運ばれてきた。
ダイニングテーブルに移動して陛下と一緒に食べる。
何だかディープな話が続いたせいか、緊張はすっかりなくなってしまった。
食事は牛肉のステーキ。
特にパーティ料理ではないので、豪華というわけではないが、素材はさすがに美味い。
しかし、肉はやっぱりランペイジブルが一番だな。
そうだ、1頭置いて行くか。
「陛下はランペイジブルはお好きですか?」
「ランペイジブルか!あれは美味いな。だが中々市場に出回らん。城にも滅多に入ってこないのだ」
「失礼でなければ1頭お譲りいたしましょうか?」
「何?本当か!」
「はい、ダンジョンで乱獲しまして、ストレージにかなり入っております。あ、ランカスターのお屋敷にも置いてきましたよ」
ジェームス様がチラッとこっちを見たので、すかさず言っておく。
「それはありがたい!買い取るので是非頼む!」
「いえ、代金はいりません。本日の食事のお礼ということで」
「随分豪気なお礼だな。まあ、今日のところは甘えておくか」
「では後ほど」
食事が終わると陛下に連れられて移動する。
護衛の騎士二名に伴われて、渡り廊下のような所を通る。
「こっちは僕たちの居住区域の宮殿だよ」
なるほど。こっちは内廷というわけか。
複雑な造りの廊下や階段を降りて、一つの部屋の前に着いた。
ここにも警備の近衛騎士が立っている。
中の様子をサーチで調べるのも不敬なので、黙って陛下について部屋に入る。
入った瞬間、俺を襲う不快感。
ウッ!何でこの部屋に!




