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ハルノオト〜聖女召喚の欠陥品ー俺は男だ!〜  作者: 島村都心
第二部【王立ロマリア学院1年】
142/179

第142話 浄めの盆

 それから俺たちは奥の応接室に入った。ベンさんはこの部屋慣れてるね。

 ちなみに侍女は美人揃いだ。真司が見たら文句言いそう。

 豪華なソファに美人の侍女さん。初めての王城なのに弾まない会話。

 もっと明るい話題のときに来たかったな。いや、王城なんて来なくてもいいけど。

 しばらくすると文官が戻って来た。


「すぐに執務室に来るよう仰せです」

「わかった」


 リッキー殿下が立ち上がる。

 俺たちもすかさずそれに倣う。

 ヒエー、いよいよ王様と面談だよ。元の世界で外交官として王族と会ったことはあるけど、俺はオマケだったし、何より絶対王政の本物の権力者の国王なんて初めてだ。さすがに緊張する。

 エンシスさんも、ガチガチだね。

 ベンさんは護衛も兼ねてるから、どこに行くのも一緒のようだ。


 長い廊下を進んで、国王の執務室に到着した。

 入口に二名の近衛騎士が立っている。

 リッキー殿下が来訪を告げると、中から仕事の出来そうな文官が現れ、俺たちを案内してくれる。中の作りはリッキー殿下の部屋を大きくした感じで、何人かの文官が机仕事をしていた。

 奥に進んで応接室に案内される。

 うわー、いよいよ王様だよ!


「リッキーです。入ります」


 リッキー殿下に続いて応接室に俯いたまま入った俺は、すかさず顔を上げずに跪く。

 それを見たエンシスさんも慌てて俺に倣った。

 これ、作法合ってるか知らないからね!


「ユーキ・カムラ・シェフィールド。面を上げよ。直答を許す」


 穏やかなバリトンの声が響く。

 俺はゆっくりと顔を上げて正面を見る。

 あれ?ジェームス様がいる。

 超豪華なソファに、緩くウェーブのかかった金髪、青い目、リッキー殿下を渋くしたような40代のイケおじが座っている。国王陛下だ。

 そして、斜め横の椅子にジェームス様が座って、こちらを見て笑っている。なんで?

 とりあえずご挨拶。


「ユーキ・カムラ・シェフィールドにございます。国王陛下のご尊顔を拝し恐悦至極に存じます」

「ああ、ここは謁見ではない。楽にせよ。エンシスも久しぶりだな」

「ヒャい!」

「リッキーもユーキたちもこちらに来て座りなさい」


 良かった。威厳はあるが優しそうな人だ。

 俺は緊張しながら進められた席に座る。


「ユーキ、会いたかったぞ。お前には随分世話になった。できれば王城に呼んで、叙勲や叙爵をしたかったが、ジェームスやリッキーが止めるもんでな。やりすぎると逃げられると言いおる」

「もったいないお言葉です。そのお言葉だけで十分かと」

「つれないことを言うな。報奨金と古代獣の買取の方は間もなく決裁がおりるはずだ。しばし待て」

「ありがたき幸せ」

「おい、少し言葉を崩せ。この部屋では構わん」

「ユーキ、陛下のお心遣いだ。普通通りにしなさい」


 ジェームス様がフォローしてくれる。


「それでリッキー、用件は何だ?特Aとは穏やかではないが」

「はい。結論から申し上げます。本日瘴気が確認されました」

「ショウキ?ショウキとは?」

「200年前聖女様が浄化された瘴気です」


 ガバッと陛下とジェームス様が立ち上がった!


「何だと!まことか!?」

「はい。この先はユーキからご説明させていただきます」


 え?こっちに振るなよ!

 リッキー殿下は一切こっちを見ようとしない。

 この野郎!王族でも許さんぞ!なんてこと言えるわけもないので、仕方なく説明する。


 まず、最初に俺が王都郊外に馬を走らせに行ったとき、ゴブリンを発見したことから、ギルドへの報告、ギルドの調査、そしてゴブリンの集落が発見されたためギルド依頼で討伐が行われたこと、その際に負傷した冒険者が治癒後に黒いシミや斑点が広がり、体調不良になっていたこと、通常の治癒魔術では回復しないので、たまたま今日ギルドに学院の用事でリッキー殿下と共に訪れた俺が治療に当たったこと。

 あれ?黒いシミと斑点のところで、陛下の表情が少し動いたような。


「それで、その黒いシミや斑点を瘴気と判断した理由なのですが・・・」


 ここでまたトーダに登場してもらって、精霊の話しをする。

 ジェームス様はトーダのこと知ってるよね?スタンピードのときトーダに乗って行ったから。

 あれ、あのとき姿見せてたっけ?ドタバタしてたから忘れてしまった。

 今は、全員がトーダの威圧で動けなくなっている。


「あの、この姿は仮の姿で、本来は巨大な龍なんです。トーダ、もういいよ」


 トーダが俺の中に引っ込むと、ホッとため息が漏れた。


「何とも、大精霊様の力とは凄まじいものだな」


 陛下がしみじみと呟く。


「そういうわけで、私は過去に二度、瘴気の浄化を行っていましたので、今回の件もまず瘴気で間違いないと思います。そうだ、ジェームス様。メイデン師匠も瘴気に侵されていました。それも全身に及ぶくらい重症でした」

「何だって!いや、そうだったのか、早く教えてよ、ユーキ」

「だってジェームス様、屋敷におられなかったし、手紙では書けませんでしたし」

「そういえばずっと王城泊まりだったね」


 そう、俺がダンジョンから帰って来て、ジェームス様と会うのは今日が初めてなのだ。


「でも、そうなると先生がどこに行かれたかわからないけど、そこにも瘴気があるということか」

「そうなりますね」


 詳細はわからないが、確実にこの世界に異変が生じている。

 陛下が俺をじっと見る。


「ユーキ。お前には浄化の力があるのだな?」

「はい。そう思います」

「疑うわけではないが、念のため確認させてもらってもよいだろうか?」


 随分と丁寧な国王だ。俺なんかにそんな下手に出なくていいのに。


「もちろんです。陛下がお命じ下さればいくらでも」

「すまんな」


 そう言って陛下が文官を呼んだ。


「大至急大神殿に連絡して、大神官に浄めの盆を持って今すぐ登城するよう伝えろ」

「はっ!」


 ああ、聖女ちゃん、じゃない、レーナちゃんが確認させられた浄化能力の判定器具か。

 とうとう神殿にバレるのか。

 まあ、いつまでも隠しておけるわけじゃないしね。


「これで神殿にお前の能力が知られることになるが構わぬか?」

「はい。遅かれ早かれいずれは知られることは覚悟しておりました。なので問題はありません。ただし、私が神殿入りすることはご勘弁いただきたいと思っております」

「それはこちらとしても同じだ。お前を神殿に取られるわけにはいかん。お前には王国のために、マックスやリッキー、それにジェームスたちと共に働いてもらいたい」

「お名前の方たちと同列は僭越ですが、もったいないお言葉、感謝いたします」


 それから、大神官を待つ間、今後の対応について協議された。

 まず、明日にはゴブリンの集落のあった場所の調査を行う。調査メンバーは、リッキー殿下を責任者とし、側近のベンさん、俺、ギルドからエンシスさんともう一人、第二騎士団から副団長のカインさんと数名、ランカスターからエドということになった。

 そして、情報共有範囲、秘密保持、同盟国との情報交換、ギルドでの対応等々。特に、冒険者で同様の症状が出たものがいる場合、当面、魔獣の毒ということで対応する。さらに、この情報は、王国内に限らず、各国のギルドにも伝達が必要になる。エンシスさんは頭を抱えている。


 そうこうするうちに、大神官が到着したとの連絡が入った。

 連絡が入ってから15分ほどして、真っ白な法衣を纏った優しげな表情の老人と、青い法衣を纏った理知的な表情の中年の男性が現れた。長い白髭とかじゃないんだね。後ろには重そうな箱を抱えた二人の従者がいる。あれが浄めの盆とやらか?



「陛下、お呼びと伺い参上いたしました」


 法衣の二人は両手を胸の前で合わせて、丁寧に礼をした。


 (トーダ、この人たちはどう?)

 (大丈夫や。悪い気は出てへん)


 良かった。一安心だ。宗教関係は何かと面倒だからね。


「よく来てくれた、アクィナス殿、ドミニコ殿」


 陛下がにこやかに迎え入れる。関係は良好のようだ。


「さて、浄めの盆をとの仰せでしたのでお持ちしましたが、またレーナ殿のお試しでしょうか?」

「いや、今日はあの娘ではない。ともかく浄めの盆を出してくれるか?」


 陛下がそういうと、大神官は首を傾げながらも従者に浄めの盆を出すよう指示をした。

 豪華絢爛な刺繍の入った白い布を取り払うと、黒い金属の箱が現れた。

 何だ、これは?もしかして鉛の箱か?おいおい、中に放射性物質でも入っているのか?

 従者が二人がかりで重そうな蓋を持ち上げる。

 アクィナスさんと呼ばれた老人の大神官が、箱の側に行き、中から直径30センチくらいの銀色のお盆を取り出した。


 おっ、嫌な気配がするね。


 陛下はそのお盆を近くのテーブルの上に置かせた。


「ユーキ、こちらへ」


 陛下からご指名が入った。

 俺は陛下の近くに行き、浄めの盆とやらを見る。

 厚さ5センチくらいの、魔法陣のようなものが刻まれた銀色の円盤。

 そして中央には2センチほどの小さな魔石。その色はどす黒く染まっている。

 間違いない。瘴気だ!


「ユーキ、これがわかるか?」と、陛下が問う。

「はい。瘴気の入った魔石ですね」

「浄化できるか?」

「この程度なら数秒です」

「ではやってみてくれ」


 俺は魔石に両手をかざし、浄化を発動する。

 オエッ!また来たよ。でも、この程度なら軽いもんだ。

 魔石が光に包まれて、すぐに収まった。

 後にはキラキラ輝く透明の魔石が残っていた。

 しかし、まだ瘴気の気配が止まない。なぜだ?

 俺が首を傾げていると、陛下が俺に声をかけてきた。


「どうしたユーキ。何か問題でも?」

「いえ、浄化したのですが、瘴気の気配がまだどこかに残っているので」

「ああ、それならこの盆そのものだろう。この盆は、永遠に魔石に瘴気を流し続ける仕組みらしい」

「なるほど、そういう装置ですか。誰かが魔石の浄化をしても、再利用できるわけですね」

「そういうことだ」


 俺と陛下がのんびり話していると、周りがざわつき始めた。


「へ、へ、陛下!これは一体!」


 アクィナスさんが駆け寄ってきた。ドミニコさんは口を開けたまんま立ち尽くしている。


「見ての通りだ。浄化したようだな」

「こ、こ、この方は!?」

「ユーキ・シェフィールド。シェフィールド伯爵家の四男だ」

「シェフィールド家の・・・」


 アクィナスさんが俺をじっと見つめる。老人趣味はないので見つめないで欲しい。

 すると、いきなり俺の前に跪いた。


「その黒い瞳に黒い髪。まさに聖女様!」

「やめて下さい!私は男です!聖女様ではありません!」

「いや、しかし・・・」

「しかしもヘチマもありません!男ですから!」


 こら!俺の股間を凝視するな!変態ジジイめ!


「その内耳に入るかもしれんからあらかじめ伝えておこう。ユーキ・シェフィールドは、欠損の修復再生もできる」

「え?やはり聖女様・・・」


 欠損の修復の件は、ジェームス様が陛下に報告していたんだな。


「ユーキ・シェフィールド様!是非大神殿にお越しください!すぐに大神官の地位をご用意します!」


 やっぱりこうなるよね。早目に養子に入っておいて良かった。


「大変光栄なお申し出ですが、謹んでお断りさせていただきます」

「そうおっしゃらずに!最高の環境をご用意いたします!住居も教育も護衛も!」


 すると陛下が助け船を出してくれる。


「諦めよ、アクィナス殿。彼はシェフィールド家だぞ。しかもランカスター家も後見についている。それに、彼自身ですでに金貨数万枚は持っている。自分で稼いだ金だ」

「教育も大神殿では無理じゃないかな。ユーキは1年生の首席で、入学直後に必修科目すべての修了試験に合格してるし」

「護衛も不要でしょう。ユーキは、今月中には冒険者ギルドのSランクに昇格予定です。多分神殿騎士の誰よりも強いと思いますよ」

「ついでに言うと、ランカスターとシェフィールドのスタンピードを殲滅した英雄の一人です」


 陛下に続いて、リッキー殿下、エンシスさん、ジェームス様が追い討ちをかける。


 次々と告げられる話しを呆然と聞いていたアクィナスさんが、ガックリと肩を落とした。

 そんなガッカリするなよぉ。宗教に束縛されたくないだけなんだから。


「アクィナス様。改めてご挨拶申し上げます。ユーキ・シェフィールドと申します。大神殿に入ることはご遠慮申し上げますが、私でお役に立つことがあれば協力は惜しみません」

「まことですか!?」

「はい。ただし、教会神殿のシンボルになったり、聖女様のように大々的に宣伝されるようなことがあれば、一切の関係を断たせていただきますが」

「では、欠損の治療などは?」

「それは時間があるときならばやりますよ」

「報酬などは?」

「冒険者ギルドでは金貨3枚でやっています」

「たった3枚!」

「教会や神殿なら無料でいいんじゃないですか?あとは本人の寄進で。私で集金するようならお断りしますが」

「そんなことはいたしません!まさに聖女様!」

「だから男ですって!それに気が向いたらですから、そんな褒められたものじゃありません」

「わかりました。是非一度大神殿にお越し下さい」

「はい。時間があるときにふらりとお邪魔します。ユリス教関係は私も勉強不足ですので、色々教えていただくこともあろうかと思います」


 俺たちの話しが落ち着いたところで、陛下がアクィナスさんに言った。


「アクィナス殿。心して聞いて欲しい。瘴気が出たやもしれん」

「瘴気が!」

「もう少し我々で調査する。詳細がわかれば追って知らせる。神殿の方には神託がないか注意しておいて欲しい」

「承知しました。それにしても瘴気が・・・。神託も無しに聖女様の召喚などをした報いであろうか・・・。あっ、申し訳ありません」

「よい。あれはアルフレッドが悪い。まったくとんでもないことを仕出かしおって。いずれにしろ、詳細はおって知らせる。それまでは秘密にしておいてくれ」


 こうしてアクィナスさんたちは帰って行った。

 帰り際はなぜか二人ともご機嫌だった。俺、絶対大神殿になんか入らないからね!


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