第138話 サンショウウオの棲息域
午前6時、朝食を済ませた俺たちは拠点を出発した。
昨日の道に戻り、進み出すと、何度か魔獣に襲われ出す。だが特に問題もない。
やがて、幅の広い清流に行き当たった。
火山地帯にこんな清流が?それに何か大きなものが近づいて来る!
シャトルが久しぶりに低く唸る。警戒対象だ!
「ペインさん、何か来てる!」
「ここなら多分火吹きトカゲだろう」
全員が戦闘体制に入る。
おお、川上から、川下から、そして前方からの3箇所。結構デカいな。
「ユーキ。戦ってみるか?」
「うん、ウチでやらせてもらう」
俺の目配せに、エドとコーザさんが頷く。ペインさんはなぜかニヤニヤしている。
そして、1匹目が現れた!
全長7、8メートル。体高2メートル。平べったい4本足。赤茶けた色に黒い斑点のヌメヌメした体表。
トカゲ?いや、これサンショウウオだろう!
子供のころ、田んぼの畦道でサンショウウオに遭遇して、何かわからず絶叫して逃げ出したことを思い出した。怖かった・・・。
巨大サンショウウオはゆっくりとこちらに近づいて来る。
コーザさんが先手必勝ばかりに、一気に巨大サンショウウオを斬りつけた!
ボヨーン。
え?
コーザさんの剣が跳ね返された!マジかよ!
俺とエドも左右に展開して斬りつける、が、ボヨーンと跳ね返される。
斬れない!まるでゴムのようだが、もっと柔らかく、弾力がある。
試しに殴ってみるが、衝撃が吸収されてしまう!
なんだよこれ?
川下からももう一体現れた。
こちらに向かって大きく開いた口に魔力が集まる!
「離脱!」
俺の声に、エドとコーザさんは一気に上空に駆け上がる。もちろん俺も。
俺たちのいた場所を豪炎が通りすぎた!すごい火力だ!
炎を吐いたサンショウウオの頭に、ルクスがジャンプして蹄を叩きつける!
ボヨーンと、ルクスの打撃も跳ね返された!
シャトルは尻尾に噛みつこうとして、噛み斬れず悪戦苦闘している。
くそ、前からも来た!これで3匹。剣も打撃も通用しない。
やはり口内にパイルバンカーを叩き込むか。
正面から現れたサンショウウオが大口を開けた!
よし、今だ!
俺は口内に向かって思い切りパイルバンカーを撃つ!
ボヨヨーン!
嘘!何が起こった?
よく見ると、口内の奥はピンクの壁のようになっている。やめてくれよ!口の中まで攻撃吸収かよ。ヤバッ!炎が来る!俺はあわてて上空に逃げた。
「どうだ?ユーキ。中々の相手だろう」
ペインさん、そのニヤニヤやめてくれ!
下からこちらを見上げる3匹のサンショウウオ。
とぼけた顔が無性に腹立たしい。
剣が駄目ならと魔術を試してみるが、どれも効果がない。
火魔術は、どれだけ炎を浴びても平然としている。
土魔術で岩石を落としてみたが跳ね返す。
氷魔術は凍らせる前にパキンと弾かれた。
金魔術で鉄の弾丸を作って撃ち込んでも跳ね返された。
練習中の雷魔術を使ってみたら、痺れて数秒動けなくなったが、俺の威力では倒すには至らない。
腹の下から石の槍を土魔術で出しても、サンショウウオの重量に負けて石の槍が砕けた。
風や水で足止めはできても、倒す手段が思いつかない。
コーザさんは1匹を相手にひたすら剣を叩き込んでいるが、傷ひとつつかない。
相手の攻撃力が大したことないので、こちらも被害は受けないが、どうにも倒しようがない。
柔らかいのが最大の防御とは。
「はあ、参ったな。降参するよ。ペインさんたちどうやって倒したの?」
俺は空中で隣に立つペインさんに両手を上げて見せた。
「倒してないぞ。アレは今のところ無理だ」
「え?」
「俺たちも同じだよ。色々試したが一度も倒せない。幸いアイツは動きが遅い。だから、最近は無視して上を通過している」
「そうなの?」
「だって倒せないだろう」
「確かに」
俺は釈然としない思いで、下のサンショウウオを見やる。
ん?何だ?
サンショウウオが短い四肢を縮めた。
何をする?と思ったとき、サンショウウオが岩壁の方に向かってピョンと飛んだ!
速い!
と思ったら、今度は岩壁を蹴ってこちらに飛びかかって来た!
オワッ!
俺とペインさんはあわてて更に上空に回避する!
ヤバッ、同じ方向に逃げたせいでペインさんにぶつかった。
そのとき俺の右足に何かが絡みついた!
見ると、空中に飛んだサンショウウオの口から伸びた舌が、俺の右足に巻きついていた!
カメレオンかよ!
ヒエー!猛烈な力で大きく開いた口に引き寄せられる!
魔刃刀で舌を斬りつける!
ビヨーン!
駄目だ!ヤバい!食われる!
「ユーキ!!」
誰かが叫ぶ!
サンショウウオの口が迫る!
前を見ると、サンショウウオの顔に穴が見える。
咄嗟にその穴に魔刃刀を突き刺した!
グサッ!
初めての手応え!鼻の穴だった!
ピギャー!
サンショウウオの叫びが上がり、巻きついた舌が解かれた!
俺は、落下するサンショウウオの鼻の穴に刺した魔刃刀に魔力を込めて、更に魔刃を奥に伸ばした!
再び上がるサンショウウオの絶叫!
俺は刀を鼻から抜きながら、サンショウウオの顔を蹴って離脱した。
「大丈夫か!ユーキ!」
ドーン、と大きな音を立てて、サンショウウオが地面に落ちた。
落下の衝撃は受けていないようだが、鼻から盛大に血を噴き出している。
皆んなが俺の側に集まった。
「大丈夫。それより、攻撃が通る箇所が見つかったよ」
「ああ、鼻の穴か。しかしどうやって攻撃する?」
「超接近戦になるけど、鼻の穴からパイルバンカーをぶち込んでやる!」
鼻の穴は直径10センチくらい。そこから脳に届くくらいにパイルバンカーを撃ち込む!
俺をビビらせた報いを受けさせてやる。
「それと、ジャスパーさん、エクスプロージョンできるよね?」
「ああ、鼻の穴に撃ち込むんだな。しかし、遠距離からあの小さな穴に撃ち込むのは至難の技だぞ」
「だから接近戦だよ!」
俺はそう言って、サンショウウオに向かって駆け降りる。
天駆でジグザグに走りながら、サンショウウオの背中に着地する。
ズルッと足が滑る。うわぁ、表面の滑りで足を取られる。
あわてて天駆に切り替えて、サンショウウオの背中を走り、頭の上でジャンプすると
、身体を捻ってサンショウウオの鼻先に立つ!
「食らえ!」
俺は思い切りサンショウウオの鼻の穴にパイルバンカーを撃ち込んだ!
ピギャー!!!
サンショウウオの大絶叫が響き渡り、グシャっと潰れるようにサンショウウオが突っ伏した!
俺は、そのまま天駆で2匹目のサンショウウオに向かい、同じ要領でサンショウウオの鼻の穴に、今度はエクスプロージョンを放った!
ボム!と鈍い音がして、サンショウウオの頭の中で爆発が起きる!
悲鳴を上げる間もなく、サンショウウオは絶命した!
俺は皆んなの元に戻るとジャスパーさんに微笑んだ。
「ね、こんな感じ」
「なるほどね。で、1匹残ってるのは僕にやれってことかな?」
「双翼も1匹は欲しいでしょう?アイツの皮、かなりいい防具になると思うよ」
「ははは、僕は接近戦は得意じゃないんだけどね。君の余計な配慮に感謝するよ」
ジャスパーさんは、ちょっとうんざりしたように笑った後、ペインさんとカールさんに急かされ、サンショウウオに向かって行った。
接近戦が得意じゃないと言いながら、ジャスパーさんは見事な動きで軽業師のように立ち回り、見事にエクスプロージョンでサンショウウオを仕留めてみせた。
「いやあ、火吹きトカゲが手に入るとはラッキーだったな。これもユーキがヤツに捕まったおかげだな!」
ペインさんは上機嫌に笑う。
俺たちはサンショウウオの棲息域を離れて先に進んでいる。
「ペインさんが邪魔するから捕まったんだよ!」
「お前がドン臭いからだろう。次はちゃんと逃げろよ。ワッハッハ」
最初のカッコいい印象とは真逆の性格だったよ、この人。
「まあいいや。それと、アイツ、トカゲじゃなくて多分サンショウウオだよ」
「サンショウウオ?初めて聞くな」
「綺麗な水のあるとこに住んでる。水中も陸上もいける両生類。カエルみたいな感じだね」
「なるほど。さすが学院生だな。なんかトカゲとは違うと思ってたんだよ。わかった、ギルドにはそう報告しておこう」
そんな話しをしながら2時間ほど進む。
途中の魔獣は相手にならない。
そして、小さな岩がゴロゴロ転がっている、少し拓けた場所に着いた。
「ここからだ。気をつけろよ。すぐに噴火が始まる」
ペインさんのその言葉が終わらないうちに、ゴゴゴゴと地鳴りが始まり、地面が揺れ始めた。
そして前方に見える山の頂から、ドーンと激しい噴火が起こった!
噴き上がる噴煙と炎!
流れ出す溶岩!
「逃げろ!」
ペインさんの指示を聞くまでもなく、全員が逃げ出す!
ゴッ、ゴッと音を立てて近くに落ちてくる溶岩や岩石!
怖しい速度で流れてくる赤黒い溶岩の波!
これはヤバい!
全員が頭上にマギシールドを張りながら、空中に逃げる。
「ここいらまで来ると大丈夫だ!」
ペインさんの言葉に、全員が空中に留まり、まるでこの世の終わりのような目の前の光景に見入っていた。
「これが約1時間続く。噴火が終わると、何事もなかったように元の地形に戻るんだ。そして、また足を踏み入れた途端、噴火が始まる」
「上空は?」
「一定の高さまで行くと、目に見えない壁にぶつかって、それ以上上に行けない」
「他のルートでも?」
「同じだ。どこから行っても、似たような場所に出て、そこで噴火が始まる」
「ということは、このダンジョンは、先に進むためにはどうしても噴火エリアを抜けなきゃならんということか」
「どうもそういうことみたいだな。俺たちが見つけてないルートがあれば別だが」
俺たちの質問にペインさんが答えてくれる。
斥候のサムさんたちは、上空から降ってきた溶岩に足を潰され、それを助けようとして二人が重傷を負ってしまったらしい。
これは確かにキツイな。マギシールドであの溶岩や岩石を1時間持ち堪えることができるだろうか?一発でも食らったらお終いだ。魔装を纏っていても、溶岩に耐え切れるだろうか?
これをクリアできるような防御方法。
俺たちの頭上を広範囲に覆って、噴火の嵐に耐え得るほどの強度を持ったマギシールドか・・・。
いや、さっきのサンショウウオは柔らかかったな。別に硬くなくても防御はできるか。
あのサンショウウオの皮で、被り物でも作れば突破できる?
コーザさんが被り物を着ている姿を想像して、吹き出しそうになる。
何かないか・・・。
まるで砲弾の雨を防げるような防御網・・・。
待てよ・・・。
同時多発ミサイル防衛システム。
プラズマシールド!
防衛装備庁と民間の共同開発で、大量ミサイルや大量ドローン攻撃を瞬時に無力化する。
実用まで間もなくと言われていたが。
5000度の高温で、あらゆるものを瞬時に溶かしてしまう最強の防壁。
アレが魔術でできれば・・・。いやできる!マナは何にでも変化できる。プラズマシールドも可能だろう。ならば、その魔術を開発するのみ!
「どうしたユーキ?何か嬉しそうだな」
俺は笑っていたらしい。
「何か思いついたのか?」
「うん、ちょっとね。今は無理だけど、上手くできればいけるかもしれない」
「本当か!?だったら俺たちにも教えろよ!」
ペインさんが食いついてくる。
「もちろん。上手くいったら一緒に行こう!」
「約束だぞ!忘れんなよ!」




