第137話 ダンジョンでのわびさび
全員大満足の昼食を済ませ、溶岩地帯を渡る。
天駆を使って、ある程度高さを保たないと、下からの熱が半端ない。
魔装は運動能力を高めたり、表面の硬度を高めて防御力を増すが、熱を遮断するわけではない。なので、暑さも寒さもそのまま感じる。
下を見ると、溶岩の流れの上を2メートルほどのアメンボウのような虫がスイスイ動いている。
「ペインさん、あれは?」
「名前はわからない。俺たちは溶岩虫と呼んでる。気をつけろよ。瞬間で飛びついてきて、そのまま燃やされるぞ」
そう聞いた途端、6本足を広げて腹を見せた溶岩虫が、俺に張りつこうとするかのような格好で飛びかかって来た!速っ!怖っ!
刀を抜く暇がない!咄嗟に出た正拳突きで吹き飛ばす!
「うわー!」
声の方を見ると、エドが溶岩虫に抱きつかれていた。シュールな光景だ。
コーザさんが瞬時にその溶岩虫を斬り落とした。
「ヒエー、気持ち悪い!」
エドが心底嫌そうな声を上げる。
その声に刺激されたわけではないだろうが、それからうじゃうじゃと湧いてきた溶岩虫が、次々と俺たちに飛びかかって来た。
一度見れば対応はできる。それにしても飛びついてくる速度が速いな。転移かと思うほどだ。
「上も気をつけろよ。そろそろ来るぞ!」
「何がいるんですか?」
「火ツバメだ。これも俺たちが勝手につけた名前だけどな。ツバメくらいの大きさの小鳥だけど、怖ろしく速い。クチバシが高熱を帯びていて、魔装を破って突き刺さってくる。的が小さくて速いから斬りにくい。マギシールドを常時展開しておけ」
「わかりました」
シャトルは大丈夫かな?トーダが防御してるから心配ないか。溶岩虫をぴょんぴょん避けてるし。ルクスを襲った溶岩虫は、ルクスに触れた瞬間弾き飛ばされている。あれどうやってるんだ?なんだかルクスの成長がすごいな。
「来るぞ!」
ペインさんが叫ぶ!
上空から無数の黒い点がこちらに向かってくる!
全員がマギシールドを頭上に構える。
ガキン、ガキン、ガキィン!
拳銃の弾丸を思わせるような速度で、黒い塊が俺たちのマギシールドにぶつかって来る!
これが火ツバメ!確かにツバメを思わせる細身の鳥だ。
マギシールドに激突した鳥は、衝撃で落下していくが、後続の集団は急旋回して上昇していった。黒い帯のように去っていく。
「角度を変えて来るぞ!」
再びペインさんの注意。
下から溶岩虫、上から火ツバメ。中々面倒くさい。
再び、火ツバメの集団が降下を始めた!
ならば、一網打尽にしてやるよ!
俺は火ツバメの集団に向けて右手を伸ばす!
「螺旋風!」
俺の右手から出た突風が、渦を巻いて火ツバメの群れを襲う!
火ツバメの群れは、その渦に飲み込まれて錐揉み状態だ。まるで黒い渦だ!
俺が魔術を止めると、火ツバメはボロボロになって落下して行った。
「すごいなユーキ!」
なんてことはない。竜巻の応用で、水平方向に竜巻のような風を出すだけなので、さほど苦労なく開発できた技だ。ネーミングは、もう振り切った。厨二と言いたければ言え!なお、今はこの渦巻の風に魔刃を混ぜる練習をしている。痛そうだ。
すると今度はエドが、溶岩虫の対処が面倒になったのか、下に向かって思い切り広範囲に氷魔術を放った。瞬間で凍りつく溶岩虫。最初からやればよかったかな。
「君たちすごいね!」
ジャスパーさんが感心してくれた。Sランクの魔術師から褒められたら悪い気はしない。
「上級の攻撃魔術師が複数いるとだいぶ楽になるな。せめて4属性は最低でも揃えたい。ウチももう一度魔術師を鍛え直そう」
ペインさんの言葉にジャスパーさんとカイルさんが同意する。
魔術師は近接戦闘をあまり得意としていない者が多い。そのため、ダンジョンの下層まで同行できる魔術師が少ないのだそうだ。それはそうだ。魔術師を護りながら戦闘しなければならないとなると、かなり攻撃に制限がかかる。少なくとも自己防御、回避程度の力は最低でも必要だ。
俺とエドはメイデン師匠やフレッド団長のおかげもあって、両刀使いと言えるレベルになれた。辛かったけど・・・。
こうして上下の懸念がなくなった俺たちは、スムーズに溶岩地帯を抜けた。
次に現れた溶岩虫も、火ツバメも、同じ方法で片付けたのだ。火ツバメは、もしかしたら焼鳥にしたら美味しいかもしれないので、ある程度回収しておいた。
溶岩虫?アメンボウは食べるところがないのでいらん!
溶岩地帯のあとは、またゴロゴロと岩石が転がっている悪路が続く。
途中何度か狼の群れなどの魔獣の襲撃に遭うが、このメンバーだといささかの苦戦もなく進んで行った。
午後3時ころになり、ペインさんが停止した。
「これだけメンバーが揃うとさすがに楽だな。時間は早いが、今日の宿に案内しよう」
「宿?」
「セーフティエリアが見つからないからね。俺たちが作った休憩場所だよ。楽しみにしといてくれ」
そう言って、ペインさんは進行方向を90度変えた。
カイルさんもジャスパーさんもニヤニヤ笑っている。
30分ほど岩山を下ると、頑丈そうな壁が見えてきた。
おお、あれ作ったのか。
「さあ、我が家へようこそ!」
ペインさんがおどけた様子でお辞儀をしながら壁を示す。
え?どこから入るんだ?
「続いてくれ。中にいいものがあるぞ」
そう言って、ペインさんたちは天駆で壁を越えて行った。
なるほどね。このメンバーなら入口はいらないか。
壁を越えると、中にはコンクリートの打ちっ放しのような四角の建物があった。
「俺たちは、このエリアの探索のとき、ここを拠点にしてるんだ。夜は大型魔獣も活動しないからね。中に入る前にこっちに来てくれ」
ペインさんは、建物の裏手に俺たちを案内した。
そして、そこには!
「温泉じゃないですか!」
そこには湯気を立てて誘う天然の大きな露天風呂があった!やった!温泉大好き!
「中々だろう。疲れが一気に取れるぞ!」
アルタイル王国に温泉はない。大陸南部の国の旅行記などで紹介されるくらいだ。
「これが温泉か。本当に自然にお湯が沸いているのか!」
「すごいな!一度温泉って入ってみたかったんだ!」
コーザさんとエドが興奮した目で露天風呂を凝視している。
「さあ、とりあえず中で休んでから、皆んなで温泉に入ろう」
建物の中は土魔術で作ったベッドやテーブルがあるだけの殺風景な部屋だった。
「ここは全部ジャスパーが作ったんだ」
「僕の属性は火と土でね。火は、ここの魔獣にはほとんど役に立たないから、ここで頑張ったんだよ」
ジャスパーさんが苦笑しながら言うが、一人で作ったんだよね。やはり相当な魔術師であることがわかる。
「君たちが探索するときも、ここは自由に使ってくれて構わない」
「ありがとうございます。だったら、こっちも寄付しておきます」
そう言って、俺は大きめのテーブルと椅子をストレージから取り出した。
「それはありがたい。やはり土のテーブルだと少し味気ないからね」
ジャスパーさんは、そう言いながら土のテーブルと椅子を魔術で土に戻した。
俺はテーブルにコーヒーとクッキーを出してから、思いついたことがあったので、ペインさんたちにお願いした。
「あの、温泉の周りなんですけど、少し使いやすいように作り変えていいですか?」
「ん?構わんが、何をやるんだ?」
「それは見てのお楽しみということで」
「そうか?ユーキのやることだ。悪いことにはならんだろう。好きにしてくれ」
ペインさんの許可を得て、俺はいそいそと温泉に向かう。
ジャスパーさんが面白そうだと言ってついてきた。
まず、風呂の周囲だな。
俺は土魔術で、いい具合に適当な大きさの角のない岩を作りながら、風呂の周囲に設置していく。
「これは何をやってるんだい?岩の大きさは揃えないのか?」
「はい。わざと不揃いにすることで、自然な感じと美しさを出そうかと」
「なるほど。僕も手伝っていいかな?」
「もちろん!是非お願いします」
それから、ジャスパーさんと相談しながら、風呂の床を滑らかにしたり、風呂の中で腰掛けられる岩なども含めて、せっせと作業していく。
「おお!いい感じだ!これで完成かな?」
「いえ、今度はこの周りですね」
そう、風呂の周りは剥き出しの地面なのだ。
俺は、地面に不揃いの大きさで、石畳を敷いていく。
「こんな感じで風呂の周りで足が汚れないようにします」
俺は風呂の周りに線を引いて、石畳を敷くエリアを示す。
「確かに。風呂に入ってもすぐ靴を履かなきゃいけなかったからね。よし、僕もやらせてくれ。このバラバラの大きさも、美的センスっていうやつかな」
「そうですね。モザイクの石のやつだと思ってもらえれば」
「こんな感じかな?」
さすがジャスパーさん。美しい石畳があっという間にできる。
「素晴らしい!じゃあ、ここお任せしていいですか?俺、ちょっと別のを作りますから」
「ああ、任せてくれ」
なんだかジャスパーさんも楽しそうだ。
俺は、今度はストレージから、常備している木材を出す。久しぶりの木魔術だ。
まず、作るのは木製ベンチ。のぼせないように一休みするため。
次にテーブルと長椅子。夜は温泉に入りながら一杯やりたくなるよね。
魔導ランプを吊るす立木。夜も入りたいでしょ!
脱衣小屋もいるね。土魔術で壁を作り、木魔術で屋根を取り付ける。
小屋の中には棚と脱衣カゴ。カゴと言っても、編めないので、木箱だ。
小屋の床は板敷にする。
そして小屋から石畳まで、飛び石を設置する。
本当は周りに植栽したいけど、ここでは無理だな。
せめて灯籠でも何基か作っておこう。
そうだ、石畳の周りは土魔術で砂にしておこう。
こうして、やや和風の露天風呂が完成した!
ジャスパーさんも大喜びだ。属性はないけど、木魔術勉強しようと言っていた。属性なくても努力すればある程度は使えるからね。
設置した立木に魔導灯をぶら下げ、灯籠には光魔術の照明球を入れておく。




