第134話 象
「デカいヤツが来るよ!」
やっぱりアレかな?サバンナだし。元の世界の人気者。でも、ここだと魔獣なんだよね。
俺たちは警戒しながら慎重に先に進んだ。
「見えた!あれだな!」
遠くの方に、こちらに向かってくる影が見える。
魔力を目に集めて注視する。
ブラブラと揺れる長い鼻。その両脇から伸びる長い牙。大きく張り出した耳。
間違いなく象だ!
象がドスン、ドスンと音を立てて近づいてきた。
「あれが象というやつか。デカいな。それにブラブラさせているのは鼻なのか?」
「ああ、鼻だ。気をつけてね。あの鼻で殴ったり、巻きつけて締め上げたり、放り投げたりするから」
「え?あの鼻でそんなことできるの?」
「結構器用なはずだ」
象の全容が見えてきた。
何だ、この象は!
体高10メートルくらいかな?学院で戦った古代獣ティラノサウルスと同じくらいはありそうだ。デカい!でも異様なのは額や背中の大半が、黒光りする金属のようなもので覆われていることだ!まるで鎧を着せられた戦象のように。
「おいユーキ、あの黒い部分は硬そうだな」
コーザさんが象から目を離さずに声をかけてくる。
「当ててみないとわかんないけど、見るからに硬そうだね」
「戦うか?」
「やるだけやってみよう。元の世界と同じような生態なら、弱点がないでもないし」
「わかった。とりあえず上からだな」
俺たちは一斉に空に駆け上がる!
そこに向かって象が鼻を一振りする!
うわっ、風圧で飛ばされそうになり、慌てて体勢を立て直した。
「マジか!これは盾なんて役に立ちそうにないな」
「預かるよ」
俺はコーザさんから盾を受け取り、ストレージに仕舞う。コイツとの戦いは身軽な方がいいだろう。盾の防御なんて意味がない。
「で、ユーキ。アイツの弱点って?」
エドが聞いてきた。
「ヤツは体重が重すぎて、3本足では立てない。なので、まずは足一本をなんとか潰す!」
「足もかなり硬そうだぞ」
「付け根だけを狙う。そこだけは皮膚が薄かったはずだ。ただし元の世界と同じならという前提だけどね」
「その後は?」
「一つ考えがあるけど、まずは足を潰して自由を奪うことからだ。それと、ヤツは重すぎてジャンプできない。だからちょっと前足を落とし穴にはめて、転ばせてみようと思う。上手くいけば中々抜け出せないかもしれない」
「了解!」
下を見ると、象がこちらを見上げて、パオーンと大音量で鳴いた。
そして長い鼻をこちらに向けて伸ばす。
なんだ?
鼻に魔力が集まる!
「ヤバい!散会!」
俺の言葉に全員が飛び散った!
そこに石礫が散弾銃のように襲いかかってきた!
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ!
俺たちは全員が被弾して弾き飛ばされた!
魔装は壊れていないが、何ちゅう威力だよ!
空中から叩き落とされて地面に転がる俺たち。
「怪我は!?」
大丈夫という声。全員無傷のようだ。ホッとする。
そう思った瞬間、俺たちは巨大な水流に飲み込まれた!
濁流の中で転がり続け、止まった瞬間俺は空中に駆け上がる!
気配で見ると、全員が俺と同じ行動をとっている。
よし、皆んな無事みたいだ。
象は俺たちの方に突進してきている。
クソッ、パワー系かと思ったら、魔術も使うのかよ!
これは、1箇所に固まるとヤバいな。
油断しているつもりはなかったが、ちょっと奢っていたかもしれない。
見事に先手を取られてしまった。
しかし、いつまでもやられっぱなしじゃないぞ!
疾駆する象の足元に、タイミングを合わせて落とし穴を掘る!
ドーン!
よし、かかった!
前足を落とし穴に突っ込んだ象は、そのまま横倒しに転んだ。
俺は即座に駆け降りて、あらわになっている象の後ろ右足の付け根を、魔神刀で斬りつけた!
ザクッ!
噴き出す血。よし、30センチ以上は斬り込めた!
後に続くコーザさんとエドも、同じ足の付け根を斬りつける!
血が噴き上がる!
もう一撃と思ったとき、グラリと黒い山が動く。
「散会!」
全員が今度はそれぞれ違う方向に駆け上がる。
象は、鼻を杖のように器用に操って立ち上がった!
失敗か?
しかし、立ち上がった象はぐらついている!
「ユーキ!盾をくれ!」
コーザさんの声に、何をするか聞かず、黙って盾を放り投げる。
盾を受け取ったコーザさんは、象の正面に向かった!
了解!
俺はエドに手で合図をして象の後方へ走る。
あ!シャトルが尻尾に噛み付いて振り回されている!
コーザさんが盾を使って、象の鼻を牽制する。
長くは保たないはずだ。一撃で決める!
象の後方に着地した反発で勢いをつけ、ぐらつく象の足の向かって全力の魔力を込めた魔神刀を横薙ぎに振るった!
スパーン!
この感触だ!!
太い象の足が見事に切断され、象は地鳴りのような音を立てて転倒した!
しかし、その瞬間、コーザさんが鼻の一撃で吹き飛ばされた!
足一本を失った象は、もはや立てないだろう。
俺は、吹き飛ばされたコーザさんの元に駆けつける。
何十メートル飛ばされたんだよ!
「大丈夫!?」
「ぐっ、だ、大丈夫とは言えんかな」
「了解!任せて!」
状態を見る。ひしゃげた盾をどかすと、両腕、肋骨がぐしゃぐしゃに潰れていた。
即座に治癒魔術をかける。欠損よりはマシだ。
みるみる回復していく。いや、治癒魔術だけ、他に比べて上達スピードが早いんだよね。
以前なら、これだけの重傷だとある程度時間がかかったけど、今なら1、2分で治せる。
「よし、完了!どう?動かしてみて」
コーザさんが立ち上がって、身体を動かす。
「うん、大丈夫だ。ありがとう!相変わらず見事だな」
「さて、仕上げに戻ろうか」
足を一本落としたんだから、放っておけば出血多量で死ぬかもね、そう思って象の元に戻ると、何と、象は自力で出血を止めていた!
「エド、どうなってるんだ?」
「わからん。最初噴き出してた血が突然止まった」
色んな能力があるんだね。それでも、さすがに立ち上がることはできないようだ。
前足を踏ん張り、鼻を使って何とか立ち上がろうとするが、上手くいかない。
魔獣とはいえ、苦しませるのも酷だ。
俺は、象の後方から耳の方に回り、耳の穴に向かってパイルバンカーを撃ち込んだ!
グシャ!と突き刺さるパイルバンカー。
そして、象はドスンと音を立てて倒れた。
象との戦いはさすがに疲れたので、一休みすることになった。
シャトルはちゃんと象の尻尾を噛みちぎって持ってきたよ。えらいぞ!
「あの黒い鎧みたいな部分、加工できるかな?」
「どうだろうな。試しに大剣で打ち込んでも傷一つつかなかったぞ」
「やっぱり無理かな?いい防具の素材になりそうなんだけど」
「錬金術とか使えば何とかならない?」
おお、エド、いいこと言うね!久しぶりにルーカス兄上に会いたくなった。素材持っていって相談しよう。
「次の階段まであとどのくらいだ?」
「1時間もあれば着くんじゃないかな。もう近いよ」
「だったらそろそろ行くか。とりあえず37階まで行って、場合によってはここで訓練続けてもいいだろう」
コーザさんの言う通りだ。ここは大型から速度系、集団系、バランス系と、訓練には最適な、そして単独では到底勝てないような敵が揃っている。37階の様子によっては、こちらの方が訓練向きということもある。
それから俺たちは、さして難敵に遭うこともなく、1時間かからずに37階への階段に到着した。
「やっと着いたぁ」
ホッとした思いを口にしながら階段を降りると、中から「誰だ?」と声がした。
双翼の人たちかな?
俺たちは中程の休憩エリアに向かって降りて行く。




