第132話 盾の訓練
「止まって!シャトルが何か警戒してます!」
全員が停止し、シャトルの唸る方向を見る。
そのとき、岩の方向から凄まじいスピードで何か飛んで来た!
コーザさんが盾で横殴りに弾き飛ばす!
ドサッ!と、落ちるそれ。
「蛇だ!」
さっと俺たちは散会する。
蛇がスルスルと立ち上がり、口を大きく開けて、シャーッと威嚇する。真っ黒な口内。
「ブラックマンバ!猛毒です!」
岩だと思っていたのは、ブラックマンバの擬態だったのか。それにしても完全に気配を遮断していた。それにやはりでかい。10メートルの高さからこちらを見下ろしている。
ワン、ワ、ワンッ!!!
シャトルが激しく吠える!何だ?
ヤバッ!周りに岩が何個かある!
「皆んな!上に行け!!」
俺はシャトルを抱えて天駆で上空に走る!
エドとコーザさん、ルクスも俺に続いて駆け上がって来た。
それと同時に、周囲から一斉にブラックマンバたちが俺たちに向かって立ち上がってきた!
「うわぁ、7匹!こんなに隠れていたのか・・・」
エドが下を見ながら驚いている。
いや、俺も驚いたけどね。
ブラックマンバたちは、こちらに向かって真っ黒な口を開き、禍々しい牙を見せながら、シャー、シャーと威嚇を繰り返す。
「まったく気配がなかったな」
コーザさんも気づけなかったのか。
「シャトルありがとうな」
そう言って、俺はシャトルの頭を撫でる。気配察知に関してはシャトルが一番だ。
さてどうしよう。7匹同時か・・・。
トーダの力を借りれば楽勝だけど、いつも頼ってたんじゃ俺の力はいつまでも伸びない。
「どうするユーキ?」
「エド、協力してくれ。一緒に氷魔術を浴びせる」
「わかった」
行くぞ!
エドと同時に氷魔術を7匹のブラックマンバに放つ。
パンッ、と音がして魔術が弾かれる。
「効かない!」
「想定内だ!続けて、エド。効くまでやるぞ!」
パンッ、パンッ、と立て続けに魔術が弾かれる。ブラックマンバが怒りで暴れる。
まだだ!もっと魔力を集めて強く!
数分続けると、ブラックマンバの勢いが弱まってきた。魔術を弾く音もしなくなり、ブラックマンバの身体が霜で覆われる。やがて、1匹がバタンと倒れる。続いて、バタバタと他の連中も倒れていった。
「効いた!」
「ありがとう、エド」
俺たちは地上に降りて、動きの止まったブラックマンバの首を落として回った。
魔力防御さえ弱まれば、首を落とすのに苦労はない。
「はあ、気配のしないヤツか。危なかったな」
エドがしみじみとこぼす。
「岩に擬態か。色んなヤツがいるな」
「コーザさんも初めてですか?」
「擬態するヤツはたまにいるが、気配がまったくしないヤツは初めてだ。ところでユーキ、そろそろその敬語はやめてくれんか」
「え?いや、でも」
「本当は俺の方が敬語を使いたいくらいなんだ。戦闘の指示で敬語は長い。実戦的な理由だ。それに俺たちはパーティだろう?だったら対等だ。頼む!」
「はあ、そうまでおっしゃるなら」
「エドもだぞ」
「え?俺もですか?」
「パーティ全員だ」
「ど、努力します・・・」
こうして敬語禁止になってしまった。さん付けは許してもらったけどね。さすがに呼び捨てはできないよ。
その後、再びハイエナの群れと、おそらくガゼルの群れと思われる魔獣と遭遇して、これを撃退したところで、昼食を取ることとした。
周囲に魔獣がいないことを確認してから、皆んなで腰を下ろし、食べやすい串肉とパンで昼食だ。シャトルが一生懸命串肉に齧り付いているのが可愛い。ルクスも肉食なんだよね。
「どう、コーザさん。だいぶ感覚戻ってきた?」
タメ口練習中。
「ああ、スピードはだいぶ戻ってきたな。パワーはまだもう一つだ。ユーキにもらった新しい足だけど、まだ鍛え足りん。下半身が強くないとパワーも出んな」
「そうかぁ。でも、全部整ったときが楽しみだね」
「任せろ。ここで訓練してれば、いやでも強くなれそうだ。知ってりゃ、騎士団の連中連れてきて、訓練させたかったよ」
おお、騎士団の人たち、酷い目遭わなくて良かったね。
「ねえユーキ。あとはどんな魔獣が出そうか予想できる?」
「そうだね。元の世界の生態系と似てるから、ヤバいのはライオン。これは虎に似ていて、雄はたてがみがフサフサだ。それに似たヤツで豹やチータ。牛系もいる。水牛とか。そして馬鹿でかいのが象。耳がデカくて鼻が長い。川には特にヤバいやつがいた。カバといって、一見のんびりした動物に見えるが凶暴だ。ああ、カバに似てるヤツでサイもいたな。角があるヤツ。多分全部相当強いと思うぞ」
「そ、そんなに色々いるのか。大丈夫か?生きて帰れるよね」
「前に双翼も踏破してんだろう?だったら俺たちも平気さ」
昼食を終えてまた移動を開始する。
未だセーフティエリアは見つからない。
まあ戦闘訓練がメインだから、先を急ぐわけじゃないけど、拠点としてセーフティエリアだけは早く見つけたい。
あ、サーチになんか引っかかった。
「1キロくらい先に100頭くらいの群れがいるよ」
「100頭か、多いな」
「とりあえずそっちの方向に行ってみるよ」
何の群だろう?個体としても大きそうだ。何かいたっけ?
500メートルほどに迫ったとき、相手にも気づかれた。
こちらに向かって走ってくる砂煙がもうもうと立っている。
「向こうから来るみたいだな」
「ああ、結構速そうだ」
目に魔力を込めて見る。
黒っぽい身体。横に大きく張り出した二本の角。なびくたてがみ。細い足。
「そうか、ヌーだ!」
群れで行動する、牛とカモシカの中間みたいなヤツ。
「おいユーキ!眺めてる場合か?ちょっとアレヤバくないか?」
確かに!そもそもデカい!体高3メートルはある。それが100頭。
あんな群れに激突されたら吹き飛ばされて、踏み潰されるよ!
「コーザさん、盾の練習する?」
「馬鹿かお前は!俺だって相手を考える!」
「じゃあ一旦上に逃げましょう」
無謀な激突は訓練じゃない。俺たちはさっさと天駆で上空に避難した。シャトルも上手く天駆を使ってるね。トーダがやってるのかな?
俺たちがいた場所をヌーの群れが爆走して通過する。
黒い濁流の大河と砂煙。
なんだよ、これ!怖すぎだろう。
そして、群れは過ぎ去って行った。
アレ、どう対処すればいいんだ?
止まってるか、せめてもう少しゆっくり動いてるなら大丈夫そうだけど、一旦スピードに乗ってしまうと厄介だ。
スタンピードのときの竜巻とか通用するかな?あるいは水流。まずは動きを止めること。
俺の魔術関連は、メイデン師匠に比べてはるかに威力が低い。魔刃にしても、魔術にしても。
もっと魔素の密度を高くする、イメージを明確にする、速度を速くする、効率を上げる。
やるべきことはわかっている。それをこのダンジョンで磨くしかない。
元々俺の戦法は武器と魔術の混合。せっかく良い刀も手に入った。これも工夫しなきゃね。
次に遭遇したのは単騎のサイ。
これも体高3メートルはある。角も1メートルはある上に、牙まであるんですけど。
「ユーキ、ちょうどいい相手だ。少し俺に盾の練習をさせてくれ」
そう名乗り出たコーザさんだが、何度も吹っ飛ばされている。
俺たちは上空から見学だ。だって、来るなって言うから。
「コーザさん!新しい盾いる?」
「た、頼む」
これで3個目になる盾をコーザさんに渡す。
サイの突進を受けた盾は、穴が空いたり、ベコベコになっている。
コーザさんは俺たちのパーティのために、本職でない盾の訓練を命懸けでやってくれている。本当に頭が下がる。
ドン!と音がしてコーザさんが吹き飛ぶ。
俺もエドもじっとそれを見つめている。
サイも、何度も立ち上がるコーザさんにイライラしているようだ。
何度目の激突か。コーザさんが一歩踏み込んで、初めてサイの突進を受け流した!
たたらを踏むサイ。その下顎をコーザさんが盾でかち上げた!
ゴン!と爆音がして、サイがよろめく!
「頼む!!」
コーザの声に俺とエド、ルクスがサイ目がけて急降下する!あ、シャトルも来るのね。
エドがサイの両目を目にも止まらぬ速度で振るった剣で潰す!
ルクスは2本の前脚をサイの頭頂部に叩きつける!
そして俺は、日本刀に思い切り魔力を込めて作った魔刃で、右斜め上から袈裟斬りにサイの首筋目がけて斬りつけた!
ズシャッ!と斬り裂く刀の魔刃!噴き出す血!
プギャー!と叫びを上げたサイが、ドウと倒れた!
すかさずバンパイヤナイフを刺して血抜きをする。
「コーザさん!すぐ治療するから!」
俺は駆け寄ってコーザさんに治癒魔術を施した。
ああ、腕や肋骨はヒビが入っているし、指は折れてるよ。
「すまん。しかし、ユーキがいると相当無茶な訓練もできるな」
「まあ、それ込みでメイデン師匠には死にそうな訓練やらされたけどね」
倒れたサイを検分していたエドがこちらに来る。
「コーザさん、とうとう止めたね!」
「受け流しだけどな。正面から止めるのはまだ無理だ。だいぶコツは掴めてきたよ」
「あんなの正面から止める気なの?」
「いずれはな」
理解不能な人がいた・・・。
そして、シャトルが齧りとったサイの尻尾を咥えてトコトコと走ってきた。
(ユーキ、ユーキ!尻尾取った!)
「おお、すごいぞシャトル!」
どうやら尻尾はシャトルの戦利品らしい。癒される。
ところで俺の魔刃。
魔刃単独では威力が不足。一方刀は勝手に魔力を吸い取って、斬れ味を増してくれる。
なので、今回は刀に積極的に魔力を込めて、刀を媒介に魔刃を作ってみた。結果は目論見通りだ。サイの頭を落とすまではいかなかったが、一撃で致命傷を与える程度には斬ることができた。これを磨いていこう。名付けて『魔刃刀』だ!
俺の思考も、この世界に来てからかなり厨二になってきたかも・・・。
結局セーフティエリアを見つけるのに三日かかった。
このフロアには昼夜があり、夜は土魔術で岩に見せかけたドームを作って過ごした。
寝るときは3時間交代で見張ることとしたが、幸い大型魔獣も夜は活動を停止するようで、俺たちの寝ぐらが襲われることはなかった。悪辣なダンジョンじゃなくて助かったよ。
それでも連日の魔獣との戦闘と夜の緊張から、セーフティエリアに着いた日は三人とも倒れるように眠った。
そして、このセーフティエリアを拠点として活動を始めてから五日、37階への階段は未だ見つかっていない。
この間の戦闘の繰り返しで、俺たちの力はかなりアップした。
毎日、一歩間違えば命を落とすかもしれないという中での実戦だ。いやでも技量は増していく。それに加えてこの世界には魔力がある。元の世界なら1週間やそこらで、著しく筋力やその他の身体能力がアップすることはない。しかし魔力は違う。魔力操作や魔力の集積密度、イメージの強化などによって魔力の扱いが上達すると、指数関数的に戦闘能力がアップする。
このことは、前回メイデン師匠に連れられてこのダンジョンに来たときも感じたことだった。
それでも、俺たちの実力は、このフロアを楽勝と感じられるまでにはほど遠い。




