第131話 サバンナ
これで明日は、朝一番でダンジョンに入れる。
ここまで、ほとんど浄化ばかりが上達してきたが、ここからはやっと戦闘技術の向上を目指せるな。どんな魔獣が出るかの情報も、地図もない。一体、残りの日数で何階攻略できるんだろうか。できれば双翼の最前線の37階には行ってみたいけどね。そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
夜明け前、まだ暗い午前5時から、俺たちは前回と同じように、エドとコーザさんの馬を代官屋敷に預けて、すぐにダンジョンに向かった。
ダンジョンに入ると、35階に転移。
35階には誰もいなかった。あのポーターの人たちは、地上に戻ったのかな?それともメンバーと共に36階に入ったか。いずれにしても、この階あたりのポーターを務めるためには、相応の実力が要求されるよね。
さて、いよいよ36階。
足を踏み入れた瞬間、乾いた熱風が俺たちを襲う。
目の前に広がる大草原。まばらに生える木々。
サバンナか。
「こんな景色は初めて見るな」
「これは熱帯、あるいは亜熱帯と言われるエリアですね。この世界では多分別の大陸にある光景だと思います」
「ユーキは知ってるのか?」
「ああ、元の世界でね。かなり雑多な魔獣が出ると思うよ。大型獣もね」
サーチで探しても当然次の階段は見つからない。代わりに魔獣はゴロゴロいる。
「戦闘訓練にはうってつけかもしれないね」
俺はそう言って、歩き始めた。
ルクスとシャトルはこの暑さ大丈夫かな?あれ、意外に平気そうだね。二匹で楽しそうに歩いている。散歩じゃないから気を抜くなよ。
「おい、あれ!」
しばらく進んだところでエドが前方を指さして声を上げた。
「でかいな!それに首が異様に長い!」
「ああ、元の世界ではキリンと呼ばれていたヤツに似てる。あんなにデカくはなかったけど」
前方に見えるキリンもどきは、体高10メートルはある。しかも頭部には立派な角が2本。
体型と独特の模様は似てるけど、絶対草食で大人しいなんてことはありそうにない。
そして、群れではなく単独だ。
キリンもどきがこちらを振り向いてじっと見ている。
「あちらさんも気づいたみたいだから、36階の腕試しといきますか!」
俺はそう言って、日本刀を抜いた。
俺たちに気づいたキリンもどきが、砂ぼこりを上げてこちらに走ってくる!
なんだ、その走り方!長い首を前に水平に伸ばして低い姿勢で猛然と突っ込んで来た!
かなり速い。
こちらに向けられた鋭い角がキラリと光る。
「落とし穴を掘ります!」
俺は突っ込んでくるキリンの足元に土魔術で落とし穴を掘った。
前脚を落とし穴に取られて、もんどり打って転倒するキリン!
ドーン!という大きな音が響く!
「まず脚を!」
俺の声に俺たちはキリンの脚に襲いかかる。
太っ!これがキリンの脚かよ!象の足じゃないか!
ズバッ!
俺の日本刀がキリンの脚を脛あたりから斬り落としたが、初めて抵抗を感じた。
今まで何の抵抗もなく斬れた刀でさえ、抵抗を感じるくらいの硬さか。
コーザさんの大剣は半分くらい斬り込んで止まっている。
エドの剣も三分の一くらいか。
あ、ヤバい!
「エド!」
キリンの首がまるで蛇のようにぐにゃりと曲がって、エドに向けて突き出された!
エドは、抜けない剣を手放して、横っ飛びに逃げる。
しかし、キリンの首はありえない軌道で横に曲がり、逃げたエドに向かって突き出された!
血飛沫を上げながら吹き飛ぶエド!
俺は伸びた首めがけて日本刀を振り下ろす!
ズサッ!
首から血が吹き出す!
「一旦離れます!」
俺はそう言って、エドの元に向かう。
エドの脇腹がキリンの角で抉り取られていた。
すぐに治癒魔術で回復させる。
「大丈夫か!」
「ああ、ありがとう。平気だ。しかし何だあの動きは」
「俺も驚いたよ。まるで蛇だね」
「うん、でももうわかった。次はヘマしない。まず剣を取り返す」
そう言ってエドは立ち上がった。
キリンは脚を3箇所斬られて、上手く立ち上がれない。それでも長い首を自在に動かして、コーザさんと戦っている。ルクスも上手くキリンの攻撃を躱しながら、蹴りを叩き込んでいる。シャトルはキリンの尻尾と奮闘中だ。ガンバレ!
俺は、キリンの首目がけて重力魔術を放ってみた。
パンッ、と音がして俺の魔術が弾き飛ばされる。やっぱりか。
この野郎、寝そべったままでも強いな。
「俺が正面で牽制します!コーザさんは伸びた首を!」
「おう!」
俺の方が素早さはコーザより上だ。
キリンの顔の正面に回り、斬りつける。
キリンが俺の刀を角で受けた。
キーン!と甲高い音が響く。
刀で斬れないのか!
キリンの首が一瞬縮み、俺に向かって物凄い速さで突き出された!
それを横っ飛びに交わしながら、キリンの横っ面にパイルバンカーをお見舞いする!
ドン、と音がして吹き飛ぶキリンの頭。
その頭をルクスが踏みつける!
伸びた首に、天駆で上空にいたコーザさんが、落下しながら大剣を振り下ろす!
ズシャッー!
キリンの首の一番細い部分に振り下ろされた剣は、見事にキリンの首を斬り落とした!
大量の血が噴き出す。俺は久しぶりにバンパイヤナイフを取り出して、キリンに突き刺した。
血の噴出が止まった。
死んでしまうと、ナイフも簡単に刺さるな。
コーザさんが大剣の血振りをしながら、俺の側にやって来た。
「ユーキ、何をやったんだ?」
「これバンパイヤナイフと言って、血を吸うんですよ。前にダンジョンで見つけたヤツです」
「おい、随分と怖いナイフだな」
「でも、強い魔獣だと、生きてるうちは防御力が高くて刺さらないんです。だから、もっぱら血抜き用ですね」
ははは、と虚しく笑う。まあ便利だからいいよね。
エドも剣を回収してやって来た。
「初っ端から強いな、やっぱり。また何回か死にかけるのかな?」
「ああ、ウチは三人だしね。でも訓練にはなるよ」
「だが、剣で殺せるだけ、あのミイラよりはましだ。アレには勝てる未来が見えなかった」
コーザさんの言葉に三人で笑った。
そこにシャトルが、キリンの尻尾を咥えて走って来た。
え?あの硬いヤツ噛み切ったの?
(ユーキ、ユーキ!尻尾に勝った!)
俺はシャトルの頭を撫でて思い切り褒めてやった。
尻尾がブンブン振られる。あれ?また少し大きくなったかな?成長早いなぁ。
首輪代わりの赤いスカーフが苦しそうなので、付け直してやった。
「ユーキ、不要な盾は持っているか?」
キリンの死骸を回収して、再び進み始めたところで、コーザさんが聞いてきた。
「山ほどありますよ。骸骨騎士とかエルフが持ってたやつ、全部拾ってきましたから」
「じゃあすまんが一つ貸してくれるか?」
「もちろんいくらでも大丈夫ですが、コーザさん盾を使うんですか?」
「ああ、この先を考えたら、俺が少し本格的に盾役の練習をしておいた方がいいと思う」
「それはありがたいですが、いいんですか?」
「これでも元近衛だぞ。盾も多少は使える。それに、このパーティだと、ケビンとシンジを入れても、どう考えても盾役は俺だろう」
そう言って、コーザさんはニコリと笑う。確かに、皆んな重量が足りないよね。
俺はストレージからいくつかの盾を出した。コーザさんは、骸骨騎士が持っていた大きめの盾を選んだ。それでも片手で軽々と持っている。やはりパワーが違うな。
しばらく進むと、今度は12頭の群れがこちらに向かって来た。
体長2メートルくらいの茶色のマダラ模様。大きな耳に小振りな頭。
あっという間に俺たちを囲んで、鋭い牙を剥き出しにして俺たちを威嚇する。
「これは何だ?狼か?」
「いや、多分ハイエナですね」
「初めて聞くな。まあいい、少し盾の練習をさせてもらおう」
ハイエナたちは俺たちの周りをグルグル回りながら、隙を窺っている。
「咬まれないように!咬む力は相当強いと思います!」
「了解!」
グルグル回り威嚇する群れに対して、コーザさんがふらりと一歩前に出る。
誘われたハイエナがコーザさんに飛びかかった!
コーザさんが盾を巧みに操り、これを跳ね飛ばした!
その瞬間、俺たちはハイエナに襲いかかる!
日本刀一閃!スパンと落ちるハイエナの首!
よし、こいつらは斬れる!
一気に乱戦になった。
俺とエドは次々に斬り伏せ、コーザさんは盾を叩きつける。
ルクスは蹴り飛ばし、踏みつけ、噛み付く!
そしてシャトルは、ハイエナの喉笛に噛みついて、ぶら下がったまま振り回されている。
数分で戦闘は終了した。
シャトルも無事1頭を仕留めていた。えらいぞ!
「コーザさん、見事な盾さばきですね」
「まだまだだな。だが、問題はデカいヤツだな」
「質量が違いますからね。止められるんですか?」
「ある程度はな。魔力と盾の扱い方次第では相当でかい奴でも止められる。少し時間をくれ」
「それはもちろん」
やはり盾にも技術があるんだな。俺には向かないからやめておこう。
俺たちは当てのない進行を続ける。
広大なサバンナ。
適宜サーチで色々な方向を探すが、今のところセーフティエリアすら見つからない。
それに暑い。各自水分補給だけは怠らないよう注意している。
ウウー。
シャトルが低く唸り出した。
何かいるのか?
気配を探るが何も感知しない。
シャトルが唸る方向を見るが、灰色の岩があるだけだ。
あの岩?




