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ハルノオト〜聖女召喚の欠陥品ー俺は男だ!〜  作者: 島村都心
第二部【王立ロマリア学院1年】
122/179

第122話 武士道

 静かな森の中を慎重に進む。

 鳥や動物はおろか、魔獣の影もない。

 しかし、ときおり気配のないところから矢が射掛けられてくる。

 その繰り返しだ。

 最初のような大量の矢による必殺の意図のある攻撃ではない。まるで俺たちを別の方向に誘導したいかのように、一方向から攻撃がくるのだ。

 俺たちが向かっている方向には、俺のサーチで確認できた何か大きな建造物がある。

 敵の攻撃は、そこに俺たちを行かせたくないのではないかと思わせる。

 不思議だ。

 これまでダンジョンでは、魔獣もアンデッドも、侵入者と見れば無条件で攻撃してきた。しかし、このフロアでは、まるで正常な思考を持った人間のように、何らかの意図の元に敵が動いているように感じる。

 しかし、敵の意図が誘導か妨害かにかかわらず、俺たちは進路を変えずに進み続けた。


 2時間ほど進んだところで、俺たちは森の中にぽっかり開いたスペースに出た。学校のグラウンドくらいの広さがある。

 その中程まで来たとき、シャトルとルクスが低く唸った。


 (ユーキ!なんか来る!)


 え?と思う間もなく俺たちは突然取り囲まれた。

 そう、本当に突然。誰もいなかった場所に、いきなり1,000を超すと思われる骸骨兵士が現れたのだ!転移?いや、まるでそこに湧いたように。

 シャトルとルクスは何でわかったんだ?


 兵士たちはこちらに向けて槍や剣を構えているが、一向に攻撃してこない。

 罠に嵌めれれた?違うな。こちらに来るなと警告されていたのに、俺たちが来たんだった。

 すると、俺たちの正面から、一人の身なりの違う男が前に出てきた。男?骸骨だから男か女かわからん。やはり両耳のところに突起があるな。

 その骸骨は、薄緑色の絹のような質感の上下を着て、茶色のなめし皮のブーツ、胸には鮮やかな青い金属の胸当て、そして真紅のマントを翻していた。カッコいいんですけど。


 骸骨は俺たちの10メートルほど前で立ち止まると、静かに俺たちの後方を指差した。

 カタカタと骸骨の歯が音を立てる。

 帰れと言っているのだろうか?

 思わずコーザさんとエドと顔を見合わせる。

 どうしよう。まさかダンジョンでこんな展開になるなんて。

 しかし困ったな。俺たちとしては先に進まなければダンジョンを踏破できない。ここで素直に帰るわけにもいかない。


「申し訳ないが、何を言っているのかわからない。帰れということなんだろうが、俺たちは先に進みたい。ここを通してもらえないだろうか?」


 俺は骸骨に向かってそう言ってみた。言葉通じるかな?

 すると骸骨はスルリと腰の剣を抜いた。

 おっと、帰らないなら殺すということか?殺意があるのかないのか、気配がないのでわからない。それにしても美しい剣だ。見たことのない金属だ。柄の拵えも素晴らしい。

 骸骨は右手持った剣を俺たちに向けて一歩前に進み出た。

 ビッ!

 剣先から殺気が迸る!

 何だよ!感情あるのかよ!

 やむを得ない。浄化で消えてもらおう。おれがそう思ったときコーザさんが一歩前に出た。


「待て、ユーキ。相手は多分この死者の国の騎士だろう。ならばこちらも騎士として礼を尽くしたい」


 そう言うとコーザさんが背中の大剣を抜いた。


「アルタイル王国元近衛騎士団副団長コーザ・ハーマンという。貴殿らにとって我らは侵入者かもしれん。しかしここはダンジョン。我らも先に進まねばならん。ここを通してもらえんのなら、俺が相手をさせてもらう」


 コーザさんの落ち着いた低音が響く。やはりこの人は騎士だ。

 骸骨の歯がまたカタカタと鳴った。

 名乗りを上げたのか?


 (トーダ、何て言ってるかわかる?)

 (わからん。なんや感情も意思も遮断されとるわ。幽霊でも感情わかるんやけどな)

 (そうか、ここがダンジョンだからかな?)

 (知らん。まあ、倒しゃええだけの話しや)


 確かに。31階以降どうも調子が狂う。そうだよ、ここはダンジョンだ。それを忘れるな。


 コーザさんと骸骨騎士の間の緊張が高まる。

 次の瞬間。

 ガキィンと剣のぶつかる音がして骸骨騎士が吹き飛んだ。いや、自分から後ろに跳んだのか。

 後方に跳んだ骸骨騎士がすぐさまコーザさんに迫る。すごいスピードだ。どうやって筋肉なしの骨だけであんなスピードが出せるんだよ!

 骸骨騎士はコーザさんの直前で横にステップする。そしてまたステップを踏み、剣を横一閃する。

 コーザさんの腕から血飛沫が上がった!魔装が易々と切り裂かれた。


 しかしコーザさんは落ち着いている。

 俺とエドは黙って勝負を見守る。


 骸骨騎士はときに細かく、ときに大きくコーザさんの周りでステップを踏みながら剣を振るう。見たことのない剣技だ。

 パワーではコーザさんに分がありそうだが、スピードで圧倒されている。

 致命傷は避けているがコーザさんの傷が徐々に増えていく。


 5分以上攻め続けた骸骨騎士が一旦間合いをとった。

 コーザさんは、相手を睨みながら魔力を高めた。

 魔術を使うのか?

 そう思ったときコーザさんの大剣が赤く輝き始め、剣先からチロチロと炎が揺らぎ始めた。

 何だこれ?

 それを見た骸骨騎士も魔力を高める。

 え?魔力なんて今までヤツから感じなかったぞ。どこから魔力を?

 すると骸骨騎士の剣は緑色に輝く!

 骸骨騎士が笑ったように感じた。

 コーザさんも笑っている。


 骸骨騎士が最初の一歩を踏み出した瞬間コーザさんが大剣を振る!そこに炎が踊った!

 骸骨騎士はそれをかろうじて回避し、コーザさんに襲いかかる。

 剣速がさらに速くなった!風の魔力だ!

 コーザさんは大剣を旋回させ、炎の防壁を作る。炎はすぐ消えるが骸骨騎士も最後の踏み込みができない。


 また骸骨騎士の魔力が高まる。

 次の瞬間、骸骨騎士は空中を駆け上がった!天駆だ!

 骸骨騎士は空中を縦横無尽に動き回り、コーザさんを攻めたてる。

 コーザさんはそれをギリギリで防御する。天駆の訓練で散々やったが、骸骨騎士の速度は俺たちより速い。本当にギリギリだ。


 一度着地した骸骨騎士が、今度はすごい勢いではるか上空に駆け上がった。

 そして剣先を向けながら落下してきた!

 それを見たコーザさんが天駆だ駆け上がる!

 骸骨騎士が驚いたようにコーザさんを見た。

 その二人が交差し、上下が入れ替わる瞬間、下から振り上げられたコーザさんの炎の剣が骸骨騎士を両断していた!


 ドサリと2つに分かれて落下する骸骨騎士。

 その骨は、コーザさんの剣による火でブスブスと侵食されていく。

 やがて骸骨騎士は灰になってしまった。

 すごい、骨まで焼き尽くすのか・・・。最後に骸骨騎士が笑ったような気がした。


 しばしの沈黙。


 そして、誰かの合図で、俺たちを取り囲んでいた骸骨の兵士たちが、こちらに向かって一気に押し寄せて来た!


「散れ!」


 俺は360度全方位に風魔術を放ち、すべての骸骨兵士を吹き飛ばす。


「コーザさん、消していいですか?」

「ああ、やってくれ」


 俺はぐるりと回りながら、浄化の魔術を放つ。

 すべての骸骨兵士が光の粒となって消滅した。


「傷を治します」


 俺は治癒魔術を使いながらコーザさんに話しかけた。


「強かったですね」

「ああ、俺の全盛期で五分くらいか」


 エドが驚いて声を上げる。


「それほどですか?」

「こちらが天駆を使ったことで、相手が驚いて一瞬隙ができた。あそこしか勝機はなかった」

「・・・」

「それに天駆の訓練をしてなかったら、あれでやられていたな。助かったよ。二人ともありがとう」


 俺は気になっていたことを聞く。


「コーザさんの剣は魔剣ですか?」

「そうだ。陛下より下賜された。騎士団を辞めるときに返上しようとしたが、それはお前の物だと言って下さった」

「そうでしたか。斬ったところから燃え続けるんですね」

「ああ、擦り傷でもつけば、そこから相手を燃やし尽くす」

「怖っ!」


 思わず漏れた俺の声に笑いが起きる。


「そういえば、相手の剣も魔剣なの?緑に光ってたけど」


 エドも感じていたようだ。


「多分風の魔剣だね。剣速が上がると思うよ」


 俺は灰になった骸骨騎士に近づき、供養の意味を込めて浄化の魔術を使った。

 灰が光の粒となって消えていった。

 俺は残った剣と胸当て、マントなどを拾い、コーザさんとエドのところに戻る。シャトルは尻尾を振りながらずっと俺についてきてるけど。可愛い。


「これもらっちゃっていいんですかね?」

「いいんじゃないか。考えようによってはダンジョンのドロップ品だ。戦利品と考えてもいい」

「じゃあコーザさん、どうぞ」

「いや、俺にはこの剣がある。それに俺の風の適性は低い。お前たちが使ってくれ」

「いいんですか?ありがとうございます。じゃあエドが使ってくれ」

「ユーキは使わないのか?」

「俺はこのタイプの剣は使い慣れてないからね」


 そう言ってククリ刀を掲げて見せる。


「俺はこれか、もう一つ別のヤツを考えてる。できるかどうかわからないけど」


 そう。俺は日本刀が欲しいのだ。しかも大剣と斬り結んでも折れないような。無理かな?

 エドは俺から骸骨騎士の剣を受け取り、魔力を込めて振ってみた。


「すごい!剣速が段違いだ!是非使わせてもらうよ。コーザさん、ありがとうございます!」


 エドは大喜びだった。

 それから、虹色に輝く胸当てやマントなどを調べる。しかし、誰も見たことのない物だった。

 何だか魔力を感じるんだよね。これはストレージに保管しておこう。


 1時間ほど休憩をとり、俺たちは先に進んだ。

 森の中の道幅が徐々に広くなっていく。

 そして、1キロほど歩いた後、森を抜けたところにそれは不意に現れた。


 白木の木造の巨大な建物。

 この世界の西洋風の城とは全く違う。

 木造のピラミッド?

 それもエジプトのような四角錐ではなく、アステカのように段重ねになった。

 そして、中央には頂点に向かって真っ直ぐな階段が延びている。頂上には社のようなものがある。想像で語られる出雲古代神殿のような。

 高さは4、50メートルはあるだろう。


 俺たちは唖然としてこの建物を見上げていた。

 豪華な飾りはなくとも、荘厳で神聖、そして美しい。

 深い緑に囲まれた真っ白な神殿。


 ワン!


 シャトルが小さく吠えた。

 ふと前を見ると、この建物の前に、さっきの骸骨騎士と似たような騎士たちがずらりと整列していた。ただしマントの色は白だった。

 また気配もなしに現れた!


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