第121話 古の王都
一晩寝ればとりあえずリフレッシュできる。
今日も午前5時から行動開始だ。
33階に足を踏み入れると、相変わらずの薄暗さと強烈な腐敗臭がする。
これまでと違うのは、墓場ではなく、正面の道の先に高い外壁と巨大な門が見えること。
ここが死者の国の王都ということだろうか?
サーチで確認してみるが、外壁の周囲の堀ははどこまでも続いており、結局中に入るしかなさそうだ。
門にはボロボロの革鎧に長槍で武装した衛兵らしきゾンビが二人立っている。ゾンビと称しているが、俺にはゾンビやグールなどの区別はつかない。全部ゾンビだ。
一人のゾンビ衛兵が何か後ろに向かって合図した。
すると門の向こうから100人規模の武装衛兵たちが現れた。
どうやら俺たちが目標らしい。すでに槍を構えている。
仕方ない。話しが通じるとも思えない。
俺は向かってくる衛兵の集団に浄化魔術を放った。
衛兵の集団は一瞬で光の粒となって消えていった。せめてこれで成仏してくれてればいいのだが、ここはダンジョン、リポップするんだろうな。
「さて、行きましょうか」
俺たちは、浄化で綺麗になった道を慎重に進んだ。
立派な外壁だ。何だか王都の外壁に似ている気がする。しかし、ところどころ崩れかけ、戦闘の跡が見える。大きくえぐれたところは破城槌の跡か?
外壁の門を潜り中に入って驚いた。
広大な都市だ。そして多数のゾンビが彷徨っている。
しかし驚くのは建物だ。
周囲には、焼け焦げた柱の残骸が立っているだけだった。
まさに焼け野原。
よく見ると、ゾンビたちの多くも焼け爛れていた。
「ウエッ!」
エドが吐きそうになる。
まさに戦争の跡。元の世界で俺も何度か目にした戦禍の姿だった。
「ひどいな」とコーザさんがつぶやいた。
そうだな。ひどい。でも戦争はいつもこんなものだ。現代に至っても民間人が犠牲になる。
「さて、ここに立っていても仕方ない。進みましょう」
俺は浄化しながら歩き始める。エドには声をかけない。自分で克服するしかない。
エドは青ざめた顔で、込み上げる吐き気を抑えながらついてきていた。
この階の地図はない。なので、あちこちにサーチを飛ばしながら下への階段を探す。
焼け野原が終わると、崩れかけの建物群に変化する。ときどき石造りの建物があるが、多くは木造だった。
面白いのはこの都市の中央部辺りと思しき場所に広大な森があることだ。
そして森の中心に巨木が聳え立っていた。一体何メートルあるのだろう。
この都市のどこからでも見えると思われる高さだ。
森に向けてサーチをくまなく飛ばすが、次の階段はなかった。
ここが普通の都市なら是非見学してみたい森だ。
「ユーキ」
「なんだ、エド」
吐き気が収まったのか、エドが声をかけてきた。
「ここって何だか王都に似てないか?」
「え?」
するとコーザさんも同意した。
「俺もそう思った。見かけはまったく違うのだが、なんとなく大きな造りが王都のように感じる」
そうなんだ。俺はそんなに王都を知ってるわけじゃないしね。
「ちょっと、上に上がって確認していいか?」
「ああ、もちろん」
俺たちは天駆で上に上がり、上空からこの都市を見下ろした。
「やっぱり似ている気がする。あの森の辺りがセントラル広場だ」
そしてエドが森を中心に、おおよその王都のエリアを示していく。
「そうなると、あちらが貴族街で、その先が王城か」
コーザさんが示す方向は、青黒く靄っていて何も見えなかった。
俺はその方向にサーチを伸ばす。何キロ先だ?どんどん伸ばしていく。
あった!階段だ!
「ありました!あの方向に次の階段があります」
「ということは、次のフロアは貴族街か王城ということか・・・」
「かもしれませんね」
とにかく方向は決まった。
俺たちは地上に降りて、次の階に向けて進んで行った。
約4時間をかけて、俺たちは34階に続く階段に到着した。
この間戦闘は一度もなかった。
やはり浄化したエリアにゾンビたちは入って来れなかった。
ゾンビの群れが建物の陰などからこちらを見つめている中を、俺たちは無言で歩き続けた。
街の建物は、ときに焼き払われ、ときに崩れかけているといった様子だったが、王都の街並みとはまったく違っていた。やはり圧倒的に木造の建物が多かった。
ゾンビたちのボロボロの服も、原型がわからないが、何となく王国の服装とは異なっているように感じた。
時折元の姿をとどめている建物があった。洒落た木造建築だ。もしこの都市が元の姿のままだったら、さぞ美しい都市だっただろう。
都市に巡らされた水路は、やはり王都に似ていた。ただし、流れる水はヘドロに塗れたドブであった。
階段の休憩エリアで、俺たちは昼食をとりながら今見た光景を話題にする。
「水路も王都と似ていましたね」
「ああ、俺もそう思う」
エドとコーザさんは王都を良く知っているからね。俺はまだそこまで詳しくはわからない。
「どういうことでしょう?」
「まったくわからん。ダンジョンが王都似せた死者の国を見せているのか」
「ユーキはどうだ?」
「わかるわけがない。王都の昔の姿。王都の未来の姿。ダンジョンの嫌がらせ。まあ、最後の線が一番ありうるかな」
「そうだね。俺たちだから気づけたけど、普通の冒険者ならゾンビとの戦闘や逃げ回るのに必死で、ここが王都に似てるなんて気づきもしないよね」
確かに。考えてみれば、普通はこんなこと気づかないかもしれない。
「次は貴族街か王城。普通の冒険者なら見たこともない場所か」
エドの言葉にコーザさんが笑って答える。
「王城なら任せてくれ。ほとんどの場所は案内してやるぞ」
「あんまりゆっくり見学する気分でもないですけどね」
皆んなで笑い合う。やっと少しだけメンタルが前向きに戻ってきた。
シャトルが三人の間を跳び回って、癒しをもたらしてくれる。ありがとうね。
「さて、そろそろ行きましょうか」
休憩を終えて俺は二人に声をかける。
もう一度気合を入れ直して、俺たちは34階に足を踏み入れた。
そこにあったのは、貴族街でも王城でもなく、深い緑に彩られた森だった。
「森か・・・」
「強烈な腐敗臭もないな」
「死者の国は終わったのかな?」
俺たち三人は呆気にとられて立ち尽くした。
ジャッキーさんは、35階まではアンデッドのフロアと言ってなかったか?
そのとき森の中から俺たちに向けて一斉に矢の雨が降り注いだ!
瞬時にマギシールドを展開して矢の雨を防ぐ!
カンカン、と音を立てて弾かれた矢が俺たちの前に大量に落ちた。
なぜだ?気配が一切しなかった!
全力でサーチを発動して森を探る。
森の木の上に、何十もの物体がある。人型に思えるが、何だこれは?
「木の上に何かいます!」
俺はその人型の一つに向けて、魔弾を連射した。
すると、ガッガッと命中音がした後、ドサっと何かが落ちてきた。
「人形?」
落ちてきた物は、革鎧を纏った白い人形のように見える。
「いや、骨だ!」と、コーザさんが叫ぶ。
骨?骸骨のアンデッドか?スケルトンと言うんだっけ?
骨という物質だから気配が読み取れなかったのかな?
落下したスケルトンは、片腕を無くしながらもヨロヨロと立ち上がった。
再び降り注ぐ矢の雨。それと同時に、立ち上がったスケルトンが無事な片手に剣を持ち、斬りかかってきた。
コーザさんがすかさず迎え撃ち、大剣の腹で横殴りしてスケルトンを砕く!
骨がバラバラになり、頭蓋骨が転がった。
頭蓋骨は地面の上でカタカタと歯を鳴らした。
何だ、この頭蓋骨。耳の部分に尖った突起がある。
うわぁ!こっちに飛んで来た!
それをコーザさんが大剣で真っ二つにした!
地面に落ちて砕け散る頭蓋骨。今度は動かないようだ。
怖っ!飛んでくる頭蓋骨なんてビビるって!
それはともかく、また大量の矢が一斉に射掛けられてくる。
面倒くさい!
俺は森に向かって浄化の魔術を放った。スケルトンもアンデッドなら効果あるだろう。
案の定、森の木々の間に光の粒子がきらめき、地面にバタバタと弓矢や革鎧が落ちてきた。
とりあえず大丈夫かな?
「コーザさん。ヤツらの気配ってわかりましたか?」
「いや、まったくわからなかった」
「エドは?」
「俺も全然」
「骨だと気配がしないんでしょうか?」
「わからんが、そういうことかもしれんな」
これは少し厄介だな。
「奇襲に備えて魔装は強化しておけ」
「はい」
コーザさんの言葉に俺とエドが答える。
「さっきの骸骨、何か変じゃなかったか?」
エドも違和感を感じていたようだ。
「多分耳の辺りに小さな角みたいな突起があったせいだと思うよ」
「ああ、そういえば」
「コーザさん、あれ何かわかります?」
「いや。他の部分は人間の骸骨と変わりなかったようだったが」
「そうですね」
考えてもわからない。所詮はダンジョンのアンデッドだし。
「ところで貴族街も王城なかったわけですが、そうなるとこれまでとはまた別のエリアということですかね」
「そうだな。よくわからんが、ここはダンジョンだから、いきなり別のエリアになっても不思議はないな」
「確かに。とにかくこの森を進むしかないですね」
「ああ。敵がさっきの骸骨だとすると、俺たちは気配が感じられん。慎重に進もう」
コーザさんの言葉を受け、俺たちは目の前の深い森の小径に入っていった。
シャトルも腐敗臭がないことを感じ取ったのか、俺の中から飛び出してきた。
(トーダ、シャトルの防御頼んだぞ)
(わかっとる。傷一つつけさせんわ)
トーダに任せておけばおいそれと負傷することはないだろうが、見かけが柴犬の子犬だ。チョコチョコと歩く姿を見てると心配になるよね。
ワン!




