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ハルノオト〜聖女召喚の欠陥品ー俺は男だ!〜  作者: 島村都心
第二部【王立ロマリア学院1年】
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第120話 夏休みの肝試し2 アンデッドの攻略方法

 31階に足を踏み入れた途端、あの死臭のような強烈な臭いが俺たちを襲った。

 キャン!と鳴いてシャトルが俺の中に逃げ込んでしまった。

 犬の臭覚は人間の数千倍から1億倍とか言われているからな。ここはシャトルには無理だろう。

 馬の臭覚も人間の1,000倍とかじゃなかったっけ?

 ルクスを見ると涙目になっていた。ごめんね。


 薄暗いフロアに広がるのは延々と続く墓場。

 ジャッキーさんからもらった簡易の地図はあるが、あまり正確な感じはしない。

 俺の光魔術があるとはいえ、憂鬱な気分になる。

 サーチを全開にして、覚悟を決めて歩き出す。当然だけど俺が先頭だ。

 やっぱり本能には逆らえない。怖い・・・。

 うわぁ出たよ!

 前方から10体ほどのゾンビの群れがのそのそと近寄ってくる。

 来るな!

 昇天!!

 俺が光魔術を放つと、ゾンビの群れはさっと光の粒になって消えていった。

 よし、やはり光魔術で行ける!

 それさえわかれば大丈夫だ。

 臭いもきつい!浄化!

 ウゲッ!相変わらず慣れないが、臭いはかき消された。はぁ、スッキリ!


「ユーキ、ずっと浄化やってくれ」

「すまんができれば頼みたい」

「ブヒヒン」


 はあ、これ吐き気して気持ち悪いんだよ・・・。でも臭いもたまらん。

 仕方ない、ルクスのためだ。頑張ろう。


 俺は進行方向に向けて広範囲に浄化の魔術を放ちながら歩みを進める。

 なぜかゾンビたちは俺たちに近寄って来ない。

 サーチで探ると、俺たちを遠巻きにして見ているようだ。うじゃうじゃいるな。

 確かにこの数が殺到したらAランク上位の冒険者でもたまらないかも。


 墓場が続いていた風景が、寂れた村の景色に変わってきた。


「なあユーキ、ゾンビたち寄って来ないね」

「そうだね。どうも浄化されたエリアには入って来ないみたいだね」

「魔除けかな?」

「わからない。ちょっと試してみる」


 俺は村の廃屋の陰からこちらを窺っていたゾンビたちに向けて浄化を放ってみた。

 ゾンビたちはあっという間に光の塵となって消えていった。

 おお!浄化だけで昇天と同じように倒せるのか!


「どうも浄化するとゾンビは消えるみたいだな」

「そうだね。だから近寄って来なかったのか」

「そうとわかればさっさとこんな所おさらばしようぜ」


 俺たちはジャッキーさんからもらった適当な地図とサーチを頼りに、浄化した道を歩き続けた。村を過ぎるとまた墓場になったり、牛や馬などの家畜のゾンビがいる牧場だったり、いわばゾンビの農村地帯が続いている。

 村の中で腐りかけたニワトリのゾンビが走り回っていた。

 ウゲェ、思い出したら鶏肉食えなくなりそうだ。

 小さな雑貨屋もある。買い物できるのかな?

 あ、子供のゾンビだ。手を振ったら振り返してきた。親に怒られてる。ごめんね。

 なんか、段々怖くなくなってきたな。


 馬鹿なことを考えながら歩き続けること7時間。ようやく32階への階段にたどり着いた。


「はあ、やっと着いた!ただ歩いただけなのにどっと疲れたよ」


 エドが伸びをしながらそう言った。同感だ。


「とりあえず昼飯にしよう。休憩なしで歩きっぱなしだったからね」


 シャトルも飛び出してきた。


 (ユーキ、ユーキ、臭かったよぉ)

 (そうだね、シャトルにはちょっときつかったね)


 俺はシャトルにじゃれつかれながら、ストレージからパンや串肉、スープなどを取り出した。


「なあ、あの腐ったゾンビ見た後で肉食えるか?」


 エドが串肉を嫌そうに見ながら言う。


「俺は大丈夫だ。もらうぞ」


 コーザさんは平気みたいだ。

 俺も元の世界で何でも食えるように訓練している。


「エド。これも訓練だ。食っとかないと、いざというとき力が出ないぞ」


 俺とコーザさんが串肉を食べるのを見て、エドが渋々串肉を手に取った。

 オエッとか言いながら食べている。すぐ慣れるよ。


「ユーキ、気がついたか?」

「え、何がですか?」

「通ってきた村すべてに戦闘の痕跡があった」

「冒険者の?」

「いや、もっと古いものだ。もしかしたらあの村は、かつてどこかに攻め滅ぼされた村なんじゃないかな」

「実在した、ということですか?」

「わからん。ただちょっとそんな気がしてな」


 コーザさんがしんみりと言う。

 もしそれが本当なら・・・。悲しいことだがどうしようもない。

 こちらに向かってくるのなら倒すしかない。


「すまん、変なことを言った。何であれ戦闘に手心は加えるな」

「わかってます。お陰様でそんな甘ちゃんではありません」

「そうか。そうだな」


 そう言って、コーザさんは串肉にかぶりついた。

 1時間ほど休憩して、俺たちは32階に臨んだ。


 32階も墓場から始まり、また村に至る。

 村を注意深く観察すると、確かに壊れた建物や柵などは、自然に朽ちたというよりも、破壊されたように見える。


「コーザさん、確かに戦闘の跡ですね。侵略されたような」

「そうだな。間違いなさそうだ」

「実在した村なんですかね?」

「わからんな。ただのダンジョンの作った架空の村という方が納得がいくが」

「そうですね」


 考えても仕方ない。

 俺たちは浄化の魔術で作った道を言葉少なに歩き続けた。


 進んで行くと徐々に村の規模が大きくなり、ついには街と言えるような規模のところに到着した。

 崩れかけた外壁で囲まれ、門には門番らしきゾンビが立っている。

 そして外壁の周りは終わりの見えない堀が続いている。見ようによっては、水の中に作られた街のようだ。


「どうやらこの中を通るしかなさそうですね」

「そうだな」


 俺たちが門に近づくと、門番がこちらに気づき、槍を構えて向かって来た。その後にもワラワラと槍を構えたゾンビが続く。

 やむを得ない。

 俺はゾンビたちに向けて浄化を放つ。

 次々にゾンビたちが光の粒子となり、浄化の道ができた。


 門をくぐると、そこは今の王国でいえば地方の小さな街という程度のものだった。

 崩れかけた家屋が集まり、商店のようなものが並んでいる。

 家屋は木造が中心のようだが、ここにも戦闘の跡が見えた。

 ゾンビの馬が引く馬車や荷馬車もある。

 本当にここで生活が営まれているようにさえ感じてしまう。


 だめだ!ここはダンジョンだ!忘れるな!


 ゾンビたちは浄化の道に近寄れず、遠巻きに俺たちを見ている。

 俺たちは薄暗く、物言わぬ死者たちの街の中を、浄化の道を繋げながら黙々と歩き続けた。


 32階もやはり7時間ほどかかってようやく次の階段にたどり着いた。

 途中途中で現れる街は徐々に大きくなっていった。そして戦いの傷跡も顕著になっていった。

 どうやら俺たちは、国の中心部に近づいているようだ。

 そのことは、実在した国の滅亡の跡を見せられているようで、俺たちの気持ちを重くしていった。


 33階への階段部屋に入り、中程のエリアで腰を下ろす。

 今日の予定はここまでだ。

 俺は無言で夕食の用意をする。シャトルが飛び出して来て、またじゃれつく。癒されるよぉ。


 沈黙を破ってコーザさんが口を開く。


「もう一度確認しておく。いいか、ここはダンジョンだ。俺たちが見てきたものは、現実に生活している人々ではない」

「はい」

「普通であれば、俺たちがあそこを歩けば、無数のゾンビに囲まれて殺されるかもしれない。ただ、俺たちはユーキの魔術のおかげで、攻撃されることなくじっくりと周りを見てしまった。そのせいで、ここは人々が平和に暮らす街なのでは、あるいは何かに滅ぼされた哀れな人々なのでは、と錯覚してしまう」

「・・・」

「もし俺たちがゾンビと戦闘を繰り返しながらここに来ていれば、今のような感傷を抱く暇もなかっただろう」

「・・・」

「いいか、もう一度言う。ここはダンジョンだ。気を抜けば死ぬのは俺たちだ。一切の感傷を捨てろ。明日からもユーキの魔術が有効という保証はない。相手はアンデッドだ。躊躇わず攻撃しろ!」

「はい!」


 さすがコーザさん。いいタイミングでいいことを言ってくれる。

 俺は任務で何度も非情に徹してきた。飢えた子供でさえも。だからゾンビ相手に躊躇いはない。心配だったのはエドだ。優しい性格だからね。でもこれで大丈夫だろう。


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