第119話 夏休みの肝試し1 アンデッドの巣窟
ところでここにきてルクスとシャトルの戦闘力の伸びが凄まじい。
ミューが、召喚獣は戦えば戦うほど強くなると言っていたが、予想以上だ。ルクスは召喚獣じゃないけど。
ルクスはスピードもさることながらパワーが強烈だ。
蹴りだけでここまでの魔獣の頭蓋を砕き、骨を折る。また魔刃のように蹄から魔力の刃を出して引き裂く。まだ子供なんだよな。現状でBランクの魔獣以上の強さは余裕である。なお、煙の輪っかは五つに増えた・・・。
そしてシャトルはスピードが圧倒的で、敵の攻撃を一度も受けない。雪原にいたオコジョにもスピードで優っていた。攻撃力はパワー不足で一撃とはいかないが、オコジョの戦い方から学んだのか、トーダに教わって爪から魔刃を出して切り裂くことを覚えた。身体が大きくなれば噛みつきも強くなるだろう。でも小さなシャトルがじゃれてくるのを見ていると、心配ばかりしてしまうよ。今のところ一度も怪我してないけど、大怪我したらと思うと気が気ではない。
三人と二匹で順調に進んでいたとき、ついにアイツに出くわした。
元の世界ではフードコブラ、こちらではモスコブラと呼ばれるヤツだ。
「コーザさん!コイツは強いです!立ち上がると20メートル近い高さで、尻尾にも毒があります!身体もかなり硬いです!」
「わかった!」
コーザさんが盾役を買って出る。
俺たちはその後ろで散開した。
戦闘開始だ!
モスコブラがすごい勢いでこちらに向かって来て、首を縮めたかと思うと一瞬でその頭をぶつけて来た!
コーザさんが大剣で防ぐが吹き飛ばされた!
コーザさんは転がりながらすぐに起き上がる。
「なるほど、かなりのパワーだ。正面からやり合うのは分が悪いな」
「デカブツのくせにスピードもありますよ」
「そうだな」
さて、俺がどのくらい強くなったか試させてもらおう。
俺は、天駆で駆け上がると、ククリ刀で斬りつけるが、モスコブラは頭を振って俺の一撃を防御した。
くそっ、斬れなかったか。でも、防御したということは、少しは脅威に感じたのか?
「エド!」
エドに声をかけて左右から時間差攻撃を行う。一瞬早いエドの攻撃が防御された隙に俺が攻撃する。
グシッ!と音がして、モスコブラの身体にククリ刀が食い込んだ。
浅い!しかし跳ね返されなかった!
グギャー!と叫び声を上げて、モスコブラが激しく身体を捻った!痛かったか?
次の瞬間モスコブラの鋭い尻尾がこちらに向かって迫ってきた。
しかし俺の前に庇うように立ったコーザさんの大剣が毒のある尻尾の先を斬り飛ばした!
「ありがとうございます!」
俺は離脱しながら叫ぶ。
コーザさんも離脱してきた。
「尻尾くらいの太さならなんとかなるが、胴体の方は難儀しそうだ」
「でも尻尾の毒を気にしないで済むのでだいぶ楽です」
次に氷魔術を試す。
今の俺の全力でモスコブラに氷魔術を浴びせた!
どうだ?
身体中に薄い氷が張り、少し動きが遅くなったかと思ったが、次の瞬間、パンッと音がして俺の魔術は無効化された。
くそっ、まだ通用しないか。
やはり口を開けさせてパイルバンカーを撃ち込むのが一番なのかな。
でも、今回は何とか外側から倒して成長を実感したいな。
「全員で一斉にかかるぞ!」
コーザさんが声をかける。
「俺が正面!ユーキは右!エドは左!ルクスとシャトルは後ろ!」
全員が同時に動き出す。
やはり俺とは年季が違う。指示の声に鼓舞の力がある。
モスコブラの注意は最も危険なコーザさんに向いている。
コーザさんが天駆で上空に駆け上がり、落下しながらモスコブラの頭に向かって大剣を振り下ろした!
モスコブラは、顔を上に向けてそれを防ごうとする。
よし!喉元が開いた!
俺とエドは左右からモスコブラの喉元に向けて剣を走らせた!
ズシャッ!
斬れた!
どっと吹き出すモスコブラの血。
ギャー!モスコブラが悲鳴をあげる。
その鼻先にコーザさんの大剣が襲いかかる!
ズシャッ!
モスコブラの鼻先が大きく二つに割れた!
次の瞬間後ろから迫ったルクスの前足がモスコブラの頭蓋に叩きつけられた!
ゴシャッ!!
激しい音がして、モスコブラの頭蓋骨が砕けた!
「離脱!」
コーザさんの指示で、俺たちは一斉に離脱する。
地面を這ってのたうち回るモスコブラ。
その動きは徐々に鈍くなり、やがて動かなくなった。
よし!討伐完了!
全員無傷だ。
「すまん、ユーキ。でしゃばった」
コーザさんが謝ってきた。
「いえ、ありがたかったです。やはり場数が違います。これからも必要と思ったら遠慮なく指揮をとって下さい」
「そう言ってもらえると助かる。しかし、29階でこの強さか・・・」
「いや、コイツだけ単体での強さはずば抜けてます。なあエド」
「そうだな。数の厄介さとかはあるけど、一匹でこの強さは段違いだね。前回俺死にかけたし」
「今回は全員無傷だね」
「少しは成長したかな」
俺とエドは顔を見合わせて苦笑した。
ルクスが鼻を寄せてきて、シャトルはじゃれついてくる。
「ルクスもシャトルもありがとうね。助かったよ」
本当に君たちも怪我しないでくれよ。ずっと一緒に元気でいたいからね。
その後は運良くモスコブラにも遭遇せず、29階を踏破した。
「30階は密林地帯です。出てくるヤツで注意するのはアサシンタイガーという虎で、かなり気配を消すのが上手いですね。でもこのメンバーなら大丈夫です。むしろ小さな蝶がいて、鱗粉を吸い込むと呼吸困難になりますから、それに気をつけて下さい。前回は、心身ともに疲れきった状態で30階に入って、何度も死にそうになりましたけど」
「了解した」
そして、俺の言葉通り、俺たちは難なく30階を踏破した。
俺たちが31階に降りる階段部屋に入ると懐かしい声が聞こえた。
「おお、ユーキにエドじゃねぇか!また来たのか?」
双翼のジャッキーさんたちだった。
「久しぶり、ジャッキーさん!またここでやってるの?」
「俺たちは今のところ大体ここだよ。中々先に進めないからな。それより転移装置で来なかったのか?何階から来たんだ?」
「今回は新しいメンバーがいたから、また1階から。紹介するよ。こちらコーザさん」
コーザさんがにこやかに右手を出す。
「コーザだ。新人冒険者だがよろしく頼む」
「双翼のジャッキーだ。ユーキには世話になっている。こちらこそよろしくな」
二人が握手をすると、後ろの冒険者がざわつき出した。
「おい、あの人コーザって・・・」
「多分そうだ。俺一度見たことあるけど・・・」
ジャッキーさんが後ろを振り返る。
「おいどうしたんだ?何コソコソ言ってんだよ」
「馬鹿!ジャッキー!お前、コーザさんて多分・・・」
「え?どういうことだ?」
「知らねえのかよ!多分王国五剣のコーザさんだ!」
「王国五剣だと?」
ジャッキーさんがコーザさんを見る。
「元だけどな」
「・・・」
ヒエー、と叫んでジャッキーさんが飛び上がった!
「し、失礼しました!」
「やめてくれ。今はユーキのパーティの新人冒険者だ。気楽に行こう」
それからアワアワと挙動不審になったジャッキーさんを落ち着かせて、例によって宴会になった。前回怪我を治したマイクさんもいた。改めてお礼を言われた。
それにしても相変わらずランカスターの冒険者たちは陽気で賑やかだ。初対面の人たちともすぐに打ち解けることができた。
「おいユーキ。お前風呂持ってんだろう?後で出してくれ」
程よく酒の入ったジャッキーさんが、俺の肩に腕を回して絡んできた。臭いから離れろ!
「いいよ。俺たちも入ろうと思ってたから。そう言えばジャッキーさんたちはどこまで進んだの?」
「俺たちか?32階だ。双翼としては37階を攻略中だが、中々先に進めない」
「31階からはそんなに厳しいのか」
「ああ、お前たちも潜るんなら覚悟した方がいいぞ」
ジャッキーさんが、ドスンと腰を下ろした。
「31階から35階はこれまでとはレベルが違う。ここまで余裕で来れたヤツでも逃げ出したくなるほどだ」
そんなに・・・。
横でエドもゴクリと喉を鳴らした。
「35階まで到達できるメンバーが増えれば、双翼も先の攻略に人数をかけれるんだがな」
「それで37階で足踏みなんだ」
「そうだ。運良く35階を突破できたパーティ五人だけで攻略中だ」
「それで、下はどんなエリアなの?」
「いいか、良く聞け。聞いて驚け!そして恐れろ!」
「いいから早く教えてよ」
「いいか!アンデッドの巣窟だ!」
「・・・え?」
「二十何階かに教会とか墓場でゾンビが出ただろう。あれの何倍もの規模でアンデッドが出るんだよ!ゾンビの大群とかグールの大群だ!」
「あ、ああ」
「どうだびびったか?」
「あ、うん・・・」
「倒しても倒してもあちこちからアンデッドが湧いてきやがる。手間取ってるとレイスとかがワラワラ寄ってきて魔術攻撃だ。燃やしてもすぐに四方から集まってきてキリがないんだ。それにあの強烈な匂い!息が詰まって死にそうになる」
「ジャッキーさんたちはどうやって先に進んでるの?」
「コツは少人数で、ヤツらに見つからないようにコッソリ進むんだ。戦闘は最小限にして、アンデッドが集まる前に逃げること。そうしないとあっという間に囲まれるぞ」
「ああ、なるほど」
「隠れるポイントはいくつかあるから教えてやるよ」
「いや大丈夫。一度自分たちで試してみるから」
「そうかぁ?すぐに逃げ帰ってくることになるぞ。まあ、いつでも言ってくれ。お前たちは仲間みたいなもんだからな」
「うんありがとう。そのときは頼むよ」
ジャッキーさんが酒瓶を持ってふらふらと立ち去った。
俺とエドとコーザさんは顔を見合わせる。
「なんか楽勝そうだな、ユーキ」
「ああ、光魔術でいけそうだな」
拍子抜けだった・・・。
久しぶりの宴会と風呂でリフレッシュし、たっぷりと睡眠をとった俺たちは、午前5時に31階に向けて出発した。
ジャッキーさんたちが心配してくれたが、まあ大丈夫だろう。油断はしていないが。




