第118話 夏休みの課題4 新たな課題
20階を踏破し、21階への階段の休憩場所で、俺は皆んなに提案をしていた。
「この先を進むに当たって、皆んなに覚えてもらいたい技術が二つあるんだ。一つは天駆」
そう言って俺は実際に天駆をやってみせる。
「これから魔獣が大きくなってきたとき、高さは有効な攻撃手段になる。それと、25階は雪原フロアなんだ。雪に足を取れれて動きが鈍れば魔獣の格好の標的になる。俺とエドは天駆を自在に扱える。ケビンはどうにかできる程度だから実戦レベルまで上げて欲しい」
「それどうやって空中歩いてんすか?」
「俺も初めて見た」
真司とコーザさんが不思議そうに俺を見る。
「原理は簡単。マギシールドを足から出して、その上に乗ってるだけだ」
「足から?そんなことできるのか?」
「魔力は身体中どこからでも出せますよ。イメージしやすいから皆んな手をかざしてやってるけど、慣れれば身体の横、頭の上、どこにでもマギシールドは張れます。咄嗟の防御にも有効です」
俺とエドで実演してみせる。
「なるほど、すごいな」
「要は魔力操作とイメージです。天駆の場合は足を出す瞬間だけ足場になれば、あとはすぐ消えていいので、さほど魔力もいりません。コーザさんと真司のセンスならすぐできるようになると思います」
「なるほど、わかった。かなり有効な技術だ。是非習得したい。で、もう一つは?」
真司に実験台になってもらおう。
「真司。せーので火を出してくれ。俺とどっちが早く出せるか競走だ」
「発動速度の勝負っすか?俺まあまあ早いっすよ」
「まあやってみよう。いいか?せーの!」
次の瞬間俺は火を出していた。
「え?何やったんすか?あらかじめ呪文を用意してたんすか?」
「いや、呪文を使ってない」
「呪文使ってない?そんなことできるんすか?」
「ああ。一般には魔術の行使は精霊の力を借りる。呪文はその精霊への働きかけ、まあお願いだね。お願いされた精霊は大気中の魔素を変換させて火や風などに変える。簡単に言えばこれが魔術の仕組みだ」
「そうっすね。俺も独学で呪文覚えまくったっす」
「俺がやったのは、精霊を介さずに、自分で直接魔素を操作して変化させる。その操作可能な能力が魔術属性だ。慣れるまでは時間がかかるかもしれないが、習得してしまえば、思っただけで発動できるから圧倒的に速い。魔術師の弱点は呪文の詠唱時間だ。実戦、特に接近戦ではそれが致命的な弱点になるから、武技が中心になる。でもこの方法ならその弱点はない」
皆んながポカンとしている。
あまりにも身についた常識からかけ離れてるからね。
「これは強制じゃない。あるいは、やりたい属性だけに絞って練習してもいい。ただケビンはこれから魔術を習得するんだから、全部この方法で訓練した方がいいかもね」
「ああ、俺もそう思った」
「でも学院の試験は教わった通りに書かないと不合格だぞ」
結局、コーザさんは剣の戦闘がほとんどのため、天駆を徹底的に訓練すると言う。
真司は、光魔術、特に姿を消す魔術、ミラージュは無詠唱を練習すると張り切っていた。
こうして俺たちは、新たな課題を持って次に進んで行った。
21階からの進行は決して順調とは言えなかった。
21階から25階まで踏破するのに10日かかったのだ。
天駆をある程度使えるようになったのはコーザさんのみ。さすがにコーザさんは元王国五剣の一人というだけあり、魔力操作もセンスも桁違いだった。これで全盛期の半分くらいと言うのだから驚いてしまう。
真司もここにきてしばしば負傷していた。姿を消すという奇策に頼りすぎて、基礎戦闘力の訓練に時間を割いてこなかったのが響いてきた。何しろ魔獣は、こちらが姿を消しても匂いや感覚で攻撃してくるのだ。
そして、一番問題はケビンで、魔術を使えるようになったという可能性は拡がったが、まだまだ初期段階で、基礎戦闘力が劣っていることもあって、21階以降での単独戦闘はほぼ無理、何度も大怪我を負う羽目になった。
26階に至る階段のエリアで休憩中、ケビンが切り出してきた。
「ユーキ、考えたんだがこれ以上君たちの足を引っ張るわけにはいかない。俺はこのレベルでは明らかに足手纏いだ。なので、この先は君たちだけで進んでくれ」
俺もどうするか考えていたことだった。
「君はどうするつもりだ?ここで引き返すのかい?」
「いや、こんな機会は滅多にない。だから15階くらいに戻って徹底的に鍛える。ミューもいるから」
「しかし、そうなると食糧や装備品を持つのが大変だし、倒した素材も保管できないぞ」
「食糧と装備は最小限でいく。素材は捨てる。金が目的ではないからな」
すると真司が思いがけないことを言い出した。
「俺がケビンと一緒に残るっす。俺ならストレージ持ってますから。それにこの先は俺もちょっとヤバそうっす。俺も鍛え直しっす」
「いや、君はユーキと」
ケビンが慌てて真司を止めようとする。
「いや今回わかったっす。俺の切り札が魔獣に通用しないっす。実は考えてることがあって、それを磨きたいんすけど、この先だと練習しながら戦うなんて無理っす。なので、俺も少し楽なところで練習したかったんす」
なるほど。無理に付き合わせるのはかえって迷惑かもしれない。まあ、真司の優しさからの申し出なんだろうけど。
「わかった。二手に別れることになるけど仕方ない」
「俺はどうする?」
「コーザさんはできれば俺たちと一緒に来て下さい。31階からは俺もエドも初めてです。コーザさんが来てくれるとかなり先まで行けると思いますので」
「わかった。今の俺がどれほど役に立つかわからんが、よろしく頼む」
20日後にレクシャールのギルドで待ち合わせることを約束して、ケビンと真司は転移装置を使って15階へと戻って行った。
俺とエドそしてコーザさんの三人になると、一気に進行速度がアップした。
俺たちが前回苦戦した魔獣もコーザさんはほとんど苦にしていなかった。さすがだ。ただ、ゾンビやグールが出る教会エリアの悪臭には辟易していた。もちろん、光魔術の連発で走るようにクリアした。変な司祭もまた出たので問答無用で倒した。何の役に立つかわからないタリスマンと杖が増えてしまった。
前回来ていることからルートもわかっており、1日で一気に29階まで降りた。
荒野エリアだ。
飛行する蜥蜴、飛びトカゲを見たコーザさんが、ちょっと試させてくれと言う。
見ていると、コーザさんが天駆で一気に駆け上がり、一刀の元にトカゲの首を切り落とした。
「どうだった?」
「いや、完璧ですね!さすがです!」
そう言えばフレッド団長やザックさんもすぐ天駆を使えるようになっていた。やはり素の能力が高い人は覚えが早い。俺も基礎訓練を怠らないようにしよう。
おっと!俺は後ろを振り向きククリ刀を一閃する。
ドサリと音がして、首と胴が離れたカメレオンが姿を現した。
「何か気配がすると思ったが、コイツは姿を消せるのか?」
「はい。前回は知らなくてびっくりしました」
「確かに初見はきついな。シンジと同じ魔術なのか?」
「原理は一緒だと思います。多分コイツの場合は魔力は使ってますが、身体機能もあるんだと思います」
「色んなヤツがいるな、魔獣には」
コーザさんが感心したように呟いた。
そう、タネがわかれば対応できるが初見は中々大変だ。性質や弱点が把握できるまで手探りとなる。31階からはどんな魔獣が出るかもわからない。改めて気を引き締めた。




