第116話 夏休みの課題2 個人技能
9階に入る。
ここは食用の牛や羊もいるので、相変わらず活動している冒険者が多い。
ルクスが戦いたいと主張するので、牛に向かわせてみた。
魔力の扱いはとても上達しており、魔装も十分だ。
どのような戦いをするんだろうと注目していたら、恐ろしいスピードで襲いかかり、立ち上がって振り下ろした右足で牛の頭を叩き潰してしまった。怖・・・。
ルクスが褒めてくれと駆け寄ってきたので、思い切り顔を撫でてあげた。
ルクスも将来的にはかなりの戦力になりそうだ。
シャトルが興奮してルクスにじゃれついていた。
ケビンはかなり辛そうだが、それでも気力を振り絞って魔獣と戦っている。その姿勢があれば必ず強くなれると思う。剣の才能もある。俺も追いつかれないように頑張ろう。
さあ、いよいよ10階だ。せいぜい驚いてくれ。
「こ、これは・・・」
ケビンと真司の口があんぐりと開いている。
どうだ、驚いたか!俺も最初驚いた。
「何すかこれ・・・。ここダンジョンっすよね・・・」
「ここはフロアー全体がセーフティーエリアなんだ。すごいだろう」
建ち並ぶ建物、行き交う冒険者たち、賑わう店。ダンジョンの中にこんな場所があるなんて信じられないよね。
「話には聞いていたがすごいもんだな。これほどとは思わなかった。街が丸ごとあるのか・・・」
コーザさんは知ってたようだが、実際に見ると驚くよね。
「さあ、宿に行こう」
俺は皆んなを促して歩き出す。向かう先はもちろんダンさんの宿だ。
ケビンも真司もキョロキョロして通りに並ぶ店を見ている。
お、綺麗なお姉さんの客引きだ。
「雄輝さん、雄輝さん!あの店後で行きましょう!」
真司が興奮している。まあ、1日魔獣と対面した後だから癒しを求める気持ちもわからないではない。
「行きたきゃ一人で行ってこい。俺はやることがある」
「何すか、冷たいっすよ。1人で行っていいんすか?いいんすね?後でナシはダメっすよ」
勝手にしろよ。お前の下の事情なんざ知らん!
ルクスを連れている俺たちは人目を引く。その上、シャトルがルクスの背中に乗ってキョロキョロしているからなおさらだ。女性冒険者に、キャー可愛い!と言われて尻尾を振っている。
もしかしてシャトルも女好きなんだろうか?まさかね。
(キレイなお姉さんスキ!)
そうなのかよ!
ダンさんの宿に着き中に入ると娘のメルちゃんがいた。
「あ、ユーキさん!お父さん、お母さん!ユーキさんだよ!」
メルちゃんが店の奥に声をかけると、ダンさんと女将さんが慌てて出てきた。
「ユーキさん!エド!よくいらっしゃいました!」
「お久しぶりです、ダンさん。部屋は空いてますか?」
「大丈夫です。先週騎士団の連中が来てましたが」
「それは助かった。足の調子はいかがですか?」
「はい、おかげさまでほとんど元通りです。本当にありがとうございました」
「元に戻って良かったです。それと、馬を連れて来てるんですが、厩舎はありますか?」
「裏にありますよ。ご案内します」
ダンさんに案内されて、ルクスを厩舎に連れて行き、調理済みの肉を出してやる。ルクスは雑食なのだ。
厩舎には他にも馬がいた。冒険者が馬を連れてくることは珍しいが、ここでは農業や商業も営まれている。馬は必要なのだ。そうだ、ルクスも転移装置の登録やっとかなきゃな。
「そう言えばダンさん。今日はあの肉ありますか?」
「入ってますよ。今夜お出しします。持っていかれる分も用意しておきます」
「やった!ありがとうございます!」
よし!ダンさんのランペイジブル料理がまた食べられる!前回の鍋は後で返しておこう。
皆んなで4階に上がり、リビングでコーヒーを飲みながらくつろぐ。
「ケビン、疲れた?」
「正直クタクタ。今日何回死にかけたかな?」
ケビンの言葉に皆んなが笑う。
「大丈夫だよ、ケビン。俺も前に来たときは、初日で心が折れかけた」
エドがケビンをフォローしてくれる。もっとも俺たちの場合は、魔術も魔装も禁止されて、地図もなかったけどね。
「ケビン、明日からはもっときつくなる。ただ、諦めないでくれ。どんな怪我でも即死しなければ絶対俺が治す」
「諦めない。俺は強くなりたい。だから諦めない!俺以外はまだ余裕なんだよね。皆んなには迷惑をかけて申し訳ないと思っている。わがままだとは思うけど、もうしばらく付き合って欲しい」
「心配するな。誰も迷惑だなんて思ってないさ。皆んなこうやって強くなるんだ」
「ありがとう。本当にありがとう」
するとケビン中にいたミューが飛び出してきた。
「ミューもいるニャ!ミューが一緒に強くなるニャ!ミューとケビンは二人で一人ニャ!」
ミューはいいヤツだね。ケビンは嬉しそうにミューの頭を撫でていた。
夕食に出たランペイジブルの煮込みには、皆んな大喜びだった。これホント美味いよ。
食後交代で風呂に入った後、翌日以降の方針を打ち合わせた。
20階までは基本的に個人技能の向上や、それぞれの課題に取り組み、とこどき連携練習を挟むこととする。
コーザさんはとにかく昔の力を取り戻すためのリハビリ。エドは魔術の練度上げと新しい魔術の習得。真司は魔弾の習得と魔装維持時間の延長。ケビンはとにかくすべての基礎力を上げる必要がある。
俺は、ルクスとシャトルの戦闘力強化だ。元々シャトルは、元の世界でも俺たちを護ろうと、熊にも立ち向かっていく犬だった。今のシャトルはどこまで強くなるのだろう?
打ち合わせ終わると、各自部屋に戻って休んだ。真司は宣言通り夜の街に繰り出していたけど。
俺は自分の部屋でシャトルと遊びながらトーダに話しかける。
「トーダ、シャトルのことよろしくね」
「心配いらんて。明日からもワイがシャトルに教えてハヤテ丸以上にしちゃるけん」
「ハヤテ丸?」
「ハルの犬や。シャトルとおんなじ柴犬や。シャトルみとるとハヤテ丸思い出すねん」
「清明さんも柴犬飼ってたんだね」
「可愛いけど勇敢な子やったで。鬼に殺されたけどな」
「え?」
「ハルもワイも帝の頼みで他の妖怪倒しに行っとたんや。その間に姫さん護ろうとして鬼と戦うて死んだ。ハヤテ丸も鬼倒したけん相打ちや。姫さん立派に護ってな」
「そんなことが・・・」
「せやからシャトルもルクスもワイが護る!絶対死なせん!シャトル、ワイから離れるんやないで!」
ワン!
シャトルがブンブン尻尾を振ってトーダを舐める。
こらやめんかい!と言いながら嬉しそうなトーダ。
二人でキャッキャとはしゃいでいる。
幸せな光景だ。
うん、皆んなでずっと一緒にいようね。俺も皆んなを護れるくらい強くならなきゃな。
朝6時、朝食を済ませて俺たちは出発した。
真司はスッキリした顔をしてご機嫌だ。昨夜は楽しめたのだろう。
宿を出るとき、メルちゃんがお父さんのことありがとうと言ってきた。そう言えばメルちゃん前回は寝てたっけ。お礼を言うために早起きしてくれたみたいだ。メルちゃんに金貨10枚が入った小袋を渡し、お父さんに渡しといてと頼んだ。ダンさんがどうしても料金受け取ってくれないからね。
11階に降り、俺たちの修行が再開した。
草原エリアなので、少し散会して各自適当な魔獣と戦いながら先へ進むことにした。
ここで負傷しそうなのはケビンくらいだが、ケビンにはコーザさんがついて指導してくれることになった。
前回はここにキラーホークという、本来なら下層にいる魔獣が迷い込んでいたため、いきなり負傷させられたが、今回はいないようだ。
ルクスがときどき煙の輪っかを吐いては首を傾げている。思わず吹き出してしまう。
エドがそれを見て聞いてきた。
「なあ、ルクスが煙の輪っか吐いてるけど、あれは何なの?」
「あれね。あれはそのうち炎のブレスになる」
「ブレス?ルクスが?」
「そうだよ。ルクスはペガサスだから」
「ルクスってペガサスなの?」
エドが驚く。言ってなかったっけ?
「そうだよ」
「ペガサスなんて本当にいたんだ。でも、翼がないよね」
「うん、それで親や兄弟から追い出されたみたい」
俺はルクスを見つけたときのことを話した。
「そうだったのか。可哀想に」
「まあ、その結果、俺はルクスと出会えたんだけどね」
「そうだな。何が幸いするかわからないもんだね」
そう言って、エドはまた自分の獲物を探しに行った。
大丈夫。ルクスにはもう俺たちがいる。あんなに好いてくれるエミーちゃんがいる。
もう寂しい思いはさせない。
あ、煙の輪っかが2つになった。
シェーフィールドの収穫祭のときの芸にしようかな。
さあ、俺も修行だ。敵が大したことないうちに自分の技をしっかり磨きたい。
やるべきことは決まっている。魔弾と魔刃の威力アップ。目標は前回ダンジョンでメイデン師匠が見せてくれた威力だ。相手がどれだけ硬かろうが、魔力防御に優れていようが、それ以上の威力で突破する。
フレッド団長やザックさんは、剣で地龍の首を簡単に撥ねていた。おそらくコーザさんも以前の力を取り戻せれば同じことをやるだろう。俺の場合、若返った身体のせいでそこまでの筋力は物理的に無理だ。しかし魔力を使えば違う。あんなに小柄な師匠が、フレッド団長の大剣以上の威力を出す。俺はあのときの師匠の魔刃を頭に浮かべながら、魔弾についてはより硬くより速く撃ち、魔刃についてはより鋭く硬く、そしてより速く振り下ろすよう、繰り返し繰り返し練習を続けた。
「雄輝さん、俺の魔弾見てくれませんか?だいぶいい感じになってきたっす」
3日が経過したとき、真司が俺に言ってきた。今は15階の丘陵地帯にいる。
「いいよ。ちょうど向こうからストライプブルが来るから撃ってみて」
「了解っす」
ストライプブルは牛のシマウマ版だ。ランペイジブルには劣るが肉は美味い。
ストライプブルが70メートルくらいにきたところで、真司が魔弾を連射した。
魔弾はストライプブルの頭部に全弾命中し、巨体がドスンと倒れた。
さすがだ。元々拳銃を使い慣れていたせいで、イメージが明確だ。エドよりも習得が早かった。
「いいんじゃないかな。あとはより威力を高めるため、魔弾にもっと魔力を込めて固めることと、発射スピードを拳銃以上に上げることだな。まあ、俺の課題も同じだけど」
「そうっすね。あと機関銃。あれ難しいっす。あんなに速く連続で魔弾作れないっす。雄輝さんどうやってんすか?」
「一個一個魔弾作ってたんじゃ無理だぞ。弾倉でも弾帯でもいいから、最初から大量の弾をイメージして作って、それを連続発射するんだ。こっちの世界だと物がないからイメージしづらいみたいだけど、お前なら大丈夫だろう」
「なるほど。って、俺警察っすよ。機関銃なんて撃ったことないっす」
「見たことくらいあるだろう。要はイメージ!」
「イメージっすか。だったらレールガンとかできないっすかね?」
なるほど。レールガンか。
レールガンは海上自衛隊が2023年に洋上実験を行い、2025年には搭載艦から標的船の攻撃実験に成功しから急速に進化し、2027年には尖閣諸島に実戦配備される予定だった。
俺も一度海上試験を見学した。
あれなら射程は飛躍的に伸び、威力も申し分ない。
砲弾も火薬を使わないから簡単にできる。
「あらかじめ鉄の弾をストレージに用意しておいて、それを撃つなら可能かもしれないな。うん、いいアイデアだ。今度練習してみるよ」
「核はダメっすよね」
「それは避けたいな」
「そうっすよね。俺もやりたくないっす」
核はだめだ。周辺被害と被曝後の被害が大きすぎる。
抑止力以外で持っていいものではない。そしてこの世界は核兵器を知らないから、抑止力にもならない。この世界では無用の兵器だ。個別撃破ならレールガンができれば十分だ。
そして、そもそも俺たちの主たる敵は魔獣だ。魔獣相手に効果的な力を備えるんだ。その力を人に向けたくはない。戦争は元の世界だけでたくさんだ。この世界で戦争なんて起きなければいいな。そう思いつつも、仮面の男たちが頭をよぎった。
俺たちがダンジョンに入って10日が経過した。
今19階の密林地帯を進んでいる。
パーティで戦えばもっと楽に進めるが、まだ今のところは個人戦を中心に訓練中だ。
各自が自分の課題に取り組んでいる。ケビンを除けば命の危険を感じるレベルではないため、急速な進歩とはいかないが、着実に成果は上がっている。
一方ケビンは何度も命の危険を感じ、負傷したおかげで、気配探知、危機察知能力は急速に成長し、魔装の継続時間、強度も大幅に伸びた。成長率では一番だ。
そしてミューが言ったとおり、ミューとシャトルは戦えば戦うほど強くなっていった。召喚獣の成長速度はすごい!
だがケビンはここにきてかなり疲労の色が濃くなってきた。
20階についたら1日休息をとった方がいいかな。




