第115話 夏休みの課題1 連携練習
いよいよダンジョンを進み出す。
出てくる魔獣は前回と同じだ。
さすがに真司はAランクだけあって、上層階の魔獣は相手にならない。コーザさんも歩きながら剣を軽く振るだけ。止まることもない。
ケビンは初めてのダンジョンに、かなり緊張していたが、3階が終わる頃にはかなり自由に動けるようになってきた。ときどき天井から落ちてくるムカデに噛まれて悲鳴を上げていたけど。
4階の草原エリアに入ったとき思いがけないことが起きた。
シャトルが飛び出してきたのだ。え?召喚なしに勝手に出てこれるの?
(ボクもやる!ボクも強くなる!ユーキを護る!)ら
(シャトル!ダメだよ。まだ小さいんだから!)
(大丈夫!ボク強い!)
シャトルは草の上ではしゃぎ回っている。
(トーダ、どうしよう)
(ええやないか。ワイが中入って護ったる。シャトルにも練習させたり)
結局、シャトルに絶対怪我させるなよとトーダに頼んで、シャトルも戦闘に参加することになった。大丈夫かな。シャトルが怪我したら泣くぞ、俺。
少し歩くとシャトルがいきなり走り出した。
向かう先にはファングラビットがいる。シャトルの察知能力はかなり高い。そして速い!
どういうことだ?以前の子犬のときのシャトルとは全然能力が違う!
俺たちもシャトルの後を追って走った。
こちらに気づいたファングラビットが敵意をむき出しにしてジャンプした。その首元にシャトルもジャンプして噛みつく!シャトル!なんてジャンプ力だよ!
ファングラビットが着地して悲鳴を上げ、シャトルを振り落とそうと激しく首を振るが、シャトルは放さない。俺は、ファングラビットの額に魔弾を撃ち込み絶命させた。
シャトルが嬉しそうに俺の方に駆け寄ってきた。
うわっ、口元が血だらけだ!浄化!
(ユーキ!ボク強い?)
俺はシャトルの頭を撫でながら言い聞かせる。
(ああ、強い。よくやった。でも、これからは勝手に飛び出しちゃダメだよ。俺がいいと言ってから。約束できるかな?)
(わかった!ユーキに聞いてから行く!)
大丈夫かな?
「大丈夫ニャ」
おわっ!今度はケット・シーのミューが出てきた!
ケビンを見ると首を横に振る。コイツも勝手に出てきたのか?
「召喚獣は戦えば強くなるニャ。沢山戦った方がいいニャ。ミューも戦うニャ!」
今度はケビンが慌てている。
「ケビン弱いニャ!ミューが護るニャ!」
あちゃぁ、言われちゃったよ。
コーザさんが驚いている。喋る召喚獣なんて見たことないよね。
やむを得ず、シャトルとミューも一緒に進むことになった。
少し進むとシャトルとミューがピクリとする。
「ケビン、わかるか?」
「いや、俺にはまだわからない」
「1キロ先にグラスウルフの群れがいる。とにかく気配察知能力を必死に伸ばしてくれ」
「わかった」
ケビンの顔が引き締まる。
「数は7頭。俺とエド、コーザさん、真司が1頭ずつ。ケビンが3頭。シャトル!ミュー!アイツらをこっちに連れて来てくれるか?」
ワン!と吠えてシャトルが風のように走る!
ミューも速い!あっ、四つ足で走るんだ。
少しするとシャトルとミューがグラスウルフを引き連れて嬉しそうに走って来た。
「行くぞ!」
全員がグラスウルフに向けて走り出す。やはりケビンが一歩遅れる。
俺たちはすれ違いざまにグラスウルフを斬り捨てる。
ケビンが残り2頭に少し苦戦している。複数相手の訓練をしてないからね。
あっ、ミューが1匹に飛びかかった。
その隙にケビンは1頭を倒し、さらにもう1頭を倒した。
ミューに手を出すなと言いたいけど、まあいいか。召喚獣は仲間思いなんだね。
こうして、シャトルとミューが魔獣を誘き寄せて倒すというパターンで、俺たちは4階を踏破した。
「次は5階だ。この階を踏破したら一度休憩をいれるよ。ここはグラスディアっていう鹿の肉が美味いから、1頭は狩ろう。あとアサシンスネークっていう50センチくらいの小さい蛇は猛毒だから気をつけてくれ」
このように注意して5階に臨んだが、やはり若干疲労の見えるケビンが見事にアサシンスネークに噛まれた。ケビンの魔装が切れていたためだ。
特に注意はせずに淡々と治癒を施す。
本人が一番わかっているはずだ。
ケビンの悔しそうな顔を見ればわかる。この繰り返しで魔装の持続時間や気配察知は必ず延びる。命がかかっているんだから。俺たちもそうだった。
5階から6階に至る階段のところで転移装置に登録した後、全員にコーヒーとクッキーを配り休憩する。
「甘い物はちゃんと食べといてね。疲労で頭の回転が鈍ると、一瞬の判断が遅れるから」
シャトルとミューもポリポリクッキーを食べている。元の世界では犬に人間食べ物を食べさせるのは犬の健康に良くないと言われていたが、この世界に来てシャトルの身体も変わっているようだ。
「ユーキ、ごめん。俺、完全に足手纏いだね」
ケビンが項垂れてつぶやく。まあ、現実を見るとショックかもね。
「ケビン、厳しいこと言うけどそれは最初からわかっていたことだ。それでも君は強くなりたいからここに来ることを選んだ。そして俺たちも君の力をわかった上で君の同行を認めた。だったら、君がやることはしょげることではなく、死に物狂いでついてくることだ。今は始まったばかりで、むしろ安全地帯を歩いているようなものだ。この先何度も死にそうになると思う。俺とエドも本当に何度も死にそうになった。でも保証する。ここを出たら必ず強くなる」
「・・・そうだね。皆んな、迷惑をかけるがよろしくお願いします」
そうだ。ケビン頑張れ!
休憩を終えて6階に入る。
「ここはゴブリンが出る。人型の魔獣との戦闘だ。人型でも魔獣だから躊躇しないでね。俺は最初攻撃を躊躇って怒られた。それと、薄暗いから目に魔力を集めると、暗いところでも見える暗視の練習になる。余裕があればやってみてくれ」
そう注意したが、この世界でゴブリンへの攻撃を躊躇う者はいなかった。・・・俺だけかよ。
ケビンを少し休ませるために真司に先頭を頼んだおかげで、この階はすいすい進んだ。
さすがAランク。この程度は敵ではない。
7階は集団で連携をとってくるゴブリンだったな。
コーザさんが、「ほう、ゴブリンが陣形を組むのか」と感心していた。
そういえばコーザさんは魔術は使うのかな?
「コーザさんは遠距離攻撃の手段は?」
「俺は火と風だ。だがこの方が速い」
そう言ってコーザさんが大剣を横一閃すると、前方のゴブリンの集団全員が一撃で真っ二つになった。
ああ。フレッド団長やザックさんがやってたやつだ。強力という言葉が生ぬるく感じるほどの威力のスラッシュ。すごいな。
せっかくなので、敵が弱いうちに連携の練習をする。
コーザさんとエドが交代で盾役になり、斬り込みや後方からの魔術攻撃を行う。
ケビンは属性魔術が使えないのでスラッシュを放つ。
「火魔術行くよ!3、2、1!」
「スラッシュ行きます!3、2、1!」
掛け声で接近組がパッと離れたところに、遠距離攻撃を撃ち込む。
合図は大声ではっきりと。
何度も繰り返すうちに、かなり形になってきた。
シャトルとミューも、ワン!とかニャー!と鳴いて、矢のような速さでゴブリンに突っ込んで、喉笛を噛み切ったり、爪で引き裂いたりしていた。
なんか、みるみる強くなってるんですけど・・・。
ミューが言っていた、戦えば強くなるというのは本当だったんだ。
連携練習で上手くいったせいか、ケビンが少し元気になってきた。
8階の森林エリア。
前回は魔力を使うことを禁止されていたので、猿に難儀したエリアだ。
今回はそんな制限はない。魔弾で瞬殺だ。
森の中の戦いに慣れていないケビンは苦戦中だ。
コーザさんは狭い場所で大剣は扱いにくいのではと思ったが、まったくそんなことはなかった。あの長い剣をどのように使っているのか、楽々と魔獣を斬り伏せていく。狭い屋内でも刀を自在に振るう達人みたいだ。空間把握能力が抜群に優れている。
俺やエドが木の上の猿を魔弾で倒しているのを見た真司が俺に近づいてきた。
「それ何すか?野外実習のときにバカを吹き飛ばしたのとは違いますよね」
「いや、原理は同じだ。スラッシュみたいな刃じゃなくて、魔力を銃弾みたいに固めて、回転させて高速で発射するんだ。最初はパチンコ玉みたいなのから始めると簡単だよ。こっちには拳銃がないから、皆んなこんなのやらないけど、かなり使えるぞ」
「なるほど練習してみるっす。機関銃とかできそうっすね」
「できるよ」
そう言って俺は猿の群れに向かって、魔弾の機関銃を撃つ。
ダダダダダッ!
激しい音がして、次に絶命した猿がバタバタと木から落ちてきた。
「す、スゲェっす!」
「ユーキ、今のは?」
驚いたコーザさんが聞いてきた。
俺は、魔弾とその連射の説明をする。
「それは厄介な攻撃だな。喰らったら蜂の巣だ」
「皮が硬い相手や強い魔装には効きません。コーザさんでも魔装で防げます」
「それは相手の防御より強くすればいいだけだろう。怖い攻撃だよ」
ああ、そう言えばメイデン師匠も言ってたな。敵の魔力防御が高ければそれ以上の強さで攻撃するだけだって。
「師匠にも同じことを言われましたね」
「君の師匠って?」
「ご存知ですか?ランカスターのメイデン様です」
「メイデン様か!だからその強さか!それに治癒魔術も」
やはりメイデン師匠は有名なんだな。
そのとき背後で、うわー!という叫びが上がった。
見るとケビンが蛇に巻きつかれて締められていた。
エドが素早く蛇の首を刎ねて救出した。幸い魔装を纏っていたみたいで怪我はなかった。
魔装の維持に気を取られて気配察知が疎かになっていたみたいだ。
シャトルとミューは、木の上をとび跳ねながら猿を追いかけ回している。
どう見ても柴犬の能力を超えている。どこまで強くなるか楽しみだ。
するとこれまで大人しかったルクスがブルルと鼻を鳴らして俺をつついてきた。どうやら自分も戦いたいらしい。
(わかってるよ。今回はルクスにも訓練して欲しいから連れてきたんだ。これから段々敵が強くなるから、ルクスも助けてね)
ブヒヒン
ボクも頑張るという意思が伝わってきた。




