第111話 救出
「船か」とコーザさんがつぶやいた。
なるほど、連中は水路を利用しているのか。
「真司!」
「ラジャー」
真司が姿を消す。ツーカーで行動できるのはありがたい。
現れた五人は倉庫の中に入って行った。おっ、真司も一緒に入っちゃった。どうやって出てくるんだ?
しばらくすると入り口の扉が開いて真司が出て来た。何だよ、普通にそこから出てくんのかよ。確かに姿が見えなければ、建て付けの悪い扉が勝手に開いたようにしか見えないか。
真司が姿を現す。
「わかりました。ヤツら今夜子供たちを外に運ぶみたいっす」
「そうか。良かった、連れ出される前に発見できて」
「ホントタイミング良かったっす。あと雄輝さんのこと話してたっす」
「俺のこと?」
「なんか誘き出して殺すらしいっすよ」
「そうなんだ」
「それもすぐには殺さずジワジワ痛めつけて殺すらしいっす。大変すね雄輝さん」
「あんまり痛くしないようにお願いするよ」
「聞いてくれるといいっすね」
コーザさんが面白そうに俺たちの会話を聞いていた。
そしてそれから1時間ほどしてエドが戻って来た。なんと、ジェームス様とフレッド団長を引き連れて。
「ジェームス様!団長!まさか自ら来られたんですか!」
「まあね。どうせ君たちがいるんだ。危険はないだろう?」と言って、ニヤリと笑う。
「それにコーザ殿に会えるかもしれないと思ってね」
ジェームス様がコーザさんに視線をやる。
「ご無沙汰しております、閣下。このようなお見苦しい姿で恐縮です」
「久しぶりだね。君に会えて嬉しいよ。ただ話は後だ。まずは子供たちを救出しよう。紹介しておく。衛兵本部第一大隊長のマシュー・キャンベル殿だ」
40歳くらいの精悍な男性だ。随分上の人を連れて来たんだな。制服の部下も5人いる。
「ユーキ・シェフィールドです。よろしくお願いします。まずは状況をご説明します」
俺はこれまでの経緯と状況を簡潔に報告した。
「わかりました。それで作戦は?」
「私とエドが正面から二人で制圧します。その後、連中の捕獲と尋問、それと子供たちの保護をお願いします」
「え?」
ジェームス様が助け船を出してくれる。
「大丈夫だよ。まあ見ててくれるかな」
さあ、やっと制圧開始だ。
俺とエドは建物の陰から飛び出すと、一瞬で見張りの二人の元に駆け寄った。
そして相手が俺たちに気づいたときには、その意識は刈り取られていた。
俺は倉庫の入り口の前で皆に手招きをした。
衛兵さんたちが唖然としている。
「では踏み込みます」
「あ、雄輝さん、俺も参加していいっすか?」
「いいよ」
真司もウズウズしていたようだ。
真司が目の前で消えると、衛兵さんたちだけでなく、ジェームス様とフレッド団長も驚いていた。
「行きます!」
俺は扉をドンと思い切り開く。
中で五人の男が酒盛りをしていた。
「誰だ!」
「なんだ、テメェら!」
男たちが立ち上がるが、次の瞬間には全員が吹き飛ばされるか、その場で意識を失い倒されていた。
敵の問いに答える必要はない。話し合いや交渉に来たのではない。制圧に来たのだ。制圧は無言で迅速に行うのみ。
「捕縛!」
マシューさんが部下に指示を出す。
「いやぁ一瞬ですか。衛兵本部に欲しいくらいだ」
入り口で倒れている見張りの二人を含め、全員の捕縛が完了すると、俺たちは地下に降りた。
地下室は床に魔道灯が置いてあるだけで薄暗かった。
俺は照明の魔術で部屋を明るくする。
部屋の片隅で、七人の獣人の子供たちが手足を縛られた姿で固まって、怯えた目で俺たちを見ていた。
「皆んな大丈夫だよ!怖かったね。皆んなを助けに来たんだよ」
俺は努めて明るく声をかける。
衛兵さんたちが子供たちに駆け寄って素早く拘束を解いていった。
こういうときは衛兵さんの制服は効果絶大だね。日頃目にしている正義の味方だ。
ウワーン!!!
拘束を解かれて助かったと感じた子供たちが一斉に大泣きし始めた。
あちゃーどうしよう。そうだ、こういうときは!
「はーい、皆んな!良かったね。もう大丈夫だよ。ねえ、聞いて、聞いて!皆んなお腹すいてない?プリンて知ってる?甘くて美味しいお菓子だよ!皆んな食べたくない?」
「え?プリンあるんすか?何でプリンがあるんすか?」
「俺が作ったんだよ!」
「何で雄輝さんが作れるんすか!チートっすか?チートっすね!俺もプリン食べたいっす!」
何で真司が反応するんだ!
でも真司が騒いだおかげで子供たちの注目が集まった。もしかして意図的にやったのか?
とりあえず俺はストレージからプリンを出す。
そして子供たちにプリンを見せる。
「ほら、見てごらん。プルプルしてツルンツルンで、甘くておいしいよ」
「甘いの?」
一人の小さい猫獣人の男の子が聞いてきた。
「あまーいよ」
俺はそう言って、その子の口元にプリンをすくったスプーンをもっていった。
その子が思わずパクリと食べて目を丸くした。
「おいちー!」
その声に子供たちの意識が一気にプリンに向いた。
「さあ、皆んなも食べてみる?」
「食べるー!」
「俺も食うっす!」
(ワイもー)
子供たちが恐怖を忘れてプリンに夢中になり、ようやく笑顔が戻った。
結局、全員が2個ずつプリンを食べて落ち着いた。真司も。
その後、コーザさんも含めて王城の衛兵本部に移動した。コーザさんは渋っていたけど。
馬車と犯人の護送車は近くに停めてあった。現場には衛兵が二人残った。
子供たちの相手はなぜか俺と真司の役割となった。まあいいけど。
王城の衛兵本部に着くと、最初にマシューさんから、獅子の咆哮の拠点に対する捜索差押えとクランメンバーの逮捕の指示が出され、第一大隊配下の小隊50名が出動した。現場で制圧した冒険者たちのギルドカードから、全員が獅子の咆哮のメンバーであることが判明したため、クランの組織的犯行と判断したのだ。日本では捜索差押えや現行犯以外の逮捕については裁判所の令状が必要だったが、こちらでは衛兵本部にその権限がある。取り調べの後無罪と判断されれば釈放すればよいとの考えだ。補償はない。国の治安維持に重点を置いている。問題のある制度だが、機動性という点に限ればこちらの制度の方が優れている。
冒険者の取り調べは当然衛兵が行うが、子供たちからの聴き取りについては俺と真司がやることになった。子供たちが俺と真司以外には怯えてしまって、上手く聴き取りができないからだ。
エドとコーザさんには、聴き取りをしていない子供たちと遊んでもらっている。
その結果、子供たち七人の内、四人が孤児院の子供で、三人が家庭のある子供であることが判明した。家庭のある子供は早く家に帰してやりたいのだが、10歳の子供だけは住所を知っていたが、残りの二人は小さすぎて住所が言えず、どこの子供かわからなかった。衛兵本部に親からの捜索願いの記録もないと言う。これはおかしい。子供が行方不明になっているのに親が捜索願いも出していないなんて。どこかで報告のエスカレーションが止まっているのではないか。
マシューさんに来てもらい相談する。
エスカレーションがどこで止まったかを調査するのには時間がかかりすぎる。
結局、すべてのコーバンに連絡して、子供の捜索願いが出ていないかを至急確認することになった。それでも結果が判明するのは明日になるだろう。
住所のわかる子供については、すぐに親の元に連絡に行かせた。
一方、孤児院の子供たちについては、どうやら三つの孤児院から連れてこられたようだ。こちらは元の孤児院に戻すわけには行かない。孤児院の実態も背後関係もまるで判明していないからだ。さて、この子たちどうしよう。これ俺が考えることか?
ひと通り聴き取りを終えて子供たちと遊んでいると、食事が運ばれて来た。思わぬ珍客とともに。
子供たちがワッと食事に群がる横で、俺とエド、コーザさんがサッと片膝をつき姿勢を正す。真司も察して俺たちに倣う。
「やあ、ユーキは休みの日も忙しいね」
俺は黙って視線を床に向けたまま姿勢を崩さない。
「直答を許す!って、面倒くさいなぁ。ユーキ、いい加減にしてくれよ。さっさと立ってくれ。他の皆んなも普通にしてくれるかな。姉上もいいよね」
「いいわよ。皆んな立ちなさい。直答も許すわ」
リッキー殿下と美しい金髪の女性。姉上ということは第一王女殿下か。
俺たちはゆっくりと立ち上がった。
子供たちは賑やかに食事をしている。
「エド副会長。卒業したら一度も顔を見せないのね」
「ご無沙汰しております。パトリシア王女殿下。私の身では王城に上がる機会もございませんので」
「あら舞踏会くらい来れるでしょう」
なんだよエド。学院の同窓生かよ。
パトリシア王女は次にコーザさんに視線を移す。
「コーザ?コーザじゃない!あなた目と足はどうしたの!?」
「はっ、運良く腕の良い治癒師様に巡り合いました」
コーザさんが俺の名前を伏せてくれるのに、リッキー殿下は俺にウインクしやがる。こっち見んな!
「そう・・・良かった、本当に良かった」
なんとパトリシア王女は目に涙を浮かべて喜んでいる。メチャいい人じゃん。
「あなた今までどこにいたの?本当に心配したのよ」
「それは・・・」
「姉上、今日はその話は」
リッキー殿下が話を遮ってくれる。
「そうね。ごめんなさい。それで、あなたがユーキかしら?」
「ユーキ・シェフィールドです。王国の薔薇パトリシア王女殿下の御尊顔を拝し身に余る光栄です」
初対面なので貴族の礼を尽くす。
「素敵な挨拶をありがとう。リッキーから話は聞いているわ。文武両道の天才って。もしかしてコーザを治したのもあなたかしら?」
俺はリッキー殿下をチラリと見る。首を横にブンブン振っている。
では推測か。かなり頭の良い王女だ。
「はい。たまたま治癒の才に恵まれましたので」
「素晴らしいことだわ。是非その力を王国のため、民のために使ってね」
「肝に銘じます」
王女は最後に真司に目をやる。
「あなたは?」
「はっ、真司と申す平民でございます。雄輝さんの古い馴染みの者です」
「あなたも只者ではなさそうね。平民にしては所作も綺麗だわ」
「滅相もございません」
「シンジは僕も初めてだね。ユーキとエド先輩の仲間ならよろしくね」
「ありがたき幸せ」
ひと通りの挨拶が終わった。
で、なんでここに来たんだよ。
「何で僕がここに来たのかって顔だね。実はね、この事件の指揮は僕が執るようにと王命が下った。学院があるから名前だけだけどね」
「そうでしたか」
「だから皆んな協力よろしくね」
「承知しました」
「それと姉上はこの子たちの件」
そう言って子供たちの方を見る。
「行き先に困ってるんでしょう?」
リッキー殿下が再び俺の方を見てそう言った。
「私が院長をやっている孤児院に連れていきましょう。そこなら変な力は及ばないわ。獣人の子供たちも楽しくやっているわよ」
ナイス!王女殿下!王族、特に女性王族は社会福祉関係の仕事をすることが多い。王女殿下の孤児院なら安心だ。
これで今日のところの懸念はなくなったかな。あとは国の仕事だ。
その後俺たちは衛兵本部の事情聴取を受けてから解散した。




