第108話 ミロとメグ
エドと部屋に戻るとケイトさんがすぐに食事を用意してくれた。
食べ終わってコーヒーを飲みながらエドと雑談していると、アニカさんに連れられてミロ君とメグちゃんがやってきた。
おお、ピカピカだ。それにエミーちゃんとトム君のお下がりを着てるのかな?メッチャ可愛い!
「ユーキ様。二人がユーキ様にお礼を申し上げたいと言いますので」
そう言ってアニカさんが二人を少し前に押し出した。
「さあ、練習したようにできるかな?」
アニカさんが優しく声をかける。
「ユーキ様、僕を助けてくれてありがとうございました」
「ありがとござした」
二人が緊張した面持ちで頭を下げる。
「うん、どういたしまして。二人ともこっちにおいで」
俺が手招きすると、おずおずと近づいてくる。
「ミロ君はそこに座って。メグちゃんはこっち」
そう言ってメグちゃんを抱えるといきなりくすぐってやる。
コチョコチョ!
キャッキャと笑いだすメグちゃん。
子供は緊張してるより笑ってる方がいいね。
そのままメグちゃんを俺の膝の上に座らせる。
「二人ともご飯は食べた?」
「食べたー!すごくおいちかったんだよ!メグあんなの初めて!」
「お風呂もね、アニカお姉ちゃんが入れてくれたの!すーごい綺麗なお風呂!」
「そうか、良かったね」
「ミロ君は食事とれた?」
「うん、全部食べた。すごく美味しかった」
「身体は痛いとことかないか?」
「うん、大丈夫」
「それは良かった。じゃあ今日はゆっくり寝ような」
「僕たちここに泊まっていいの?」
「もちろんいいよ」
「やたー!」
メグちゃんがバンザイをする。
「ベッドがフカフカなんだよ!孤児院よりすごいの!もう藁で寝るのイヤ!」
「コラ、メグ!ダメだよ。またスラムに帰るんだから」
「えー。メグここがいい!」
「ワガママ言っちゃダメだよ」
メグちゃんが泣きそうになっちゃった。
「そのことなんだけど。ミロ君はここで働く気はあるかい?」
「え?ここで?」
「うん、ここに住んでここで仕事を覚えるんだ。メグちゃんと二人で」
「そんなことできるの?」
「うん。明日ここのお家の偉い人にお願いしよう」
ミロ君とメグちゃんの目に光が宿る。
「メグここにいていいの?」
「そうだよ。明日メグちゃんも一緒にお願いしますって言おうか」
「お願いちます!」
「そうそう。そうすればきっと大丈夫だよ」
「メグお願いする!」
「よし!じゃあ今日はもう寝ようか。ちゃんとグッスリ寝て、明日はしっかりお願いしようね」
「うん!」
ミロ君とメグちゃんはアニカさんに手を引かれて戻って行った。ミロ君はまだ不安そうだな。
とりあえず二人が心から笑えるようにしてあげたいな。
翌日、朝食が終わってから、ミロ君とメグちゃんを連れてジェームス様たちが待つ応接室に向かう。二人とも偉い人と会うせいか身体が固まっている。なんとかリラックスさせようとするが無理だった。
応接室に入ると、今日はシルビアちゃんとエミーちゃんもいた。社会勉強かな?それともミロ君たちをリラックスさせる配慮?
エミーちゃんがにっこり笑ってメグちゃんに手を振ってくれた。メグちゃんも小さく手を振った。エミーちゃんいい子!
ケイトさんとアニカさんはドアの側で控えているので、ソファに座る前に俺が二人に練習した挨拶を促す。
「ミロです。昨日はありがとうございました」
「メグです。ありがとうござまちた」
ペコリと頭を下げる二人に皆んなにっこりだ。エリカお姉様なんて蕩けそうな顔をしている。
「良くできたね。じゃあ座ろうか」
二人をソファに座らせると、ジェームス様が話しを切り出した。
「やあ、立派な挨拶をありがとう。私がジェームスだ。よろしくね。それで少し話しを聞かせてくれるかな?」
「はい」
「二人は今いくつかな?」
「・・・」
俺が大丈夫だから本当の歳を教えてと言うと、ミロ君が小さな声で答えた。
「7歳・・・」
「メグは5歳」
やっぱり10歳いってなかったか。小さいもんな。
「そうか・・・。それで二人はどうして孤児院を出たのかな?」
「院長先生が逃げろって言ったから。それでお金と服をくれた」
「パンもくれたよ」
そうだったのか。逃したのか。
「院長先生がどうして逃げろって言ったのかわかるかな?」
「わかんない。でも孤児院で獣人の子たちが段々いなくなったの」
「いなくなった?」
「うん、貰われていくって言ってたけど、院長先生たちは悲しそうだった」
「誰がもらいに来たのかな?」
「冒険者ギルドで僕を殴った人たち」
「・・・」
なんだと!ヤツらが孤児院にも絡んでたのか。
「孤児院を出た後はどうしたの?」
「院長先生が遠くに逃げろって言ってたから、ずっと歩いてた。でも、パンも無くなって、お金も無くなって、足も痛くなって、どこかで動けなくなったとき、コーザさんが拾ってくれてスラムに連れてってくれた」
「そうか。よく頑張ったね」
シルビアちゃんとエミーちゃんが目に涙を溜めている。
「二人はここにいたいかな?」
「うん」
「ご飯食べられる?」
「ああ、美味しいご飯が食べられるよ」
「お布団ある?メグ藁のお布団きらい」
「そうか。うん、ちゃんとお布団もあるよ」
「メグここにいてもいいの?」
「いいよ。その代わりちゃんとお勉強しようね」
「あの・・・」
「なんだい?遠慮なく言ってごらん」
「メグ、シッポとお耳切らなくていい?」
皆がハッとする。
「どうしてそんなことを思ったのかな?」
「あのね、孤児院でシッポとお耳があるから拐われるって。それでメグに触るとシッポがうつるからってみんなが逃げるの・・・」
なんということを!この国は差別はなかったんじゃないのか!
怒りが湧いてくる。
エリカお姉様がそっと近づいて来てメグちゃんを抱きしめた。目には涙が浮かんでいる。
「大丈夫よ。シッポもお耳も切らなくていいわよ。いえ、切っちゃだめよ」
「ホントに?」
「本当よ。だってメグちゃんはこんなに可愛いんだから」
「ホントにホント?」
涙声でメグちゃんが聞く。
「ホントにホントよ」
堪えきれなくなったメグちゃんが、エリカお姉様の胸に顔を押し付けてウワーンと泣き出した。今までずっと我慢してきたのか。こんなに小さい子が、こんなにも傷ついて。
ミロ君、そしてシルビアちゃんもエミーちゃんも、ケイトさんもアニカさんも両手で顔を覆って泣いていた。
エリカお姉様は、優しくメグちゃんの背中を撫で続けていた。
二人を部屋に戻した後、正式に二人をランカスター家で受け入れることが決定した。
二人には使用人用の二人部屋が用意される。
使用人と言っても、二人はまだ年齢的に勉強や遊びが中心だ。
幸いランカスターやシェフィールドには、使用人の子供用の保育所のような施設がある。そこで他の子供たちと仲良くお勉強して遊んでもらう。また、ケイトさんとアニカさんが、二人の面倒を見てくれることになった。俺が学院の寮だし、戻ってきても余り手がかからないからね。
そして、孤児院については王都中の孤児院を徹底的に調査することになった。




