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ハルノオト〜聖女召喚の欠陥品ー俺は男だ!〜  作者: 島村都心
第二部【王立ロマリア学院1年】
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第105話 スラム街

 俺はエンシスさんに別れを告げ、獣人の子供を探した。

 先ほどの受付嬢を見つけて聞いてみると、ギルドの治療室に運んだとのこと。ただ、怪我が相当ひどいらしい。

 治癒室に駆け込むと、女性の治癒師が獣人の子供に必死で治癒魔術をかけていた。


「状態はどうですか?」


 俺が問いかけると、ギョッとしたように治癒師が振り向く。あ、ごめん。


「ちょっと怪我がひどくて・・・無理かもしれません」


 目に魔力を込めて状態を診る。まずいな、折れた肋骨が肺に刺さっている。

 後は、肋骨が4本、腕と足も骨折か。

 こんな子供にひどいことを・・・。


「代わります、任せて下さい」

「え?」

「大丈夫です。治癒魔術だけは一流だと思います」


 強引に治癒師を退かせて子供の傍に座る。

 6、7歳くらいの猫獣人か。何でこんな小さな子がギルドにいたんだろう。

 まずは治療だ。


 (トーダ、この子の中に入って、刺さってる骨を肺から抜けるか?)

 (任せんかい)


 トーダがするりと入り込む。


 (慎重にね)

 (わかっとる)


 トーダが刺さった骨を少しずつ抜いて行く。それを観察しながら、俺は肺に治癒魔術をかけ続ける。

 10数秒、よし抜けた!俺は一気に肺の修復を行なった。

 大丈夫。次は骨折。これは慣れたもんだ。

 次々に折れた骨を治していく。

 念のため内臓全般にも治癒魔術を施す。

 そして造血。そして表面の傷も治していく。

 顔に赤味がさしてきて、呼吸も落ち着いてきた。

 もう大丈夫だ。


「すごい!」


 治癒師の女性が驚愕の表情を浮かべていた。


「良かった」


 一緒に来た受付嬢が涙を浮かべている。

 入り口の辺りに集まっていた冒険者たちからも安堵のため息が洩れる。


「ちょっと聞いていいですか?何でこんな小さい子がギルドに?」

「見習い登録なんです。街の雑用なんかをする」

「見習い登録って、確か10歳からでは?」

「はい。一応本人の申告では10歳だと。それに妹さんと2人暮らしなんで、どうしても働きたいって・・・。私が登録したんですけど・・・こんなことに・・・」


 ヤバッ、泣き出しそうになってる。


「あっ、責めてるんじゃありませんから。ただちょっと気になっただけで。孤児院の子じゃないんですね」

「はい。登録の住所はスラム街の辺りになってました」

「え?スラム?王都にスラム街があるんですか?」

「はい。国が正式に認めてるわけではありませんが、皆んながスラム街と呼んでるエリアはあります」


 なんだ。やっぱりスラムはあったのか。そりゃそうだよな。これだけの大都市だ。ドロップアウトするやつもいるよね。

 しかし困ったな。この子、しばらくは休ませた方がいいよね。それに妹かぁ。

 よし、乗りかかった船だ。


「あの、この子今日僕が連れて帰っていいですか?シェフィールド家かランカスター家で責任もって面倒見ますから」

「は、はい。もちろん!そうしていただけると私も安心です!」

「それで妹さんも連れて来たいんですが、この子の家わかりますか?」

「すみません、私は・・・」


 そのとき入り口の方から声がかかった。


「私多分わかるよ!大体の場所なら」


 見ると若い犬系の獣人の女の子だった。


「そうか。悪いけど案内してもらえるかな」

「いいよ!いいよね?」


 隣にいた人間の女の子たちに確認すると、皆頷いている。

 女の子だけの4人組パーティかな。皆んな若い。新米冒険者って感じだ。


「すみません、この子しばらく預かっててもらえますか。妹さん連れて来ますんで。それと、申し訳ありませんがランカスター家に使いを出して、馬車を1台ギルドに回してくれるよう伝えて下さい」


 そう言って金貨を1枚渡そうとしたが断られた。

 治癒師の費用も、ギルドの不始末なので不要だそうだ。今度プリンでも差し入れしよう。



 スラム街はギルドから歩いて40分くらいらしい。

 歩きながら犬獣人の女の子が話しかけてきた。


「あの、私たちハルジオンっていうパーティです。さっきはあの子を助けてくれてありがとうございました」


 四人が一斉にお礼を言う。


「え?なんで君たちがお礼を?」

「あの子、私たちがいた孤児院の子なんです」

「え?」

「あの子はミロ君。妹はメグちゃん」

「そうだったんだ。じゃあ、あの子、ミロ君がなんで孤児院を出たのか知ってる?」

「いえ、正確には。ただ最近ちょっと気になる話があって・・・」


 女の子たちが顔を見合わせる。


「何か話しづらいこと?」

「いえ・・・。ただどういうことかよくわからなくて」

「聞かせてくれるかな?」

「はい。噂なんですけど、1年くらい前から、孤児院で、獣人の子供たちが次々にどこかに貰われて行くって・・・」

「獣人の子供?」

「はい。それに院長先生から前に手紙がきて、しばらく孤児院に顔を出さないようにって…」


 はあ、これは事件かな。さっきもミロ君のことを売り物とか言ってたしな。


「そうか。ありがとう。その件は僕が少し調べてみるよ。君たちは危ないから関わらないようにね」

「お願いします。私たちすごく不安だったんです」

「ユーキさんて貴族なんですよね。貴族の人ってもっと怖いのかと思ってた」


 世間ではそうかもね。


「貴族も色々だよ。怖い人もいれば優しい人もいる。それに俺は1年前まで平民だから。養子に入って貴族になったけど、それまでは君たちと同じ、孤児院育ちの平民だよ」

「嘘!本当なんですか?孤児院育ち?」

「本当だよ。誰が親かも知らないし」

「びっくり!すごくカッコいいから生まれながらの貴族様だと思ってた!」


 うん、中々見る目のある子たちだ。

 それからは彼女たちの緊張も解けて、和気藹々とスラムへ向かった。


「ここです」


 案内された場所は、崩れかけの石造りの家や、木造のバラックが建ち並ぶ陰気な一画だった。

 なるほど、これは確かにスラムだ。

 虚な目でぼんやりと座り込んでいる者もまばらにいる。

 かなり柄の悪い連中もうろついているな。

 ハルジオンの女の子たちが怯えたように身をすくめる。


「大丈夫。俺から離れないようについて来て」


 すえた臭いのする通りを進む。

 ジロジロと見る者はいるが、今のところ誰も絡んでこない。

 かなり広いな。ここで探すのは大変だ。

 サーチで辺りを探ってみる。

 少し進んで右に曲がると人が集まっているエリアがある。一応繁華街かな?


 行ってみると確かに繁華街だ。ボロボロだが何件か店があり、酒や得体の知れない料理を食って騒いでいる。

 一番大きな店を目指して行くと、ちょうど店の前で上手い具合にチンピラに絡まれた。


「なんだぁテメェら。綺麗な服着てよぉ。来る場所間違えたか?せっかく来たんだ、有金置いてきな」


 軽く威圧を放つと、チンピラはビクッと身を震わせて硬直した。


「間違えてない。聞きたいことがある。答える気はあるか?」


 威圧を強めると、チンピラはガクガクと首を振って肯定する。


「この街のまとめ役はいるか?」


 またガクガクと首を振る。


「誰だ?名前を教えろ」

「コ、コーザさん・・・」

「コーザさんはどこにいる?」


 チンピラの目が泳ぐ。


「別に暴れに来たわけじゃない。聞きたいことがあるだけだ。さっさと答えろ」


 チンピラが震える手で店の奥を指差す。

 ビンゴ!

 店の一番奥に、一人強い気を持った男がいる。やはりあの男か。

 女の子たちはすっかり怯えているが、外に置いて行くわけにもいかないよね。


「怖いかも知れないけど、後ろついてきてね」


 店の中に入ると一斉に冷やかしの声が上がる。女の子に手を出そうとしてるヤツもいるな。

 仕方ない。

 店全体に威圧を放つ!

 一瞬で静まり返る店内。ありゃ、白目を剥いてひっくり返ったヤツもいるよ。

 まあいい。俺たちはゆっくりと店の奥に歩みを進めた。


 40半ばくらいのがっしりとした濃いブラウンの髪の男が1人でグラスを傾けていた。

 右目には黒いアイパッチ。

 俺の威圧にまったく影響されていない。かなりの実力者だ。


「失礼します。ユーキ・シェフィールドと申します。コーザさんでしょうか?」


 男はゆっくりと俺の方に目を向けた。



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