第10話 商業地区紀行
途中で小振りの城のような建物が見える。
「あれが王立学院だよ。外国からも留学生が多数くる。大学まで含めると、世界有数の教育研究施設だね」
「はあ、馬鹿でかい学校だな」
「そうだね。俺も、行ったことがあるのは高等部エリアだけで、大学部のエリアはほとんど知らない」
外を眺めていると、途中で同じような大型の箱馬車と何度もすれ違う。
「エド、あのでかい箱馬車はなんだ?」
「あれは路線馬車だよ。王都は広いから、あれが何台も主要道路を巡回してる。王都民は、行きたい場所の路線馬車に乗って移動する。安いし、乗る距離に関わらず料金は定額だ。学院生のころはよく使ったよ」
「なるほどね。本当に発展した街なんだな」
しばらくすると、馬車はエドの指示で馬車だらけのエリアに入っていった。
「よし。降りるぞ」
「ここは?」
「駐車場だよ。馬車の中から街を眺めるだけじゃつまらないだろう。ここからは商業地区だ。歩いて行こう」
「それはいいな!」
やっと街歩きができる。
エドと二人でウキウキ気分で散策を始めた。
通り沿いに色々な店舗が立ち並び、大勢の人たちが楽しそうに買い物をしている。
日本のようなビルの街ではなく、二階建て、三階建て程度の石造りの小振りな店舗の街だ。
本当にヨーロッパの古都だね。
お、ついにファンタジー発見!
「エド!あの人たちは?」
「ああ、獣人の人たちだね」
予想どおりだ。コスプレじゃなかった。
しかし、耳や尻尾がある程度で、ほとんど人変わらない。
エドにそういうと、
「そうだね。長い間に混血が進んで、ほとんど人間と同じだね。他国ではもっと獣人らしいというと変だけど、もっと動物に近い見かけの種族もいるらしいけど。この国だと滅多に見かけないかな。ああ、たまに冒険者にいるかも」
ということだった。
「差別とかはないのか?」
「昔はあったらしいね。奴隷とか。でも、聖女様が奴隷廃止と、獣人やドワーフとかの亜人差別を禁止してからは、徐々に差別も減ってきたと言われている。今はほとんどないね」
「ほとんど?」
「うん、一部の貴族。人間優越思想の人たち」
「やはりそんなのがいるんだな」
「まあ、あまり関わりたくない連中だね」
そこからは、あれは何だ?これは何だ?を繰り返し、大型商店街、劇場街、古書通り、飲食街などを見物してまわった。
「ユーキ、休憩しよう。カフェと屋台、どっちがいい?」
答えは一択だ。
「屋台!」
「了解。じゃあセントラル広場へ行こう。屋台村がある」
セントラル広場は、噴水を中心にした公園で、それこそ雑多な屋台が並んでいた。
スープや飲み物、串焼き、ホットドッグ、野菜焼き、パンケーキのようなものや、パスタのようなものなど、ファストフードのオンパレードだ。
また、別のエリアはアクセサリー、骨董品、古書などのフリーマーケットの様相だ。
庶民に混じって貴族も結構いる。
ここを見て周るだけで楽しそうだ。
エドと二人で、肉串、スープ、ソーセージを大量に買い、空いているベンチに座って食い始める。
結構美味い!
「エド、ここ見て周るだけでも面白そうだな」
「そうだね。食べ物の屋台は、街の中の裏通りにもあるけど、ここだと、農家の人たちが野菜なんか安く売ってたり、あそこの骨董品みたいな店だと、たまにダンジョン産の掘り出し物を売ってたりするらしいよ」
「ダンジョンなんてあるのか!」
「王国にいくつかあるよ。侯爵領にも大型のダンジョンが一つある」
「一度行ってみたいな」
「だったら侯爵領に戻ったときに行こう」
「おお、付き合ってくれるか!ありがとう!」
しばらく休憩したら、今度は反対の出口から広場を出る。
「あっちに見える豪華な建物が大神殿。それと、あっちの塔が時計塔」
すごい建物だ。ゴシック様式っぽい造りで、二つの尖塔を持つ荘厳な佇まい。ドイツで見たケルンの大聖堂に似ているかな。個人的には温泉を求めて行ったアーヘンで見た大聖堂の方が好みなんだけど。
王国では、ユリス教が国教となっているが、信教の自由があり、政教分離という法律があるわけではないが、ユリス教が政治に関与することは基本的にないらしい。通常は治療院や孤児院、貧民救済などの慈善活動と、信者の礼拝、婚礼、葬儀、また子供の魔術適性の診断などを行なっているとのこと。
大神殿以外に、各地区に教会があるらしい。
宗教が真っ当な国でよかったよ。
しばらく歩くと、広場を囲んで大型の建物がいくつか並んでいる。
「ここはギルドエリアだね。一番でかいのが冒険者ギルドの総本部。あと、農業ギルド、商業ギルド、薬師ギルド、鍛治ギルド、運送ギルドとか色々。この広場が通称ギルド広場」
ギルド広場か。ベルギーのブリュッセルにそういう場所があったな。
「冒険者ってなにやるんだ?」
「冒険者は何でも屋かな。街の中の日雇いの依頼とか、警備、工事作業、商人や乗合馬車の護衛、薬草とか鉱物、魔獣の素材や肉とかの採取、あとはあちこちの街や村から依頼を受けて魔獣討伐、変わったところでは盗賊の討伐とか。戦争になったときは傭兵の募集もあるね」
「魔獣討伐なんて国や領の責任じゃないの?」
「そう。でも臨機応変に動かせる兵士が足りない。だから依頼料は国や領、街や村から出てる」
「薬草とかは栽培してないのか?」
「栽培できる薬草は国とかギルドの薬草園で栽培してるよ。ただ、栽培が難しいやつとか、貴重な薬草とかは冒険者ギルドに依頼する。そういう採取依頼は危険も多いから、高ランクの冒険者向けだね。簡単な薬草は栽培もしてるけど、新人とか子供の見習い冒険者のかせぎになるから、支援みたいな感じでギルドで買い取ってくれるみたい」
なるほど、うまく行政と共存関係ができてるんだな。
「魔獣の素材は色んなことに使えるから、いつだって買い取ってくれるよ。だから、討伐専門の冒険者もいるし、ダンジョン専門や遺跡専門の冒険者もいるね」
「冒険者も面白そうだな」
「結構自由だしね。稼げるかどうかは腕次第。危険も多いし、生活の保障もないから大変だよ。一般的な武力としては、騎士団の騎士や魔術師の方が強いしね。ただ、冒険者もAランクとかSランクになると相当強い人もいるみたいだね」
「そういえば、ギルド本部があるのに冒険者っぽい奴が全然いないな」
「ここは事務部門だからね。冒険者が集まるところは、王都各地区に支所がある。依頼所もあちこちあるよ。魔獣討伐関係の冒険者は王都の外壁近くのエリアにある支所に集まってる。そのエリアだと、冒険者向けの宿屋とか、飲み屋、食堂、武器屋、道具屋なんかが集まっていて、この辺りとはまるで雰囲気が違うよ」
なるほど。そのエリアなら、アニメやラノベの世界に近いのか。行ってみたいな。
「ユーキ、もしそっちに行きたいなら、この服装はだめだ。それに、王都より、侯爵領のギルドの方がレベル高いぞ」
「そうか。よし、侯爵領に行ったら、冒険者ギルドとダンジョンだな」
「いいぞ。俺も一応冒険者登録してるし。学院生のころバイト気分で登録した」
「俺も登録するぞ!そしてSランクになる!」
結局、商業地区の散策だけで結構な時間が過ぎ、俺たちは屋敷に戻ってきた。




