①⑦
それまでは絶対にあの場所へ美香を近寄らせはしなかった。
美香も事故の事を思い出すからと、通学する道を大幅に変える程、美香にとってあの事故は大きな心の傷であった。
なのに彼はデートの帰りや、外回りの途中、少しだけでも会いたからと、あの場所付近で待ち合わせしようと言って来たりし始めた。
ごく稀に、
「そう言えば、俺達あの場所で出会ったんだよな」
だよね、から、だよなに言い方が変わったのはいつからだろう…考えながら美香は彼の態度の変化に思いを馳せる。
そんな事も知らずに彼は道路を挟んだ反対側を歩きながら、あの場所を指差してみたり、
「あの事故の事なんて、俺達以外、とっくに忘れてるだろうな」
近くにいるだけで、当時を思い出してしまうのに彼は執拗に美香に思い出させるように仕向けて来た。
「見てみなよ?今じゃあんな事故があった事も知らない人が、馬鹿みたいに笑って歩いてんだよな」
私だってあの場所を、この付近を通る度、思い出さず笑っていたいよ。そう思った。でも彼はそうさせてくれなかった。だから、あの場所付近での待ち合わせやデートを誘われると美香は断った。
「嫌な事を思い出すから」
そう言うと彼は不機嫌になった。
「もっと違う場所に遊びに行こうよ」
「大学から近いし、俺の職場からも近い方だから、それにカフェも沢山あるから待ち合わせには丁度いいんだよ」
その言葉はまるで私をあの場所に連れて行き、嫌な気持ちにさせる為に彼が行っているように思えてならなかった。
だから断りだした最初の方は渋々付き合ったが、
それも我慢出来なくなり、一度、激しく喧嘩をした。
「トラウマなんだろ?俺はお前にそれを克服させてやりたいから嫌々、そのように振る舞ってやったんだ。それもわからないのか?」
「誰が頼んだよ!」
「頼まれてやるのは愛情とは言わない。それくらい気付けない?だからお前はガキって言われんだよ」
「そんな事、誰にも一度も言われた事ないわ
よ!」
「言うわけないだろ。お前の友達、ろくでもない奴らばっかだからな」
「もういいっ!」
美香はいい、彼の営業車から飛び出した。
追いかけてくるかな?と思ったけど、そうはならなかった。
きっと私がプロポーズを断った時点から、このような嫌がらせをする作戦でも計画していたのかもしれない。
にも関わらず、彼は翌日、平気な顔して私の大学へ現れた。
昨日の事などなかったかのように、謝罪もありはしなかった。だから美香も謝らなかった。
いや、美香が謝る理由はどこにもなかった。




