①⑥
それは、あの惨事の時、私を真っ先に助けてくれた男から付き合って2ヵ月目でプロポーズされた。
私はまだ大学生で、彼は社会人1年生だった。
2人で共に生きて行くという覚悟がまだ、まやかしだと気付けない年齢だった。
勿論、世の中には覚悟出来る人達はいるだろう。
でも、彼も私もそんなものはなかった。
不遇なお姫様を助けに馳せ参じた王子様と助けられたお姫様。
そんなシュチュエーションに酔っていた知恵足らずの大人の子供だった。
けれど美香は嬉しかった。
涙の意味合いが正反対にも関わらず、やはり美香は泣いた事に少しばかり悔しかった。
嬉し泣きは除外よ!という切り替えが出来る人ならよかったのだろう。
だが不器用なのか、美香はそのプロポーズを断った。
嬉しいのに。
涙が出るほど彼のプロポーズに心を揺さぶられたのに、美香はその場で断った。
私の言葉に彼は一度も美香に見せた事のない、怒りの表情を浮かべた。
一瞬だったが美香はそれを見逃さなかった。
「みーちゃんがまだ学生だから?」
普段の柔和な表情に戻った彼は、美香に向かってそう言った。
「学生とか関係ない」
「ならどうして?」
美香自身、彼が納得出来るような断る理由は持ち合わせていなかった。
ただ彼の言葉で自分が泣いた事が許せないだけだった。
でもそれは言える筈もなく、美香はただ「ごめんなさい」と言い続けるしかなかった。
「まさか付き合う事も、終わりって事じゃないよね?」
「それは違う。私もターくんの事、好きだから」
「大好きじゃなくて、好き、、なんだ?」
「いや、そうじゃなくて…」
「いいよ、いい。人の本音ってさ。恐怖を感じたり、びっくりするような事が起こったりした時に出るものだからね。ま、けど俺はみーちゃんが大好きだから」
私もターくんが大好き、とは返せなかった。
本音を言えば、良い人だし、そこそこイケメンで優しいから、嫌いじゃない。
けど付き合っていると、好きの意味がターくんと自分では違うのかも?と感じる時もあった。
勿論、そんな事を口に出して言える筈もなく、だから好きだよ、とはあまり口には出さなかった。
そんな彼の態度が少しずつ変化して来たのはプロポーズを断ってから1ヵ月過ぎた辺りからだった。




