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繭のほころび  作者: 変汁
16/22

①⑥

それは、あの惨事の時、私を真っ先に助けてくれた男から付き合って2ヵ月目でプロポーズされた。


私はまだ大学生で、彼は社会人1年生だった。


2人で共に生きて行くという覚悟がまだ、まやかしだと気付けない年齢だった。


勿論、世の中には覚悟出来る人達はいるだろう。


でも、彼も私もそんなものはなかった。


不遇なお姫様を助けに馳せ参じた王子様と助けられたお姫様。


そんなシュチュエーションに酔っていた知恵足らずの大人の子供だった。


けれど美香は嬉しかった。


涙の意味合いが正反対にも関わらず、やはり美香は泣いた事に少しばかり悔しかった。


嬉し泣きは除外よ!という切り替えが出来る人ならよかったのだろう。


だが不器用なのか、美香はそのプロポーズを断った。


嬉しいのに。


涙が出るほど彼のプロポーズに心を揺さぶられたのに、美香はその場で断った。


私の言葉に彼は一度も美香に見せた事のない、怒りの表情を浮かべた。


一瞬だったが美香はそれを見逃さなかった。


「みーちゃんがまだ学生だから?」


普段の柔和な表情に戻った彼は、美香に向かってそう言った。


「学生とか関係ない」


「ならどうして?」


美香自身、彼が納得出来るような断る理由は持ち合わせていなかった。


ただ彼の言葉で自分が泣いた事が許せないだけだった。


でもそれは言える筈もなく、美香はただ「ごめんなさい」と言い続けるしかなかった。


「まさか付き合う事も、終わりって事じゃないよね?」


「それは違う。私もターくんの事、好きだから」


「大好きじゃなくて、好き、、なんだ?」


「いや、そうじゃなくて…」


「いいよ、いい。人の本音ってさ。恐怖を感じたり、びっくりするような事が起こったりした時に出るものだからね。ま、けど俺はみーちゃんが大好きだから」


私もターくんが大好き、とは返せなかった。


本音を言えば、良い人だし、そこそこイケメンで優しいから、嫌いじゃない。


けど付き合っていると、好きの意味がターくんと自分では違うのかも?と感じる時もあった。


勿論、そんな事を口に出して言える筈もなく、だから好きだよ、とはあまり口には出さなかった。


そんな彼の態度が少しずつ変化して来たのはプロポーズを断ってから1ヵ月過ぎた辺りからだった。

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