①③
どれくらい眠っていたのだろう。
美香が目を開けると辺りは既に薄暗くなって来ていた。
遮光カーテンの隙間から暗闇が入り込んで来ている。
伸びをしてベッドから出た。
冷蔵庫からペットボトルを取り出しいつものように口飲みした。
離すと口と飲み口で系を引いていた。
ヨダレ、と思い払った。
そのつもりだった。だが、口とペットボトルの間に伸びている糸は弾力があるのか、取れずにいた。
それどころか美香の人差し指にまとわりついた。
瞬時に嫌な予感がした。
美香はその予感から逃れるかのように無理矢理ペットボトルを冷蔵庫にしまい、そこから離れた。
同時に唇から指を伝い、ペットボトルの飲み口まで伸びていた糸が美香が無理矢理に距離を取った為、引き伸ばされた。
それでも系は切れなかった。
苛立った美香は更に離れた寝室の方へと足を踏み出した。
その時だった。
唇に痛みが走った。
痛っ!と感じると同時に唇から血が飛び散った。
その血はポタポタと床に向けて落ちている。
慌てて手の平で唇を押さえバスルームへ走った。
フェイスタオルを引っ張りだし口にあてた。
淡いピンク色のフェイスタオルはみるみる内に真っ赤な鮮血で染められていった。
新たなタオルに取り替え、血に染まったフェイスタオルは洗濯機の中に投げ入れた。
苛々する鈍痛に見舞われた美香は「もう!なんなのよ!」と癇癪を起こした。
「まるでレイプされた後のようじゃない」
メイクを落としながら自身が映る鏡を見て美香はそう思った。
無理矢理引きちぎった唇は極上のタラコのように膨れ、紫色に変色している。
上唇だった為、その腫れようはむごたらしかった。
頬はそぎ落とされたかのようにやつれている。
不安からこのような顔面になってしまったのだろうか。
万が一、外に出られたとしても、唇の腫れが治まるまでは外出はしたくなかった。
やつれた頬はメイクで何とかなるとしても、唇だけはどうにもならない。
「何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ」
すっぴんになって改めて自分の顔を見ると、こんな言葉が出るのは当然の事のようだった。
食欲もないし、水も飲みたくない。何も口にしたくなかった。
口にすれば、又、系がくっつき、切らなければならない。
グラスやスプーン、フォークや箸さえ使えやしない。
系を引くたび切らなければならないからだ。
私は納豆かよ!と自分にツッコミたくなった。
とにかく口にするとしたら、その物から距離を取らなければいけない。
食事をするとしても、口に放り込むしかなかった。
もしくは上から口へ向けて垂らす、方法としてはこれしか思いつかない。
けど今はその食欲すらない。
眠くはなかったが、横になって現実逃避したかった。
目が覚めた時、元あった世界線へ戻っている事を願い、美香は寝室へ足を向けた。
大人のおもちゃは元彼が持って帰ってしまったから、妄想と指で自分を癒すしか現実逃避は出来そうになかった。
それでも思考は美香を逃避さしてくれなかった。
直ぐ様現実へと引き戻され、ざわざわした気持ちを起こさせた。




