①②
この時は営業スマイルをたたえていたに違いない。
だがその糸くずは少しばかり粘着質で捨てるにも中々指から離れなかった。
払うようにして落とすと、美香はそれを踏み付けた。
風に舞って自分に着くのが嫌だったからだ。
そんな行為をした後だった為か、三越は美香に対し警戒心を解いたようだった。
三越は幼少期から始まり、今現在の生活などを端的に話した。
普通であれば、初対面の人間からそのような話をされるとウンザリするが、この時は何故か気にならなかった。
美香は顧客になって貰えるかも知れないと考えていたのだろう。
そして展示会場で待ち合わせの約束をしたのだ。
別れ際、もう片方の肩にも糸くずがついているのを見つけ、美香はそっと取ってあげた。
けど、撮り損ねたのか離れて行く三越の両肩からは、取ったと思われた糸くずがヒラヒラと風に泳いでいた。
その長さは美香が取って捨て踏み付けた物より、よりずっと長く見えた。
そこまで思い出し、美香は黙り込んだ。
長い時間黙ったままだった。
玄関のドアの隙間から見えたあの靄のような物、あれはあの時の系…?
馬鹿馬鹿しい。
と思ったが、今、自分が置かれてある現状を考えると馬鹿馬鹿しいなどと言える筈もなかった。
あの糸くずが原因なのだろうか?美香は玄関へ向かい、靴を裏返した。
糸くずは見当たらなかった。
これからどうすればいい?美香は額に手をやり、目を閉じた。未だ誰からも連絡が来ない。
とりあえずこのまま考えても答えなど出やしない。
今の私は客観視出来ない状態だった。
一旦、休んだ方がいい気がして、パンツスーツを脱ぎ下着も剥ぎ取り、裸のまま寝室へと向かった。




