黄金の道
ユウトはその後エアリスに家まで連れられてきた。
幸いにもエアリスの家はほとんど損傷していなかった。
俺は久しぶりのこの家を懐かしく思いながら周りを見渡した。俺が寝ていた場所もほぼそのままで、使っていたものもそのままであった。
そして全体を見渡し後にエアリスの方を見たのだが、エアリスは家に入ったあとから下をずっと向いたままである。重々しい空気を感じながらも俺はエアリスに話かけた。
「それで、どうしたの?」
「ユウトは私の事を恨んでいるよね」
「え?」
エアリスはとても言いにくそうに言った。
だが、この事こそエアリスがずっと胸の内に秘めていたものであった。
「だって私がユウトにひどいことばっかりしたし……それに私がユウトをこっちに連れて来なければユウトはこんなにひどい思いもしなかったのよね。だから私はどうしたらユウトに許してもらえるの?」
「エアリスは俺と一緒にいるのは辛かったのか」
「そんなわけないわ。でもだからこそ自分が許せないの。これじゃ自分が楽しむ為に勝手にユウトの本来ある時間を滅茶苦茶にしただけなの」
ユウトはエアリスの言葉に強烈な意思を感じた。
そしてそれは全てエアリスの贖罪からである。
しかしエアリスには罪など最初からない。元はと言えば教皇が元凶である。だがエアリスはそれでも自分の責任もあると言っている。
確かに今回の件はエアリスが村の平和の為にユウトを村に呼び出してユウトには将来勇者になれる素質があると思っていた。
だからこそ、試練も全て勇者になる為にと思っての事であった。
だが、それは教皇に操られていたという前提の元で行われていたので、エアリスは教皇にそそのかされて行っただけだが、言われてみれば操られなければと言えば確かに俺はこの世界に来ることも無ければ、今までのことも起こらなかっただろう。
ユウトとしては最早それ程気にしてはいないのだが、エアリスはその事について俺が思っていた以上に悩んでいるようだ。
しかもこれは単純な問題ではない。
いったいどうすれば……。
「ユウトが言えば…その、私……なんでも…するよ……」
エアリスは目をぎゅと瞑りその声は震えていた。
そしてこのままだとどんな冗談でも本当にエアリスはやりかねない状態である。
エアリスは性格上マジメな所があるので、ふざけて言うことも出来ないし、半端な事を言えばそれはそれでエアリスが納得しないだろう。
きっと納得するとしたらユウトが許したことを前提に、エアリスもユウトに与えた罪と同じぐらいだと思えるぐらいでなければならないだろう。
それにこんなエアリスをユウトも見たくはない。
そしてユウトは一つの考えを思いつく。
「本当に何でもしてくれるのか?」
「うん。ユウトが満足するまで……私は何でもする……よ」
「ならエアリス一緒に来てくれないか」
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ユウトは、エアリスの手を取って家を出る。
「ユウトどこへ行くの?」
「そういえば、俺はまだ挨拶に行ってないところがあるのを忘れていたからエアリスもついて来てくれないか」
ユウトはエアリスを後ろに乗せて馬を街へと走らせた。
街の近くで馬を置いてから二人は手をつなぎながらとある場所に向かった。
そして着いた場所はユウトが今所持している聖剣があった場所である。
今日もあの時と変わらず心地の良い風が吹いている。
「思えば、あの時この場所に来てなかったらどうなっていたことか」
ユウトは依頼書をあさっている時に偶然この聖剣の事を知った。そしてエアリスに銀貨を借りて挑戦した。思えばあの時ガルフにもここで出会った。
初めはガルフを見てあまりいい印象は無かったけど、そのガルフは今回の教皇戦では力を貸してくれた。
またガルフを知っていたフィーと仲間になれたのもこの場所に来たおかげなのかもしれない
「この場所は、ユウトが今持っている剣を手に入れた場所だよね」
「そうだよ。この場所ですべてがあるようなものさ」
「あの時も私がユウトの事を信じてあげてすぐにでも銀貨を渡していれば……それに銀貨と言えば、せっかくユウトがくれた銀貨も全部教皇にあげてしまったのよね……」
「いいから、いいから気にするなって!それにエアリスが俺を信じて銀貨を渡してくれたから手に入れられたからこれもエアリスのおかげだな」
「でも、私は渡しただけだから……。全部ユウトが頑張ったからだよ」
エアリスがさらに表情を暗くする。確かにあの時の銀貨の事はいろいろ思う時もあったけどそれも今では別にいいことだ。
そして、ユウトはエアリスと共に聖剣があった場所へと向かった。
ガルフから聞いた話だとあの日から時間が過ぎて、近くにあった木は黄色の花びらで埋め尽くされていると言っていたがその話通り木は咲かせた花でいっぱいとなっていた。
「よう!久しぶりだな!」
ユウトは聖剣の近くにあった目いっぱい花を咲かせた木に話かける。
そしてその様子をエアリスは不思議そうに眺めていた。
しかし、ユウトはそのまま一方的に話を続ける。
「お前がずっと一緒にいた相棒は俺に力を貸して助けてくれたよ。それでな、俺達はお前にお別れを言いに来たよ」
静かに吹いていた風が突然止んだ。
今まで風に揺られていた枝や葉のざわめきが止む。
そして、突然強い風が吹きあれ、花びら舞い散る。
その風に思わずエアリスは顔を覆いながら前を見るとユウトは何やら笑っている。
「どうしてユウトは笑っているの?」
「こいつ、俺に相棒を任せたって言ってくれたよ」
「そう。良かったわね」
エアリスは、うっすらと笑みを浮かべる。
その笑顔は良い悪いともにどちらともとれそうな微妙な笑顔だった。
「あれ……俺もしかして滑った?」
「えっ?もしかして今の何か大切な事だったの?ごめんね。私何が何だか分からなくて」
エアリスはユウトのやりたかった事を理解出来ていなかったことに申し訳ななくなり次第には謝ってしまった。
せっかくの決め台詞だと思って言ってみたユウトだったが、エアリスの予想外の反応にユウト自身もこの後どうすればいいか分からなくなり一人で混乱していた。
「あ……えっと、その……」
「それともこういうのがユウトのいた世界では普通だったのかしら?だったらもう一回してくれれば今度はユウトの予定通りにするから」
「いや、いいよ!さすがに俺もこれをもう一回やるのは出来ないよ!」
エアリスの優しさがむしろユウトへの傷をさらに深くしそうになったので、ユウトはかっこよく言うのは諦めた。
本当は、聖剣を貰っていくのでエアリスも一緒に来てくれないかと言いたかったのだがどうやら急に思いついただけあって上手くまとまっていなかった。
「もう、ユウトが変な事言うと私も困るからやめてよね」
「うーん。カッコイイと思ったから言ったんだけどな」
だが、ユウトの発言により狙いは外れたが結果先ほどよりも二人の間にあった距離は現在以前の様に談笑出来るぐらい良くなっていた。
「しかし、教皇も無事倒したしこれで俺の異世界生活ももう少し楽しめそうかな」
「……ユウトはこれからどうする予定なの?」
「そうだな。まだチートとは言えないけど俺が持っている聖剣はかなり大切な武器らしいからこれからもまだまだ何かありそうだよ。もちろん、俺はのほほん異世界生活を望んでいるけどな」
「そっか、ユウトはもう次を決めているんだね」
「エアリスはこれからもあの村にいるのか?」
「そうね。私はあの村に残ると思うわ」
「そうか……」
エアリスの声は悲しむかのようにも聞こえた。だがこれではまた逆戻りだ。そう思ったユウトは思いっきって言う。
「なぁ!エアリス。俺と一緒に来てくれないか?」
「えっ?」
「俺はこれから一人でどこかに行くのは寂しいから、やっぱり知った人がいると助かる。だから、一緒に来てくれエアリス!この通りだ!」
ユウトは、エアリスに向かって土下座をする。しかし、そのユウトの姿を見たエアリスは困惑した。
「ユウトその変な恰好は何?」
「これは俺の世界でする最上位のお願いする姿だ」
ユウトは下を向いたまま懇願する。
「それが、ユウトのいた世界の礼儀なのね」
エアリスは、膝をつき体を屈める。
そしてユウトと同じ土下座をしたのである。
「私はユウトに喜んでついて行きます」
「本当か⁉」
「ええ、本当よ。ユウトが心配にならない様にしてあげるから私もついて行くわ」
ユウトは勢いよく顔を上げるお互いの目が合い思わず笑い合う。
これだ。これが、俺が待っていた瞬間。
エアリスが、笑ってくれている最高の瞬間である。
「よし!そうしたら村に戻って祝勝会だな」
「ええっ!村長も張り切っていたし、楽しみだわ!」
二人は手を取り歩き出す。その進む道は大樹の花で出来た黄金の道となっておりその道は輝いていた。
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祭りではユウト達はしっかりとおもてなしを受けた。フィーは村の食事に夢中になり途中ガルフは退席にしてどこかに行ってしまったが、ガルフも充分楽しめたと言っていた。
ユウトはエアリスと終始一緒にいて、久しぶりのエアリスの作ったスープに懐かしさを感じていた。
その後は皆で火を囲いながら踊りをすることになりフィーは満腹で辞退し、ユウトはエアリスに手を引っ張られ一緒に踊ることになったが、ユウトはどう踊っていいか分からなかったのでエアリスのリードに任せて踊りを楽しんだ。
そして楽しい時間はゆっくりと過ぎて行き、次の日の早朝にユウト達は村を出発しようとしていた。
前日の祭りで村人の何人かはまだ起きていないようで、見送りのほとんどは女性と子供達であった。
村の男達は昨日大いに酒を飲み合いながら騒いで楽しんでおり、その反動でほとんどの男達は未だに夢の中である。
「では、今回の件については昨日の話通り報告させていただきます」
「この度は、お三方のおかげで村は救われました。本当にありがとうごございました」
村長はガルフに向かって深々と頭を下げ村人達もそれに合わせて深々と頭を下げた。
「ねぇちゃん元気でね」
「また戻って来たら一緒に遊んでね」
「もちろんよ。また戻って来たら一緒に遊びましょうね」
エアリスは子供達と笑顔でまた戻って来たら遊ぶ約束をした。
そしてエアリスの周りには子供達以外にもお別れを言う村人たちが集まっていた。
「エアリスちゃん本当に荷物はそれだけでいいのかい?」
エアリスが持って行くのは、衣服と少しの所持品だけであった。
「私の杖もあの教皇から渡されたものだし、それに今私には戦える力はないから持っていても意味が無いもの。それに私にはユウトがいてくれるから平気よ」
「ユウトって言うのはエアリスちゃんが、連れて来たあの少年の事かい?」
「あの少年も最初は頼りなさそうだったけど、まさかあんなになるとは思ってもいなかったよ」
「みんなそんなことを思っていたの。私はずっとユウトは強くなるって思っていたよ」
「それなら本当に勇者になるかもな!」
「そうしたらこの村一番の英雄だな」
「俺はまさかこの村から勇者が出るとは思っていないけどな」
村人たちは一斉に笑い出す。
「ユウトは、絶対に勇者になるんだから!そしたらこの村初の勇者よ」
「そうしたらエアリスは大変だな」
「えっ?何が大変なの?」
「それはいつか分かるさ」
「えー、もったいぶらずに教えてよ!」
そしてその後も村のみんなは出発するエアリスと思い思いに話をする。
遠くからそれを見ていたフィーとユウトは、
「ユウは責任重大ですね。この先、勇者にならないとエアリスの期待を裏切ってしまう事になってしまいますよ」
「そうなんだよな。エアリスは初めの時から俺が勇者になるって言っているからちゃんとそこのところも狙わないと」
しかし、勇者ってどうなったら勇者になれるのか分からない。ドラゴンでも倒せば勇者になれるのか、でもそれだとドラゴンスレイヤーになってしまう。
そうすると勇者とは何かとユウトは悩んでいたが後で考えることにして今は忘れることにした。
「しかし、俺が勇者になるとエアリスは何が大変なんだ」
「それはいつか分かりますよ」
「いや、教えてくれよ」
「そうですね。一番いい例はガルフですからこれから見ているといいですよ」
ガルフがいい例とはどういうことだ?全くわからん。
「それにしてもエアリスは村人のみんなに愛されていますね」
「だな」
「そしてユウはそのエアリスをこの村から奪うのですね」
「奪うって表現はやめような!」
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そして、出発の時間となりユウト達は馬に跨った。
「それでは、村のみなさんお元気で」
「みなさん。さよーなら!」
ガルフは村のみんなに一礼して、フィーは手を振ってお別れをする。
ユウトやエアリスも村のみんなが見えなくなるまで手を振った。
そして移動中に今回の教皇戦の事を振り返っていた。
「いやー。フィーにはいろいろと勉強になることばっかりでした」
フィリスは、前にいるガルフにもたれかかる。
ガルフはそんなことを気にせずに、
「フィリスは楽しそうでいいよな。俺なんかこれから今回の件の報告をどうしたらいいものか悩むばかりだよ。それに昨日の報告も思い出したくもない」
結局ガルフとフィーは聖堂を探索したが、見つけられたものはほとんどなかったようだ。
それもあって今回の収穫はほとんど無いらしい。
またガルフは昨日の祭り中も途中からいなくなっていたのも王国に今回の件について簡単に説明したらしいのだが、どうやら上手くいってなさそうだ。
「それでも今回はユウト君という収穫もあったしとりあえず良かったかな。あとユウト君。これから君にはいろいろとやってもらうけど、本当に大丈夫かい?」
「そういう約束だからな。しっかり手伝いをさせてもらうさ。それに俺は思うんだ」
「ユウト、何を思うの?」
後ろにいるエアリスが聞いて来る。
ユウトは、一呼吸おいてから、
「俺は成り行き任せの異世界生活を楽しもうって事だよ」
導かれたこの世界についてはまだユウトはほとんどを知らない。だが、この先にどんなことが待ち受けているとしても世界に愛され天に愛されたユウトはこの世界を楽しむことしたのであった。
この話でユウトの教皇戦は終わりとなり物語としても一区切りとなります。
次の章はなるべく早くに更新したいと思っています。
次の章ではフィーやガルフとの関係やその他王国によるユウトの進むべき道はどうなるのか。
エアリスとユウトとの関係もさらに変化するのか。
そんな成り行きをお楽しみにしてください。
最後に、ここまで読んでいただきありがとうございました。




