変化した日常
今日は久しぶりのエアリスの話になります
エアリスは村の子供たちを連れて村の近くにある川に遊びに来ていた。
「お姉ちゃん!そっち行ったよー」
「任せて!ほらっ獲れたわ」
獲れたのは約三十センチの型が良い魚であった。
手づかみで取った魚をバケツの中に入れて、原っぱに座り込む。
「エアリスお姉ちゃん。これあげる」
「うわー!ありがとう」
受け取ったのは花で作った冠であった。
丁寧に編み込まれた冠を頭の上にのせると思わず笑みがこぼれる。
村のみんなは仕事で忙しく、子供たちと遊べない為エアリスはこうして休憩中は一緒に遊んでいるのである。
「ねーちゃん。最近おしごとで遊んでくれなかったから今日はすごく楽しいよ!」
「それはよかった!お姉ちゃんもみんなと遊べて楽しいよ!」
しかし、子供達の体力は底知れず、少しついていけなくなったので様子を見ながら日陰で座っていると、
「エアリスちゃんお疲れ様。よかったらこれをお飲み」
「ありがとうございます」
飲み物をくれたのは村でも普段からエアリスを可愛がってくれている女性であった。
見た目はガタイがよく少し怖いところがあるが、人想いで優しい人である。
昔は冒険者をしていたが、とある街で立ち直れないほど辛い思いをしてから村に戻って来た過去を持つ人でもある。
冷たい飲み物は、乾いた喉を潤してくれてとても気持ちが良かった。
「体調は落ち着いてきたかい?」
「ええ……まぁ…少しは」
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いつも通りユウトが帰って来るのを待つためにギルドへ訪れていたが、その日には帰って来なかった為不安になりつつも暗くなる前に村に戻り、教皇様に報告すると教皇様もとても心配していた。
そして、次の日またギルドに向かい受付さんに伝えられたのはユウトの行方不明についてであった。
遺体などは一切なかったが死んだ依頼の対象と思われるゴブリンと、その一帯に広がっている血の量からして、ゴブリン以外の血も混じっていると考えられるとされており、遺体が見つかっていない以上行方不明となるが、実際は言われなくてもどうなっているかは分かるものである。
エアリスは受付さんにお礼を言ってふらふらになりながら村へと戻り、すぐにその事について神官さんに教皇様にも伝えて欲しいと言って家へと戻り、抑えていた感情が崩壊してエアリスの心を押しつぶすように襲ってきて、泣き崩れてしまった。
私が呼んでしまったユウトを死なせてしまった。
そして一人で戦ったユウトを弔うことも出来ない。
また、期待していた教皇様を裏切ってしまった。
この時、それらが一つになってエアリスの心を押し潰していた。
気が付くと外は暗くなっており、腫らした目をこすってから灯りをつけてまたふさぎ込んでしまう。
今まで馴れていた静けさも寂しく感じユウトが持って来てくれた賑やかさが数日のことだが、遠い昔の様に思えてしまう。
そしていつの間にか朝になっており体を起こすと、誰かが扉を叩いている。
扉を開けるとそこにいたのは神官さんであった。
神官さんによると、教皇様からの伝言で今は体を休めろと言われ、言われた通り休むことにさせてもらった。
体が重い。ユウトを召喚してから日を重ねるごとにその重さは増していく。そしてそれはユウトがいなくなってから更に加速した。
しかし体重などの変化はない為、恐らく体力が落ちているのだろう。
教皇様には召喚の副作用のようなものであると、言われており術をなるべく使うなと言われていた。
その為、ユウトと冒険に出たとしても心術を使えない為、足でまといになるということもあり一緒に冒険に出ることが出来なった。
そして辛い毎日続いていたがある日夢を見た。
ユウトと私が、手をつなぎながら歩いている。
そして、私達は立ち止まりユウトが何かを言っている。
そして、ゆっくりと私の頭を撫でた。
急にされたので、驚いてしまうが照れながらも受け入れる私。
そして、ユウトはまた何かを言ってからその手を止めて先に歩き出す。
私はそれについて行こうとするが、追いつけない。
どこかに行ってしまうユウトを追い続けるが、消えていなくなった時、思わず何か言おうとしたところで目を覚まし、エアリスはこれが夢であったことに気づかされる。
しかし、起きた時の気分は最近にないぐらい心地の良いものであった。
体もいつも以上に力が入る。きっとユウトが力をくれたんだ。
そう思い、扉を開けて外に出る。
久しぶりに吸った外の空気は最高であり、晴れやかな気持ちとなる。
朝食を十分にとり、村のみんなに挨拶をしながら聖堂へと向かう。
村のみんなも心配していたようで、元気になったことを見せながら聖堂に着く。
元気になったことを伝えると神官さんに伝えると教皇様に会いに行くようにと言われ、教皇様に会うと少し違和感を覚えた。
何でこの人のことを慕っているのだろう?
教皇様の言っていることは、何も理解できないが反射的に返事をしてしまった。
途中はむしろ、言ったことに反論さえしそうになったが、言うのをすぐにやめてただ話を聞いた。
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それからは、また呼ばれるまでは村の仕事をするように言われ仕事をしているが、なぜ村のみんなが教皇様?のことを慕っているのかが理解できなくなることが日を重ねるごとに多くなった。
ただ、この疑問は言ってはならないような気がするので、黙っているのだがどうしたらいいのかも分からない。
せめて、ここにユウトがいてくれていれば違うのに。
「さて、私は仕事があるから戻るとするよ」
「飲み物ありがとうございました」
空になった容器を返してしばらく子供たちを眺めていると、神官さんがやって来た。
「エアリス。ここにいたのね。教皇様が呼んでいるから今すぐに行ってちょうだい」
「分かりました」
「えーねぇちゃんもう行っちゃうのかよ」
「ごめんね。また、明日遊ぼうね」
子供たちはまだまだエアリスと遊びたかったようだが、教皇様がこの村では偉い人ということは子供達も知っていることなので、渋々エアリスを見送りエアリスもそれに手を振って答えるのであった。
教皇様の聖堂は村の端にあり常に村人を見守るには一番いい場所に立てたそうだ。
その聖堂の地下に教皇様はいるということなので、すぐに向かう。
「教皇様。お待たせしてしまってすいません」
「別にそれ程待っていないよ。それよりも体の調子はどうだ?」
「調子は良くなりました」
「そうか。それは良かった。あの召喚術は、体力を多く消耗するからエアリスの調子が戻って良かった」
「心配をおかけしました」
あまり感情を込めず反射的に言葉を返すのはだいぶ慣れた。
「しかし、あの少年のことは本当に残念だな」
前に教皇様から聞いた話では、過去にも異世界から人間が召喚されては勇者になる過程で命を落としているらしい。
ユウトもその一人になってしまった。
その事を思うといつも胸が痛む。
「さて、本題だが明日この村に国から憲兵がやってくるようだからその対応をエアリスに頼みたいのだが引き受けてくれるか?」
「かしこまりました」
「それでなるべく、村の中に憲兵を入れてはならないことと、もし中に入られてもこの聖堂だけは、絶対に連れて来てはいけないことを忘れない様にしてくれ」
「分かりました」
「では、私は忙しいので話は終わりだ」
教皇様と話し終えて私は外に出る。
聖堂の外に出ると、空は先ほどよりも曇っていた。
遠くの空を見たらさらに暗くなっており、今にも雨が降りそうであった。
「あっ、そういえば」
降られる前に家に戻ろうとしたが、あることを思い出したのでもう一度聖堂の中へと戻るのであった。




