約束
「ユウ。おはようございます」
「おはよう。もう少しで飯が来るから体を起こしておけよ」
フィーが目覚めた時にはユウトは起きていた。
宿主が今日も朝食を、部屋まで運んでくれたのをユウトとフィーは食べながら話し合う。
育ち盛りだから、ということでフィーの朝食はユウトよりも多めにしている。そしていっぱい食べることはいいことであるといいながら食べるフィーであった。
食事を終えて二人は宿を後にしてギルドに来ている。
「さて今日もとっと依頼終わらせて情報集めをしないと」
「その意気です。フィーも全力でサポートしますよ」
昨日のうちにユウトはフィーにすべてを話したことによりこれからはより効率的に情報と仲間を集めることが出来る。
「しかし、フィーも早くそのエアリスという人に会ってみたいですね」
「俺のお墨付きだから期待しとけ」
「ユウがゆってしまうと、なんか気持ち的には微妙になりますね」
「ほっとけ」
ユウトとフィーは軽く話した後今日もギルドに向かい討伐依頼を受ける為にフィーが依頼を選んでくるのをユウトは待っているのだが、なかなか戻ってこない。
そして少し急ぎぎみでフィーがようやく戻って来る。
「ユウ。待たせましたね」
「別にいいけど。結構時間かかったな」
「ええ、依頼はすぐに決まりましたが、受付さんがユウのことをしつこく聞いてくるので時間がかかりました」
「俺のこと?なんて聞かれたの?」
「ユウの正体は知っているのかと」
「それで?」
「言ってやりましたよ。私を仲間に出来て喜んでくれる共に戦ってくれる人だと!」
「……で?」
「そうしたら、依頼終えたら一緒に連れて来てほしいと言われました……」
申し訳ないと言わんばかりの顔でフィーは言ったことにユウトは、仮面に手を当ててついにこの日が来てしまったことの現実を少しばかり恨んだ。
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そして依頼へと向かった二人は早速、標的であるモンスターに遭遇し現在戦闘中である。
討伐対象は数体のゴブリンで、ユウトには因縁のあるモンスターである。
だが、ユウトは私情を持ち込むことなく約束通りフィーのサポートに徹していた。
しかし特にすることも無いので、フィーが戦っているのを見ていたが、それ程無駄なく立ち回りながら攻撃を当てていくのを見ていて感心するばかりであった。
たまにユウトめがけてゴブリンがやって来るので、切り殺さない様に剣で吹き飛ばして、フィーの持つ錫杖により放たれる心術に後の処理は任せていた。
そして今は依頼のゴブリンを討伐し終え休憩中である。
「いやー今日は大変でしたね」
口では、大変だと言っているがフィーの表情はかなり生き生きとしている。
まだ少女というのにゴブリンを討伐して喜んでいる姿を見て改めてユウトは、この世界はやっぱり違うなと再認識させられる。
結果的には、フィーが十分に満足してくれているので構わないのだが、このままだとフィーがゴブリンをどうやって討伐したか自慢げに語りだしそうだったので、先にユウトは今回の依頼書を見て不満を言う。
「しかしなぁ、報酬の量を減らす為に書いてある内容と違いすぎだろ」
「噂は本当でしたね。この依頼主は安くやってもらう為に依頼のレベルを低めにして、いざ行ってみると確かにいたのは書いてある通りでしたけど、隠れていたのと乱入してきた方が多くて正直大変でした。みんなが敬遠する理由が分かりましたよ」
「ちゃんと書いておかないといざという時に狼少年みたいになったら大変なことになっちまうと思うけどな」
「オオカミ少年とは、何ですか?」
「目立ちたい嘘つき少年のことだよ」
「そうなのですか。でも、ユウとフィーがいればどんな依頼だって出来ちゃいますから関係ありませんねっ」
フィーは余程嬉しいのかユウトの背中に乗りかかり抱き着いて来る。
「おい!フィー。やめろって」
「いいじゃないですか。ユウとフィーは仲間なんですよ」
仲間といってもここまでじゃれ合っていると、他の人から見れば、バカップ……じゃない。バカ兄妹と思われてしまう。
そしてユウトの背中でじゃれていたフィーが急に動きをとめる。
「フィーどうした?」
「ユウ!あっちに川がありますよ!少し寄って行きましょう」
水の流れる音を聞いたというフィーについて行くとそこには、ゆっくりと流れる川があった。
川の周りは見通しも良く、モンスターの襲撃にも対処できるだろう。
ユウトは周りにモンスターがいないか確認してから、仮面を外して川の水を手ですくい顔を洗う。ひんやりと冷たく動いて熱くなった顔を冷やしてくれた。
そしてフィーはお構いなしで、ばしゃばしゃと水を蹴って川で遊んでいる。
「ユウ!冷たくて気持ちいいですよ!」
「そうだな!こんなに気持ちいいのは久ぶりだ」
ここまで落ち着いて休んでいられるのも、この世界に来て初めてだろう。
まだまだやることは多いけど、とても今の時間はありがたい。
ふとエアリスは元気にしているのか、今すぐに会って確認したいけどその前に戻った時に行われる審査をどうやって回避したものかなど、ユウトがどうしようか考えていると頭からいきなり水がかけられる。
「冷た!」
急にかけられた冷水に声を出して驚き、雫を垂らしながら顔を上げると、
「ユウの思い悩んで熱くなっている頭を冷やしてあげましたよ」
フィーがしてやったと笑いながら言ってくる。
頭からぽたぽたと落ちる雫を見て思い悩んでも仕方ないかと思い、
「やったな!ほらお返しだ」
ユウトは足元から水をすくって、フィーめがけてかける
「やりましたね。お返しですよ!」
フィーも応戦してユウトに水をかける。ユウトもお返しをしてその後も二人は水をかけあい、そして服がずぶ濡れになるほど遊びつくしたのであった。
「楽しかったけど、疲れたー」
「ちょっと遊びすぎましたね」
ユウトはパンツ一枚で河原に寝そべり、フィーは白ローブに包まっている。
天気も良く心地良い風が吹いているので、服がある程度乾くまでこうしている。
心術を使って一瞬で乾かすことも出来るのだが、なるべく体力を消費しないようにするためでもある。
川遊び中に大きめの魚が跳ねたのを見つけてからは二人で協力して三匹ほどの大きめな魚を捕まえたのを焼いて食べたばかりで、お腹がいっぱいでこうしているといつの間に寝てしまいそうだ。
もしユウトが最初から絶対的かつ圧倒的な力さえ持っていて、エアリスやフィー達と異世界のんびりライフを送れたらどれだけ楽しいのだろうと思ってしまう。
しかし、ユウトが召喚された世界は、理不尽で横暴と思えてしまう世界であったが、ユウトはそんな世界でも戦える力を身につけたのは経緯はともあれ良かったことだ。
そして、その時ふとある疑問が沸く。
「なぁ、フィーはこの世界のことをどう思う?」
「どうとは?」
「そうだな。辛いとか、苦しいとかそういう感じなの」
「そうですね。昨日話した通りですから感じていないと言えば、嘘になります。でも、フィーはそう言うのもひっくるめて戦ってやりたいと……ってユウ!?急に頭を撫でて来てどうしましたか!?」
「いやー。急にフィーのことが可愛く思えちゃってさ」
「なっ!急に何を言っているのですか!?……でも、悪くはないですね」
急にフィーのことが、愛おしくなって頭を撫でてしまった。
こんなに小さいのに考えていることは立派だったことにユウトは感動している。
こんなに小さいのに。
「……なんか、急に何だか腹立たしくなってきたような……」
「……気のせいだろ」
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充分に休息を取り終えたユウト達は支度を整えて、
「よし!それじゃ審査をどうにかして乗り越えるぞ!」
「そうですね!その意気ですよ!」
おー!二人で元気よく腕を上にあげてみたものの実際は出来る気はしない。
不安だらけである。
「もしさ、俺がこの審査を受けなかったらどうなる?」
「まず、あの街では依頼を受けることが出来なくなりますね。あとは要注意人物として憲兵に、報告されてどのみち強制審査されることになりますね」
「逃げ場がねぇー!」
「そうですね。さらに王国の領地の主要な場所では行動するのは出来なくなりますね」
この世界の治安は良いと思っていたらどうやら、しっかりと仕組みが機能しているおかげなのか。
フィーの言う主要な領地というのは、今滞在している街のような場所を言って、エアリスがいる村とかは多少なりに緩いのかもしれない。
「あーでも、それだといろいろ不都合だからなぁ。受付さんに何とか言って誤魔化してもらうこととか出来ないかな」
「以前受付さんに賄賂を渡した悪い冒険者がいましたが、その日の内に報告されて憲兵に捕まえられて、その後のことは誰も知らないそうですよ」
「こっわ!」
「だからここは正直に言って、もし駄目なら奥の手を使いましょう!」
「奥の手なんてあるのか!」
「泣いてお願いしましょう!」
「だよなー」
二人は重い足取りでゆっくりと街へと戻るのであった。




