ユウガ
気づくとユウトは白い世界に横たわっていた。
ゆっくりと体を起こすと目の前には、聖剣が突き刺さっていた。
ユウトはほんの少し前のことを思い出す。
ゴブリンによる毒に苦しみながらもがくようにあがいていたが、それ以降の記憶が無いということは、
「俺は死んだのか」
あたりを見渡しても目の前にある聖剣以外何もない世界。
この世界に似たような場所は知っているがその世界では、誰もいないし何もなかった。
とりあえずユウトは聖剣を取ろうと前に進むと、
「おい。それに触るな」
振り返ると全身鎧に覆われた誰かが立っていた。
そしてそいつはユウトを無視して聖剣を手に取る。
「これはお前のような覚悟のない奴が触っていいものじゃない」
「おまえ、その剣を知っているのか?」
「知っているも何もこの剣はもともと俺の剣だ」
「ということは、お前は」
「俺はこの聖剣の前所有者ユウガだ」
ユウガは、兜を取るとそこには俺がいた。
しかしどこかユウトとは確実に違うところがある。
それは分かっているが心のどこかで認めてたくないと思う気持ちがユウトにはあった。
「お前、エアリスに召喚されてこの剣を取りに来てから今まで何をしてきた?」
「それは……」
「この剣は、俺の知る限り最強の剣だ。最後にはとある封印をしておいて今まで誰にも使わせることは無かったが、ようやく使い手が現れたと思ったらこれだ。見たところほとんど封印が解けてない。もう一度聞くぞ、お前何のために戦っている?」
「それは……」
「適当に満足していたんじゃないか?エアリスも喜んでくれていたからな」
「それは……」
ユウガの言うことはすべて正しい。
だからこそユウトは言い返せなかった。
言えたとしても言えるのはすべて言い訳ぐらいだろう。
「おまえ、さっきから適当な返事ばかりしやがってこの世界を舐めるなよ。お前が召喚された人間だということは分かっている。だからと言ってお前が優遇されることもまず無いんだよ」
ユウガが言うことはもっともである。
優遇?何もなかったよ。それでも死なないように頑張ってきたんだ。
何も知らないくせにいけしゃあしゃあと言うな!
ユウトはユウガの言葉に苛立ちを覚え叫ぶように言う。
「じゃあどうすればよかったんだよ‼俺だって考えたよ!それでも頑張ったんだ!でも無理だったし、その剣だってスゲー強い剣なのに全く使えねぇじゃねーかよ‼」
ユウトは感情を抑えることが出来なかった。
しかし、ユウガはなにも言わずそんなユウトをじっと見つめていた。
「言いたいことは言い切ったか?」
叫ぶように言い切ったユウトは肩で息をしながらこくんとと頷いた。
「まずは一つ目。頑張ったって言うのは自分で言っていい言葉じゃねぇんだよ‼」
ユウガはユウトの胸ぐらを掴み叫ぶように言う。
「二つ目ぇ‼武器のせいにしてんじゃねぇよ‼」
ユウガはユウトの額に頭突きをかまし、ユウトはそのまま倒れこむ。
額が割れたのかと思えるほどの激痛が走りその痛みにユウトは頭を抱える。
「そして最後‼お前に覚悟はねぇのかよ‼」
激痛の中でもその言葉はユウトに響いた。
痛みによるものかユウガの言葉によるものかは分からないが、目に涙を溜めて黙ることしか出来ず、その言葉にまたも何も言い返せなかった。
「……お前、エアリスを救いたくねぇのかよ。あのままだとエアリスは、あの教皇の言いなりなるぞ。しかもだ、次はどうなるか分からねえ。そんなエアリスをお前は見捨て逃げるのかよ‼」
ユウガは、ユウトを見下しながら言う。
しかし、何の反応も無いユウトを諦めたのかその場を離れようとしたが、
「俺は……分からない……どうしたらいいか分からないんだよ。なぁ、お前はすごい勇者だったんだろ、なら教えてくれよ。助けてくれよ。俺はどうしたらいいんだよ!どうしたら教皇を倒せる。どうしたら、エアリスを救えるんだよ‼」
ユウトは、ふらふらになりながらもユウガに掴みかかって懇願する。
助けたいに決まっている。
だからこそ知りたい。どうすればいい。
「助けたいか?」
「助けたい‼」
ユウトはユウガの目を見て嘘偽りなく答える。
「お前に一番大切なもので、今のお前にないものはもう分るよな」
ユウトはユウガの問いに無言で頷く。
最初は何の覚悟なのか分からなったが、今なら分かる気がする。
ユウトは顔を腕でこすり涙を拭く。
「エアリスを助けたい。その為なら俺は逃げない!」
「ふっ。そうだ、それでいい」
ユウガはユウトに聖剣の柄を向け、ユウトは聖剣の前に立ちあの時と同じように聖剣を握りしめる。
あの時とは違い今度は覚悟を持ち覚悟を決めここに誓う。
「絶対助けてやるからな。待っていてくれエアリス‼」
「よしならばその覚悟見届けた。今度は目を逸らさずに逃げるなよ」
「ああ!俺は逃げない。ここで逃げたら俺は勇者になれない」
「よしっ!よく言った。そうしたらお前を鍛えてやる!」
「えっ?鍛える?」
「そうだ。お前はこれから強くなってもらわないとならない。だけどすぐには強くはなれないのが普通だ。だからこそ、ここでお前を鍛えてやる。そうだな、まずは素振りだな。ユウト剣を振ってみろ」
ユウガに言われて、ユウトなりに剣を振ってみる。
ひゅっと風を切るような音を出して剣を振ってみたのだが、それを見たユウガは、
「お前の剣は、腕の力任せだな。この剣に限らず武器を使う時は、体全体を連動させるように使ってだな…………」
ユウガは、腰を回して剣を一振りするとブァアと風を起こし明らかにユウトの一振りとは威力が違うことが分かる。
「すげぇ……」
「よし、次はお前の能力を見てやるとするか。まずは、腕力と体幹からだな。ほらっ!さっさとやれ!」
ユウトは言われてすぐに腕立て伏せと腹筋を出来る限りやった。
だが、ユウガには到底満足できる回数ではなく、
「ダメだな。これは死ぬ気でやらないといけないな」
「うげぇえ。でも、エアリスの為だからな」
早速逃げないといった事を後悔しそうになるがエアリスの笑顔を思い出して堪える。
「そうしたらまずは地獄の基礎から鍛え上げだ。この空間は時間の流れがほぼ無いからな。お前をそれなりに仕上げるには、最高の環境だ。それにいつでもへばった時は、俺が治してやるから安心しろよ」
ユウトは鍛錬中この時のユウガの邪悪な笑みを、忘れることは無かった。
地獄は思い出したくもないほど毎日続いた。
ここでの時間の経過は他の世界よりも遅い為、時間の限り徹底的に鍛えあげられた。
またユウガ以外にも多くの人達が協力してくれた。
その中でもほとんどスパルタで教えてくれるユウガに稀に殺意を覚えることもあった。しかし毎日を感謝しつつ鍛え続けた。そして、
「よし!ユウトやってみろ!」
呼吸を落ち着かせ、そして目の前の標的を切り落とす。
「これでとりあえず合格だな」
ユウトは切り裂いた的を見る。
ユウトがこれ程の技術を身につけられたのはすべてユウガのおかげである。
「ユウガ、今まで本当にありがとう。おかげで強くなれた気がするよ」
「バカ野郎。強くなってもらわないと困るんだよ。でもな、本当によくやったな」
ユウトはユウガと握手する。
「これで、この剣はお前の物だ」
「確かにもらい受けるよ」
「そうしたら、これからお前を元の世界に戻すが、お前は、恐らく死んだことになっている。しかしそれはお前に都合のいいことだ。だから、その日がくるまでお前も仮面をつけて行動しておけ、戻ったらすぐにでも装着して、その顔を誰にも見られるなよ!あとな、いろいろ調整しておいたから感謝しろよ!」
「分かったよ」
「エアリスのこと任せたぞ」
「ここで逃げたら勇者じゃないからな」
「言うようになったな」
いつも以上にユウガの言葉が多い。
それほどユウトのことを思っていてくれているからだろう。
「じゃあ、行ってくるよ」
「よし、行って来い!」
そしてユウトはユウガとの鍛錬を終えて、元の世界へと帰還した。




