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予感


 今日も街に向かう途中(とちゅう)まで、村であった話をしながらユウトとエアリスは楽しそうに笑い合う。

 

 教皇さえ悪く言わなければ、エアリスは優しい女の子である。

 

 ずっとこの時間がこのまま続いてくれればいいのにとユウトは思った。

 

 そしてそう思いながら街に到着する。

 

 エアリスはいつも通りユウトが依頼書(いらいしょ)を選んで確認してから村へと戻る。


 「それじゃあ、今日も頑張ってね」


 「おう、頑張るよ」

 

 ユウトはエアリスがいなくなるのを見届(みとど)けてから、改めて依頼書を見る。

 

 今日の依頼はゴブリン討伐(とうばつ)であった。

 

 一人で依頼をするように言われてから初めてモンスターと戦う。

 

 昨日エアリスに言われたのは、教皇からモンスター討伐の依頼を受けるように言われたということであった。

 

 言われた時は、思わずまた教皇の事を悪く言いそうになったが、なんとか(こら)え今に(いた)るのだが、考えようによっては強くなるための試練のようなものだと思っている。

 

 それにこのままでは何も変わらず教皇に合うことになる。

 

 教皇は謎が多い。それにこの世界はまだわからないことだらけだから教皇は強い可能性だってある。

 

 だから、その為にも変わらないといけない。

 

 ユウトは、決心(けっしん)してギルドを出ようとした時、


 「あいてっ!」

 

 振り向いた時にぶつかって相手が倒れてしまった。


 「すまん!大丈夫か!」


 「ええっ!大丈夫ですよ。フィーにとってはこれぐらいどうとしたことありません」


 倒してしまったのは、ユウトより一回り小さな青髪(あおがみ)の少女であった。


 少女は身に着けている白い服についてしまった土を軽く叩いて落としてから、最初から持っていたと思われる錫杖(しゃくじょう)を手に持ち、


 「お兄さん。次は気をつけて下さいね!」

 

 そう言ってギルドの中へと入っていてしまった。


 「あんなに小さな少女でも冒険者なんだな……」


 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 探し始めてからそれなりの時間が経過したのだが、


 「いない……。一体どこにゴブリンがいるんだ…………」

 

 ユウトの(あせ)りの理由は、村に戻らなくてはならない時間が決まっているからである。

 

 日が落ちるまでに村に戻らないと夜に一人でいることになるので、モンスター達が活発(かっぱつ)に行動しだすためとても危険となる。

 

 そして、もう一つが依頼失敗である。

 

 (いま)だに失敗したことは無い為不明ではあるが、今までの経験上悪い気しかしない。

 

 日も(かたむ)き始めているのでとにかく、急いで探さないとならない。

 

 そして、ようやく見つかった時には夕方となっていた。


 早く終わらせて、急いで戻れば間に合うはずだ。

 

 ユウトはそう思いながら標的(ひょうてき)であるゴブリンに少しずつ近づき間合(まあ)いを詰める。

 

 今回は一匹だけの討伐である。

 

 そして幸運(こううん)なことにゴブリンは油断(ゆだん)しているのか、ユウトの存在に気づいていない。

 

 やれる。

 

 ユウトは一気に間合いを詰めてゴブリンに(おそ)い掛かる。


 それに気づいたゴブリンは叫びながら逃げようとする。


 ユウトは急いで()って背中に槍刺そうとするが、タイミングが合わずそれ程ダメージが与えられない。 

 

 かすり傷程度しか与えられず、折角(せっかく)のチャンスを逃してしまった。


 さらに最悪なことに襲って来ているのはユウト一人だということに気づいたゴブリンは、反転(はんてん)しユウトに飛びかかり押し倒す。

 

 ユウトは背中を打ち付け痛みに耐え、形勢逆転(けいせいぎゃくてん)したゴブリンは汚い笑い顔をしながらユウトに向かって噛みつこうとしている


 必死に槍で抵抗しながら顔を近づけないようにするが、同時に腕をバタつかせているので、爪がユウトの顔や腕を()()かれるのが地味(じみ)に痛んだ。


 「くそっ!この野郎っ‼」

 

 タイミングを合わせて、何とかゴブリンを振り落として槍を短く持ち、一気に槍でゴブリンの胴体(どうたい)を突き刺す。


 「ぐっぎぃいいいいい」

 

 断末魔(だんまつま)を上げながらゴブリンは苦しみもがくがしばらくすると動きが止まる。


 「はぁはぁ……。終わった…………」

 

 ユウトはようやく依頼が終わった事に安心すると同時に腕や顔に(しび)れるような痛みを感じていた。

 

 ユウトは(あわ)てて腕を見ると、ゴブリンに引っ掻かれた傷が紫色(むらさきいろ)変色(へんしょく)していた。

 

 次第(しだい)にその場所は痛みを増していき熱を()びていく。

 

 この状況は詳細(しょうさい)こそ分からないが、間違いなくまずい。

 

 急いで村に戻らなくてはならないとそう思った時だった。


 「ぐっ!」

 

 ふくらはぎの場所に激痛(げきつう)を感じて見てみると、先ほどのゴブリンがユウトの足に()みついていた。


 「くそっ!まだ死んでなかったのかよ」

 

 ユウトは槍を脳天(のうてん)に刺したが、槍が中央部分で折れてしまい上手(うま)く刺さらない。


 「くそがっ!」

 

 さらに、噛みつくゴブリンを()がすためにユウトは腰にある剣を手に持ち思いっきり叩いて引き剥がした。

 

 吹っ飛ばされたゴブリンは最後の力を絞ったのかそのまま絶命(ぜつめい)した。

 

 ユウトの足元(あしもと)に転がるゴブリンの死骸(しがい)

 

 依頼はこれで達成したのだが、このゴブリンの最後の足掻(あが)きはユウトに致命傷(ちめいしょう)を与えた。


 「…………動かねぇ」

 

 噛まれた足の膝から下の感覚がない。

 

 そして力が入らなくなりバランスを崩したユウトは、地面に倒れこみ顔を思いっきり打ち付ける。

 

 倒れて初めて気づいたが先ほどまであった腕の痛みや熱は現在では感じられなくなっていた。


 その代わり腕は肩から重く太いゴムを付けているような感覚だった。

 

 鼻から血を出し口の中は何の出血によるものか分からない血の味が充満(じゅうまん)していた。

 

 そして今では体中(からだじゅう)が寒い。


 視界は地面が(ゆが)むようにうねっている。


 次第(しだい)平行感覚(へいこうかんかく)も分からなくなってくる。

 

 ユウトはなんとかポケットを探りポーションを出して(ふた)を開けて飲もうとするが、感覚が分からないので、間違って頭にポーションをかけてしまう。

 

 (しずく)となって落ちるポーションの薬品のような臭いは強烈(きょうれつ)であった。

 

 きっと、安物だから苦いのだろう。

 

 そして今ではその強烈な臭いでさえ分からなくなっていた。

 

 ユウトは何とか体を仰向(あおむ)けにして天を見る。

 

 最早(もはや)感覚がおかしいこの体では村に帰るのは無理だ。

 

 そうして考えている間に目も(かす)んでくる。

 

 全てを諦めようとして何も見えなくと思われる時に最後に見えたのは、笑顔で待っていてくれているエアリスだった。

 

 エアリスが教皇のことを(あが)めている中でも教皇のこと以外のエアリスは、常にユウトの事を思ってくれていた。

 

 そして、目の前にいるエアリスはそんなユウトが好きな笑顔していた。

 

 毎日街まで向かう道のりや一緒にいる生活は何より楽しかった。

 

 教皇さえいなければ、最高に楽しかったのになぁ。


 でも、もうそんなことはどうでもいい。

 

 家に帰りたかったよ……。ただそれだけ……ばいばいエアリス。 


 ユウトは静かに息を引き取った。


 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢ 


 「あのすいません。少しお(たず)ねしたいことがあるのですが、この依頼をしていた冒険者は戻って来ていますか」


 「少々お待ちください。……まだこちらには戻って来ていないですね」


 「となると、まだフィールドにいるということですか?」


 「そうですね。もしくはどこかで休んでいてこれから報告に来るのかもしれませんね。この依頼は冒険者の中では結構嫌われていた依頼ですから、それなりに休息が必要でしょうから」


 「それってどういう意味ですか?」


 「この依頼のゴブリンは、報酬が割に合っていないって言われていて敬遠(けいえん)されていましたが、あなたの知り合いの方が受けて下さったようですね」


 「ええっ!ユウトは、勇者になるんですか当然ですよ!」

 

 目の前で(まぶ)しいほど笑顔で話す少女を見てそのユウトという人は信頼されていると思うと担当も微笑(ほほえ)ましく思える程であった。


 「それでは、ユウトさんのことも心配ですから、万が一ということで捜査(そうさ)要請(ようせい)しておきますよ」


 「あっ、それはやらなくていいですよ!」


 「そうですか?でも、もし何かあったら大変ですし、ゴブリンといえども……」


 「でも、それしちゃうと、報酬が減っちゃうんですよね」


 「えっ……まぁそうですが、あとで取り消すこともできますからやっておいて損はないですよ」


 「いえ、結構です。これ以上は言われていることから外れてしまうので」


 「しかし、何かあれば……」


 「ごめんなさい。私はこれで失礼しますね」


 「あのっ!」

 

 エアリスは、受付の静止(せいし)を振り切ってギルドを出ていった。

 

 そして、ギルドを出てからずっと胸の辺りが締め付けられるように痛んだ。

 

 特に何かしたわけでないがそれは今までにない痛みであった。


 「どうしてだろう。何で、教皇様はユウトが戻って来ないのであれば、確認して来るだけだったのかしら?でも、教皇様は私には分からないような素晴らしいことをお考えだから、きっと、ユウトは助かってどこかで何かしているのよ。きっとそうよ!そうに決まっているわ!そうだ!ユウトが好きなご飯を作っておかなくちゃ」


 その途中すれ違った人は涙を流しながら歩くエアリスを振り向いて見届(みとど)ける事しか出来なかった。


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